銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯

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第四章 権謀術策 

完勝

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 見事、袋小路に誘い込まれ、投網に絡まりもがく傭兵さかなたちを私は防壁の上から見下ろす。


「こらこら動けば動くほど服に絡むぞ。網には釣り針を仕込んであるからな」
「ケント、てめぇ!」
「大漁大漁と言いたいところだが、全くもって不細工で不味そうな魚たちだ」
「ぶっ殺す!!」

「深夜だぞ。騒々しい魚だ。ん? 捕まえ損ねた魚もいるか。さすがに網一つで一網打尽とはいかないな。ま、こちらとしては頭を押さえておけば十分だが、ふふふ」

 私は軽く笑い声を漏らして視線を下へ振った。
 袋小路内では網から逃れた傭兵たちが壁の窪みに指を掛けて上へ逃れようとしていた。
 だが、壁の表面はぬるりとしていて、彼らは登ることができず身体を滑らせていく。
 その間抜けな姿を見て、小柄な戦士は怒声を上げた。


「お前ら! 何を遊んでやがる!?」
「それが隊長! 壁に油が塗ってあって、滑って上に上がれないんだよ!」
「油? このぬめりは油か?」
 彼は先程壁に触れた際、手のひらに付着した液体を見つめている。


 ではでは、眉を顰めている小柄な戦士と混乱極まる傭兵たちに、状況の深刻さを伝えてやるとしよう。

「その通り、油だ。周囲には風景の絵が描かれた壁。絵は、この子に描いてもらった」
 エクアが防壁の上に姿を現し、私の隣に立って、ちょこんと頭を下げる。


 今回の作戦において、傭兵たちを袋小路へ誘い出す必要があった。
 そこまでの道のりは瓦礫を使い誘導することで可能だったが、最終地点である、三方壁に囲まれた場所にどうやって追い込むかが本作戦のポイントだった。
 
 私は当初、壁の一部を黒の墨で塗り、夜の力を借りて壁の隙間に見せかけようとしていた。
 だが、エクアはそれでは不十分と感じ、彼女が得意な絵を生かして闇に染まる風景画を壁に描いたのだ。

 絵はかなり見事なものだったようで、おかげで袋小路の最奥まで彼らを誘い込めた。
 もちろん、私の絵でも十分に閉じ込めることは可能だっただろうが、奥ならば奥の方がより効果が高い。


「君たちはまんまと絵におびき寄せられ、ここへ追い込まれた。そして、曲がり角の入り口に積んであった瓦礫をギウに崩してもらい、逃げ場を奪ったというわけだ」
 この言葉に、無骨そうな戦士がほぞを噛む。

「違和感はそれだったのか。城へ続く道そば。その隣に崩れたら危険な瓦礫の山……なんでちゃんと警戒しなかったんだろう!」
「ほう、勘の鋭い者がいたようだ。だが、油断と傲慢が警戒を鈍らせたようだな」
「クッ」

 もし、無骨そうな戦士が私たちのことを心から脅威と感じていたのならば、瓦礫の不自然さに気づいたかもしれない。
 しかし、心のどこかに敵は二人と力のない少女という思いが、彼の心に甘さを生んでいた。


 私は傭兵の中に、なかなかの切れ者がいたことに驚きつつも安堵した。
(危なかったな。彼が隊を率いるリーダーだったら看破されていた可能性があった。責任の有無が作戦の成否を握ったということか)

 私の見立てでは小柄な戦士が隊のリーダーのようだ。
 そのリーダーが無骨そうな戦士であったのならば、彼は仲間のために最大限の警戒を尽くし、こちらの策を見破った可能性は大いにある。

 私は軽く鼻から息を抜く。
「ふ~、最悪の事態になるところだった。だが、なんとかなった。私のために、ギウの手を汚させたくなかったからな。ギウ、壁に張り付いている連中を見張っていてくれ」
「ギウ」


 崩れた瓦礫のそばに立っていたギウはぴょんと飛び上がり、壁の上に立つ。壁の高さは5mはあるんだが……。
 と、ともかく、油を塗られていない壁の部分を見つけた傭兵たちがそこから這い上がろうとしているので、ギウが銛の柄頭で突いたり、彼らの手に小さな石をぶつけて落としていく。


 傭兵たちが完全に閉じ込められたことを確認して、私は陶器の瓶を取り出し、その中にある液体を小柄な戦士に掛けた。

「お客人、まずは一杯どうかな?」
「うわっ? なにをしやがっ……こいつは、油……?」
「そうだ。油は三方の壁に塗られ、網にも油を染み込ませてある。おかげさまで、買い込んだ油が尽きたが。それはいいとして、油まみれの君たちに、もし……」

 私は陶器の瓶をエクアに預け、代わりに松明たいまつを受け取る。
 めらめらと炎を揺らす松明たいまつは、私の顔を邪悪に浮かび上がらせた。

「もし、いま、この火を投げ込んだら、君たちはどうなるかな?」
「それはっ!?」
「あ、兄貴っ。このままだと俺っちたちは丸焼けにっ!」
「わ、わかってる! クソッ!!」

 小柄な戦士は炎に照らし出された勝者の顔を睨みつける。
 勝者は顔に感情を乗せることなく淡々と勝利を宣言した。


「降伏を。武装を解除しろ。拒否すれば、全員焼き殺す」
 夜の闇よりも昏く、夜風よりも冷たい声が響く。
 この声に、傭兵たちは狂乱に猛っていた心を冷まし、地面に剣を落とした。

 だが、小柄な戦士だけは腰の剣柄に手を置き、手を震わせ、動こうとしない。

「だ、だれがこうふ……」
「兄貴。この状況下ではどうにもできないよ……」
「だけどなっ、ここで白旗上げておめおめ帰れるか? このまま帰ったらムキ様に殺されちまわぁ!」

「そうかもしれないけど、いま焼け死ぬよりかはマシかも」
「どのみち死ぬじゃねぇか! だったら俺は、戦士らしく最後まで抵抗して!」
「兄貴! それだと仲間を巻き込んでしまう! 兄貴だってそんなこと望んでないだろ!!」
「そいつはぁ、そうだけどよ……」

 小柄な戦士は無骨そうな戦士に説得され、剣から手を降ろした。
 しかし、彼は納得した素振りを見せていない。
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