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第十八章 純然たる想いと勇気を秘める心
銀眼は眺望す
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様々なパズルのピースが形を成そうとして、うっすらと口角が緩みそうになった。
そこにギウの声が届く。
「ギウ」
「あ、ふぅ……いかんな」
「何がいけないんですか、ケントさん?」
「いや、カイン。いけないというか……そうだな」
私は頭を振り、話題を変える。
それは親父の不可思議な行動に対する疑問について。
親父に顔を向けて問いかける。
「わからん。どうして、親父はそんな行動をとった?」
この言葉にグーフィスが口を挟む。
「わからんって、親父さんの話、聞いてましたよね? ケント様自身、理解して復唱してたじゃないですか?」
「そのわからんじゃない。なぜ、ここにきて、こんな無茶をした理由がわからんと言っているんだ」
私は机に片肘をつき、手の甲に顎を乗せて、親父をちらりと見た。
「君は冷静で慎重な男のはずだ。自身の過去を秘匿にし、少しずつ少しずつ、私にアグリスの異様さを伝え、嫌悪感を抱かせ、そこからゆっくりと介入をほのめかす手はずじゃなかったのかな?」
「……そのつもりでした」
「では、なぜ、このような馬鹿な真似をした? しかもこれらはカリスのことを考える余地が生まれるだけで、彼らを救うことには繋がらないんだぞ? そうだというのにエクアを巻き込み、私たちの関係の全てを捨てるような真似を何故?」
「それは……それは……それは……」
「なんだ?」
「自分でも、わからないんですよ、旦那……」
「なに?」
親父は両手を震わせて、涙を涸らし充血した瞳で、それをじっと見る。
「今回は、旦那にアグリスを実際に見てもらい、その非道さ知ってもらうだけに留めるつもりでした。ですが、この街に来てからというもの、俺の心がざわついて、おかしいんですよっ。それでも、耐えるつもりでした。だけど、旦那の姿を見て、冷静じゃいられなくなった!」
「私の姿?」
「旦那は、カリスの現状を見ても、眉一つ動かさない。旦那は、カリスのことを何とも思っちゃいないっ。旦那はトーワのことだけを考えて、何もする気がない! そう感じたんです!」
「アグリスに帰り、感情をかき乱され、そこに氷の仮面をかぶり続ける私に焦りを抱き、冷静さを失った、ということか?」
「そうです! まさか、ここまで無視されるとは思いませんでしたから!」
親父の枯れた瞳から涙は流れない。
しかし、言葉からは呪いのような涙が零れ落ちる。
この涙をフィナは唾棄する。
「あんたさ、ケントが悪いってっ――」
「フィナっ。頼むから一々感情的になるな」
「私はあんたのことをねっ」
「フィナ」
「む~、わかった! 黙ってればいいんでしょっ、黙ってれば!」
フィナは不満を露わとして、そっぽを向いてしまった。
だが、仕方があるまい。
いくらテイロー一族の長とはいえ、十六の少女にこのような現状を感情的にならず、冷静に対処しろというのは無理な話。
そう思っていたのだが、感情的なのはフィナだけではなかった。
カインとグーフィスが揃って声を出す。
「フィナ君が怒るのも無理はないですよ。どんな事情があろうと、こんなやり方は間違っています!」
「そうっすよ! 正直、親父さんには幻滅ですよ。エクアさんを傷つけてっ。ケント様が居なかったら、ぶん殴ってるところですよ!」
「二人とも……」
カインもグーフィスも仲間を、友を思っての怒りだろう。
だが、事は急を要する。
感情に付き合っている暇はない。
とはいえ、最も傷ついているであろう、エクアの心情は安んじておかなければなるまい。
無言のエクアのそばにはギウが立ち、彼女を支えているが……。
「エクア、先ほどから静かだが、大丈夫か?」
「はい。親父さんに悪意があって裏切ったわけじゃないと知って、ホッとしましたから」
「エクアの嬢ちゃん……」
まさかの言葉に、親父は枯れたはずの瞳に再び涙を浮かべる。
しかしっ――
「親父さん。泣くのは許しません。謝罪も受けません。私は、親父さんを許したわけじゃありませんから」
「あ、ああ、その、すま……いや、何でもねぇ」
「ふふ」
エクアは笑みを漏らす。
その姿は、先ほどまで謝罪を繰り返し、涙を流し、肩を震わせていた少女とは思えない。
「エクア、どうした?」
「え、あ。すみません。いくら、親父さんが全部悪いとはいえ、浅はかな私のせいでもあるのに……」
チクリと言葉に針を仕込むエクア。
「うぐっ」
そして、木霊するは、親父の小さな悲鳴。
エクアは信じられないくらいの余裕を見せる。
本当にどうしたのだろうか?
もう一度、エクアに声を掛ける。
「エクア、何を考えている?」
「考えているのは私ではありません。ケント様だと思います」
「なに?」
「だから、私はケント様を信じるだけです。そうですよねっ、ギウさん」
「ギウギウ」
二人は互いに笑顔を向け合う……ギウは相変わらず無表情だが。
二人のこの態度。
どうやら、私が解決策を見出していることに気づいているようだ。
「ふふ、驚いたな。ギウはともかく、エクアがこうまで人の心を読むことのできる少女だったとは」
「ケント様の下で学んでますから。今回はケント様の真似事をしようとして、迷惑をかけてしまいましたが」
「私の真似? そうか、それで……悪い見本で済まない」
「違います。私がちゃんと見渡せるだけの力がなかったからです」
「ふふふ、君は想像以上に成長している。フィナ、エクアを見習えよ」
「はい? いや、あんたとギウとエクアは何をわかり合ってんの?」
「すぐにわかる。親父!」
「は、はい、なんでしょうか?」
私は問いかける。
誰もが驚く質問を……。
「もし、アグリスと戦争となるならば、どの程度の戦力が投じられ、指揮官は誰が出てくる?」
そこにギウの声が届く。
「ギウ」
「あ、ふぅ……いかんな」
「何がいけないんですか、ケントさん?」
「いや、カイン。いけないというか……そうだな」
私は頭を振り、話題を変える。
それは親父の不可思議な行動に対する疑問について。
親父に顔を向けて問いかける。
「わからん。どうして、親父はそんな行動をとった?」
この言葉にグーフィスが口を挟む。
「わからんって、親父さんの話、聞いてましたよね? ケント様自身、理解して復唱してたじゃないですか?」
「そのわからんじゃない。なぜ、ここにきて、こんな無茶をした理由がわからんと言っているんだ」
私は机に片肘をつき、手の甲に顎を乗せて、親父をちらりと見た。
「君は冷静で慎重な男のはずだ。自身の過去を秘匿にし、少しずつ少しずつ、私にアグリスの異様さを伝え、嫌悪感を抱かせ、そこからゆっくりと介入をほのめかす手はずじゃなかったのかな?」
「……そのつもりでした」
「では、なぜ、このような馬鹿な真似をした? しかもこれらはカリスのことを考える余地が生まれるだけで、彼らを救うことには繋がらないんだぞ? そうだというのにエクアを巻き込み、私たちの関係の全てを捨てるような真似を何故?」
「それは……それは……それは……」
「なんだ?」
「自分でも、わからないんですよ、旦那……」
「なに?」
親父は両手を震わせて、涙を涸らし充血した瞳で、それをじっと見る。
「今回は、旦那にアグリスを実際に見てもらい、その非道さ知ってもらうだけに留めるつもりでした。ですが、この街に来てからというもの、俺の心がざわついて、おかしいんですよっ。それでも、耐えるつもりでした。だけど、旦那の姿を見て、冷静じゃいられなくなった!」
「私の姿?」
「旦那は、カリスの現状を見ても、眉一つ動かさない。旦那は、カリスのことを何とも思っちゃいないっ。旦那はトーワのことだけを考えて、何もする気がない! そう感じたんです!」
「アグリスに帰り、感情をかき乱され、そこに氷の仮面をかぶり続ける私に焦りを抱き、冷静さを失った、ということか?」
「そうです! まさか、ここまで無視されるとは思いませんでしたから!」
親父の枯れた瞳から涙は流れない。
しかし、言葉からは呪いのような涙が零れ落ちる。
この涙をフィナは唾棄する。
「あんたさ、ケントが悪いってっ――」
「フィナっ。頼むから一々感情的になるな」
「私はあんたのことをねっ」
「フィナ」
「む~、わかった! 黙ってればいいんでしょっ、黙ってれば!」
フィナは不満を露わとして、そっぽを向いてしまった。
だが、仕方があるまい。
いくらテイロー一族の長とはいえ、十六の少女にこのような現状を感情的にならず、冷静に対処しろというのは無理な話。
そう思っていたのだが、感情的なのはフィナだけではなかった。
カインとグーフィスが揃って声を出す。
「フィナ君が怒るのも無理はないですよ。どんな事情があろうと、こんなやり方は間違っています!」
「そうっすよ! 正直、親父さんには幻滅ですよ。エクアさんを傷つけてっ。ケント様が居なかったら、ぶん殴ってるところですよ!」
「二人とも……」
カインもグーフィスも仲間を、友を思っての怒りだろう。
だが、事は急を要する。
感情に付き合っている暇はない。
とはいえ、最も傷ついているであろう、エクアの心情は安んじておかなければなるまい。
無言のエクアのそばにはギウが立ち、彼女を支えているが……。
「エクア、先ほどから静かだが、大丈夫か?」
「はい。親父さんに悪意があって裏切ったわけじゃないと知って、ホッとしましたから」
「エクアの嬢ちゃん……」
まさかの言葉に、親父は枯れたはずの瞳に再び涙を浮かべる。
しかしっ――
「親父さん。泣くのは許しません。謝罪も受けません。私は、親父さんを許したわけじゃありませんから」
「あ、ああ、その、すま……いや、何でもねぇ」
「ふふ」
エクアは笑みを漏らす。
その姿は、先ほどまで謝罪を繰り返し、涙を流し、肩を震わせていた少女とは思えない。
「エクア、どうした?」
「え、あ。すみません。いくら、親父さんが全部悪いとはいえ、浅はかな私のせいでもあるのに……」
チクリと言葉に針を仕込むエクア。
「うぐっ」
そして、木霊するは、親父の小さな悲鳴。
エクアは信じられないくらいの余裕を見せる。
本当にどうしたのだろうか?
もう一度、エクアに声を掛ける。
「エクア、何を考えている?」
「考えているのは私ではありません。ケント様だと思います」
「なに?」
「だから、私はケント様を信じるだけです。そうですよねっ、ギウさん」
「ギウギウ」
二人は互いに笑顔を向け合う……ギウは相変わらず無表情だが。
二人のこの態度。
どうやら、私が解決策を見出していることに気づいているようだ。
「ふふ、驚いたな。ギウはともかく、エクアがこうまで人の心を読むことのできる少女だったとは」
「ケント様の下で学んでますから。今回はケント様の真似事をしようとして、迷惑をかけてしまいましたが」
「私の真似? そうか、それで……悪い見本で済まない」
「違います。私がちゃんと見渡せるだけの力がなかったからです」
「ふふふ、君は想像以上に成長している。フィナ、エクアを見習えよ」
「はい? いや、あんたとギウとエクアは何をわかり合ってんの?」
「すぐにわかる。親父!」
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