銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯

文字の大きさ
157 / 359
第十四章 兵(つわもの)どもが夢の跡

――運命の分岐――

しおりを挟む
――バイオハザードマーク研究室扉前

 
 ケントが閉じ込められ、四人は焦りに焦っていた。
 そこに追い打ちをかけるように、扉の表面が赤の光を纏って点滅を始めた。
 言い知れぬ危機感に、一同の焦りはさらに増す。

 マスティフが扉をこじ開けようとするがびくともしない。
 マフィンが高出力の魔導をぶつけるが、扉に触れた途端、霧散して消えてしまう。
 親父はエクアに声をぶつけた。

「エクアの嬢ちゃん! フィナの嬢ちゃんを!!」
「わかりましたっ!」
 
 エクアはフィナのもとへ駆け出そうとした。
 その時、彼女の声が響く。

「その必要はないよ、エクア」
「え!? フィナさん!?」

 フィナが正十二面体の深紅のナルフを浮かべ、皆の前に現れた。
「さぁ、ケントを救わないと!」

 

――研究室内部

 
 研究室内部では、呻き声のような短い声が響いている。
 感覚的に、何かのカウントダウンのようだ。

「これはまずいこれはまずい、まずいぞっ。ここは病原体を扱っていた場所。誤作動か何か知らないが、この内部を完全に浄化しようとしている! 早く脱出しないと!!」

 私は扉を何度も叩く。
 しかし、力も音さえも扉に吸収されているようで、何の反応を示さない。

「みんな、聞こえるか!? 聞こえていないよな、くそっ! どこか脱出口を!!」
 室内を見回す。どこにもそのような場所はない。
 この間にもカウントダウンらしきものは続いている。
 その音に交わり、彼女の声が聞こえてきた。


「ケント、聞こえる?」

「え?」

 声は青いナルフから聞こえてきた。

「フィナか!?」
「ええ、そうよ」
「フィナ、どうやら故障か何かでこの部屋はっ」
「わかってる。部屋の右奥にある制御卓コンソールに向かって」
「なに?」
「いいから行ってっ。死にたいの?」
「あ、ああ、わかった」


 フィナに促されるまま、部屋右奥にあるコンソールの前にやってきた。
 それは透明な壁から透明な机が飛び出したもの。

「来たぞ。どうするんだ?」
「机の真下にパネルがある。それを開いて」
「パネル? ……あったぞ。なぜ、君がそんなことを?」
「あとで話すからっ。パネルを開いた?」

「開いた。中には色とりどりの水晶のようなものがある」
「その中で、中央にある大きな穴から右に三つ目の穴。六角形の穴があるでしょ?」
「え~っと、あったぞっ」
「そこに……そこに……」


 フィナは突然、とても苦し気に声を出す。
 だが、次には、その苦しみや辛さを吹き飛ばすような大声を張り上げた。

「そこにおばあさんからもらったペンダントをはめなさい!」
「おばあさんの? あの老婆の? だが、一体?」
「いいから早くしなさい! 死ぬよ!!」
「わ、わかった!」

 首に掛けていたペンダントを外し、六角形の七色水晶をはめこんだ。
 その途端、透明な机の上に立体的な画像が浮かぶ。
 画像はこの施設のマップのようだ。

 マップには古代人の丸文字が描かれ、この部屋と思われる部分が赤く点滅する。
 次に、正面の透明な壁にたくさんの丸文字の羅列が浮かび、それが消えると、赤く点滅していた部屋が緑色を示した。
 同時に、あれほど耳障りだったカウントダウンも止まった。


「助かった、のか?」
「まだよ。一時的に止まっただけ。この研究室は完全に壊れていて、制御は不可能なの」
「なぜ、そんなことを? 君は一体?」
「……部屋の隅に行って、扉から離れて。吹き飛ばすから……」

 フィナは私の問いかけに答えず、必要なことだけを口にしてナルフの通信を切った。



――研究室扉前


 このフィナの一連の不可思議な言動・行動は、扉の前にいた者たちにも伝わっていた。
 彼らはフィナに問いかけるが、彼女はやはり答えない。

 フィナはケントを救うために、マスティフとマフィンに声をぶつける。
「この扉はエネルギー波を吸収する。魔法をいくらぶつけようと無駄。でも、純粋な物理的な打撃なら破壊できる。そこで、マスティフさん、マフィンさん!」
「応っ!」
「なんニャ!?」

「ワントワーフとキャビットの合わせ技でこの扉を破壊して! 私が爆弾を使用するよりも、計算上、この方法が最もケントの生存率が高いらしいの。おそらく、不測の事態が発生しても、二人がいた方が対処の幅が広がるんでしょうね」

「フィナ殿、何を言っている?」
「ごめん。疑問はあとで答えてあげるっ! 早くしないとまたカウントダウンが始まっちゃう!!」
「なに、それはいかんなっ! マフィン!」
「了解ニャ! いくニャよっ!」

 マフィンは魔力を高め、身の内から光の奔流を生み出し、秘儀となる魔法の詠唱を始めた。


――共に歩み別れ線は交差する機会を失えど、盟友の絆は凛として輝く。輝きは光の衣となりて我らの穢れなき魂魄こんぱくを示し、十万億土へと続く道を形作る。我と汝は幾重もの層を産み、分界は終幕へと結び新たなる道を指し示さん! ニャ!!――


「受け取るニャ! マスティフ! 永遠の誓いノクシンガペリ!!」

 マフィンの肉球から光の球体が飛び出して、それはマスティフの肉体を包み込んだ。
 光の衣に身を包むマスティフは腰を落とし、右拳に力を溜める。

「うぉぉおぉぉぉぉお!」

「親父とエクアは下がってるニャ! フィナ、結界の準備ニャ!」
「わかってる!」

 
 二人はエクアと親父を守るように立ち、結界を張った。
 それを見届けたマスティフは鮮烈せんれつなる正拳を放つ!

「憤怒っ!」

 拳が扉にぶつかる――衝撃が廊下に広がり、空気は竜巻のように渦を巻く。

 フィナとマフィンが張った結界は衝撃と竜巻によって、耳をつんざくような悲鳴を上げ、震えは結界内部にも伝わった。
 振盪しんとうが、エクアたちの肌を痺れさせる。

 空気は駆け抜け、音が消える。
 マスティフは拳を放った扉を見つめ、驚愕に声を生んだ。

「なんとっ!?」


 家の丈を越える巨石でさえ消し飛ばすであろう、爆発的な力を持った拳。
 そうだというのに、扉は軽くひしゃげた程度。
 
「信じられぬっ? どれほどまでに頑丈なのだ!」
「扉が壊れなかったのは計算外だけど、十分!」
 
 フィナが扉を指差す。
 ひしゃげた扉には隙間が生まれ、そこから銀髪を見せてケントが這い出してきた。

「よいっしょっと、いつつ。あ、尻が引っ掛かった!」
「もう、何やってるのよ! みんな、手伝って!」

 フィナを中心にケントを引っ張り出す。

「いっせい~の、はい!」
「いたたたたっ、まて! 尻がとれる!」
「待たない! 時間がないんだから。もう一回! せ~のっ」
「うがっ!?」


 スポンッ、といった感じでケントが飛び出してきた。
 ケントは尻をさすっている。

「いつ~、尻の筋肉を捻った」
「あとでエクアに治療してもらいなさいっ。今はここから距離を取るのが先!」

 尻を痛めたケントは親父に支えられ、他の皆と一緒に扉から離れていく。
 しばらくすると、扉の前に半透明の青白いカーテンが降りた。
 カーテンは研究室を覆う障壁のようだ。

 次に呻くような声が響き、研究室内で眩い閃光が走る。
 光が消えると青白いカーテンは消えて、静けさのみが辺りに残った……。


 たしかな意味で助かったと安堵したケントは大きく息を吐き、フィナに問いかける。
「はあ~……フィナ、どういうことか、説明してもらえるな?」
「うん、もちろん。これはみんなにも知ってもらいたいことだから……」

 フィナは悲しみに瞳を溺れさせ、眉を顰めながらもエクアとケントへ微笑みを浮かべていた。
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

レベル上限5の解体士 解体しかできない役立たずだったけど5レベルになったら世界が変わりました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
前世で不慮な事故で死んだ僕、今の名はティル 異世界に転生できたのはいいけど、チートは持っていなかったから大変だった 孤児として孤児院で育った僕は育ての親のシスター、エレステナさんに何かできないかといつも思っていた そう思っていたある日、いつも働いていた冒険者ギルドの解体室で魔物の解体をしていると、まだ死んでいない魔物が混ざっていた その魔物を解体して絶命させると5レベルとなり上限に達したんだ。普通の人は上限が99と言われているのに僕は5おかしな話だ。 5レベルになったら世界が変わりました

スマホアプリで衣食住確保の異世界スローライフ 〜面倒なことは避けたいのに怖いものなしのスライムと弱気なドラゴンと一緒だとそうもいかず〜

もーりんもも
ファンタジー
命より大事なスマホを拾おうとして命を落とした俺、武田義経。 ああ死んだと思った瞬間、俺はスマホの神様に祈った。スマホのために命を落としたんだから、お慈悲を! 目を開けると、俺は異世界に救世主として召喚されていた。それなのに俺のステータスは平均よりやや上といった程度。 スキル欄には見覚えのある虫眼鏡アイコンが。だが異世界人にはただの丸印に見えたらしい。 何やら漂う失望感。結局、救世主ではなく、ただの用無しと認定され、宮殿の使用人という身分に。 やれやれ。スキル欄の虫眼鏡をタップすると検索バーが出た。 「ご飯」と検索すると、見慣れたアプリがずらずらと! アプリがダウンロードできるんだ! ヤバくない? 不便な異世界だけど、楽してダラダラ生きていこう――そう思っていた矢先、命を狙われ国を出ることに。 ひょんなことから知り合った老婆のお陰でなんとか逃げ出したけど、気がつけば、いつの間にかスライムやらドラゴンやらに囲まれて、どんどん不本意な方向へ……。   2025/04/04-06 HOTランキング1位をいただきました! 応援ありがとうございます!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

転生したら実は神の息子だった俺、無自覚のまま世界を救ってハーレム王になっていた件

fuwamofu
ファンタジー
ブラック企業で過労死した平凡サラリーマン・榊悠斗は、気づけば剣と魔法の異世界へ転生していた。 チート能力もない地味な村人として静かに暮らすはずだった……が、なぜか魔物が逃げ出し、勇者が跪き、王女がプロポーズ!? 実は神の息子で、世界最強の存在だったが、その力に本人だけが気づいていない。 「無自覚最強」な悠斗が巻き起こす勘違い系異世界英雄譚、ここに開幕!

処理中です...