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第二十一章 世界旅行
ただいま
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――七年前・アーガメイトの屋敷・地下ワイン倉庫
「索敵を消し、システムの乗っ取り完了。よし、これで余計な邪魔は無くなった。ファロムの孫め、ケントをロックすることだけに意識が向いて、多元領域の干渉波を緩和できていないとは。まだまだ未熟だな……ふむ、これで良いだろう」
父は作業の一段落を終え、無数にあったモニターを一つだけ残して他は消した。
そして、私を台座に乗るように促し、私は台座の上に乗った。
「父さん、ありがとう」
「息子が困っていれば、親として助けて当然だ」
「……はいっ」
「去る前に、二つ尋ねておこう」
「なんでしょうか?」
父は私の腰元にあるホルスターへ視線を向ける。
「その銃は古代人の銃だな」
「はい、そうですが……」
「フフ、なるほど。偶然と必然の揺らぎを利用し、お前の手に渡ったか。認識阻害も機能している様子。これならば、ヤツにも気づかれまい」
「えっと、今のは?」
「気にするな。では、もう一つの問いを尋ねる」
「は、はい」
父はホルスターから瞳を上げて、まっすぐと私の銀眼を覗き込む。
そして――。
「お前は銀眼がどうして銀色なのか知っているのか?」
「えっと、それは、銀眼の力のことですよね? 銀眼にはナノマシンが宿っているから銀色なのでは?」
「フッ、瞳の色にナノマシンなど関係ない。その気になればお前の目の色は赤にも青にも黄色にも変えられた」
「そうだったんですか? とすると、なぜ、このような稀有な瞳の色に?」
「それは自分で気づけ。約定で話せぬからな」
「約束?」
「では、転送を開始する。オーキス」
「いつでも構いません、旦那様」
父は私の疑問の声に答えることなく、転送へのプロセスを重ねる。
「エネルギー充填。転送コイル稼働。座標固定。空間隔離」
父はまるで絵を描くように指先を振るってシステムを操り、その指先を途中で止める。
「現時点では、ここはお前の知る過去だが、未来を知った私が不要な行動をとればこの世界は分岐し離れていく」
「ええ、そうみたいですね。でも、そうあるべきかと」
「どうしてだ?」
「たとえ世界は離れ会えなくても、父さんには死んで欲しくありませんから」
「フフ、生きて会えるのはもう無理だろう。私という心の崩壊は止められぬ。お前の知る情景は訪れる。それは変えられん」
「それでも、諦めずに変えてほしい」
「そのようなことはできんな」
「何故ですっ!?」
「お前から、友と出会う機会を奪うわけにはいかぬ」
「あ……」
「素晴らしい仲間たちなんだろう」
「はいっ」
「ならば、私の知る十五のケントにも引き合わせてやりたい」
常に氷の仮面を被る父は、僅かに顔を綻ばした。
私はそれをぼやける視界で受け取る。
「父さん……」
「大人になり、冷静さを身に付けたかと思っていたが、相変わらずお前は感情に振り回されるところがあるようだ」
「そんなことはありませんっ。これは息子として、父に見せる当然の姿です!」
「……そうか、そうであるか。そうだな、それこそがお前であり、長所でもある。ふふ、私もまだまだ学ぶことが多い。ケント、短い時であったが、あちらでも達者でな」
「はい、父さんもっ」
私は父に向かい、二度三度頷き、オーキスに顔を向けて、こくりと一度だけ首を振った。
オーキスも小さく会釈を返し、父はモニターを操作する。
父の指先に合わせ、青白い光のカーテンが下りる。
ぼやけていた視界はより一層ぼやけ、父とオーキスの姿は掻き消えた……。
――ワイン倉庫
ケントが消えた場所を見つめながら、アーガメイトはポツリと言葉を漏らす。
「お前は孤独だと思っているようだが、お前を確固たる存在と認めてくれるのはあの方だけでない。もっと身近に……それに気づくかどうか……いや、気づかぬだろうな」
アーガメイトはオーキスに顔を向ける。
「ケントの話では、ビュール大陸の遺跡の結界に私が悪さをしていたそうだ。だが、そのようなことをした覚えはない」<十三章 結界解除>
「それは、これから行うということでしょう」
「だろうな。さらに、その遺跡には誰も足を踏み入れた形跡がなかったと。これは骨が折れる」
「何か、お考えが?」
「うむ、ケントの知るファロムの孫では転送装置の扱い方もままならぬと見える。放っておいては大事故を起こしかねん。少々手助けをしておこう。私は早速ビュール大陸へ向かう」
「二度目、となりますね」
「そうだな。一度目はケントを産み出すきっかけを持ち帰り、二度目はケントを助けるためとなる。オーキス、しばらく屋敷を留守にする。ケントにそう伝えておけ」
「畏まりました、旦那様」
――現在・遺跡
暗転した世界に明かりが灯る。
瞼の隙間から見えたのは、幻想の父の書斎とエクア・フィナ・親父の姿。
彼らは一様にぽかんとしていたが、ここを離れた時と変わらず壮健そうで安心した。
「うん、無事に戻ってこれたようだ」
私は涙が残る瞳を拭い転送台から降りて、皆に話しかける。
「ただいま、心配かけたようだな」
この声に、エクアと親父は言葉を返さず口をパクパクと動かすだけ。しかしフィナは、大声を張り上げて返してきた。
「はぁぁぁ!? なになになになに!? どうやって戻ってきたの!? 勝手に転送装置が起動したと思ったら、ケントが帰って来るし!?」
「気持ちはわかるがいきなり大声を上げるな。心臓が止まったらどうする。これは君に言われたことだぞ」
「はい?」
「ふふ、そうだな。多少、言葉を選びつつ、三人に何が起こったのか伝えよう」
「索敵を消し、システムの乗っ取り完了。よし、これで余計な邪魔は無くなった。ファロムの孫め、ケントをロックすることだけに意識が向いて、多元領域の干渉波を緩和できていないとは。まだまだ未熟だな……ふむ、これで良いだろう」
父は作業の一段落を終え、無数にあったモニターを一つだけ残して他は消した。
そして、私を台座に乗るように促し、私は台座の上に乗った。
「父さん、ありがとう」
「息子が困っていれば、親として助けて当然だ」
「……はいっ」
「去る前に、二つ尋ねておこう」
「なんでしょうか?」
父は私の腰元にあるホルスターへ視線を向ける。
「その銃は古代人の銃だな」
「はい、そうですが……」
「フフ、なるほど。偶然と必然の揺らぎを利用し、お前の手に渡ったか。認識阻害も機能している様子。これならば、ヤツにも気づかれまい」
「えっと、今のは?」
「気にするな。では、もう一つの問いを尋ねる」
「は、はい」
父はホルスターから瞳を上げて、まっすぐと私の銀眼を覗き込む。
そして――。
「お前は銀眼がどうして銀色なのか知っているのか?」
「えっと、それは、銀眼の力のことですよね? 銀眼にはナノマシンが宿っているから銀色なのでは?」
「フッ、瞳の色にナノマシンなど関係ない。その気になればお前の目の色は赤にも青にも黄色にも変えられた」
「そうだったんですか? とすると、なぜ、このような稀有な瞳の色に?」
「それは自分で気づけ。約定で話せぬからな」
「約束?」
「では、転送を開始する。オーキス」
「いつでも構いません、旦那様」
父は私の疑問の声に答えることなく、転送へのプロセスを重ねる。
「エネルギー充填。転送コイル稼働。座標固定。空間隔離」
父はまるで絵を描くように指先を振るってシステムを操り、その指先を途中で止める。
「現時点では、ここはお前の知る過去だが、未来を知った私が不要な行動をとればこの世界は分岐し離れていく」
「ええ、そうみたいですね。でも、そうあるべきかと」
「どうしてだ?」
「たとえ世界は離れ会えなくても、父さんには死んで欲しくありませんから」
「フフ、生きて会えるのはもう無理だろう。私という心の崩壊は止められぬ。お前の知る情景は訪れる。それは変えられん」
「それでも、諦めずに変えてほしい」
「そのようなことはできんな」
「何故ですっ!?」
「お前から、友と出会う機会を奪うわけにはいかぬ」
「あ……」
「素晴らしい仲間たちなんだろう」
「はいっ」
「ならば、私の知る十五のケントにも引き合わせてやりたい」
常に氷の仮面を被る父は、僅かに顔を綻ばした。
私はそれをぼやける視界で受け取る。
「父さん……」
「大人になり、冷静さを身に付けたかと思っていたが、相変わらずお前は感情に振り回されるところがあるようだ」
「そんなことはありませんっ。これは息子として、父に見せる当然の姿です!」
「……そうか、そうであるか。そうだな、それこそがお前であり、長所でもある。ふふ、私もまだまだ学ぶことが多い。ケント、短い時であったが、あちらでも達者でな」
「はい、父さんもっ」
私は父に向かい、二度三度頷き、オーキスに顔を向けて、こくりと一度だけ首を振った。
オーキスも小さく会釈を返し、父はモニターを操作する。
父の指先に合わせ、青白い光のカーテンが下りる。
ぼやけていた視界はより一層ぼやけ、父とオーキスの姿は掻き消えた……。
――ワイン倉庫
ケントが消えた場所を見つめながら、アーガメイトはポツリと言葉を漏らす。
「お前は孤独だと思っているようだが、お前を確固たる存在と認めてくれるのはあの方だけでない。もっと身近に……それに気づくかどうか……いや、気づかぬだろうな」
アーガメイトはオーキスに顔を向ける。
「ケントの話では、ビュール大陸の遺跡の結界に私が悪さをしていたそうだ。だが、そのようなことをした覚えはない」<十三章 結界解除>
「それは、これから行うということでしょう」
「だろうな。さらに、その遺跡には誰も足を踏み入れた形跡がなかったと。これは骨が折れる」
「何か、お考えが?」
「うむ、ケントの知るファロムの孫では転送装置の扱い方もままならぬと見える。放っておいては大事故を起こしかねん。少々手助けをしておこう。私は早速ビュール大陸へ向かう」
「二度目、となりますね」
「そうだな。一度目はケントを産み出すきっかけを持ち帰り、二度目はケントを助けるためとなる。オーキス、しばらく屋敷を留守にする。ケントにそう伝えておけ」
「畏まりました、旦那様」
――現在・遺跡
暗転した世界に明かりが灯る。
瞼の隙間から見えたのは、幻想の父の書斎とエクア・フィナ・親父の姿。
彼らは一様にぽかんとしていたが、ここを離れた時と変わらず壮健そうで安心した。
「うん、無事に戻ってこれたようだ」
私は涙が残る瞳を拭い転送台から降りて、皆に話しかける。
「ただいま、心配かけたようだな」
この声に、エクアと親父は言葉を返さず口をパクパクと動かすだけ。しかしフィナは、大声を張り上げて返してきた。
「はぁぁぁ!? なになになになに!? どうやって戻ってきたの!? 勝手に転送装置が起動したと思ったら、ケントが帰って来るし!?」
「気持ちはわかるがいきなり大声を上げるな。心臓が止まったらどうする。これは君に言われたことだぞ」
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