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第十一章 アクタ
内情
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マヨマヨ襲撃日より、十日が経った。
街にはいまだ傷跡が残るが、みんなは懸命に元へ戻そうと頑張っている。
だがそこに、とある問題が立ち塞がった。
その問題を解決するために俺はサシオンに呼び出された。
そして、問題とは別に。
いや、問題ともつながっている、『ジョウハク国』の内情を知ることになる。
――サシオン邸・大広間
サシオンの屋敷一階にある、大広間に通される。
部屋の真ん中には大きな楕円の机。
そこには、フォレ・アプフェル・パティ・アマンが座っている。
一番奥にはサシオン……。
俺はさっと視線を回して、首を傾ける。
「なに、このメンツ?」
「ご苦労、ヤツハ殿」
「いったい何、サシオン? 急に呼び出して。こっちは街の後片付けや復旧の手伝いで忙しいのに。しかも、このメンバーは?」
「少々、入り組んだ話があってな。フォレやアプフェルについては説明はいるまい。パティスリー殿やアマン殿については、話の過程でご理解できるはず」
「話の過程ねぇ」
二人に顔を向ける。
パティーは面倒そうにため息を吐き、アマンは猫手で顔を洗う。
俺は顔をサシオンへ戻す。
「で、話って?」
「いまから話すことは口外できぬ話だ。心して聞くがよい」
「そうですか。そんな話聞きたくないので失礼しますっ」
踵を返し、出口へ向かう。
しかし、アプフェルが音もなく近づき俺の首根っこをガシッと捕まえてきた。
「そういう冗談は時間の無駄なんだからやめなさいよ!」
「冗談じゃねぇ! ヤバい話だろ。絶対ヤバい話だろ。だから、関わりたくない!」
「はいはい。じゃあ、サシオン様。話の続きを」
「うむ」
「お~い、勝手に話を進めるなぁ!」
アプフェルに引き摺られるかたちで無理やり椅子に座らせられる。
それでも、俺は両手で耳を押さえて抵抗を試みる。
そんな愛くるしくもか弱いヤツハちゃんの首を、アプフェルは尻尾で容赦なく絞めつけてきやがった。
くっ、ここは仕方がない、降参しよう。アプフェルめ、覚えてろっ。
俺たちのやり取りを見ていたサシオンは小さく息をつく。
そこから一度、卓上を見回してから説明を始めた。
「これは城で行われた会議でのことだ」
彼はお歴々が揃う会議の席の話をしていく。
その内容は……本当に聞いちゃダメなやつだった。
――プラリネ女王・琥珀城、議場
議場では、各機関から集まった代表がマヨマヨの扱いについて、女王へ意見を求めていた。
「女王陛下、我々に対するマヨマヨの暴挙。如何なするおつもりですか? すぐにでも、彼らを取り締まるべきです」
「プラリネ様、これは放置しておける問題ではありません。早急に手を打たねばっ」
二人の男はマヨマヨに対する厳しい処断を求めている。だが……。
「お待ちください。マヨマヨは我らの手に余る存在。真っ向から事を構えれば、潰されるのはこちらですぞ」
「そうですとも。それに、全てのマヨマヨが敵に回ったわけではない。ここでマヨマヨへの弾圧を行えば、好意的なマヨマヨも敵に回ってしまう。そうなれば、我々には……」
「貴公らは臆病風に吹かれたのか!? 女神コトア様が下さり王都をこうまで蹂躙され、黙っていろと?」
「そうは言っていない! まったく、こんなことになるなら、女王陛下のお言葉通り英雄祭を中止もしくは延期するべきだった。それなのに貴公のような者が!」
「私が何だとっ?」
「フンッ。まぁ、済んでしまったことは言っても仕方がない。襲撃してきたマヨマヨに対しては断固たる決意をもって望む。それは当然のこと。しかし、マヨマヨというだけで取り締まるのはいささか行き過ぎではないかと、私は考える」
「奴らの違いをどう判断する? 奴らは皆、同じ身なりをしている。貴公らが取り締まるのが無理だというのならば、せめて奴らの自由を制限すべきだ。我々は奴らを無害と思い込み自由にさせ過ぎた」
議場の中心となる女王を無視して、彼らは好き放題罵り合う。
白の法衣に身を包む女王は嘆息を挟み、声を出そうとした。
しかしそこに、ある男の声が響き渡る。
「マヨマヨを取り締まるだけでは足らぬ。関係者と思われる者は全て取り締まるべきだ!」
皆は一斉に、議場の入り口から聞こえた男の声に注目した。
「姉上、何をしておられるのですか? 皆に命を下すのがあなたの役目だというのに」
「ブラウニー王、どうして?」
プラリネ女王が呼んだ名。
それはもう一人の『ジョウハク国』の指導者、ブラウニー王。
プラリネと同じく白の法衣に身を包むブラウニーの姿を目にして、今までずっと静観していたサシオンが声を上げた。
「ブラウニー陛下。ここは琥珀城。プラリネ女王陛下が治める場。許可なく出入りし、あまつさえ評議に容喙なさることはお控えください」
「ふん、サシオンか。お前が事前に襲撃を予期していたおかげで、王都の地下に眠るコトア様に大事なかった。それは褒めよう。しかし、己の身を弁えろっ。貴様はいつから余に意見できる立場になった!」
王の叱責を受け、サシオンは口を閉じ、静かに頭を下げる。
だが、サシオンの言葉を幇助する人物が現れる。
「ブラウニー様。サシオンの言葉はもっともな意見です。この場所に陛下がお越しになられては、何のための交代制二頭政治かわかりません」
「ぬっ、クラプフェン」
緑の艶髪を揺らすクラプフェンと呼ばれた若い男。
彼は六龍将軍・筆頭、女神の黒き剣を戴く『クラプフェン=フォン=クグロフ』。
彼がブラウニーを一睨みすると、ブラウニーは苦々しそうな表情を露わとする。
美しき容姿に見合う怜悧な威儀を見せるクラプフェン。それを忌々しそうに睨みつけるブラウニー。
静まり返る議場。
そこへ両者の視線を遮る声が割って入る。それはブラウニーを擁護する声……。
出した声の主は、同じく六龍将軍・黒き具足を戴く『パスティス=デ=ナタ』。
彼は筋骨隆々な姿には似合わぬ、おっとりした声を漏らす。
「まぁ、待てクラプフェン。今回は女神コトアの殺害を狙った襲撃。国家、いや、人類としての一大事。そうであるのに、人間の盟主の片翼たるブラウニー様を蚊帳の外とはあまりにも」
さらに、これに同調する声が聞こえてくる。
「失礼、南地区を近衛騎士団『グリチルリ』の団長として、このビッシュ=フィロもパスティス殿と同意見です。今回に限り、ブラウニー陛下のお知恵を借りるべきかと」
ビッシュの言葉に、ブラウニーは表情を軽やかに胸を張る。
「おお、そう言ってくれるかビッシュよ」
「はい。陛下が申されましたように、マヨマヨの襲撃をこのままにはしておけません。マヨマヨの襲撃により、本来ジョウハク国の威容を知らしめるはずだった英雄祭は不名誉な結果に。その原因となったマヨマヨを放置していれば、諸国属国はジョウハク国を軽侮しましょうぞ」
ブラウニーはパスティスとビッシュを味方につけて、プラリネの隣に立った。
彼は語気を荒く、自身の考えを語る。
「取り締まるべきはマヨマヨだけではない。王都に棲みつく人間以外の種族もだ。ジョウハクは人間生誕の地。本来、亜種族どもが足を踏み入れるべき場所ではないっ!」
この言葉に議場がどよめく。
ブラウニーの行き過ぎた思想に、同調したはずの南地区団長『ビッシュ=フィロ』は微かに眉を顰めた。
ブラウニーは議場の雰囲気などものともせず、語り終え、姉を見下ろす。
プラリネはまっすぐと皆を見つめたままで、振り向くことはない。
議場に二人の王が立ち並ぶ。
これは絶対にあってはならぬ光景。
五年に一度、執政を交代する。
双子の争いを治めるために生まれた制度。
今、ここで、それが崩れようとしている。
しかし、誰もがブラウニーを強く咎めることができない。
なぜならば、彼の意見は強硬とはいえ、ジョウハク国としての有り様が内包されていたからだ。
実際に、会議の席は暗黙もってブラウニーの存在を受け入れている。
マヨマヨは女神コトアを狙った。これは許されないこと。
マヨマヨは英雄祭を潰した。その不名誉を返上しなければならない。
そのためには一刻も早く、マヨマヨに対する態度を内外に知らしめる必要があった。
そしてそれは、『強いジョウハク国』としての姿が求められる。
ブラウニーの言葉には、皆が求める答えが含まれている。
しかし――
「私は反対です」
プラリネははっきりとした語勢で、議場に満ちる静寂を切り裂いた。
皆は目を大きく開けて、プラリネを見つめる。
ブラウニーは臍を噛み、プラリネを睨みつけた。
その強烈な視線をプラリネは十分に感じている。
だが、あえて無視をして、言葉を続ける。
「皆は忘れている。もっとも重要なことを」
彼女の言葉にブラウニーが噛みついた。
「何をだっ。国家の威信を取り戻すこと以上に重要なことないはずっ!」
「控えなさい、ブラウニー王。民の存在を忘れ、威信などという言葉を口にするなっ!」
「あ、姉上……」
プラリネの剣幕に押され、ブラウニーは一歩、足を下げた。
彼女はゆっくりと議場を見回して、語りかける。
「今、最も苦しんでいるのは国民。それを忘れ、国の威信を議論するなど愚か。民の苦難を放置し、さらなる争いを呼び込むなど王の取るべき道ではありません。先ずは、街の復興こそが最優先課題。これは女王としての命です」
彼女がそう唱え終えると、議場にいた者たちは静かに頭を垂れた。
その中には、不満を持つ者もいる。
だが、女王の勅命となれば、誰も口を出すことができなかった。
しかし、それに対して一人だけ口を出せる者が議場にいる。
「姉上、本気か? マヨマヨを放置するつもりなのか?」
「放置するとは言っていません。復興を第一として、マヨマヨの監視は強めます。また、マヨマヨの現状を見極め、襲撃犯を特定し、処断を行うつもりです」
「姉上は甘すぎるっ。相手は女神コトアを貶める不埒者。王都を襲われ、国家の威信たる英雄祭は泥に塗れたというのに。これでは世界に冠たる『ジョウハク国』の名が廃れるぞ!」
「これは、現執政下である私、プラリネ女王としての命令だ。これ以上の狼藉は許されませんよ」
「しかし、姉上っ」
「皆の前では女王と呼びなさい。ブラウニー王」
「クッ」
ここで初めて、プラリネはブラウニーに顔を向けた。
彼女は優しく微笑みながらも、瞳には強い光を宿している。
ブラウニーは光を避けるように、目を逸らした。
「ブラウニー王。理解ができたのならば、今すぐ議場より立ち去りなさい。それとも、衛兵による手助けが必要ですか?」
「っ、いらぬ。一人で十分だ!」
ブラウニーは扉の近くに立っていた衛兵を押しのけて、議場を後にした。
プラリネは彼の立ち去る姿を見届けて、皆へ振り向く。
「では、皆さん。復興への議題へと移りましょうか」
街にはいまだ傷跡が残るが、みんなは懸命に元へ戻そうと頑張っている。
だがそこに、とある問題が立ち塞がった。
その問題を解決するために俺はサシオンに呼び出された。
そして、問題とは別に。
いや、問題ともつながっている、『ジョウハク国』の内情を知ることになる。
――サシオン邸・大広間
サシオンの屋敷一階にある、大広間に通される。
部屋の真ん中には大きな楕円の机。
そこには、フォレ・アプフェル・パティ・アマンが座っている。
一番奥にはサシオン……。
俺はさっと視線を回して、首を傾ける。
「なに、このメンツ?」
「ご苦労、ヤツハ殿」
「いったい何、サシオン? 急に呼び出して。こっちは街の後片付けや復旧の手伝いで忙しいのに。しかも、このメンバーは?」
「少々、入り組んだ話があってな。フォレやアプフェルについては説明はいるまい。パティスリー殿やアマン殿については、話の過程でご理解できるはず」
「話の過程ねぇ」
二人に顔を向ける。
パティーは面倒そうにため息を吐き、アマンは猫手で顔を洗う。
俺は顔をサシオンへ戻す。
「で、話って?」
「いまから話すことは口外できぬ話だ。心して聞くがよい」
「そうですか。そんな話聞きたくないので失礼しますっ」
踵を返し、出口へ向かう。
しかし、アプフェルが音もなく近づき俺の首根っこをガシッと捕まえてきた。
「そういう冗談は時間の無駄なんだからやめなさいよ!」
「冗談じゃねぇ! ヤバい話だろ。絶対ヤバい話だろ。だから、関わりたくない!」
「はいはい。じゃあ、サシオン様。話の続きを」
「うむ」
「お~い、勝手に話を進めるなぁ!」
アプフェルに引き摺られるかたちで無理やり椅子に座らせられる。
それでも、俺は両手で耳を押さえて抵抗を試みる。
そんな愛くるしくもか弱いヤツハちゃんの首を、アプフェルは尻尾で容赦なく絞めつけてきやがった。
くっ、ここは仕方がない、降参しよう。アプフェルめ、覚えてろっ。
俺たちのやり取りを見ていたサシオンは小さく息をつく。
そこから一度、卓上を見回してから説明を始めた。
「これは城で行われた会議でのことだ」
彼はお歴々が揃う会議の席の話をしていく。
その内容は……本当に聞いちゃダメなやつだった。
――プラリネ女王・琥珀城、議場
議場では、各機関から集まった代表がマヨマヨの扱いについて、女王へ意見を求めていた。
「女王陛下、我々に対するマヨマヨの暴挙。如何なするおつもりですか? すぐにでも、彼らを取り締まるべきです」
「プラリネ様、これは放置しておける問題ではありません。早急に手を打たねばっ」
二人の男はマヨマヨに対する厳しい処断を求めている。だが……。
「お待ちください。マヨマヨは我らの手に余る存在。真っ向から事を構えれば、潰されるのはこちらですぞ」
「そうですとも。それに、全てのマヨマヨが敵に回ったわけではない。ここでマヨマヨへの弾圧を行えば、好意的なマヨマヨも敵に回ってしまう。そうなれば、我々には……」
「貴公らは臆病風に吹かれたのか!? 女神コトア様が下さり王都をこうまで蹂躙され、黙っていろと?」
「そうは言っていない! まったく、こんなことになるなら、女王陛下のお言葉通り英雄祭を中止もしくは延期するべきだった。それなのに貴公のような者が!」
「私が何だとっ?」
「フンッ。まぁ、済んでしまったことは言っても仕方がない。襲撃してきたマヨマヨに対しては断固たる決意をもって望む。それは当然のこと。しかし、マヨマヨというだけで取り締まるのはいささか行き過ぎではないかと、私は考える」
「奴らの違いをどう判断する? 奴らは皆、同じ身なりをしている。貴公らが取り締まるのが無理だというのならば、せめて奴らの自由を制限すべきだ。我々は奴らを無害と思い込み自由にさせ過ぎた」
議場の中心となる女王を無視して、彼らは好き放題罵り合う。
白の法衣に身を包む女王は嘆息を挟み、声を出そうとした。
しかしそこに、ある男の声が響き渡る。
「マヨマヨを取り締まるだけでは足らぬ。関係者と思われる者は全て取り締まるべきだ!」
皆は一斉に、議場の入り口から聞こえた男の声に注目した。
「姉上、何をしておられるのですか? 皆に命を下すのがあなたの役目だというのに」
「ブラウニー王、どうして?」
プラリネ女王が呼んだ名。
それはもう一人の『ジョウハク国』の指導者、ブラウニー王。
プラリネと同じく白の法衣に身を包むブラウニーの姿を目にして、今までずっと静観していたサシオンが声を上げた。
「ブラウニー陛下。ここは琥珀城。プラリネ女王陛下が治める場。許可なく出入りし、あまつさえ評議に容喙なさることはお控えください」
「ふん、サシオンか。お前が事前に襲撃を予期していたおかげで、王都の地下に眠るコトア様に大事なかった。それは褒めよう。しかし、己の身を弁えろっ。貴様はいつから余に意見できる立場になった!」
王の叱責を受け、サシオンは口を閉じ、静かに頭を下げる。
だが、サシオンの言葉を幇助する人物が現れる。
「ブラウニー様。サシオンの言葉はもっともな意見です。この場所に陛下がお越しになられては、何のための交代制二頭政治かわかりません」
「ぬっ、クラプフェン」
緑の艶髪を揺らすクラプフェンと呼ばれた若い男。
彼は六龍将軍・筆頭、女神の黒き剣を戴く『クラプフェン=フォン=クグロフ』。
彼がブラウニーを一睨みすると、ブラウニーは苦々しそうな表情を露わとする。
美しき容姿に見合う怜悧な威儀を見せるクラプフェン。それを忌々しそうに睨みつけるブラウニー。
静まり返る議場。
そこへ両者の視線を遮る声が割って入る。それはブラウニーを擁護する声……。
出した声の主は、同じく六龍将軍・黒き具足を戴く『パスティス=デ=ナタ』。
彼は筋骨隆々な姿には似合わぬ、おっとりした声を漏らす。
「まぁ、待てクラプフェン。今回は女神コトアの殺害を狙った襲撃。国家、いや、人類としての一大事。そうであるのに、人間の盟主の片翼たるブラウニー様を蚊帳の外とはあまりにも」
さらに、これに同調する声が聞こえてくる。
「失礼、南地区を近衛騎士団『グリチルリ』の団長として、このビッシュ=フィロもパスティス殿と同意見です。今回に限り、ブラウニー陛下のお知恵を借りるべきかと」
ビッシュの言葉に、ブラウニーは表情を軽やかに胸を張る。
「おお、そう言ってくれるかビッシュよ」
「はい。陛下が申されましたように、マヨマヨの襲撃をこのままにはしておけません。マヨマヨの襲撃により、本来ジョウハク国の威容を知らしめるはずだった英雄祭は不名誉な結果に。その原因となったマヨマヨを放置していれば、諸国属国はジョウハク国を軽侮しましょうぞ」
ブラウニーはパスティスとビッシュを味方につけて、プラリネの隣に立った。
彼は語気を荒く、自身の考えを語る。
「取り締まるべきはマヨマヨだけではない。王都に棲みつく人間以外の種族もだ。ジョウハクは人間生誕の地。本来、亜種族どもが足を踏み入れるべき場所ではないっ!」
この言葉に議場がどよめく。
ブラウニーの行き過ぎた思想に、同調したはずの南地区団長『ビッシュ=フィロ』は微かに眉を顰めた。
ブラウニーは議場の雰囲気などものともせず、語り終え、姉を見下ろす。
プラリネはまっすぐと皆を見つめたままで、振り向くことはない。
議場に二人の王が立ち並ぶ。
これは絶対にあってはならぬ光景。
五年に一度、執政を交代する。
双子の争いを治めるために生まれた制度。
今、ここで、それが崩れようとしている。
しかし、誰もがブラウニーを強く咎めることができない。
なぜならば、彼の意見は強硬とはいえ、ジョウハク国としての有り様が内包されていたからだ。
実際に、会議の席は暗黙もってブラウニーの存在を受け入れている。
マヨマヨは女神コトアを狙った。これは許されないこと。
マヨマヨは英雄祭を潰した。その不名誉を返上しなければならない。
そのためには一刻も早く、マヨマヨに対する態度を内外に知らしめる必要があった。
そしてそれは、『強いジョウハク国』としての姿が求められる。
ブラウニーの言葉には、皆が求める答えが含まれている。
しかし――
「私は反対です」
プラリネははっきりとした語勢で、議場に満ちる静寂を切り裂いた。
皆は目を大きく開けて、プラリネを見つめる。
ブラウニーは臍を噛み、プラリネを睨みつけた。
その強烈な視線をプラリネは十分に感じている。
だが、あえて無視をして、言葉を続ける。
「皆は忘れている。もっとも重要なことを」
彼女の言葉にブラウニーが噛みついた。
「何をだっ。国家の威信を取り戻すこと以上に重要なことないはずっ!」
「控えなさい、ブラウニー王。民の存在を忘れ、威信などという言葉を口にするなっ!」
「あ、姉上……」
プラリネの剣幕に押され、ブラウニーは一歩、足を下げた。
彼女はゆっくりと議場を見回して、語りかける。
「今、最も苦しんでいるのは国民。それを忘れ、国の威信を議論するなど愚か。民の苦難を放置し、さらなる争いを呼び込むなど王の取るべき道ではありません。先ずは、街の復興こそが最優先課題。これは女王としての命です」
彼女がそう唱え終えると、議場にいた者たちは静かに頭を垂れた。
その中には、不満を持つ者もいる。
だが、女王の勅命となれば、誰も口を出すことができなかった。
しかし、それに対して一人だけ口を出せる者が議場にいる。
「姉上、本気か? マヨマヨを放置するつもりなのか?」
「放置するとは言っていません。復興を第一として、マヨマヨの監視は強めます。また、マヨマヨの現状を見極め、襲撃犯を特定し、処断を行うつもりです」
「姉上は甘すぎるっ。相手は女神コトアを貶める不埒者。王都を襲われ、国家の威信たる英雄祭は泥に塗れたというのに。これでは世界に冠たる『ジョウハク国』の名が廃れるぞ!」
「これは、現執政下である私、プラリネ女王としての命令だ。これ以上の狼藉は許されませんよ」
「しかし、姉上っ」
「皆の前では女王と呼びなさい。ブラウニー王」
「クッ」
ここで初めて、プラリネはブラウニーに顔を向けた。
彼女は優しく微笑みながらも、瞳には強い光を宿している。
ブラウニーは光を避けるように、目を逸らした。
「ブラウニー王。理解ができたのならば、今すぐ議場より立ち去りなさい。それとも、衛兵による手助けが必要ですか?」
「っ、いらぬ。一人で十分だ!」
ブラウニーは扉の近くに立っていた衛兵を押しのけて、議場を後にした。
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