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第二章 世界を書き換える力
第29話 仁と責と憎しみと
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ギドラと名乗った男――その者は、あの五龍将ガターの参謀。
背恰好はガターによく似ており、山のように盛り上がる筋肉の鎧の上に、漆黒の武道着を纏う。
髪は短髪の茶黒で、瞳は暗緑色。
その瞳に、抜き身の刃のような殺気を滲ませていた。
彼は太き血管が浮き出る両腕に漆黒の小手をはめて、こちらに拳を向けている。
そして、背後を振り返ることなく、子どもたちへ低く告げた。
「離れていろ。危険だからな」
「あ、うん」
「わ、わかった」
「ありがとね」
子どもたちはシスターのもとへ駆けていく。
短いやり取りだが、彼とガターの違いに私は驚きを禁じ得ない。
(ガターの参謀、と言ったか……魔族至上主義の塊のような男の下に、人間の子どもを迷わず助けるような男がいたとはな)
私は一歩前に出て、彼へ問いかける。
「仇と言ったが、それは帝国の意向によるものか?」
「帝国は関係ない。俺個人の思いだ!」
「ほう、参謀とはいえ、なぜ仇討ちに固執する?」
「それは――」
彼はギリギリと奥歯を噛み締め、次の瞬間、魂を震わせるような咆哮を上げた。
「ガター様は俺にとって親であり、兄も同然の御方!! その命を奪われて黙っていられるほど、俺はできた男ではない!!」
「その様子では、帝国の意向どころか、勝手を行ったと見える」
「だから何だというのだ!? 貴様には関係ない話であろう」
「そうだな……」
私は手にしていた剣を片手で握りしめ、静かに構えた。
「ギドラと言ったな。父や兄の仇となれば、君には正当な復讐の義がある。このアルト、王ではなく、ただの仇として全力をもって相手仕ろう」
刃先に魔力を伝え、さらに数歩前に出ようとした。
だが、次の瞬間――――鋭い声が割って入った。
「待ちなさい、アルト!!」
見れば、アマネが剣を握りしめ、全身からどす黒い殺気を放っていた。
「ガターの参謀ですって――良かった、あんたみたいな人がいてくれて」
彼女は剣先を真っ直ぐにギドラへ向けた。
「仲間たちの仇、無念――ギドラ、あんたで果たさせてもらう!!」
彼女の声に一瞬、片眉を上げたギドラ。だが、すぐに得心がいったようだ。
「無念? ん、貴様は……アマネとか言ったな。勇者セッスイの娘の。なぜ、アルトと行動を共にしている?」
「どうでもいいでしょ! そんなことよりも卑怯なガターの策のせいで、私は仲間と民間人の命を奪われた! これを許せるはずがない!!」
この指弾に、ギドラは少しだけ顔を歪めるが、それも束の間。逆にアマネを冷徹に見据え、言葉の刃を突き返した。
「……確かに、あの件は多少やりすぎな部分があったことは否めない。だが――そのような事態を引き起こしたのは――貴様自身であろうが、アマネ!!」
「な、な、なんですってぇぇ!!」
「己の力量も弁えず、命令を無視し、民間人を巻き込み、仲間の命を失った。己の浅はかさすらもガター様の責に転嫁するとは、何事だ!!」
「黙りなさい! ふざけないでよ! だからって民間人を人質にしていい理由にはならないじゃない!!」
「そこは認めよう。しかし、貴様はそれを引き起こした己の『責』までも、ガター様へ押しつけようしているではないのか?」
「黙れ、黙れ――黙れ!!」
「戦場に立つ覚悟は、個人の覚悟だけでは収まらぬ。それを理解せずに事を起こした貴様に、ガター様を責める謂れなど――一言半句たりともないわ!!」
「黙れって言ってるでしょう!!」
逆上したアマネがミスリルソードに炎を纏わせ、ギドラへ斬りかかった。ギドラは両腕を交差させ、漆黒の小手でその一撃を受け止める。
「このぉぉ~っ」
「ふん、小娘が!」
激しく火花を散らす二人を見ながら、私は顎に手をやった。
「この場合、優先権はアマネにあるのか?」
独り言のような問いに、イロハが答えてくる。
「そうですねぇ。ここはアマネさんにお譲りして、あちらのギドラさんが勝つようであれば、次はアルト様の番。という感じでしょうかねぇ」
「なるほど。双方とも、それでよいか?」
アマネとギドラは一度後方へ飛び退いて、それぞれ叫んだ。
「上等! それで構わない! もっとも、次はないけどね!!」
「下らん真似を! いいだろう、すぐに終わらせて――アルト、貴様の首を貰い受けるとしよう!」
血気盛んな二人から返事をもらったので、私は孤児院の皆と、イロハとメールに指示を与えた。
「シスターと子どもたちは孤児院の中へ。メールは戦いの影響が孤児院へ及ばないよう、魔導壁で防御。イロハは落石の残りがないか監視しつつ、メールと同様に二人の戦いを注視しろ」
「了解です、アルト様」
「…………す」
メールが避難を誘導し、イロハが私の傍らに残る。場が整い、アマネとギドラの闘気が最高潮に達していく。
対峙する二人――いや、ギドラの構えを見て、私は驚きと好奇が交わり合う瞳を見せた。
「……これは驚いた。あのギドラ、ガターよりも腕が立つぞ。これではアマネに勝ち目はあるまい」
背恰好はガターによく似ており、山のように盛り上がる筋肉の鎧の上に、漆黒の武道着を纏う。
髪は短髪の茶黒で、瞳は暗緑色。
その瞳に、抜き身の刃のような殺気を滲ませていた。
彼は太き血管が浮き出る両腕に漆黒の小手をはめて、こちらに拳を向けている。
そして、背後を振り返ることなく、子どもたちへ低く告げた。
「離れていろ。危険だからな」
「あ、うん」
「わ、わかった」
「ありがとね」
子どもたちはシスターのもとへ駆けていく。
短いやり取りだが、彼とガターの違いに私は驚きを禁じ得ない。
(ガターの参謀、と言ったか……魔族至上主義の塊のような男の下に、人間の子どもを迷わず助けるような男がいたとはな)
私は一歩前に出て、彼へ問いかける。
「仇と言ったが、それは帝国の意向によるものか?」
「帝国は関係ない。俺個人の思いだ!」
「ほう、参謀とはいえ、なぜ仇討ちに固執する?」
「それは――」
彼はギリギリと奥歯を噛み締め、次の瞬間、魂を震わせるような咆哮を上げた。
「ガター様は俺にとって親であり、兄も同然の御方!! その命を奪われて黙っていられるほど、俺はできた男ではない!!」
「その様子では、帝国の意向どころか、勝手を行ったと見える」
「だから何だというのだ!? 貴様には関係ない話であろう」
「そうだな……」
私は手にしていた剣を片手で握りしめ、静かに構えた。
「ギドラと言ったな。父や兄の仇となれば、君には正当な復讐の義がある。このアルト、王ではなく、ただの仇として全力をもって相手仕ろう」
刃先に魔力を伝え、さらに数歩前に出ようとした。
だが、次の瞬間――――鋭い声が割って入った。
「待ちなさい、アルト!!」
見れば、アマネが剣を握りしめ、全身からどす黒い殺気を放っていた。
「ガターの参謀ですって――良かった、あんたみたいな人がいてくれて」
彼女は剣先を真っ直ぐにギドラへ向けた。
「仲間たちの仇、無念――ギドラ、あんたで果たさせてもらう!!」
彼女の声に一瞬、片眉を上げたギドラ。だが、すぐに得心がいったようだ。
「無念? ん、貴様は……アマネとか言ったな。勇者セッスイの娘の。なぜ、アルトと行動を共にしている?」
「どうでもいいでしょ! そんなことよりも卑怯なガターの策のせいで、私は仲間と民間人の命を奪われた! これを許せるはずがない!!」
この指弾に、ギドラは少しだけ顔を歪めるが、それも束の間。逆にアマネを冷徹に見据え、言葉の刃を突き返した。
「……確かに、あの件は多少やりすぎな部分があったことは否めない。だが――そのような事態を引き起こしたのは――貴様自身であろうが、アマネ!!」
「な、な、なんですってぇぇ!!」
「己の力量も弁えず、命令を無視し、民間人を巻き込み、仲間の命を失った。己の浅はかさすらもガター様の責に転嫁するとは、何事だ!!」
「黙りなさい! ふざけないでよ! だからって民間人を人質にしていい理由にはならないじゃない!!」
「そこは認めよう。しかし、貴様はそれを引き起こした己の『責』までも、ガター様へ押しつけようしているではないのか?」
「黙れ、黙れ――黙れ!!」
「戦場に立つ覚悟は、個人の覚悟だけでは収まらぬ。それを理解せずに事を起こした貴様に、ガター様を責める謂れなど――一言半句たりともないわ!!」
「黙れって言ってるでしょう!!」
逆上したアマネがミスリルソードに炎を纏わせ、ギドラへ斬りかかった。ギドラは両腕を交差させ、漆黒の小手でその一撃を受け止める。
「このぉぉ~っ」
「ふん、小娘が!」
激しく火花を散らす二人を見ながら、私は顎に手をやった。
「この場合、優先権はアマネにあるのか?」
独り言のような問いに、イロハが答えてくる。
「そうですねぇ。ここはアマネさんにお譲りして、あちらのギドラさんが勝つようであれば、次はアルト様の番。という感じでしょうかねぇ」
「なるほど。双方とも、それでよいか?」
アマネとギドラは一度後方へ飛び退いて、それぞれ叫んだ。
「上等! それで構わない! もっとも、次はないけどね!!」
「下らん真似を! いいだろう、すぐに終わらせて――アルト、貴様の首を貰い受けるとしよう!」
血気盛んな二人から返事をもらったので、私は孤児院の皆と、イロハとメールに指示を与えた。
「シスターと子どもたちは孤児院の中へ。メールは戦いの影響が孤児院へ及ばないよう、魔導壁で防御。イロハは落石の残りがないか監視しつつ、メールと同様に二人の戦いを注視しろ」
「了解です、アルト様」
「…………す」
メールが避難を誘導し、イロハが私の傍らに残る。場が整い、アマネとギドラの闘気が最高潮に達していく。
対峙する二人――いや、ギドラの構えを見て、私は驚きと好奇が交わり合う瞳を見せた。
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