74 / 359
第七章 遺跡に繋がるもの
世界の機密
しおりを挟む
――地下室
ここに存在し得ない言語を前に、私とフィナは動揺を隠せなかった。
私の隣に立つエクアはただならぬ雰囲気を察し、恐る恐る尋ねてくる。
「あの、この模様は一体?」
「これは……地球と呼ばれる世界の文字だ」
「ちきゅう?」
「あまり世間では知られていないが、勇者たちの故郷の名だ」
「勇者というと、ヴァンナスの守護者のことですよね? 勇者さんたちは他の世界の人だというんですか?」
「え? ああそうか。君は大陸ガデリの出身だったな。ヴァンナスでは勇者が異世界より召喚されたことはよく知られているが……そうだな、簡単に彼らのことを説明しておこう」
――私は話す、勇者の存在について。
今から三百年ほど前、ヴァンナス王家の一族はクライエン大陸に眠る遺跡から発掘された『転送装置』と王家の召喚術を組み合わせて、古代人を呼び出そうとした。
理由はもちろん、古代人の知識を求めてだ。
だが、古代人召喚は失敗に終わり、代わりに呼び寄せられたのは『地球人』。
彼らは誤って、このスカルペルへやってきた。
もちろん、当時の王家は彼らを地球へ帰そうとした。しかしながら、一度の召喚で装置は壊れてしまい、地球人を地球へ帰せなくなってしまった。
とても残念な話だが、何の因果もない彼らを故郷から引き離してしまったのだ。
訪れた当初、地球人たちは魔法を知らぬというだけで、私たちとあまり変わらない何の変哲もない存在だった。
だが、時が経つにつれ、魔法に触れた彼らはその才を開花し、ヴァンナスを守護する勇者として名を広めていった。
また、この他にも、かなり進んだ考え方や法体系・経済学などを知っていたが、当時のスカルペルでは忌避される価値観が多く、経済的概念以外あまり役に立たなかった。
技術的にも我々より進歩していたようなので淡い期待を持って古代人の技術のことを尋ねたが、彼らには理解できなかった。
ただ、一つだけ面白いことがあったという。
それは……。
「古代人の遺跡の一部に地球の文字が使われていた。しかし、それ以外の多くの未知の文字も混じっていた。主となる文字には、多重多元文字が使われている」
「多重多元文字?」
「一つの文字に、複数の意味が重ねられている文字だ。それも二次元で表すのではなく数次元で表すもの」
「えっと、ちょっと理解が追いつきませんが」
「そうだな、端的に説明をすると」
私が懐を弄りペンを探そうとすると、フィナが無言でペンとメモ帳を投げつけてきた。
瞳には不満の色がありありと表れているが、エクアへの説明のために己を律しているようだ。
私はペンを使い、メモ帳に文字を書く。
「私たちが文章を書く際、こうやって文字を横に広げていくだろ?」
「はい」
「だが古代人は、文字の上に文字を重ね置くんだ」
「え、そんなことをしたら、文字が見えなくなっちゃうんじゃ?」
「ああ、なるな。私たちから見れば重ねられた文章はただの点になる。だが、彼らはそれを読み解くことができる。それも、平面に書かれた文字だけはなく、立体的に、時間の位置情報も加味され、さらにそれ以上の次元までも……」
「すみません、やっぱり理解が追いつきません」
「すまないな、説明下手で。まぁ、これも私たちがそうだと理解している例えに過ぎない。実際のところは誰にも解読が不能なんだ」
私はペンとメモ帳をフィナに返して、エクアに向き直った。
「古代人が他の世界の文字を持っているのは数多の世界を渡り歩いて、有用なものを収集しているのではないか。これが定説になっている」
「はぁ……ともかく、勇者さんは地球という世界からやってきた異世界の人?」
「そうだ。ヴァンナスの多く者が勇者は異世界人だと知っているが、地球という世界の名を知る者は少ない」
「なるほど。それじゃあ、古代人の代わりに呼び出してしまったことと、数多の世界を渡り歩いているなら、古代人も異世界の人なんですか?」
「あっ……」
私は思わず、言葉を跳ねた。
その様子を見て、フィナは口元を押さえ笑っている。
「あ~あ、スカルペルの機密を漏らしちゃったぁ」
ここに存在し得ない言語を前に、私とフィナは動揺を隠せなかった。
私の隣に立つエクアはただならぬ雰囲気を察し、恐る恐る尋ねてくる。
「あの、この模様は一体?」
「これは……地球と呼ばれる世界の文字だ」
「ちきゅう?」
「あまり世間では知られていないが、勇者たちの故郷の名だ」
「勇者というと、ヴァンナスの守護者のことですよね? 勇者さんたちは他の世界の人だというんですか?」
「え? ああそうか。君は大陸ガデリの出身だったな。ヴァンナスでは勇者が異世界より召喚されたことはよく知られているが……そうだな、簡単に彼らのことを説明しておこう」
――私は話す、勇者の存在について。
今から三百年ほど前、ヴァンナス王家の一族はクライエン大陸に眠る遺跡から発掘された『転送装置』と王家の召喚術を組み合わせて、古代人を呼び出そうとした。
理由はもちろん、古代人の知識を求めてだ。
だが、古代人召喚は失敗に終わり、代わりに呼び寄せられたのは『地球人』。
彼らは誤って、このスカルペルへやってきた。
もちろん、当時の王家は彼らを地球へ帰そうとした。しかしながら、一度の召喚で装置は壊れてしまい、地球人を地球へ帰せなくなってしまった。
とても残念な話だが、何の因果もない彼らを故郷から引き離してしまったのだ。
訪れた当初、地球人たちは魔法を知らぬというだけで、私たちとあまり変わらない何の変哲もない存在だった。
だが、時が経つにつれ、魔法に触れた彼らはその才を開花し、ヴァンナスを守護する勇者として名を広めていった。
また、この他にも、かなり進んだ考え方や法体系・経済学などを知っていたが、当時のスカルペルでは忌避される価値観が多く、経済的概念以外あまり役に立たなかった。
技術的にも我々より進歩していたようなので淡い期待を持って古代人の技術のことを尋ねたが、彼らには理解できなかった。
ただ、一つだけ面白いことがあったという。
それは……。
「古代人の遺跡の一部に地球の文字が使われていた。しかし、それ以外の多くの未知の文字も混じっていた。主となる文字には、多重多元文字が使われている」
「多重多元文字?」
「一つの文字に、複数の意味が重ねられている文字だ。それも二次元で表すのではなく数次元で表すもの」
「えっと、ちょっと理解が追いつきませんが」
「そうだな、端的に説明をすると」
私が懐を弄りペンを探そうとすると、フィナが無言でペンとメモ帳を投げつけてきた。
瞳には不満の色がありありと表れているが、エクアへの説明のために己を律しているようだ。
私はペンを使い、メモ帳に文字を書く。
「私たちが文章を書く際、こうやって文字を横に広げていくだろ?」
「はい」
「だが古代人は、文字の上に文字を重ね置くんだ」
「え、そんなことをしたら、文字が見えなくなっちゃうんじゃ?」
「ああ、なるな。私たちから見れば重ねられた文章はただの点になる。だが、彼らはそれを読み解くことができる。それも、平面に書かれた文字だけはなく、立体的に、時間の位置情報も加味され、さらにそれ以上の次元までも……」
「すみません、やっぱり理解が追いつきません」
「すまないな、説明下手で。まぁ、これも私たちがそうだと理解している例えに過ぎない。実際のところは誰にも解読が不能なんだ」
私はペンとメモ帳をフィナに返して、エクアに向き直った。
「古代人が他の世界の文字を持っているのは数多の世界を渡り歩いて、有用なものを収集しているのではないか。これが定説になっている」
「はぁ……ともかく、勇者さんは地球という世界からやってきた異世界の人?」
「そうだ。ヴァンナスの多く者が勇者は異世界人だと知っているが、地球という世界の名を知る者は少ない」
「なるほど。それじゃあ、古代人の代わりに呼び出してしまったことと、数多の世界を渡り歩いているなら、古代人も異世界の人なんですか?」
「あっ……」
私は思わず、言葉を跳ねた。
その様子を見て、フィナは口元を押さえ笑っている。
「あ~あ、スカルペルの機密を漏らしちゃったぁ」
0
あなたにおすすめの小説
私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ
柚木 潤
ファンタジー
薬剤師の舞は、亡くなった祖父から託された鍵で秘密の扉を開けると、不思議な薬が書いてある古びた書物を見つけた。
そしてその扉の中に届いた異世界からの手紙に導かれその世界に転移すると、そこは人間だけでなく魔人、精霊、翼人などが存在する世界であった。
舞はその世界の魔人の王に見合う女性になる為に、異世界で勉強する事を決断する。
舞は薬師大学校に聴講生として入るのだが、のんびりと学生をしている状況にはならなかった。
以前も現れた黒い影の集合体や、舞を監視する存在が見え隠れし始めたのだ・・・
「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。
主人公「舞」は異世界に拠点を移し、薬師大学校での学生生活が始まります。
前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。
また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。
以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。
転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~
名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜
Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる