オタク草食系男子は超肉食ヤンデレ宝石令嬢に美味しくいただかれます～純愛から狂愛へダイヤモンドの瞳は狙った獲物を逃さない～

芝生（イネ）の花言葉は「神聖」3

「蒼汰さん、今私が苦渋に迫られたような顔をしたと思いましたね」

流石女の勘というべきかドキリとした。
甘夏さんはヤンデレラとの表情ではなく学校で見せるような真面目な顔をしていた。

「蒼汰さんの思うところは最もです。私もできることなら蒼汰さんに教えてもらいたかったですし実際ハイエナに教えてもらうなんて嫌です」

甘夏さんの性根は変わらず来夢さんのことをハイエナというあたりライバル視はしているようで春菊さんに怒りの表情が見えるのに対して来夢さんの母である葵さんは甘夏さんに怒る様子は一切なく格闘技でも観ているような熱を感じる。

「ですが、ハイエナも蒼汰さんに好かれたい……迷惑を掛けたくない。尊重したいという意思は私以上です」
「当然」
「非常に認めたくはありませんがこのハイエナは私以上に蒼汰さんのことを考えています。趣味、嗜好、もの考え方では勝てる気がしません。思いに対しては負ける気はありませんがこの女とは年数において大きな差をつけられています。その差を埋めるのにハイエナの自身の力を借りるのは悪いところではない筈です。ハイエナは蒼汰さんに対して迷惑がかかることを嫌いますから私が迷惑をかける要因を少しでも減ると判断するのなら協力するはずです」
「私は蒼汰君に愛してほしい気持ちは有るけど今蒼汰君は自分のお仕事で忙しいし趣味に没頭したい気持ちがあるから学校生活のことも考えると恋をする余裕や作りたいと思えるだけの天秤を持ち合わせていない気がするから私が今その選択を迫っても互いに後悔すると思う」

来夢さんは来夢さんなりに蒼汰のことを考えていたのだろう。
幼少の頃からの性格を考慮して内気な根は変わっていないだろうと推測しつつも蒼汰のことをよく観察している。
蒼汰が昔から花言葉について勉強していたのも知っていたことから遠回しな告白の方が効果的だろうと判断して偶々居合わせたとはいえピアノの演奏で向日葵を弾きつつアニメオタク界の名曲も1枚噛ませる気配り、遠回し且つ大胆な告白を可能としていた。
普通の所謂陽キャラリア充どもにはわからない考え方だろう。
最近の若者を含め現代人は総じて本を読まない傾向にある。

かの著名な遠回しな告白の代表格、「月が綺麗ですね」も知らないような人間も多い。
特にバブル期の前後は文学に興味を向けている人物はそこまでいない。
大方プロポーズに送る花は薔薇が良いと言われているくらいしか認識が無かったりする。
女子でも詳しい人はそこまで居ないだろう。

このように遠回しな告白が流行らなくなった原因を上げるとするなら欧米文化によるスリルの娯楽化も要因として上げられる。
本というモノはピンからキリまであるが大抵500円以上はするためそれをするくらいならばゲームセンターなどで5ゲームもしくはカラオケに行く方が有意義と感じる人が多いだろう。
そういう人たちの中には本を読んで快楽を得ることできる人物は妄想力が豊かな人と皮肉《・・》を込めて言いそれがいじめへと発展する。

来夢はいじめ経験者だ。大多数から離れることでいじめられるリスクを考えなかったわけではない。
だがそれ以上に蒼汰に好かれたい。
そのたった一つの思考がリスクを吹っ飛ばした。

「私は蒼汰君のことを見つめ続けたんだから……」

来夢さんのその努力は賞賛せざるには居られないだろう。
なぜなら蒼汰もまたいじめられていたのだから……

「私は蒼汰さんを見つめ続けるだけでは足りません。ワタシだけのモノにしたいそういう願望があります。ですがそのためには蒼汰さんのことをよく知る必要があります。蒼汰さんが何を求め何が好きなのかを深く、深く知り、それを越えなければ意味がありません！」

堂々とパーソナルスペースに踏み込める人間ならばいじめによって警戒心が強くなった人間にも通用するかもしれない。
いじめられた人間のパーソナルスペースは広い。
だが一度カギを開けば一気に狭まる。
それこそ来夢さんは既に蒼汰のカギを開けている。
甘夏さんはまだ開けるに至っていない。
逆に強引に扉をあけようとして扉を硬く閉ざされしまった。
もちろん硬く閉ざされてしまったのなら壊そうとも考えたし実際そうしようと試した。
だが一つの考えが甘夏　玲菜の頭を過ぎったのだ。
もしかしたら自分の力では中身《蒼汰さん》ごと壊してしまわないか………というものだ。
実際問題微かに開かせることはできた。
でもこれ以上開けるにはもっと強い力が必要にも感じる。

その強さに中身が耐えきれるとは限らない。
もちろん中身が壊れたとしても玲菜は蒼汰を愛するだろう。
だがそれでは蒼汰の幸せはどうなると考えた。
自分だけが創り出したものにしか幸せを感じなくなってしまったら……それは人では無く人形を愛でるだけになってしまう。
愛ではあるが恋愛にも親愛にもならない愛にしかならない。

「私が一番好きなのは惚れた時の蒼汰さんなんですから！」