ガネス公爵令嬢の変身

くびのほきょう

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怒りと冷却

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「私はコンラッド殿下の初恋を応援してますよ」

当主教育で必要な資料を探していると、スカイラー様の声が聞こえてきました。

ここはガネス公爵家の別宅の図書室。本宅は3年前から改修工事のため、この別宅は本邸完成までの仮住まいです。仮住まいと言っても公爵家の別宅。3年前からコンラッド殿下に相伴するようになったスカイラー様、モーリス様、騎士団長の次男のキアン様の3人はこの別邸がガネス家の本邸だと思い込んでしまっている位の豪壮さなのです。

今日はコンラッド殿下の訪問の日だったようですね。最近は私への先触れなく訪問されるのです。先触れの相手が私からダビネへ変わったとも言えます。

でも、まさかコンラッド殿下、スカイラー様、キアン様の3人が図書室に居るとは思いませんでした。
秘蔵の書物があるため、ガネス家以外の者はガネス家の人間の許可なく図書室へ入れません。ここは別邸なので秘蔵書物は無いですが、本邸と同じ決まりで運営しております。
もちろん私はこの3人の入室許可を出していません。公爵家や国の仕事で忙しいお父様が図書室の入室許可などという瑣末な事をしたとは思えません。まだ私に気づいていない3人。この事態をどう対処しようかと考えてるうちに3人の会話は進んでいきます。

「初恋って、ダビネ?うーん、俺、殿下の初恋はマロリー嬢だと思ってた!」

無邪気なキアン様の言葉に思わず心臓がドキっと跳ねます。コンラッド殿下の返答で私への気持ちがわかるかもしれない。ドキドキと胸が騒がしいです。

「マロリーが初恋など冗談でも言わないでくれ。マロリーに阿るようにと母上から言われ続けて、王子の私が公爵令嬢の機嫌取りだ。毎週マロリーとどうすごしたのかと報告までさせられ、本当にうんざりする。マロリーへ好きだと嘘をつくのだけは嫌だと拒否していたら、マロリーが私を婚約者にと公爵へ言ってくれないせいで婚約までいかずに困っていたんだ。ダビネでも良いと母上から許された今、婚約していなくてよかったと初めてマロリーの愚鈍さに感謝しているよ。自分の気持ちの通りに過ごせる今は、マロリーから解放された気分だ」

公爵令嬢の機嫌取り……うんざりする……好きだと嘘をつく……婚約していなくてよかった……愚鈍……解放された。

何度も何度もナイフで胸を刺されたかのような痛みが走ります。

お父様が帰宅するまで起きていられないと相談した後に殿下にもらった絵本、仕事で行けなくなったお父様の代わりに行ってくれた満開のラベンダー畑の香り、一緒に雪だるまを作った時の手の冷たさ、ダンスの練習で殿下と踊っていた時の伴奏曲、殿下からもらった異国の珍しいお菓子の味。

殿下の言葉のナイフが開けた心の穴からは、大切に心に刻んでいた殿下との思い出がこぼれ落ちてきます。

全部、全部、私の独りよがりだった。私はずっとコンラッド殿下から疎まれていた。

真っ暗な闇の中に1人でいるような、そんな気分です。

「そっか。殿下の気持ちに気づかなくてごめんごめん。まぁ、そもそもマロリー嬢って小さすぎてまだ子供みたいだから恋愛対象として見れないよなー。でも、好きになったのがダビネで本当良かったね。庶子とはいえダビネもガネス公爵令嬢なわけだし」

「ダビネならガネス公爵家への婿入りもできて、しかも殿下の初恋も叶う。まさに運命でしょう。子供にしか見えない根暗な公爵令嬢に阿るようになどと命令され苦い思いをしていた殿下には幸せになっていただきたいです」

殿下ほど付き合いは長くないですが、スカイラー様やキアン様とも仲良く出来ていると思ってましたが私の自惚れだったようです。側近の方々との間にあると思っていた友情は幻だったようです。

「でも、さすがに正当な出自のマロリー嬢を差し置いて母親が平民のダビネを跡取りにすることはないんじゃないの?」

3人の会話はまだ続いてます。

「いや、最近のガネス家を見ているとその可能性はあると思えます」

「使用人の中にダビネが跡取りになると予想し行動している者が出てきている位だ」

思わず拳を握り締めます。そう、最近、ダビネを尊重し私を蔑ろにする使用人が出始めました。

「そういえば、俺、ダビネが廊下に活けた花を片付けろとマロリー嬢に言われたのに無視した使用人を見た!」

キアン様の言葉でその時の事を思い出します。
ダビネが宝物庫の壺を勝手に持ち出し、野草の花を活けていたのです。ダビネが宝物庫に入れた事、慎重に取り扱いしている貴重な壺に水を入れたこと、他の調度品との調和も考えていないこと、全てがありえない事でした。

「それら使用人のマロリー嬢への無礼を家令が諌めなていない、つまり公爵が黙認ということです」

スカイラー様は我が家の使用人の動きをよく見ているのですね。
最近、ガネス家の使用人へ上から目線で声をかけるスカイラー様が目につくようになりました。1年前までは考えられなかったことです。
彼は宰相の息子とはいえ今はただの伯爵家の三男です。コンラッド殿下がガネス家に婿入りすると信じている彼は、自分はガネス家の家令になると思っているのが透けて見えます。

「マロリーには母上に良い縁談先を見繕ってもらってる。マロリーが他家に嫁ぐと決まらないと私がダビネと婚約できないからな」

「えー!殿下まだダビネに好きとも言ってないじゃん。この前、ダビネから”コニー様は私のことどう思ってるんだろう”とか言われて俺すごいびっくりしたんだから!マーガレットのお茶会で愛の詩を読みあってくせに!婚約とかの前に言うことあるだろー」

「そうですよ。まずはダビネと思いを通じ合わせるのが先です。来月にはダビネと私とキアンも貴族学園に入学ですし、学園で2人がいい感じになれるように私とキアンも応援しますから」

「えー!俺もなの?」

この方達は何を言っているのでしょうか。
私が幼い頃から毎日休みなく厳しい公爵家の跡取り教育を受けていることは彼らも知っているはずです。勉強が辛くて落ち込んでいる時、努力は報われると励ましてくれたのはなんだったのか。

そして、私の縁談を決めるのはお父様です。決してコンラッド殿下や王妃様ではありません。私のことだけではなくガネス公爵家やガネス公爵であるお父様のことを軽視している殿下や王妃様に憤りを禁じえません。

悲しい気持ちが怒りに変わるにつれ、すーっと殿下への気持ちが冷めていくのがわかります。

図書室の入り口からドタバタと貴族令嬢としてありえない足音が聞こえてきました。ダビネが来たようです。

「私からお勉強を一緒にして欲しいって頼んだのに!遅れてごめんなさいっ!」

どうやら、彼らはダビネと図書室で待ち合わせしていたようですね。図書室への入室許可の件もわかりました。私は見つからないように本棚の陰に隠れ、別の出口から退出しました。
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