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第十章 英雄祭
全ては救えない
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俺は東門へ向かう途中、怪我をしている人たちへ呼びかける。
「東門前に医者を集めます! 怪我をしている人はみんなそっちへ! 手の空いてる人は動けない人の手助けをっ!」
呼びかけに応じて、たくさんの人が東門へ向かう。
多くは怪我人だけど、何か手助けをしたいという人たちも大勢、東門に向かい歩き始めた。
東門まで来ると、フォールの姿が目に入った。
「フォール!」
「ヤツハさん!?」
「サシオンとフォレは?」
「サシオン様はまだ……今はフォレ様が商工会や各代表の方々と話し合いをしています」
「俺はトルテさんの名代として来た。案内してくれ」
「トルテさんの……わかりました!」
フォールに案内されて、東門の入り口へ向かう。
その途中にあるものは……悲劇、そのものだった。
大勢の人々が血を流し、治療も満足に受けられぬまま、痛みにのたうちまわる。
楽しかったはずの英雄祭。
表通りには多くの出店が立ち並ぶ。
しかし、その道に人々は心躍り歩かず、苦しみ横たわる。
(なんだよこれはっ!? 近藤! お前がやったのか!? 何をしたかったんだよっ!?)
近藤は俺を地球へ帰してやると言った。元の男の姿に戻してやるとも言った。
この惨たらしい出来事は、それらに必要なことだとでもいうのかっ?
そもそも何故あいつが、俺のために? 何故、アクタに?
わからない。何がどう繋がり、関係があるのか……。
フォールは足を止め、門を指さし声を出す。彼の声を聞いて、今は近藤のことを忘れることにした。
「ヤツハさん、あそこです。門前でフォレ様たちが集まっているのが見えるでしょう」
「ああ、ありがとう。あとは一人で」
「はい。では、失礼します」
フォールに簡単な挨拶を交わし、フォレを中心に集まっている人々へ近づく。
「失礼します、皆さん」
「え、ヤツハさんっ? よかった、ご無事で!」
「まぁ、なんとかね」
「ん? 失礼、フォレ殿。そちらの方は?」
上品なシルクハットをかぶった一人の老紳士がこちらへ目を向けてきた。
彼はこのような惨状を前にしながらも表情は柔和。
しかし、俺を見つめる瞳は鋭く光っていた。
俺は老紳士に頭を下げる。
「トルテの名代としてこちら赴きましたヤツハと申します。現在、トルテは医者と薬を集めているところでして」
「おお、さすがはトルテだね。ちょうど、医者と薬が不足していてどうしようかと話し合っていたところだったんだよ。なにせ、このような出来事は初めてで、こちらも対処が後手後手に回っていてね」
「そうですか。では、怪我人の治療はまだ?」
「いや、今は学士館の学生たち――特に魔導生の魔法治療に頼っているよ。あとは教会の方々にね。しかし、全くと言っていいほど手が回っていない。それにこの怪我人の数。医者や薬が届いても、到底足りないだろうね」
「そうですね」
俺は呻き声を上げ続ける人々へ体を向けた。
怪我人の間を学生と教会の人たちがせわしなく動き回っている。
彼らは皆の呼びかけに応え、懸命に治療しているが……人も薬も医者も足りない。
(みんな、優しいな。でも、あれじゃあ……)
痛みに苦しむ者が呼び止める。助けを乞う家族が呼び止める。
ああも呼び止められるたびに反応しては、治療なんてまともにできない。ここは辛くとも、心を鬼にしなくては……。
(たしか、そんな救助方法があったよな?)
俺は治療の風景に顔を向けたまま、考え込むように目を瞑った。
意識を空に飛ばして、箪笥の世界へ送る。
巨大な箪笥を見上げ、医療のプレートを探し出して、すぐに覗き込んだ。
輝く知識には命を効率よく救える手段があった。
だけど……。
「はたして、みんなに受け入れてもらえるだろうか、ってところ?」
後ろから影の女の声が聞こえる。
「なんだよ、いたのか」
「ええ。そして、見ていた。なかなか面白いことになってるわね」
「面白くねぇよ。邪魔するなら引っ込んでろっ」
「ふふ、別に邪魔する気なんて。むしろ、あなたのことを心配してあげてるのに」
「なに?」
「その知識は非常に有用。私も知らなかった方法。あなたの時代は随分と考え方が進んだのね」
「俺の時代? ということは、お前は過去の……そうか、やはりお前は、俺の……」
薄々は気づいてた、この女の正体。
しかし、自分の心の中に大罪を犯したと思われる存在が棲んでいることに、俺は目を逸らし続けていた。
影の女は躊躇いもなく、俺の言葉を肯定する。
「ふふ、そうよ。私はあなたの前世……」
「前世がなぜ、俺の頭の中に?」
「さぁ、なぜでしょう? そんなことよりもその知識、皆に伝えるの? 下手をすれば、あなたは断罪されるわよ」
「かもしれない。でも、大勢を救うには必要な知識だ。だから、伝える!」
「……ふん、つまらない男。人はそれを成長って呼ぶんでしょうけど」
影の女は踵を返して、闇に消えていった。
「なんなんだ、あいつは? いや、前世なのはわかったけど、何がしたいんだか……あいつのせいで宇宙を追放されたんだよな。いったい、何をしたんだ?」
おそらく、それを聞いても、答えないだろう。
自分の一番の秘密は決して話さないタイプ。そう見える。
「いずれ聞き出す方法は探すとして、今はみんなだ!」
俺は瞼を開けて、光を瞳に取り入れる。
目の前に広がる光景は、命の灯揺らぐ光景。
(俺は恨まれるかもしれない。俺に向ける刃は理不尽。そうであっても、人はそうせざるを得ない。だけど、少しでも多くを救うためだ。覚悟を決めろ、俺っ!)
後ろを振り返り、フォレや老紳士。集まっている代表者たちに伝える。
「いまから、怪我人の選別をします。多くを救うために!」
俺が得た知識。その名はトリアージ。
限られた医療機会の中から、一人でも多くの怪我人を救う方法。
怪我を負った人の緊急度に応じて、治療の優先順位をつける。
地球ではこう色分けする。
黒・カテゴリー0(不処置群)――死亡。または処置を施しても助かる見込みのない者。
赤・カテゴリー1(最優先治療群)――生命に関わる重篤な状態。一刻も早い処置が必要。処置を行えば救命が可能な者。
黄・カテゴリー2(非緊急治療群)――赤ほどではないが、早期の処置が必要な者。生命に関わる重篤な状態ではないが、状況によって赤に変わる場合もあるので注意が必要。
緑・カテゴリー3(軽処置群)――歩行可能で、今すぐ処置の必要のない者。治療が不要な者も含まれる。
救命処置の優先順位は1→2→3。
そして、0は最後……その多くの方々が永い休息の場へと案内される。
医療行為と言えば、全てを救うが原則。
だが、トリアージは緊急時において、助かる見込みのある者を優先的に救うために生まれた方法。
これは命の選別。
つまり、全ては救えない……。
この概念。俺たち地球人だって惑うことがある。
そんな方法が、こちらの人たちに受け入れられるかわからない。
俺は説明を終えて、集まっていた代表者たちを見た。
「東門前に医者を集めます! 怪我をしている人はみんなそっちへ! 手の空いてる人は動けない人の手助けをっ!」
呼びかけに応じて、たくさんの人が東門へ向かう。
多くは怪我人だけど、何か手助けをしたいという人たちも大勢、東門に向かい歩き始めた。
東門まで来ると、フォールの姿が目に入った。
「フォール!」
「ヤツハさん!?」
「サシオンとフォレは?」
「サシオン様はまだ……今はフォレ様が商工会や各代表の方々と話し合いをしています」
「俺はトルテさんの名代として来た。案内してくれ」
「トルテさんの……わかりました!」
フォールに案内されて、東門の入り口へ向かう。
その途中にあるものは……悲劇、そのものだった。
大勢の人々が血を流し、治療も満足に受けられぬまま、痛みにのたうちまわる。
楽しかったはずの英雄祭。
表通りには多くの出店が立ち並ぶ。
しかし、その道に人々は心躍り歩かず、苦しみ横たわる。
(なんだよこれはっ!? 近藤! お前がやったのか!? 何をしたかったんだよっ!?)
近藤は俺を地球へ帰してやると言った。元の男の姿に戻してやるとも言った。
この惨たらしい出来事は、それらに必要なことだとでもいうのかっ?
そもそも何故あいつが、俺のために? 何故、アクタに?
わからない。何がどう繋がり、関係があるのか……。
フォールは足を止め、門を指さし声を出す。彼の声を聞いて、今は近藤のことを忘れることにした。
「ヤツハさん、あそこです。門前でフォレ様たちが集まっているのが見えるでしょう」
「ああ、ありがとう。あとは一人で」
「はい。では、失礼します」
フォールに簡単な挨拶を交わし、フォレを中心に集まっている人々へ近づく。
「失礼します、皆さん」
「え、ヤツハさんっ? よかった、ご無事で!」
「まぁ、なんとかね」
「ん? 失礼、フォレ殿。そちらの方は?」
上品なシルクハットをかぶった一人の老紳士がこちらへ目を向けてきた。
彼はこのような惨状を前にしながらも表情は柔和。
しかし、俺を見つめる瞳は鋭く光っていた。
俺は老紳士に頭を下げる。
「トルテの名代としてこちら赴きましたヤツハと申します。現在、トルテは医者と薬を集めているところでして」
「おお、さすがはトルテだね。ちょうど、医者と薬が不足していてどうしようかと話し合っていたところだったんだよ。なにせ、このような出来事は初めてで、こちらも対処が後手後手に回っていてね」
「そうですか。では、怪我人の治療はまだ?」
「いや、今は学士館の学生たち――特に魔導生の魔法治療に頼っているよ。あとは教会の方々にね。しかし、全くと言っていいほど手が回っていない。それにこの怪我人の数。医者や薬が届いても、到底足りないだろうね」
「そうですね」
俺は呻き声を上げ続ける人々へ体を向けた。
怪我人の間を学生と教会の人たちがせわしなく動き回っている。
彼らは皆の呼びかけに応え、懸命に治療しているが……人も薬も医者も足りない。
(みんな、優しいな。でも、あれじゃあ……)
痛みに苦しむ者が呼び止める。助けを乞う家族が呼び止める。
ああも呼び止められるたびに反応しては、治療なんてまともにできない。ここは辛くとも、心を鬼にしなくては……。
(たしか、そんな救助方法があったよな?)
俺は治療の風景に顔を向けたまま、考え込むように目を瞑った。
意識を空に飛ばして、箪笥の世界へ送る。
巨大な箪笥を見上げ、医療のプレートを探し出して、すぐに覗き込んだ。
輝く知識には命を効率よく救える手段があった。
だけど……。
「はたして、みんなに受け入れてもらえるだろうか、ってところ?」
後ろから影の女の声が聞こえる。
「なんだよ、いたのか」
「ええ。そして、見ていた。なかなか面白いことになってるわね」
「面白くねぇよ。邪魔するなら引っ込んでろっ」
「ふふ、別に邪魔する気なんて。むしろ、あなたのことを心配してあげてるのに」
「なに?」
「その知識は非常に有用。私も知らなかった方法。あなたの時代は随分と考え方が進んだのね」
「俺の時代? ということは、お前は過去の……そうか、やはりお前は、俺の……」
薄々は気づいてた、この女の正体。
しかし、自分の心の中に大罪を犯したと思われる存在が棲んでいることに、俺は目を逸らし続けていた。
影の女は躊躇いもなく、俺の言葉を肯定する。
「ふふ、そうよ。私はあなたの前世……」
「前世がなぜ、俺の頭の中に?」
「さぁ、なぜでしょう? そんなことよりもその知識、皆に伝えるの? 下手をすれば、あなたは断罪されるわよ」
「かもしれない。でも、大勢を救うには必要な知識だ。だから、伝える!」
「……ふん、つまらない男。人はそれを成長って呼ぶんでしょうけど」
影の女は踵を返して、闇に消えていった。
「なんなんだ、あいつは? いや、前世なのはわかったけど、何がしたいんだか……あいつのせいで宇宙を追放されたんだよな。いったい、何をしたんだ?」
おそらく、それを聞いても、答えないだろう。
自分の一番の秘密は決して話さないタイプ。そう見える。
「いずれ聞き出す方法は探すとして、今はみんなだ!」
俺は瞼を開けて、光を瞳に取り入れる。
目の前に広がる光景は、命の灯揺らぐ光景。
(俺は恨まれるかもしれない。俺に向ける刃は理不尽。そうであっても、人はそうせざるを得ない。だけど、少しでも多くを救うためだ。覚悟を決めろ、俺っ!)
後ろを振り返り、フォレや老紳士。集まっている代表者たちに伝える。
「いまから、怪我人の選別をします。多くを救うために!」
俺が得た知識。その名はトリアージ。
限られた医療機会の中から、一人でも多くの怪我人を救う方法。
怪我を負った人の緊急度に応じて、治療の優先順位をつける。
地球ではこう色分けする。
黒・カテゴリー0(不処置群)――死亡。または処置を施しても助かる見込みのない者。
赤・カテゴリー1(最優先治療群)――生命に関わる重篤な状態。一刻も早い処置が必要。処置を行えば救命が可能な者。
黄・カテゴリー2(非緊急治療群)――赤ほどではないが、早期の処置が必要な者。生命に関わる重篤な状態ではないが、状況によって赤に変わる場合もあるので注意が必要。
緑・カテゴリー3(軽処置群)――歩行可能で、今すぐ処置の必要のない者。治療が不要な者も含まれる。
救命処置の優先順位は1→2→3。
そして、0は最後……その多くの方々が永い休息の場へと案内される。
医療行為と言えば、全てを救うが原則。
だが、トリアージは緊急時において、助かる見込みのある者を優先的に救うために生まれた方法。
これは命の選別。
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