ラフィリアード家の恐るべき子供たち

秋吉美寿

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ジルの話

84.竜を従えし者 母のぶっちゃけ話--01

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『なんだ、そんなこと?』
 
 事もなげに母は、そう言った。
 もう人間ですらないかもと自分に恐怖し、震える心で、その気持ちを打ちあけたのに…。
 あ…あれっ?なんか反応違うくない???

「えっ?そんなこと?って?」僕は思わず聞き直した。


『そんなん、昔なじみの竜といっしょくたになったくらいで気にしてたら私なんて月の石の精霊と全部ぜーんぶ繋がってるわよ!』と、母は言い放った。

『プライバシーなんてあったもんじゃないわよね?心読まれまくりだし』

「えええっ!」僕は、そのあっけらかんとした言いっぷりに先ほどの恐怖すら、拍子抜けするほどだった。

 そう、母は、この世界の至宝、精霊を宿す月の石の主。
 精霊たちが従う唯一の人間だ。
 その血と魂が精霊達によって選ばれし奇跡の女性ひと

 全くもってすごい女性から生まれてきたものである。
 しかし何なのだ?この豪快なまでの腹の座りよう。
 元々は普通の公爵令嬢だった筈?なのに???

 これが普通の…いや、んんっ…決して普通ではないな?異常だ。

 うん、この母は特別な何かなのだ!
 伊達に”現存する女神”だなどと言われている訳ではないのだ。
 こんな僕が壊れてしまいそうな不安さえ一蹴してしまう存在。

 僕が生きる為には、この母から生まれてこなければならなかったのだ。
 自分で選んだ光は間違いなかった。
 そう改めて思う。

『いいこと?これは、家族にも誰にも明かしていない事だけれど、ジーン、貴方には言うわ。今、それが必要だと思うから…』

 何やら母は覚悟をきめたような神妙な顔をしたので僕も身構えて聞いた。

「う、うん。」

 『私の中にもこれまで生きてきた二人分の意識が混じりあって存在しています。元々、私はこの世界とは違う世界で暮らしていた人生があるのよ』

「えっ!」

 その母の言葉に、僕は驚きと共に、自分を理解してくれる存在に心がほぐれていくのを感じた。

『竜と二人分くらいなら楽勝でしょ?貴方は何てったって私の息子なのだし!むしろ竜となら異種族だもん。考え駄々漏れでも障りがなくて良くない?』

 この母なら当然だったのだろうが、改めてと言われた事が更に嬉しかった。

 普通なら(まぁ普通じゃない親なのだけれど)怯えられて化け物と遠ざかられても仕方ないと本気で考えてしまった自分がいたから。
 しかし我が母ながら本当に豪胆だ。
 生涯、勝てる気がしない。

「障り?」

『いやー、私も最初に気づいた時は焦ってさー。だってトイレいきたいとか、誰それが好きとか、挙げ句の果てエッチな事考えても何もかんも繋がってるから筒抜けじゃない!それも私の場合は、月の石の精霊全部だからねっ!元々、同じ人属だと余計に恥ずかしいんだからね!まあ、元々私の場合はひとつの魂が解れて暮らしていたのを精霊による導きでひとつにくっつけて混じりあわとまた二人にもどしたって言うかなんか、そんな感じなんだけどもさ』

「けどもさ…って…」

 母の言葉に呆気に取られ僕はどう反応して良いやらわからなくなっていたが、いつのまにか過呼吸は、落ち着いていたし、孤独感も消え、母と身の内にあるギエンティナルの気遣う優しいオーラに包まれていた。

 そうか…まぁ、とにかく、そんなに悩む程の事じゃなかったのかもしれない?
 ちょっと世界最強になっちゃったくらい…。(母曰く、弱いよりいいじゃん)
 ちょっと世界を壊そうと思ったら簡単になっちゃったくらい。(母曰く、壊さなきゃいいだけだし、うん)
 ちょっと長生き(寿命千年以上?)になったくらい。(母曰く、早死によりいいじゃん)
 
 そっか~

 いいのか

 いいんだ。

 そう思ったら周りの空気がふんわりと柔らかくなり、精霊の祝福の光がきらきらと降りてきて、僕とギエンティナルはとてもとても穏やかで満ち足りた優しい気持ちに包まれた。
 それは長い長い孤独に耐えてきたギエンティナルにとっては、全ての苦しみを払拭されるような浄化の光だった。

 僕らを救ったのは母の…ぶっちゃけ話だった。
 
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