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第3章 火宅之境

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「えっと・・・・・・、静先輩?」

疑問の視線を向けてみるけれど、静先輩も何も言わず頭を撫でてくれるだけだった。
「じゃあさっさと夕飯作るからもう少しだけ待ってろ」
「え、あ、あの・・・・・・」
それだけ言うとさっと視線を逸らして台所へ行ってしまった。

今、あからさまに何か隠された。
結永先輩の言葉からして明らかに僕にも関係がありそうなのに、そんなに聞かれたくないことだったのだろうか。
なら、どうして僕の前であんな話し方をしたのだろう。

別に、静先輩のこととかは特に知りたいとは思わないけどっ。
じ、自分に関係があるとなってくると、すごく気になる。

それにさっきちらりと見えた静先輩の頬が少しだけ赤くなってた。
何かそんなに話しにくいことなんだろうか。

あーあ、と半分不貞腐れるようにどかっとベッドに腰かけて、また静先輩の方にちらりと視線を向ける。
うちのキッチンでせっせと料理をする後ろ姿にぼーっと見惚れていると、再び玄関のチャイムが音を立てて来客を知らせた。
「誰だろ、結永先輩かな。はーい」

「弥桜、家にいるの?」

外にかけた声に返ってきたのは、結永先輩ではなく母さんのものだった。
どうして、と急いでドアを開けるとそこには母さんだけでなく父さんも一緒にいた。
「二人ともどうしたの!? こんな時間に連絡もなくいきなり来て」
既に日も暮れた夕飯を食べようという時間に、それも直接来るなんて何か大事でもあったのだろうか。
「連絡もなく、じゃないわよ!! それはこっちのセリフでしょ、弥桜からの連絡がなかったから母さんも父さんも心配で心配で直接確認しに来たのよ」

・・・・・・ああ。
すっかり忘れていた、発情期の時の電話。

今回は時期がずれて丁度一週間前にキたから、本当だったら今日からのはずだったんだ。
今までこんなことなかったし、静先輩とのこともあって完全に忘れてた。

「え、えっと、ごめんなさい。ごたごたしててこの後連絡しようと思ってたんだ」
「もう、本当に。今日からのはずなのにいつもの時間に電話が来ないから、弥桜の身に何かあったんじゃないかって、母さん、心配で心配で。連絡だけは必ずして」
僕をぎゅっと抱きしめながら震える声で訴えるように吐き出される母さんの言葉に、抱きしめ返しながら返事をする。
「うん。わかった、もっと気を付けるよ。父さんも心配かけてごめんなさい」

「ああ、無事が確認出来てよかった。今日から一週間籠るんだろ、誰が来ても扉開けるんじゃないぞ。十分気をつけてな」
「ええ、顔が見れてよかった。それじゃあ私たち帰るわ。仕事途中で抜けてきてるのよ」
「ほんと、ごめんなさい。義兄さんによろしくね」
雅兄にまで迷惑かけてたのか。
「ああ」

車で来ていた二人を、玄関から見えなくなるまで見送って家の中へと戻る。

こうして突然現れた嵐のような両親は過ぎ去っていった。

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