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第3章 火宅之境

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でもそしたらなんであんなに静先輩たちがみんなから避けられていたんだろう。
二人とも避けられる理由なんてないじゃないか。

「あれ、そういえばじゃあなんで・・・・・・」
「よし、ついたぜ」
疑問に思ったことを聞こうとしたらタイミングよくアパートの前について、結永先輩の声と被って最後まで言葉を言い切れなかった。

「ささ、降りて」
促されるままに降ろされて結局話を聞くことも出来ず、流されるままに抵抗虚しく三人で帰ってきてしまった。
ここまで来て追い払うわけにもいかないし、もう今日のところは諦めて受け入れるしかないのだろうか。

そうやってぐだぐだと考えていて車から降りても一向に足を進めない僕に、しびれを切らしたのか静先輩がぽんと背を押した。
「弥桜は先に部屋行ってて」
言われるがままに歩き出すけれど二人が少し気になって、ドアの前についてからちらりと振り返ってみた。

静先輩は何やら結永先輩と話していて紙みたいなのを渡していた。
あまりじろじろ見てても静先輩に何を言われるか分かったものじゃないと、早々に鞄から鍵を引っ張り出して部屋に入る。

僕の住んでいるのは二階建てのよくある感じの普通のアパートだ。
そもそも超が付くほど過保護な両親はもちろん独り暮らしも断固反対だった。
もう大学生になって次の誕生日で二十歳にもなる立派な大人だ。
いつまでも家にいるわけにはいかないし、僕にとってあそこはかなり居心地の悪い場所になっていた。
だからどうしても家にいられなくて、大学進学を言い訳に家を出ることにした。

それから裕福なのを隠したくて親の反対を押し切って出来るだけ古いところを探した。
その時に内装は綺麗なところにして、発情期前にはしっかり連絡を入れる、ということで許してもらったのだ。

一年暮らして見慣れた我が家に帰ってきて、今日あった色々な事が少しだけ落ち着いたような気がした。

それでもすぐに静先輩が上がってくる音も聞こえて、程なくして部屋に入ってきて現実に戻される。
そしたら部屋に入ってきたのは静先輩一人で結永先輩は一緒じゃなかった。
「静先輩一人ですか?」
「ああ、結永には食材の買い物を頼んだ。この家昨日俺が使った分で最後だったろ」

そういえばそうか。
この一週間うちの冷蔵庫は完全に静先輩が管理してて、今朝も作り置きを食べたから僕は冷蔵庫をまだ開いてなかったんだ。
だからうちに食材がないのもさっぱり知らなかった。

なんか既に少しずつ僕のテリトリーに入り込まれている気がするのは気のせいだろうか。
もう僕のあずかり知らぬところで物事が進んでいるようで、どんどん追い詰められていってる気分にさせられる。

そうやって僕が一人ずーんと沈んでいるのをよそに、静先輩は勝手に鞄を置くと風呂場へ向かっていった。
「お、風呂溜めてあるじゃん。結永が返ってくるまで夕飯も準備できないし、この部屋やることもなければまだ5時だからな。風呂入るぞ、風呂」

さっきより明らかに上機嫌で戻ってきた静先輩は、なんか着るもんあるか、とよりにもよって人ん家で勝手にお風呂なんかに入ろうとしていた。

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