銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯

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第十三章 呪われた大地の調査

呪われた大地の調査開始

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 海藻を化粧品に。
 これをトーワの特産品として売り出すことを目指す。
 

――フィナとカインの分析の結果

 海藻類は栄養豊富で、皮膚や粘膜を健康に保ち、肌のシミそばかすを防いでくれるそうだ。
 さらには便秘予防やヨウ素の働きで毛を綺麗に保ち、ミネラルに富み保湿力・抗酸化力に優れていると。


 ざっくり言えば、肌に良く、健康に良いということだ。
 食しても効果はあるようだが、今回はこれらの有効成分を抽出して、手を加え効果を高め、化粧品として売り出す。

 ただキサの話では、食べて美容効果があるなら、美容や健康食品という方向から新たな食の開拓を見い出せると言っていた。

 しかしそれは、カインから一度否定される。
 カインの話によると、大陸ガデリ出身のエクアは海藻から効率よく栄養を吸収する微生物を腸内に持っているが、私たちは持っていないらしい。
 
 ガデリは長い間海藻を食し、腸内に消化吸収を助ける微生物を獲得したのだろう。しかしながら、私たちは海藻を食する習慣がなく、その微生物が体内に存在しない。
 私たちが食しても味は堪能できるが、栄養はあまり得られないし消化もしずらい。

 そのため食品化は諦めようとしたが、カインが自分の意見を覆す。

 追加分析の結果、海藻の細胞壁を分解する微生物を宿していない私たちには栄養の吸収はやはり難しい、と。
 だがそれは、生の状態の場合。焼くなり煮るなりと火を通せば細胞壁が壊れ、栄養の吸収が可能になるそうだ。

 現状、化粧品の商品化で手一杯だが、いずれ海藻を加工食品として売り出し、新たな食の開拓を進んでみようと思う。
 というわけで、今は化粧品開発のみに集中する。


――その後、海藻の成分は化粧品として十分に有用だという報告を受けて、流通をにない、貴族富豪と繋がりのあるマフィンやノイファンに連絡を取り、開発機材の依頼のためマスティフにも連絡を取った。
 うまく著名人たちに重用され、ブランド力が高まったら、ノイファンに大衆用の化粧品製造を任せる予定だ。

 
 それらの合間に、私は北の荒れ地の開拓調査を行うことにした。



――トーワ・防壁外・北


 私は商品開発に忙しいフィナに無理を言って、荒れ地の開拓の相談をおこなった。
 すると、彼女はさほど気にすることなく、一つの長筒を渡し、土壌のサンプルを取ってきてと、言ってきた。
 
 長筒は金属でできた先端が円錐上のもの。頂点は土が入るように大きめの口が開いている。
 長さは2メートルほどで、中は空洞だが土が落ちないように返しがある。筒の直径は15cm。

 それを北の大地に突き刺して土壌のサンプルを持って来い、だそうだ。
 皆は忙しそうなので、私がそれを行うことに。

 中天で二つの太陽が輝く。
 一つは夏の入り口を感じさせる、光の太陽テラス。
 もう一つは季節など感じさせない、揺らぎの太陽ヨミ。


 二つの光を受けながら北の大地に立つ。
 大地の内部は汚染されているので、筒を突き刺した際に粉塵を吸わないようにマスクを着用。手袋とゴーグルも。
 その姿に、なぜかここにいる二人が愚痴をこぼす。


「う~む、息苦しくてかなわんな。マスクから口がはみ出ておるし」
「ニャハハ、口がちょいとばかし長い自分を恨むといいニャ」

 私の両隣には、短くも黒く艶やかな体毛を作務衣さむえで包むワントワーフのおさ・マスティフと、もふもふのこげ茶の毛に身を包むキャビットのおさ・マフィンが。


 マスティフは弾丸を届けにトーワへやってきた。
 おさの彼が直接訪れたのは、炉が吹き飛び、その後始末あとしまつに追われ弾丸の納期が遅れた謝罪と怪我人の治療を手伝ってくれた礼のため。

 また、アグリスと敵対している種族や地域へ送った手紙の返事を渡しに。
 マスティフの仲介があったためだろうか。どの手紙も好意的なもので、少なくとも今後、手紙でのやり取りができるほどの橋は作れた。
 しばらくはマスティフを通じ、まだ見ぬ友人たちと手紙でやり取りを行おうと思っている。


 次にマフィンがここにいる理由だが。
 それはキサのことについての相談。
 すでに彼はキサの両親と会っているらしく、そこでスコティとの婚約を迫ったのだが、若夫婦はあまり乗る気ではないと。
 それに対する相談だ。

 しかし、今はそれらのことを忘れ、二人は荒れ地の開拓に興味を示していた。
 彼らがそれを知った理由は、たまたま私が筒を運び出している最中に出くわしたからだ。
 私は二人に話しかける。


「お二人とも。大地に眠るのは毒。筒を打ち込んで、万が一でもあればことですよ」
「がはは、それを言うのならばケント殿もでしょう」
「そうニャよ。いいから、とっとと作業を始めるのニャ」
「まったく、マスティフ殿もマフィンも」
「そう愚痴るでない。ワシがいた方が楽であろう。ケント殿は怪我が治ったばかりで、体格の方もワシの方が向いておる」
「それは、たしかに……」


 魔族の襲撃で痛めたわき腹はもう痛みを感じていないが、大事を取った方がいいだろう。
 それに、筒の長さは2メートル。私が打ち込もうとするかなり厳しい。
 しかし、マスティフなら背も高く、それに何よりガタイがいい。
 彼には台へ乗ってもらい、木槌を使い筒を大地へ打ち込むんでもらう手筈てはずだ。

「それでは、お願いします。マスティフ殿」
「よしきたっ」

 マスティフは木槌を振り上げて筒を叩いていく。
 その間、私たちは軽い雑談を行う。

「お二人は普段どういったお付き合いを?」
「商売上の関係程度だな。ワントワーフとキャビットは基本的にそりが合わん」
「そうニャね。別に喧嘩をするほどじゃにぇ~が、あまり長くそばにいると不愉快だニャ」
「そうなのか……間に挟まれた私は何と答えを返せばいいのやら」

「気にすることにゃいニャ。お互いそりが合わなことはわかってるにゃが、それを腹に収めるくらいのことはできるニャよ」
「そうであるならありがたい」


 多少の不安はあるものの、二人は言葉通り、穏やかに世間話を行う。
 マスティフは木槌を振り下ろしながらマフィンにキサとスコティのことを尋ねている。

「そういえば、ケント殿に婚約の仲介を、と言っていたな。たしか、マフィンは人間族をスコティの嫁に迎えるとか?」
「そうニャ。何か問題あるかニャ?」
「いや、異種族同士の結婚は珍しいからな。それが長との間となれば」
「フンッ、頭の固いワントワーフとは違い、俺たちはじゅうにゃんだからニャ」

「ほほぉ、そのような口を聞いてもいいのか? 結婚の祝儀に響くぞ」
「うぐっ、にゃんてけち臭い脅しを……それよりも、そろそろいいんじゃニェいか?」
「そうか? ケント殿、これぐらいでどうだ?」
「ちょっとお待ちを……ええっと、フィナが塗った基準線を越えてるな。これで十分です」
「そうか、では引き抜くとするか」
「慎重にやれニャよ~」
「わかっておる」


 木槌で打ち込んでいた側には持ち手がついている。
 それをマスティフが握り、筒を左右に動かしながら引き上げていく。


「よ、よ、よっと。よし、抜けた。あとはこれを……」
「この袋に入れて運ぶだけですよ」

 これもまたフィナの用意した袋。
 長筒がぴったり納まる大きな袋に長筒を入れる。

「あとはこの袋をフィナのところに持って行っておしまい、と」
「分析結果が出たら、俺にも教えてほしいニャ」
「ワシも興味があるな。幼いころから危険と言われていた大地に何が埋まっているのか」
「二人とも了解だ。詳細な報告書を後で届ける」

「ふふ、頼んだニャ。ついでに新しい商売の話を詰めておきたいニャ。海藻から美容に効果のある有効成分が抽出できて、商売としての目途が立ちそうニャンだろ?」
「ああ。そうだな、それらの話を詰めよう。いまから話となると遅くなるかもしれないが、お二人とも城に泊まっていくか? 見ての通り、派手なもてなしは厳しいが、食事の味は保証しよう」

「そうさせてもらうニャ。美味い飯が食えれば満足ニャ」
「うむ、邪魔でなければそうさせてもらおう……できれば、酒もつくと嬉しいが」
「あはは、それならばそこそこのものが執務室にありますから、それを」
「ほほ~、そいつは楽しみだ」


 話をほどほどに切り上げ、私はマスティフとマフィンの手を借りて、土壌サンプルを地下の研究室にいるフィナのもとへ運び込むことにした。
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