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はじまりの章
009.ティムン・アークフィルの想い
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ティムン・アークフィル。(現在、十八歳)
アークフィル公爵家嫡男として僕が、そう名乗るようになったのは、十歳になったばかりの頃だった。
隣国のジャニカ皇国の第三皇子アルフォンゾ様の小間使いだった僕は、お供の途中、魔物に襲われ死にかけていたところを、偶然にも駆け落ちしてジャニカ皇国にまで来ていた双子達の両親(ダルタス兄上とルミアーナ姉様)に助けられたのである。
もとは、貴族の出だったとはいえ、没落した家のこんな僕をまだ子供のいなかったルミアーナ姉様(双子達の母)は、『養子にする!』と言い出し僕は驚いた。
『いやいやいや!いくらなんでもそれはない!』ってね!
駆け落ちしていたとはいえ、二人の身分は王家に連なる公爵家の人間で、僕のような身分なんて無いも同然の人間を調べもせずに養子になんて発想、まず絶対あり得ない!
しかも、旦那でありラフィリルの将軍であり公爵のダルタス兄上も大賛成で僕をアルフォンゾ皇子様から引き剥がすように連れ帰った。
理由は、『魔物に襲われた僕の事を簡単にあきらめた皇子なんかに僕を任せられない!』と二人が思ったからだ。
でも、僕からしたらアルフォンゾ皇子の行動は、致し方なかったと思うんだよね。
僕は魔物に丸飲みされて僕自身諦めて死を受け入れかけていたし…。
僕は魔物の体液のせいで、皮膚は、爛れ誰もが目を背けるような悲惨な有り様だったんだから…。
誰も助かるとは思わないよ。
皇子や、まわりにいた神父さまも無駄だからやめろととめた。
それなのに、二人は必死で僕を助けてくれた。
偶然みかけただけの僕を!
魔物を引き裂いて僕を助け出したせいでダルタス兄上も魔物の血をあびて、皮膚が爛れ悲惨な有り様になったっていうのに僕を助ける事をやめなかったんだと、後から知った。
その後も驚きの連続だった。
あ!当時、駆け落ちしてた二人の仮住まいは森の中の小さな丸太小屋だったから、最初は二人がそんなに身分のある人達とは思ってなかったんだよ…。
そして優しい二人に純粋になついちゃってたんだよね。
綺麗で優しいルミアーナ姉様の事、本気で人間に身をやつした女神さまだと思ってたし…。
(いや、まあ実際は人間だった訳だけど、月の石の主で現存する女神とか世間から呼ばれてる訳だから、ある意味僕の思い込みは当たってたんだよね。うん)
まあ、そんなこんなで、少しの間だけどかけおち中のダルタス兄上とルミアーナ姉様とジャニカ皇国の森で過ごしたんだけど…。
(楽しかったなぁ)
でも、すぐに姉さまが月の石の主であるという事実や公爵令嬢という身分がばれてジャニカの皇族の皆様が二人を皇国に引き抜こうと算段し始めた事を知った二人は慌てて僕を連れて逃げた。
幸い、反対されていた筈の二人の結婚も国許から許されたと、月の石を通じて知らされ(※月の石は携帯電話のような通信にも役立つ優れものである)僕を引き連れラフィリルへ帰ってきたのだ。
そして僕の養子縁組だが、ダルタス兄上や姉様は、自分達の子供にすると言いはったが、姉様の父アークフィル公爵は姉様に、それだったら、うち(アークフィル家)の跡継ぎにするから弟で我慢しなさいと言って、結果僕は姉様の実家、アークフィル家の嫡男としておさまったのである。
実は、僕は、これも在りえない!と思った。
何なのこの方々は!身元もろくに知れない僕なんかを大して調べもせず!馬鹿なの?と心の中で叫んだものである。
当時、わずか十歳だった僕だったが、家の没落…両親の他界。
身分を捨てての小間使い生活!
奔放な第三皇子のお供で様々な国を放浪…などなど、それなりの苦労を多く経験していた僕は、既にそんな美味い話がある筈がないと絶対こんなこと認められる訳がないと身構え、養子縁組が正式に整い国王陛下にお言葉を頂くまで信じられなかった。
だが、今の義父アークフィル公爵は、僕の話を聞いた時点で、最初から僕を養子にすると決めていたらしい。
まず魔物に狙われ飲み込まれたのは一緒にいた皇国の皇子よりも魂が気高かった証で、飲み込まれても心を乗っ取られなかった強さに感心したのだと後で教えてくれた。
そして、これもさらに後からわかった事だが、僕の何世代か前のご先祖ざまにラフィリルの王族の血が混じっていたらしく、薄いながらも僕は血族だったらしい。
”月の石”に宿る精霊に、そう告げられたのである。
この事実は僕の中でアークフィル家にいてもいいのかな?と思える理由にはなった。
そして、ルミアーナ姉様に双子が生まれた時、僕は二人を見て世界にこんなに可愛くて愛しくて眩しい存在がいるなんてと驚きそしてこの命達に僕のあの時、魔物に飲まれ死んだ筈の命を捧げようと思った。
この子達は絶対、僕が守るんだ!
その為にも僕は誰よりも強く賢くならなければと思った。
この二人の側に居続ける為に!
そして、大人たちの事情?思惑でだが、僕は双子の片割れの女の子リミアの許嫁になった。
血族の姫であるリミアは王族から望まれれば本人の意思にかかわらず、未婚の王子の婚約者候補となり自由が奪われる。それを危惧して結ばれた、彼女を守るための婚約。
この事は父上や母上、ダルタス兄上、ルミアーナ姉様の総意だった。
この婚約はリミアの自由意思を守るためのもの!
もちろん僕は理解している。
今は『お兄様のお嫁さんになる!』と可愛い事を言ってくれるリミアだけれど。
もう可愛すぎてポケットに入れて持ち歩きたくなるような可愛さだけれども!
そんな彼女も、いずれは大人になり恋をして僕の元を去るだろう。
くっ!考えたら血反吐を吐きそうだけども…耐えてみせるさ!
(むろん、そうは言っても僕や兄上のめがねにかなう奴でなければ認めてはあげられないけどね!)
望むのはリミアの(もちろんジーンもだが)幸せ!
その為なら僕は自分の恋愛なんか別に後回しでかまわない。
今のところ興味もない。
(まあ、父上や母上は、本当にリミアと僕が結婚すれば良いと本気で思っているようだけど、リミアの気持ちを一番大切にしてやりたい)
正直、僕はあの双子たちより大事に思える人間になんて出会ったことがない!
これからも会える気がしないのだから、これでよいのだ。
まあ、そのうち、家督をついだら誰かしらとは結婚しないといけないんだろうけれど…。
僕なんかと結婚する令嬢は可哀想だよね。
甥っ子姪っ子の方が大事だなんて。
そう、僕は思っていた。
まさか、双子たちより自分の心を揺さぶる相手など、この先も現れる筈がないと…まだ、この時は…。
アークフィル公爵家嫡男として僕が、そう名乗るようになったのは、十歳になったばかりの頃だった。
隣国のジャニカ皇国の第三皇子アルフォンゾ様の小間使いだった僕は、お供の途中、魔物に襲われ死にかけていたところを、偶然にも駆け落ちしてジャニカ皇国にまで来ていた双子達の両親(ダルタス兄上とルミアーナ姉様)に助けられたのである。
もとは、貴族の出だったとはいえ、没落した家のこんな僕をまだ子供のいなかったルミアーナ姉様(双子達の母)は、『養子にする!』と言い出し僕は驚いた。
『いやいやいや!いくらなんでもそれはない!』ってね!
駆け落ちしていたとはいえ、二人の身分は王家に連なる公爵家の人間で、僕のような身分なんて無いも同然の人間を調べもせずに養子になんて発想、まず絶対あり得ない!
しかも、旦那でありラフィリルの将軍であり公爵のダルタス兄上も大賛成で僕をアルフォンゾ皇子様から引き剥がすように連れ帰った。
理由は、『魔物に襲われた僕の事を簡単にあきらめた皇子なんかに僕を任せられない!』と二人が思ったからだ。
でも、僕からしたらアルフォンゾ皇子の行動は、致し方なかったと思うんだよね。
僕は魔物に丸飲みされて僕自身諦めて死を受け入れかけていたし…。
僕は魔物の体液のせいで、皮膚は、爛れ誰もが目を背けるような悲惨な有り様だったんだから…。
誰も助かるとは思わないよ。
皇子や、まわりにいた神父さまも無駄だからやめろととめた。
それなのに、二人は必死で僕を助けてくれた。
偶然みかけただけの僕を!
魔物を引き裂いて僕を助け出したせいでダルタス兄上も魔物の血をあびて、皮膚が爛れ悲惨な有り様になったっていうのに僕を助ける事をやめなかったんだと、後から知った。
その後も驚きの連続だった。
あ!当時、駆け落ちしてた二人の仮住まいは森の中の小さな丸太小屋だったから、最初は二人がそんなに身分のある人達とは思ってなかったんだよ…。
そして優しい二人に純粋になついちゃってたんだよね。
綺麗で優しいルミアーナ姉様の事、本気で人間に身をやつした女神さまだと思ってたし…。
(いや、まあ実際は人間だった訳だけど、月の石の主で現存する女神とか世間から呼ばれてる訳だから、ある意味僕の思い込みは当たってたんだよね。うん)
まあ、そんなこんなで、少しの間だけどかけおち中のダルタス兄上とルミアーナ姉様とジャニカ皇国の森で過ごしたんだけど…。
(楽しかったなぁ)
でも、すぐに姉さまが月の石の主であるという事実や公爵令嬢という身分がばれてジャニカの皇族の皆様が二人を皇国に引き抜こうと算段し始めた事を知った二人は慌てて僕を連れて逃げた。
幸い、反対されていた筈の二人の結婚も国許から許されたと、月の石を通じて知らされ(※月の石は携帯電話のような通信にも役立つ優れものである)僕を引き連れラフィリルへ帰ってきたのだ。
そして僕の養子縁組だが、ダルタス兄上や姉様は、自分達の子供にすると言いはったが、姉様の父アークフィル公爵は姉様に、それだったら、うち(アークフィル家)の跡継ぎにするから弟で我慢しなさいと言って、結果僕は姉様の実家、アークフィル家の嫡男としておさまったのである。
実は、僕は、これも在りえない!と思った。
何なのこの方々は!身元もろくに知れない僕なんかを大して調べもせず!馬鹿なの?と心の中で叫んだものである。
当時、わずか十歳だった僕だったが、家の没落…両親の他界。
身分を捨てての小間使い生活!
奔放な第三皇子のお供で様々な国を放浪…などなど、それなりの苦労を多く経験していた僕は、既にそんな美味い話がある筈がないと絶対こんなこと認められる訳がないと身構え、養子縁組が正式に整い国王陛下にお言葉を頂くまで信じられなかった。
だが、今の義父アークフィル公爵は、僕の話を聞いた時点で、最初から僕を養子にすると決めていたらしい。
まず魔物に狙われ飲み込まれたのは一緒にいた皇国の皇子よりも魂が気高かった証で、飲み込まれても心を乗っ取られなかった強さに感心したのだと後で教えてくれた。
そして、これもさらに後からわかった事だが、僕の何世代か前のご先祖ざまにラフィリルの王族の血が混じっていたらしく、薄いながらも僕は血族だったらしい。
”月の石”に宿る精霊に、そう告げられたのである。
この事実は僕の中でアークフィル家にいてもいいのかな?と思える理由にはなった。
そして、ルミアーナ姉様に双子が生まれた時、僕は二人を見て世界にこんなに可愛くて愛しくて眩しい存在がいるなんてと驚きそしてこの命達に僕のあの時、魔物に飲まれ死んだ筈の命を捧げようと思った。
この子達は絶対、僕が守るんだ!
その為にも僕は誰よりも強く賢くならなければと思った。
この二人の側に居続ける為に!
そして、大人たちの事情?思惑でだが、僕は双子の片割れの女の子リミアの許嫁になった。
血族の姫であるリミアは王族から望まれれば本人の意思にかかわらず、未婚の王子の婚約者候補となり自由が奪われる。それを危惧して結ばれた、彼女を守るための婚約。
この事は父上や母上、ダルタス兄上、ルミアーナ姉様の総意だった。
この婚約はリミアの自由意思を守るためのもの!
もちろん僕は理解している。
今は『お兄様のお嫁さんになる!』と可愛い事を言ってくれるリミアだけれど。
もう可愛すぎてポケットに入れて持ち歩きたくなるような可愛さだけれども!
そんな彼女も、いずれは大人になり恋をして僕の元を去るだろう。
くっ!考えたら血反吐を吐きそうだけども…耐えてみせるさ!
(むろん、そうは言っても僕や兄上のめがねにかなう奴でなければ認めてはあげられないけどね!)
望むのはリミアの(もちろんジーンもだが)幸せ!
その為なら僕は自分の恋愛なんか別に後回しでかまわない。
今のところ興味もない。
(まあ、父上や母上は、本当にリミアと僕が結婚すれば良いと本気で思っているようだけど、リミアの気持ちを一番大切にしてやりたい)
正直、僕はあの双子たちより大事に思える人間になんて出会ったことがない!
これからも会える気がしないのだから、これでよいのだ。
まあ、そのうち、家督をついだら誰かしらとは結婚しないといけないんだろうけれど…。
僕なんかと結婚する令嬢は可哀想だよね。
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