銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯

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第二十二章  銀眼は彼に応え扉を開く

報恩の騎士の意地

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――カルポンティの森・元盗賊の砦前


 私たちはエクアの手を粗暴に握り締めているサレート=ケイキと対峙した。
 彼は私たちの登場に驚きの声で出迎える。


「どうやってトーワからここまで? 馬を乗り潰して走っても二日はかかるはず?」
「フッ、転送の力を使えるのはお前だけではないということだ。何をしたか知らないが、エクアが嫌がっている。手を放してもらおうか」
「……嫌だ、と答えたら?」
「少々、いや、かなり痛い目に遭ってもらう」

 フィナとギウと二刀を手にした戦士の姿の親父が武器を持ち、前へ躍り出る。
 三人を目にしたサレートは眉を跳ねつつ声を出す。


「ふ~ん、なるほど。これは厳しいね。しょうがない、ここはエクアさんに人質になってもらおうかな。ごめんね、エクアさん。こんな真似はしたくないんだけど」
「うぐっ」

 サレートは右腕を使いエクアを抱き寄せて、左手でジュストコールを振るい一本の筆を取り出す。
「さて、僕の描く芸術をとくと味わってくれ」
 彼が筆を振るうと、筆先はキラキラとした光跡を見せて模様を描く。
 その模様は鋭き牙と爪を持つ、獰猛な肉食獣がごちゃ混ぜになった異形いぎょうを産み出した。


 これには私たちも思わず目を剥くが、フィナがこの現象を紐解く。

「それは魔法の絵筆。魔導の力で思いを形作る筆。あんた、何者よっ?」
「ふふふ、びっくりしたようだね。実践派でも上位クラスしか作れない錬金の道具。一時的に疑似生命体を産み出す魔法の筆。僕にぴったりな道具だと思わないかい?」

「これはちょっと厄介ね。効力の時間は短いけど魔力を帯びた絵の具が続く限り、いろんなものを創り出せる。攻撃力は術士の腕に寄るけど……たぶん、半端ない」
 フィナはちらりと私に視線を送る。


「そうか、思ったより手強そうだ」
 こちらはトーワのベストメンバーとはいえ、エクアが人質に取られている。
 さらに、異形を召喚できる筆。
 どう攻略するか? 
 それに頭を悩ませていると、私のめいを待たず親父がサレートへ飛び掛かった。


「親父!? 無茶だ、やめろ!」

 親父の動きは私の言葉のを置き去りにする。
 それは影すら残さぬ速さだというのに、サレートは筆を振るい余裕をもって迎えた。
 彼の仕草に異形は応え、親父に食らいつかんとする。
 それに親父は怒声をぶつけた。

「邪魔だ! どけぇぇぇ!!」
 親父が二刀を振るう。だが、異形はそれをさらりと躱して鋭き爪で親父を引っ掻いた。
「くっ、がっ!」
 辛うじて直撃を免れたが、僅かに触れた爪先が彼の左半身を引き裂き、その勢いで地面に叩きつけられた。
 無様な親父の姿ににちゃりと笑みを見せるサレート。
 だがっ、その顔はすぐに焦りの色へと変わる。


「ふふ、なっ!?」

 彼の瞳に二本のナイフが映る――飛ばしたのは親父。彼は異形に左半身を引き裂かれようとも、肘当ひじあてに隠していたナイフをサレートに放っていた!

 サレートはすぐさま筆でナイフを叩き落とす。
 そこには隙間の時間が生まれる――隙間は親父に大地を蹴り上げる時間を産み出した!

「うりゃぁああぁあぁ!」
「なんだって!?」

 二刀を手に、サレートへと突貫していく血塗れの親父。
 サレートはたまらずエクアを抱き寄せていた腕を緩め、身体を後ろへ引いた。
 親父は二刀を彼へ振り下ろすことなく、途中で手放し、エクアを抱きしめる。
 そして、大きく後方へ飛んだ!


 彼はエクアを庇うように私たちの近くまで転がってくる。

「はぁはぁ、エクアの嬢ちゃん。怪我は?」
「ありません! 親父さんこそ、大変な怪我を!」

 親父は異形に左半身を引き裂かれ、左目と左腕からおびただしい量の血を流している。
 すぐにカインが近づき左目を確かめ、エクアは治癒魔法を左腕に掛ける。

「目は……よし、眼球は大丈夫。失明の危険はない。出血は派手だけど傷は浅い。でも、範囲が広いからすぐに止血しないと」
「親父さん! どうしてこんな無茶を!?」
「へへ、これでちったぁ、エクアの嬢ちゃんに借りは返せたかな?」」
「借り?」
「嬢ちゃんにはカリスの仲間たちを説得してもらった恩があるからな」
「そんなっ。だからってこんな無茶を!」
「あはは、すまねぇ。こりゃ、恩を返したつもりだったが、余計な面倒を増やしただけかな。へへへへ」
「親父さん……」


 エクアは一度親父の顔を見つめ、小さくありがとうと言葉を渡し治療に専念する。
 私はそんな親父へ眉を折る。

「親父、無茶をし過ぎだ!」
「へへ、すいません」
「だが、よくやった。エクアという人質がなければ、彼など問題ではない。ギウ、フィナ」
「ギウッ」
「わかってる。ボコボコにしたあとに、色々話を聞かせてもらおうじゃないの」


 二人は左右に広がり、サレートを挟み込んでいく。
 しかし彼は、この不利な状況下でも何故か腐れ切った笑みを消さない。


「フフフフ、アグリスの宗教騎士団を退けた凄腕のギウに、凄腕の錬金術士。絶体絶命だねぇ」
「ギウウ」
「はん、その余裕、いつまで持つか楽しみ」

「それは僕の言葉だよ。ねぇ、エクアさん……」
「え? あ、まさかっ、あの人たちを!? 皆さん、気をつけてください。砦にはっ!」


――ぎぎゃぁぁぁぁぁぁ
――ああ、ふうううう、、、、、えけえええ
――かかか、のののん、きくてて

 エクアの声を掻き消すように砦から不快なき声を纏った十を超える化け物たちが飛び出してきた。

「な、なんだこいつらは?」
「ケント様! この人たちは盗賊です!」
「なに?」
「サレート先生、いえっ、サレートが芸術と称する人体実験を行って生み出した人たちなんです!」
「人体実験だとっ!?」


 目の前には、腐れ黒ずんだ血の上に腐臭を放つ肉を纏う存在。腐肉からは血と共に白濁とした黄色の液体が零れ落ちている。
 姿は様々で、頭がいくつもある者。手足が何本もついている者。胴が裂けてそこからいくつもの目玉が覗いている者。何十もの口だけを顔としている者と化け物ばかりだ。


 仲間たちはあまりの惨状に驚きを通り越して、どう反応を示していいのか忘れている。
 それは私も同じだった。

「な、なぜ、このような真似を?」
「なぜ、なぜだって? まさか、アーガメイトの子息であるケント様からそのようなことを言われるとは夢にも思わなかったよ!」

「何を言っている?」

「あははは、とぼけないでほしい。僕が創り上げた芸術はアステ=ゼ=アーガメイトと同じこと! 魔族と対抗するために勇者を産み出した芸術と同じことじゃないか!!」
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