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第2章 社燕秋鴻
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しおりを挟むなにも気にすることはないと、一度自分の中で位置づけられるとすとんと気持ちが軽くなった。
僕の中で特に変わることはない。
しなければいけないこと、受け入れなければいけないこと、僕自身の在り方、考え方。
全部今まで通り持っていていいもの。
大丈夫。
どう考えても一時的な逃げでしかないけれど、今はきっとこれが一番いい落としどころなのだ。
今さえ抜け出せれば、あとは出来るだけ静先輩から逃げていればそのうち忘れられる。
ふぅと一つ深呼吸をして止まりかけていた涙を拭うと、もう次の雫は零れてこなかった。
僕が落ち着いたのを見て、静先輩も抱きしめてた腕を離してくれる。
「大丈夫か?」
「うん。・・・・・・ごめんなさい、こんな、泣いたりして」
「いいよ、弥桜がちゃんと話してくれてよかった。さ、じゃあさっさとあっち行きやがった結永も拾って帰るか」
そう言われて思い出したようにカウンター席の方に視線を移すと、朝夜先輩とマスターがこっちを見ながら何やら話をしているようだった。
最初は僕たちの目の前の席で話を聞いていたはずなのに、いつの間にか場所を移動していて全然気づかなかった。
静先輩の後ろにくっついて入り口の方に座ってる朝夜先輩たちのところへ向かう。
「落ち着いたか?」
朝夜先輩の問いかけに無言で頷く。
「じゃあ今日は帰るか。弥桜くんも帰りたがってたのを無理矢理連れてきちゃったわけだしな」
そう思ってるなら最初から連れてこないで欲しかったんだけどな。
そんな言葉は飲み込んでマスターにお辞儀だけすると、僕はさっさと喫茶店から出ていく。
「あーあ、ほんとに静のこと以外にはぶっきらぼうだね。あ、これ今日の分」
「悪いね、マスター。また今度ちゃんと紹介するから。今日はほんとに助かったよ」
「ありがたく受け取っときます。ああ、楽しみにしてるよ。じゃあまたね」
後ろから何か言ってる声が聞こえるけど、聞こえないふりをしてドアを開ける。
「帰るって弥桜くん家でいいんでしょ?」
「ああ、頼む」
「へっ!? な、なんで静先輩たちもうちに来ることになってるんですか。誰もいいなんて言ってないし、勝手に決めないでください!!」
ありえない。
少なくとも今日はこれでやっと離れられると思ったのに。
これだけ話して嫌だって言ったのに、時間を置くとかなんかあるでしょ。
早速うちに来るとか言い出してることに思いっきり反対しながら、さっさと帰って閉じこもってやる、と正門に向かって足を踏み出した。
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