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第四章 権謀術策
広がる噂
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――東門前
私は馬を引きつつ、ギウとエクアと一緒に東門から出ようとしていた。
そこに、門を守る二人の兵士の内の一人が話しかけてきた。
「あの、ケント様。少しよろしいでしょうか?」
「ん、どうかしたのか?」
「いえ、町の噂を耳にしたもので……シアンファミリーに喧嘩を売ったというのは本当ですか?」
「ほぅ、もうここまで話が届いているのか」
私とシアンファミリーのいざこざはこの町外れの東門まで届いているようだ。
予想以上の噂の広まり具合に、私は満足する。
町中で噂になったとすれば、ムキ=シアンは己の面子を潰されることを嫌い、退くようなことはないだろう……もっとも、この行為にはもっと大きな意味が隠されているのだが。
それは最大級でありとても地味な『利』として、この物語の末に種明かしをしよう。
私は形を持たない利益から意識を外し、二人の兵士へ向ける。
「それで、君たちに何の関係が? もしかして、君たちはシアンファミリーの人間なのか?」
「いえいえ、よしてください。あんな奴らの仲間だなんてっ。私たちはシアンファミリーとは関係ないですよ」
「そりゃあ、兵士ながらも情けなくあいつらに脅されたりしてますが、それでも俺たちが所属するのは、商人ギルドっすから」
「なるほど。では、一体何用なのかな?」
二人の兵士は互いに目配せをして、一人の兵士が前に出た。
「ケント様はこちらに来て日も浅くご存じないのでしょうが、シアンファミリーを敵に回すのは領主であってもやめておいた方が……特にケント様は……お一人ですし……」
「はは、なにせ中央から追い出された左遷王だからな」
笑い声と共に皮肉を込めて言葉を返すと、二人は気まずそうな顔を見せる。
それにしても何故、彼らはからかいの対象であった私を心配するのだろうか?
「君たちが私を心配する理由はなんだ? どちらかというと、私のことをからかっていたではないか?」
「それは……申し訳ありません」
「今までの非礼は謝ります。たしかに、俺たちの態度は領主様であらせられるケント様に対して無礼でした。だからと言って、シアンファミリーの犠牲にしたいとは思ってないんすよ。無茶はおやめください」
どうやらこの二人は、シアンファミリーに対する嫌悪感が強く、そのため相対的に私に対する同情心が生まれたようだ。
「そうか、気遣い痛み入る。だが、君たちの心配は無用だ」
「「え?」」
「アルリナにおいて、シアンファミリーという存在は絶大なものなのだろう。だが、所詮は井の中の蛙。このケントは、王都にある議会という名の伏魔殿で魑魅魍魎たちを相手に戦ってきたのだ。たとえ、左遷された身であっても、暴の力しか知らぬ者は敵ではないよ」
そう、私が相手にしてきた者たちは数十手先を読み、未来を見通し操ろうとする化け物たち。
僅か二年という期間であったが、彼らを相手に戦ってきた。
その戦いに敗れはしたが、経験を積むことができた。
だからこそ、面子にこだわり、暴力のみを武器とする者に負ける道理はない!
そう、二人の兵士に言葉を渡すが、二人は不安そうな表情を消さない。
それは当然だろう。彼らは私を知らない。これから先に起こることを予測できない。
盲目の彼らに、未来で起こるであろう、その一端を渡す。
「近いうちに、この閑暇だった門の状況は変わる。心しておくがいい。それではトーワへ戻ろう。ギウ、エクア」
未来を受け取った二人はキョトンとした顔のままで私たちを見送った。
だが、その顔も程なく真剣な表情へと変わり、歓喜に心は打ち震えることになるだろう。
私たちは東門から離れ、森に入る直前でエクアに話しかける。
「さて、荷物は若夫婦に預かってもらったから、馬で一気に森を駆け抜けて古城トーワへ急ごう。エクア、君が先に馬に乗ってくれ」
「え?」
「私の後ろに乗るより前の方が安全だからな。振り落とされる心配がない」
「えっと、いいんですか? 私なんかが領主様の馬に乗っても?」
「別に遠慮するようなことではない。さぁ、乗ってくれ」
「そ、それじゃあ……」
エクアは鐙に足を置き、私が彼女の腰を支え、そして馬の背を登るようにしてなんとか馬に跨った。
次に私が鐙に足を掛けて、彼女の後ろに乗る。
「少々窮屈だが、我慢してくれ」
「あ、はい……」
エクアは顔を赤らめて恥ずかしそうにしている。
年が離れているとはいえ、彼女は年頃の女の子。
男と密着するのは抵抗があるのだろう。
それについて触れてもますます恥ずかしさが増すだけだろうから、私は触れることなくギウに視線を振った。
「ギウ、全力で帰るぞ。ついてこれるな?」
「ギウッ」
「よし、トーワへ戻ろう。シアンファミリーを歓迎する宴の準備があるからな」
私は馬を引きつつ、ギウとエクアと一緒に東門から出ようとしていた。
そこに、門を守る二人の兵士の内の一人が話しかけてきた。
「あの、ケント様。少しよろしいでしょうか?」
「ん、どうかしたのか?」
「いえ、町の噂を耳にしたもので……シアンファミリーに喧嘩を売ったというのは本当ですか?」
「ほぅ、もうここまで話が届いているのか」
私とシアンファミリーのいざこざはこの町外れの東門まで届いているようだ。
予想以上の噂の広まり具合に、私は満足する。
町中で噂になったとすれば、ムキ=シアンは己の面子を潰されることを嫌い、退くようなことはないだろう……もっとも、この行為にはもっと大きな意味が隠されているのだが。
それは最大級でありとても地味な『利』として、この物語の末に種明かしをしよう。
私は形を持たない利益から意識を外し、二人の兵士へ向ける。
「それで、君たちに何の関係が? もしかして、君たちはシアンファミリーの人間なのか?」
「いえいえ、よしてください。あんな奴らの仲間だなんてっ。私たちはシアンファミリーとは関係ないですよ」
「そりゃあ、兵士ながらも情けなくあいつらに脅されたりしてますが、それでも俺たちが所属するのは、商人ギルドっすから」
「なるほど。では、一体何用なのかな?」
二人の兵士は互いに目配せをして、一人の兵士が前に出た。
「ケント様はこちらに来て日も浅くご存じないのでしょうが、シアンファミリーを敵に回すのは領主であってもやめておいた方が……特にケント様は……お一人ですし……」
「はは、なにせ中央から追い出された左遷王だからな」
笑い声と共に皮肉を込めて言葉を返すと、二人は気まずそうな顔を見せる。
それにしても何故、彼らはからかいの対象であった私を心配するのだろうか?
「君たちが私を心配する理由はなんだ? どちらかというと、私のことをからかっていたではないか?」
「それは……申し訳ありません」
「今までの非礼は謝ります。たしかに、俺たちの態度は領主様であらせられるケント様に対して無礼でした。だからと言って、シアンファミリーの犠牲にしたいとは思ってないんすよ。無茶はおやめください」
どうやらこの二人は、シアンファミリーに対する嫌悪感が強く、そのため相対的に私に対する同情心が生まれたようだ。
「そうか、気遣い痛み入る。だが、君たちの心配は無用だ」
「「え?」」
「アルリナにおいて、シアンファミリーという存在は絶大なものなのだろう。だが、所詮は井の中の蛙。このケントは、王都にある議会という名の伏魔殿で魑魅魍魎たちを相手に戦ってきたのだ。たとえ、左遷された身であっても、暴の力しか知らぬ者は敵ではないよ」
そう、私が相手にしてきた者たちは数十手先を読み、未来を見通し操ろうとする化け物たち。
僅か二年という期間であったが、彼らを相手に戦ってきた。
その戦いに敗れはしたが、経験を積むことができた。
だからこそ、面子にこだわり、暴力のみを武器とする者に負ける道理はない!
そう、二人の兵士に言葉を渡すが、二人は不安そうな表情を消さない。
それは当然だろう。彼らは私を知らない。これから先に起こることを予測できない。
盲目の彼らに、未来で起こるであろう、その一端を渡す。
「近いうちに、この閑暇だった門の状況は変わる。心しておくがいい。それではトーワへ戻ろう。ギウ、エクア」
未来を受け取った二人はキョトンとした顔のままで私たちを見送った。
だが、その顔も程なく真剣な表情へと変わり、歓喜に心は打ち震えることになるだろう。
私たちは東門から離れ、森に入る直前でエクアに話しかける。
「さて、荷物は若夫婦に預かってもらったから、馬で一気に森を駆け抜けて古城トーワへ急ごう。エクア、君が先に馬に乗ってくれ」
「え?」
「私の後ろに乗るより前の方が安全だからな。振り落とされる心配がない」
「えっと、いいんですか? 私なんかが領主様の馬に乗っても?」
「別に遠慮するようなことではない。さぁ、乗ってくれ」
「そ、それじゃあ……」
エクアは鐙に足を置き、私が彼女の腰を支え、そして馬の背を登るようにしてなんとか馬に跨った。
次に私が鐙に足を掛けて、彼女の後ろに乗る。
「少々窮屈だが、我慢してくれ」
「あ、はい……」
エクアは顔を赤らめて恥ずかしそうにしている。
年が離れているとはいえ、彼女は年頃の女の子。
男と密着するのは抵抗があるのだろう。
それについて触れてもますます恥ずかしさが増すだけだろうから、私は触れることなくギウに視線を振った。
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