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第6章 一蓮托生
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しおりを挟む「とりあえず出ておいで。まずは応急処置しよう」
いつまでもこのままってわけにはいかないから、シャワーを止めて浴室から出た。
やっぱり何回試しても静先輩に触れると全身の傷の感覚が戻ってきて、とてもじゃないけど着替えも手当てもやってもらうことは出来なかった。
だからあちこち自分じゃ応急処置すら出来なくて、半分ほど傷がむき出しのままになってる。
そんなだから病院に行こうにも外出すらままならなくて、結永先輩には家まで来てもらうことになった。
「今日は先生にも来てもらうって」
「・・・・・・うん」
結永先輩のツテで何回か話したことのある精神科の先生。
静先輩と結永先輩以外に自分の口で話すのは勇気がいるけど、ゆっくり優しく話を聞いてくれるから先生にはちょっとずつだけど話せるようになっていた。
「大丈夫か」
「・・・・・・っぎゅって、してほしい・・・・・・ひぅ・・・っ」
「そうだな、俺も早く弥桜に触れたいよ」
結局あの後結永先輩と先生が来て僕の傷を見て第一声すごく怒られてしまったけど、色々試した結果静先輩以外の人が触っても何にも感じられなかったから、全身の治療をしてもらって症状とか最近の生活とかを話して今の僕がどんな状態なのか診てもらった。
どうやらこれは無痛症の一種らしい。
ただ僕の精神状態とか最近の生活とかの影響で、普通の症状とは異なったかなり特殊な状態らしい。
自己肯定感が著しく低いのは普通と変わらないんだけど、僕の場合いっぱいいっぱい静先輩が認めてくれて、静先輩だけが認めてくれたから、静先輩だけを感じていたくて、邪魔なものとして他の感覚は自分も含めて全部捨ててしまったんだって。
だから静先輩が触れれば今まで以上に敏感に感じ取ろうとするし、それ以外の時は何も感じることはない。
「ほんと、弥桜くんには静しか目に入ってないね。本能からそうなってんじゃん」
なんか僕の中には静先輩しかいないねって言われたみたいでつい嬉しくなっちゃってニヤついたら、いや褒めてないからってめっちゃ突っ込まれてしまった。
でも静先輩以外いらない僕にとっては、静先輩のことがわかるのなら他のことなんてわからなくてもどうでもよかったから、特に困ってはいなかった。
むしろ余計な感覚に惑わされなくて済むし、本当に静先輩しかいらないんだって全身で示してるみたいで嬉しいまである。
だからこそあの時パニックになって傷を付けすぎたことを後悔した。
これじゃ痛くて静先輩に触ってもらえない。
案の定結永先輩にも先生にも傷が治るまでは安静だよって耳にタコが出来るぐらい言われた。
その代わり治ったら目一杯甘やかしてもらっていいっていうお墨付きももらった。
普通だったら無痛症の原因である静先輩の過剰な甘やかしは出来るだけ控えないといけないらしいんだけど、僕の場合自傷癖があるからそっちを治すほうが大事だってことなんだって。
無痛症とは折り合いをつけて寄り添った方が僕にとってはいいみたい。
「傷が治るまでだよ。そしたらいっぱい抱きしめるから」
隣に静先輩がいてくれて、いっぱい抱きしめてくれるって言ってくれる。
今はそれだけで心がいっぱいになった。
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