ラフィリアード家の恐るべき子供たち

秋吉美寿

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リミィの恋の話

62.ティムンのパートナー

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 休日前の放課後、舞踏会の前日である。
 ティムンは学校近くのカフェにリーチェ先生を誘い、舞踏会のパートナーのお断りをしていた。

「リーチェ先生、申し訳ありません。僕には許嫁がいますので…」

「存じております。十一歳も年下のしかもご親戚筋にあたられるご令嬢とか…つまりまだ七歳ではありませんか?失礼ですが、そんな子供にティムン先生が本気のお付き合いをされているとは思えません」
 リーチェは、早々引き下がれないとばかりに言い返した。
 それは断られると思い返答を用意して来たかのような台詞だった。

「…リーチェ先生、それは…本当に失礼ですよ」
 困ったように苦笑いしながらティムンが言うとリーチェはしゅんとしながらも、一生懸命に自分の気持ちを語った。

「っ!…すみません。でも…失礼を承知で申し上げました。だってティムン先生が幼女趣味ロリコンとか…まさか、そんな事思えませんし…その…許嫁のお嬢様にしてもまだ七歳なら恋も愛もわかっていらっしゃらないのでは?正直、公爵家同士のお身内の許嫁など、何か政略結婚から逃れる為の仮の許嫁とかではないのですか?だったら…」

「違いますよ。私は許嫁の事を心から愛しいと思っています!許嫁を解消する日が来るとしたらそれは、貴方のおっしゃるとおり今はまだ愛も恋もわからないであろう幼い許嫁が本当の恋に目覚め、その相手が、この僕ではなかった時にです!」

「まさか、そんな…ティムン先生は幼女趣味ロリコンとかでは無いのでしょう?」

「そうですね。特に幼女に欲情した事はありませんし、そういう性癖は自分にはないと思いますよ?普通に美しい女性を見れば可愛いと思いますし…けれど、僕の許嫁はなのですよ。もちろん今は可愛い姪として愛しいと思うに留まっておりますが…彼女が成長すればわかりませんよ?」

「そ、そんな!姪が大人になったら欲情するかもと言う事ですの?それではあまりにも何か…ふ、不純な気が致しますわ」

「うわ…確かにそういう風に言われると、そう聞こえますね?だけど僕は彼女が生まれた時からの許嫁です。十一歳の時に僕はまだ生まれたばかりの、その子を許嫁としてこの腕に抱かせてもらいました。その子の放つオーラと僕のオーラはその時確かに繋がり僕の心は温かいもので包まれたのです」

「そ、それは、男女の愛情ではないですわ」

「ええ、そうかもしれません。ですが私は許嫁が愛しいのです。幸か不幸かまだ幼い許嫁は僕の事をそれはそれは慕ってくれていましてね。たとえ風の噂にでも僕が他の女性をパートナとして舞踏会に出たなどと知ったら泣いてしまうに違いないのですよ」

 そう言いながらティムンは「ふっ」と、微笑みながら可愛いリミィの学園への旅立ち前に言った言葉を思いだしていた。

『兄様、リミアは頑張って早く大人になりますわ!だから、社交界に出ても恋人とか作らないでほしいのです!婚約解消とかしないでほしいのです』

 そう言ってすがるように願った可愛い我儘を…。


「そんな!ティムン先生はそれで良いのですか?許嫁のご令嬢が他の誰かに恋すれば自分は身をお引きになるご覚悟なのでしょう?ティムン先生の青春は?恋は?自分に恋しなかったらそれまでの時間がもったいなかったとお思いにはなりませんの?ティムン先生が犠牲になる事はありませんのよ?」

「なぜ、勿体ないとおもうのでしょう?そもそも僕にも男女の愛や恋はまだ分かってはいません。リーチェ先生は分かっていらっしゃるのですか?僕はただ、自分が今、一番大事だと思うものを守りたい…そう思っているだけです。何も犠牲になどしてはいない。自分の信じる事をしているだけなのですから」
 そう言い切るティムンの表情は爽やかで一片の曇りもない。

 しかし、どう考えてもリーチェには、許嫁の令嬢にばかり都合が良くティムンが、犠牲になっているとしか思えなかった。

「そ!そんなの…そんなの認められませんわ!」

 そのリーチェの言葉にまだ若いティムンは少しだけムッとした。

「貴女に認めて頂かなくとも僕は別にかまいません。ですから」

「えっ!あっ…ご、ごめんなさい…私…どうしてもティムン先生ばかりが損しているように感じられて…」
 しゅんとするリーチェに、さすがに職場の先輩にまずかったかとティムンも少しばかり罪悪感を感じた。
 これだから歳の近い女性は厄介なのだとため息をつきたくなる。

「いえ、僕もキツイ言い方をしてすみません」

「でも、今回の舞踏会は、学園長の口利きでどうにでも出席せねばならない筈ですわ?それこそ仮にでもパートナーは、必要ではありませんの?私だったら…」

「ああ、それなら大丈夫です。もうパートナーは見つけておりますので」

「えっ?でも確か、タイターナにお知り合いはまだ、そうはいらっしゃらない筈では」

「ええ!じつは、ラフィリルからこちらに来ている者がおりまして」

「ええっ?でも許嫁のお嬢様はまだ七歳ですわよね?タイターナの社交界では無理ですわよ?」

「はははっ!ラフィリルでも七歳では無理ですよ。許嫁ではありませんが、既にパートナーは許嫁も顔見知りの者なので、見知らぬ者よりは幾分、気をもまない相手かと…」

「…そ…そうでしたか…」

「最初は学園長にパートナーをお願いしてみたのですが、さすがに全力でお断りされましたね。学園長なら許嫁もヤキモキしなくて済むとおもったのですが…」

「まぁ」
 ぷっと笑いがもれる。
 さすがに、四十過ぎの学園長が社交界デビューしたての美しいティムン先生とでは、”マダムとツバメ”のような変な噂になりそうである。


 しかし、どう転んでも自分は舞踏会のパートナーとしてすら認めてもらえないのだと意気消沈しリーチェは項垂れた。

 ラフィリルから来る許嫁ではない女性…許嫁の顔見知りだなんて本当なのかしら?
 もしかしてティムンの隠されたなのでは?と疑うリーチェだった。

 そして、いよいよ舞踏会は明日の夜である。
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