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第3章 火宅之境
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しおりを挟む原因はわかっているんだ。
でも今までこんなことなくて、自分自身でさえ自分の行動が理解出来ていない。
「・・・・・・」
自分自身ですら理解出来ないのに静先輩のことまで分かるわけがなく、腕の怪我まで絆創膏を貼ってもらう間何かを口にすることは出来なかった。
結局腕の傷でなあなあになってしまっていた他の所への湿布も全部静先輩にやってもらって、パジャマのボタンまで閉めてもらったあと、そのままゆっくり静先輩の大きな体に抱きしめられた。
「・・・・・・弥桜、大丈夫だからな。あんまり気にしすぎるなよ」
優しく頭を撫でながら声をかけてくれる静先輩に、心臓が一気に速度を上げた。
僕が気にするって、何をだ。
まさか、静先輩あのこと知って・・・・・・。
「体の傷なんてあっという間に治るさ。もうあいつらには手出しさせないから」
続いて出てきた静先輩の言葉に、変に速まっていた鼓動がやっと落ち着いた。
心臓が止まるかと思った。
そ、そっか、からだ。
体のことだよね、もちろんそれもすごく気にしてるけど、ほんとに知られてなくて良かった。
そ、そう。
このからだは先輩たちに殴られてただけ。
その傷の多さを気にしてるんだ。
そう、いうことだ。
それもほんとに嫌だけど、他意はもっと嫌だ。
そんなものは、ない。
自分を落ち着かせるために必死に頭の中で言い訳を繰り返していると、不意にピロンと携帯が音を立てて意識を引き戻された。
「・・・・・・結永がもうすぐ帰ってくるって。だからそろそろ夕飯の準備しようか」
携帯の通知は静先輩にだったらしく、食材買い出しに行っていた結永先輩が帰って来るから夕飯が作れるということだった。
お米だけはぎりぎり今日明日の分くらいは残っていたから、先に焚き始めておくと静先輩が台所に向かう。
「結永が来たら出といて」
静先輩の声とほぼ同時に玄関のチャイムが鳴って結永先輩が帰って来たことを告げる。
たたっと玄関まで小走りで向かうと外を確認するように声を掛ける。
違う人だったら怖いし困る。
「結永先輩?」
「おう」
「おかえりなさい」
扉を開けると両手いっぱいに買い物袋を抱えた結永先輩が苦笑気味に立っていた。
「なんかみんな今日はお祝いだって言ってたくさんくれたんだ。弥桜くん、ほんとに商店街の人に好かれてるね」
「それはすごくありがたいんですけど、この量冷蔵庫に入りきらないと思う・・・・・・」
「おお、結永助かった・・・・・・て、おい。どんだけ貰ってきたんだよ。俺が頼んだ分の三倍くらいあるだろう」
「ほんと、みんな買った分より多くくれるんだもん、気前良すぎだよね」
二人で分担してダイニングテーブルまで運んできた荷物の量を見るなり、静先輩はどうすんだよこれ、と言いながらテキパキ仕分けし始めていた。
「今日使う分は出しといて、入る分は冷蔵庫に入れるけど。あとは持って帰るか。これ、お前の分な」
あっという間に仕分けし終わると、別袋に入れて結永先輩に手渡す。
「さんきゅ。じゃあ俺はこれで帰るよ」
「あれ、結永先輩は夕飯食べていかないんですか?」
「あー、お前ら二人して石鹸の匂いさせてるところに俺はいられないかなぁ」
「え? どういう・・・・・・」
そりゃあ二人でお風呂入ったから、石鹸の匂いがするのは当たり前なんだけど、それがどうしたというのだろうか。
ちらりと静先輩を見るとどうやら彼には通じているらしい話に、僕だけ理解できずに置いてけぼりだ。
「じゃあそういうことだから。またな」
結局教えてもらえることもなく、さっさと結永先輩は帰ってしまった。
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