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第二十一章 世界旅行

相談相手

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 ワイン棚が消え、現れたのは青色の大理石のような円盤に挟まれた転送装置。


「こ、これは、父さん!?」
「クライエン大陸にあった遺跡から発掘されたものだ」
「ですが、その転送装置は地球人を召喚した際に壊れてしまったのでは?」
「その時はな。その後、私が王都の宝物庫からこっそり回収して直した」
「な、直した? 王家はこのことを?」
「知らぬ。教えてやる義理もない」

「しかし、それでは」
「ケント、我々理論派の錬金術士はヴァンナスに仕えているわけではない。ただの協力者だ。マルレミ王家と組むことにメリットがあるから協力しているだけに過ぎん」
「つまり、この転送装置のことはネオ陛下もジクマ閣下も?」

「もちろん、知らん。ヴァンナスはを管理しているとされているが、真の意味で管理しているのは我々理論派というわけだ」
「そうだったんですか……」
「もっとも、こちらも一枚岩ではないがな」
「え?」
「おそらくだが、私の死後に好き勝手に動いている者もいるだろう。死後、お前から財を奪ったやからなどな」

 
 父の死後、アーガメイトの一族は私を後継と認めることなく、私には最低限の財を渡し、残る父の財の全てを奪っていった。
 その中にマルレミ王家に寄り添う者がいるようだ。
 父は大きくため息を吐く。


「はぁ、財を分けるなど戯けがやること。自ら力を分散して王家に付け入る隙を与えるとは」
「申し訳ありません。私が不甲斐ないばかりに」
「いや、この罪はお前にはない。オーキス」

「はい。話の流れから見て、先の世で私はミスを犯し、財を守れなかったようですね。旦那様、申し訳ございません」
「まったくだ……しかし、アーガメイト一族が相手となるとお前でも荷が重いか。ま、それもまた定められた運命。仕方なかろう」


 このように父が言葉を渡すと、オーキスは深々と頭を下げて、白の手袋をさっと横へ振った。
 すると、空中に無数のモニターが浮かぶ。
 そのモニターはオーキスだけではなく、父の周りを囲み浮かんでいる。

 オーキスは冷静沈着に状況を把握し、さらには古代人の技術を操る。
 そんな彼に対して、私は言葉もない。
「オーキス、君は何者なんだ?」
「私は執事であります。旦那様に仕え、補助することが役目」
「いや、だからって……」


 私の疑問に、父の声が届く。
「どうやら、私の死後もお前はオーキスのことを詳しく知らぬと見えるな」
「どういうことです、父さん?」

「こいつは私の助手をやれるほどの学才があり、剣の腕前、ことサーベルの扱いにおいては私を遥かに上回る。レイたち勇者と相対しても遜色はなかろう」
「……えっ?」

 私は声を跳ねて、オーキスを見つめる。
 彼は物腰柔らかに会釈を返してくる。

 半ば惚けている私へ、父が語気を強くする。
「ケント、意識を自分に戻せ。お前の目的は自分の世界へ戻ることだろう」
「そうですが、あまりの事実に動揺が……」

「驚きは時間を止める。恐怖を感じるなとは言わん。胸打つことに味わいを抱くなとは言わん。だが、意識は常にやるべきことの中核に置け」
「は、はい」
「それでは、お前を送り出すための座標だが」
「あ、それならここに」


 私は六十年後のフィナから貰った紙を父に渡す。
 渡された父は用紙を目にすると、目を細めて感心の混じる声を上げた。

「ほぅ~、やりおるわ。転送の機構を完璧に把握し、一定の知力を示す者に対してわかりやすい指示を書いている。一部には私のを超える部分もあるな。ふむ、フィナ=ス=テイロー。これはファロムめの思惑が上手くいったのか、外したのか」
「それはどういう意味でしょうか?」

「お前の話では、フィナという孫にファロムは席を追われたとなっていたが、実際のところは違うということだ」
「え?」
「おそらく、追われる形を装い、席を押しつけたのだろう」
「押しつけた?」

「座るというのは、歩くことを抑制されるからな」
「自由を得るために、わざとフィナに?」
「そうなるな。同時に孫を谷に突き落としたようだ」
「はい?」

「オーキス、座標を送る。固定し、指示を待て」
「畏まりました、旦那様。ですが、あちらからもケント様をロックしようとする動きが見えます」
「ふむ、ファロムの孫か」

 この言葉に私は飛びつく。
「フィナが私を探しているのですかっ?」
「そのようだ。だが……はぁ、まったくつたない。六十年後はともかく、お前の知る孫は大したものではないと見える」
「そ、そんなことはありませんっ。彼女には才があり、よくやっている! あっ」


 仲間を悪く評され、思わず言葉強く飛ばしてしまう。
 すぐに口を押さえたが、オーキスは少し驚いた顔をして、父は……。
「ふ、ふふ、ふふふ、私に食って掛かるとはな。よほど大切な仲間らしい」
「それは、もちろん……」
「そうか。なればこそっ」

 父はまっすぐと私の銀眼を見つめて、こう言葉を渡す。
「お前の正体を話すべきだ!」
「それは、わかっています……」
「迷いはなかなか拭えぬか。良いだろう。一つ相談相手を紹介しておこう」
「相談相手、ですか?」

「お前はスース……流動生命体と出会っているな」
「イラのことですか? 父さんは彼女のことをご存じで?」
「以前少しな。その彼女に相談を持ち掛けろ。彼女ならば、あの方の居場所を知っているはずだ」
「あの方?」
「あの方ならば、いや、あの方だからこそ、お前を確固たる存在として確立させ、さらに肯定してくれる。出会い、言葉を受けるがよい」
「……はい、わかりました」


 父は陛下を相手にしても、あの方などという敬意を払うような言葉遣いをしない。
 そんな父が敬意を払う相手。私のような人もどきを肯定できる人物。
 あの方とは、何者だろうか?


 父はモニターに瞳を落とし、眉を顰める。
「ふむ、ファロムの孫の索敵が邪魔だな。だが、丁度良い。こちらの転送装置では出力が安定しない。あちら側の索敵を消し去りシステムを乗っ取るとしよう」
「の、乗っ取る?」



――現在・古代人の遺跡


 フィナは転送装置のシステムと繋がる画面と睨めっこをし、ケントの存在をロックして転送しようと躍起だった。

「ええっと、もう、次元間の干渉がひどすぎて安定しない! これじゃいつまでたってもケントに標準を合わせられないじゃん! えっ!?」

 突如、空中に浮かんでいた画面にノイズが走り、ケントの存在が消失した。

「ちょ、え? なにが?」
「どうしたんですか、フィナさん?」
「フィナの嬢ちゃん、なんかまずいことでも?」

「それが、どっかから変な干渉を受けて、システムから追い出された……」
「それはどういうことですか、フィナさん?」
「わかんない。全然、さっぱり。どうしよう、ケントを見失っちゃった」
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