銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯

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第七章 遺跡に繋がるもの

世界の機密

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――地下室


 ここに存在し得ない言語を前に、私とフィナは動揺を隠せなかった。
 私の隣に立つエクアはただならぬ雰囲気を察し、恐る恐る尋ねてくる。


「あの、この模様は一体?」
「これは……地球と呼ばれる世界の文字だ」
「ちきゅう?」
「あまり世間では知られていないが、勇者たちの故郷の名だ」
「勇者というと、ヴァンナスの守護者のことですよね? 勇者さんたちは他の世界の人だというんですか?」
「え? ああそうか。君は大陸ガデリの出身だったな。ヴァンナスでは勇者が異世界より召喚されたことはよく知られているが……そうだな、簡単に彼らのことを説明しておこう」



――私は話す、勇者の存在について。


 今から三百年ほど前、ヴァンナス王家の一族はクライエン大陸に眠る遺跡から発掘された『転送装置』と王家の召喚術を組み合わせて、古代人を呼び出そうとした。
 理由はもちろん、古代人の知識を求めてだ。

 だが、古代人召喚は失敗に終わり、代わりに呼び寄せられたのは『地球人』。
 彼らは誤って、このスカルペルへやってきた。

 もちろん、当時の王家は彼らを地球へ帰そうとした。しかしながら、一度の召喚で装置は壊れてしまい、地球人を地球へ帰せなくなってしまった。
 とても残念な話だが、何の因果もない彼らを故郷から引き離してしまったのだ。
 
 訪れた当初、地球人たちは魔法を知らぬというだけで、私たちとあまり変わらない何の変哲もない存在だった。

 だが、時が経つにつれ、魔法に触れた彼らはその才を開花し、ヴァンナスを守護する勇者として名を広めていった。


 また、この他にも、かなり進んだ考え方や法体系・経済学などを知っていたが、当時のスカルペルでは忌避される価値観が多く、経済的概念以外あまり役に立たなかった。
 技術的にも我々より進歩していたようなので淡い期待を持って古代人の技術のことを尋ねたが、彼らには理解できなかった。
 ただ、一つだけ面白いことがあったという。


 それは……。

「古代人の遺跡の一部に地球の文字が使われていた。しかし、それ以外の多くの未知の文字も混じっていた。主となる文字には、多重多元文字が使われている」
「多重多元文字?」
「一つの文字に、複数の意味が重ねられている文字だ。それも二次元で表すのではなく数次元で表すもの」
「えっと、ちょっと理解が追いつきませんが」
「そうだな、端的に説明をすると」


 私が懐をまさぐりペンを探そうとすると、フィナが無言でペンとメモ帳を投げつけてきた。
 瞳には不満の色がありありと表れているが、エクアへの説明のために己を律しているようだ。

 私はペンを使い、メモ帳に文字を書く。

「私たちが文章を書く際、こうやって文字を横に広げていくだろ?」
「はい」
「だが古代人は、文字の上に文字を重ね置くんだ」
「え、そんなことをしたら、文字が見えなくなっちゃうんじゃ?」

「ああ、なるな。私たちから見れば重ねられた文章はただの点になる。だが、彼らはそれを読み解くことができる。それも、平面に書かれた文字だけはなく、立体的に、時間の位置情報も加味され、さらにそれ以上の次元までも……」

「すみません、やっぱり理解が追いつきません」
「すまないな、説明下手で。まぁ、これも私たちがそうだと理解している例えに過ぎない。実際のところは誰にも解読が不能なんだ」

 
 私はペンとメモ帳をフィナに返して、エクアに向き直った。

「古代人が他の世界の文字を持っているのは数多の世界を渡り歩いて、有用なものを収集しているのではないか。これが定説になっている」
「はぁ……ともかく、勇者さんは地球という世界からやってきた異世界の人?」

「そうだ。ヴァンナスの多く者が勇者は異世界人だと知っているが、地球という世界の名を知る者は少ない」

「なるほど。それじゃあ、古代人の代わりに呼び出してしまったことと、数多の世界を渡り歩いているなら、古代人も異世界の人なんですか?」
「あっ……」

 私は思わず、言葉を跳ねた。
 その様子を見て、フィナは口元を押さえ笑っている。

「あ~あ、スカルペルの機密を漏らしちゃったぁ」
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