滅ぶ予定の魔王国ルミナ、実は全員が将軍級でした ~常識人の魔王アルト、血に飢えた国民に担がれて帝国を返り討ちにする~

雪野湯

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第二章 世界を書き換える力

第41話 戦乱を生きる娘の心得

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――――城内

 イロハは気配を消し、城内を警戒する兵士たちの視線を縫うようにして、アマネの行方を探していた。

(アマネさんの気配は克明に記憶しています。すぐに見つかるはずですが――えっ!?)

「おい、貴様! 何者だ!?」
「待て、その方は!」

「うっさい、眠ってなさい!!」

――ボカッと、眠りの魔法を宿した拳が二人の兵士を捉え、廊下に激しい音を立てて昏倒させた。

 
 その兵士たちの前で、鼻息を荒く出している少女――アマネ。
 彼女は純白のドレスから山道を旅した姿へ。
 真っ白な羽飾りのついたこげ茶のフェルト帽と赤色のサーコート、腰元にはミスリルソードという姿に戻っていた。


 天井に身を隠していたイロハはひらりと舞い降り、アマネに話しかける。
「アマネさん……何をしているんですか?」
「あ、イロハ。良かった、無事だったのね」
「ええ、アマネさんの配慮のおかげで、快適に過ごさせていただきました」
「クスッ、それはよかった。さぁ、行くわよ」
「え、どこへ?」

 アマネは不思議そうに眉を寄せる。
「決まってるじゃない。アルトのところよ。サッサと合流して、こんな城からおさらばしないと」
「え、いや、あの……ここに残る気はないんですか?」
 
 この問いかけに、アマネは心底嫌そうな、拒絶の表情を見せた。
「のこるぅぅ~? なんであんな陰湿な男のそばに残らなきゃならないのよ。子どもにひどい仕打ちはするわ、毒は盛るわ――最っ低じゃん。同じ空気を吸ってるだけでも反吐が出る」
「は、はぁ……」
「ほら、ぼさっとしてないで逃げるわよ」
「え~っと……」


 イロハにも予測できなかった奇想天外すぎるアマネの行動に、イロハは珍しく思考が停止した。
 だが、すぐに顔を左右に振って、冷静さを取り戻す。

「アマネさん、お待ちください」
「なに? 急がないと」
「ええ。ですが、私たちと共に来るという意味を、本当に理解しているんですか?」
「……人間側を裏切るみたいな感じ? でも、それ、たぶん大丈夫」

「大丈夫ではないと思いますけど……」
「だって、このまま残ったら私、ミナヅキに利用されるだけじゃん」
「――え?」

 アマネは眠っている兵士を見下ろしながら、淡々と言葉を続ける。
「カイリ国は私の保護を理由にしてパパ……スイテン国に庇護を求めるはず。それで隣国からの侵略を逃れようとするでしょうね」
「はい、その通りです」


 アマネは大袈裟に手を振り、ミナヅキへの嫌悪を一切隠そうともしない、しかめっ面を見せた。
「そんなのごめんよ! こんな連中に利用されるなんて。だから、自力で逃げることにしたの」
「なるほど、お気持ちは理解しました。ですが、私たちと一緒に来るということは――」
「アルトが私を利用するってことでしょ? イロハもそのために私を探していたんじゃない?」
「――あっ、お気づきに……」

「気づくよ、それくらい。カイリとの同盟がご破算なら、せめて人間側から攻められないように私を捕らえて人質として、安全保障の盾に使おうって腹づもりでしょう」
「ええ、その通りですが……」

「ま、利用されるのはムカつくっちゃあ、ムカつくけど。お人よしっぽいアルトでも、王様である以上、それくらい割り切るでしょうしね。ま、スイテンとしても、利害に塗れたカイリに利用されるよりかは、勢力争いと無関係なルミナに利用される方がまだマシだし」
「そう、かも……しれませんね」

 
 完全に予測を裏切られたイロハは、しばし言葉を失った。
 同時にアルトがあれほどまでに苦悩した決断が、この少女の前では『当然の帰結』として処理されていることに、奇妙な脱力感を覚える。

(アルト様にとっては身を切るような重い決断だったのに。アマネさんはそれを理解した上で、当然のように受け入れている……。アマネさんの評価を改めなければ。やんちゃな少女ではなく、乱世の理を知る、深謀の少女だと)


 一方アマネは、イロハを見つめ、こう心に言葉を広げていた。
(ルミナに何かしらの謎がある以上、留まって探る必要がある。現状はそれにうってつけ。自然とルミナに滞在できるわけだし。それに、私がいなくなったら、ルミナのあのガタガタな台所事情が、どうなるか気になるというのもあるし――って、私、完全に数字に毒されてるなぁ)

 アマネはひょっこり顔を出してきた事務方としての自分の本能に苦笑し、イロハに声をかけた。
「人質って立場は不満だけど、カイリの餌になるくらいならルミナの盾になってあげる。ほら、行きましょ、イロハ」



――――十字路 (アルト)

 私とギドラとメールは兵士の目を避けつつ、十字路へと辿り着いた。
 それとほぼ同時に、イロハとアマネが姿を見せる。

「お待たせしました、アルト様」
「やっほ。どう、毒、大丈夫?」

 アマネはミスリルソードを装備した姿に戻り、言葉と態度が極めて軽い。とても『捕えられている人質』の様子ではない。

「アマネ……」
「なに?」
「状況は理解しているんだろうな?」
「はぁ、当然でしょう。あんたはイロハに私を捕らえるように命じた。ルミナの安全保障のためにね。で、事がうまく運んだから、これからカイリ国から脱出する。でしょ」
「ああ……」

 しっかり理解しているようだ。だが、この竹を割ったような割り切りように、私は戸惑いを覚える。
 その思いを察したのか、アマネはこう付け加えた。

「平和ボケしてた王様にはわからないでしょうけどね、こっちは万年戦争してるの。これくらいの利害戦はよくあることよ。ま、これは人間同士の話で、魔族国家ルミナと人間の私だと、ちょっと特殊でしょうけどね、ふふ」


 そう言って、軽く笑い流した。

 年若くも、戦乱の世の心得においては、アマネの方が遥かに上のようだ。
 アマネは出入り口へ顔を向ける。
「さぁ、さっさとこんなふざけた場所から脱出しましょう!」

 その言葉が響いた、直後――冷たく、涼やかな男の声が空間を凍りつかせた。

「いえ、それは許しません」

 私は声の主を翠玉の瞳に捉え、薄く笑う。
「フッ、やはり来たか――勇者ミナヅキ」
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