銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯

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第二十八章 救いの風~スカルペルはスカルペルに~

勇気を胸に

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――トーワ城外

 
 翼の生えた三匹の魔族はあっという間にトーワへ到達し、ゴリン・グーフィスの前に降り立っていた。
 背中に青色の翼を背負う魔族は、緑の鋭い牙を持った爬虫類の顔を見せて、灰色の瞳で二人を見つめている。

「こ、これが魔族か。アルリナに住んでると見かけることなんてありゃしねぇが、なんて恐ろしい姿なんだ」
「ゴ、ゴリンの親方は城へ。こいつらは俺が」
「馬鹿を言え。おめぇだけで!」
「大丈夫っすよ。絶対にこの城を守って見せますから。っ!?」

――がぁああ!
 
 魔族の一匹がグーフィスの顔を殴りつけた。
 彼は少しよろめくが、片鼻を押さえて、鼻血を地面に飛ばす。
「フンッ! フィナさんの拳の方が全然強いぜっ! さぁ、かかって来やがれ!」

 グーフィスは無謀にも魔族へ飛び掛かった。
 同時に他の二匹がグーフィスへ襲い掛かる。
 彼は正面の魔族を殴りつけ、僅かにたじろがせるが、残りの二匹が鋭い牙で彼を食い破ろうとする。
 それに彼は対応できない――

(クッ! フィナさん……)

「うわぁぁあぁぁぁぁあ!」
 突然の狂声がトーワを木霊する。
 すると、グーフィスへ襲い掛かろうとしていた一匹の魔族の体がびくりと跳ね上がり、動きを止めた。
 彼は魔族の後ろにいる影を見る。


「はぁはぁはぁはぁ、やった、やった、やってやった。やってやったぞぉぉぉぉおぉ!」

 影の正体は農具を手にした中年の男性。
 果敢にも、彼が魔族の背後から農具で背中を突き刺したのだ。
 だが、もう一匹の魔族が標的を中年の男性に変えて、牙から涎を零した。
「ひっ!」

「みんな、石をぶつけろ!」

 彼に牙を剥こうとした魔族へ、石礫が打ちつけられる。
 声の主は――


「代表……」
「だ、大丈夫か?」

 中年の男の瞳に映ったのは代表と多くのカリスの男たち。
 カリスたちは恐怖を前に、勇気を振り絞り立ち上がったのだ。

「来てくれたのか?」
「話しはあとだ。ゴリンさんたち、こちらへ! お前もこっち、うしろ!!」
「え? がはっ!」

 農具が突き刺さっていたはずの魔族は中年の男を突き飛ばし、何事もなかったかのように農具を体から抜いて地面へ落とす。
 穿たれた穴は瞬く間に修復され、傷跡すらない。

 グーフィスに殴られた魔族も、石をぶつけられた魔族も、何ら変わりなく立っている。
 カリスたちは魔族の恐ろしさに絶望した――だからといって、絶望に屈したりしない! 
 皆は雄叫びを上げて、絶望に立ち向かう。

 魔族の一匹がグーフィスへ牙を剥いた。
 彼は拳を固め、迎え撃とうとするが、彼の拳では到底かなわない。
 それでも彼は拳を握り締めて、それを魔族へぶつけようとした。

 その時だ――!!


 激しいいかずちが三匹の魔族を貫いた!
 同時に黒い影が三匹の魔族の間を流れるように横切り、魔族たちの首が地面に落ちる。
 グーフィスは言葉を纏わず、魔族の血に濡れた剣を振るい、血を風に流す影へ瞳を向ける。
 影は気怠そうな声を上げる。


「あ~あ、なんで俺たちがこんな真似を?」
「まぁまぁ、兄貴。協力したら奴隷から解放してくれるって話なんだから」

 二人の男の声が響く。
 一人はムキ=シアンの傭兵としてケントと相対した小柄な戦士。
 もう一人も同じく、無骨そうな戦士。
 彼らの後ろには五百の傭兵たち。

 大柄で無骨そうな戦士は両手に雷の魔法を纏い、グーフィスたちに声を掛ける。

「ここからは俺っちたちが魔族を相手にするから、みんなは城を盾に女性や子どもたちを守ってくれる?」
「え、ああ。それで、あんたらは一体?」
「あははは、ノイファン様に協力を求められた元傭兵。ね、兄貴」

 彼らはノイファンが求めた危険な戦力。
 ノイファンはアルリナの兵士だけでは対応できないと考え、彼らに協力を打診していた。

 
 無骨そうな戦士から軽い言葉をかけられた小柄な戦士は唾を飛ばす。
「なにが、ね、だ。ったく、攻め入った場所を守るために戻ってくるなんざなぁ」

 小柄な戦士はすっかり整備され、瓦礫の無くなったトーワの防壁を見つめて口角の端をきゅいっと上げる。
「すっかり変わってやがる。さぞかし、大切な城なんだろうなぁ。へへ、ここでケントに恩を売るのも面白れぇ! いいか、お前ら! トリビューターの戦士の名に懸けて、女子供を守れ! 魔族なんかに手を出させるなっ!」

「「「応っ!」」」

 地を震わせる屈強な男たちの返事。
 逞しき男たちの声――カリスの代表が小柄な戦士の背後から声を掛ける。
「あの、助かります。ありがとう」
 戦士は首だけを少し後ろに回し、答える。

「いいってことよ。俺たちの仲間がカリスに悪いことしてたからな」
「え?」
「なんでもねえ」
 彼は投げやりな言葉を出して、傭兵たちに指示を与えていく。


「また魔族共がこっちへやってきてやがる! この防壁を利用して壁の袋小路に追い込み、一気に攻め落とす! さっきのは不意打ちでどうにかなったが、馬鹿やって一人で挑もうとすんなよっ。瞬殺されちまうからな!」

 指示を終えて、彼は頭をぼりぼり掻きながら、こちらへ向かってきている魔族の一団を睨みつけた。

「協力したら奴隷から解放なんて餌に喰いつたら、敵は魔族かよ。正直手に余るぜっ」
「凄まじい数だね。一体何が?」

「さぁな。あれだとどこへ逃げようと魔族の餌になっちまう。はんっ、奴隷のまま喰われるよりかは幾分かマシか。何とか生き残ったら、ケントの野郎からたっぷり礼金を絞り取ろうぜ」

「ははは、そうだね」
「さて、城の防衛は俺たちがやるとして、我らがあるじノイファン様のお手並みでも拝見しようかね」


 小柄な戦士はアルリナへと続く、マッキンドーの森を見つめる。



――トーワ前のマッキンドーの森


 ここにはノイファン率いるアルリナの兵士千五百が揃っていた。
 彼は馬上で、先端に白い獣毛じゅうもうの束が付いた指揮棒を振るい、陣を作り、動かす。

「魔族、百! 魔導部隊は前へ! 弓兵は矢をつがえ! 二陣攻撃後は後方に下がり、剣士が前に出ろ!」

 彼は指揮棒を振るい、巧みに軍を動かす。
 それは一糸乱れぬもので、彼らの練度の高さをうかがわせるものであった。
 その動きを見た小柄な戦士は声に驚きと感心を交える。


「いつの間に魔導兵なんかを? おまけになんて練度だ。ノイファンの野郎っ、ケントと違って正面からムキ様とやり合うつもりだったのか?」
「凄いねぇ。商人のノイファン様があそこまでやれるなんて。もし、ケント様が現れなかったら、俺っちたちはあんなのを相手に……」
「どのみち詰んでたってことか。チッ、イラつくぜ!」

 
 彼らの驚きと腹立たしさとは裏腹に、ノイファンは馬上でため息を漏らす。
「はぁ、ムキとの対決で、罠に嵌めることのできなかった最悪の場合を考えて兵法を学び、兵士の練度を上げていましたが、まさかこのようなところで役に立とうとは……ふふ、まぁ、兵法もまた商売とは違った魅力がありますがっ。第三陣! 魔族の頭で部隊を分け、挟撃せよ!」
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