マヨマヨ~迷々の旅人~

雪野湯

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第十四章 ボディボディボディ……体と心

立場に役職に思い

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――ジョウハク国・南門

 
 俺たち、夜霧ナイトミストのヤツハ団は、サシオンとその上役であるクラプフェンの依頼を受けて、早朝からエヌエン関所へ物資を届ける準備をしていた。
 
 ちなみに『夜霧ナイトミストのヤツハ団』という名はサシオンが正式名として、なんかよくわからん機関に提出しておいたそうだ。
 余計なお世話とは正にこのこと。
 
 おかげで正規軍ではない俺たちはジョウハク国の準正規軍扱いを受けることになった。
 そのため、物資の輸送という任務を民間団体でありながら受けれられるという仕組みらしい。
 改めて言います。正にっ、余計なお世話!
 

 
 さて、この南門はサシオンの担当する場所ではない。
 南門は、グリチルリ近衛このえ騎士団の団長『ビッシュ=フィロ』が預かる場所。

 彼は明確にブラウニー支持を打ち出している一人。
 そのため、今回のエヌエン関所への物資輸送にさぞかし不満だろう。
 なにせ、立場を明確にしていないとはいえ、ブラウニー派ではないクラプフェンの命令。
 クラプフェンは現状維持派であるため、現状を崩そうとしているブラウニー及びその支持者を牽制している。
 
 ビッシュ=フィロにとって、面白くない人物の命令は不満に決まっている。


 俺はビッシュのことを頭の端に置きつつ、視線を遠くへ投げる。
 
 長々と続く、物資満載の車列。
 車列に並ぶのは特別な魔力が宿った荷馬車群。
 南の関所まではかなりの距離があるため、これらを特別に用意してもらった。

 魔法の荷馬車の車軸や車輪には、マフープの結晶体とやらを利用した特殊な加工が施されているらしく、通常の荷馬車よりも速度が速くて揺れも少ないそうだ。
 
 これまで科学っぽい技術ばかりに触れてきたけど、今回初めて、魔法っぽい感じの技術に触れた気がする。
 
 最前列ではフォレたちと共に、サシオンから預かった兵士さんたちが最終確認を行っている。
 俺は最後尾から確認を行っていた。
 そこに、噂の人物がやってきた。



「どうやら、準備を終えたようだね」
「これはビッシュ様。おかげさまで、あとは出立するのみです」

 俺は深々と頭を下げつつも、彼の姿に目を飛ばす。

 サシオンと色違いの緑色の重装鎧を身に纏う人物。
 身長は170センチ半ば程度で、体形はずんぐりむっくりとしている。
 しかし、脂肪に潜む筋肉は確かなもので、太い首には力強い肉の張りとツヤがはっきりと見える。
 言うなれば、相撲取りや太めのプロレスラーのような人だ。

 鼻の下には先端がくるりと巻いた立派なお髭が生えていて、ちょっと長めの髪もまた、先端がくるりと巻いている。
 表情は実に柔和で、四十は超えているはずのおっさんなのに妙に愛嬌がある。

 ビッシュ団長は俺の姿をしっかりと確認し、名前を呼んだ。
 

「君がヘッドヤツハかな?」
「うがっ。あの、そのヘッドという呼び名はやめてください。ビッシュ様」
「うん? 報告書には、君の率いる夜霧ナイトミストのヤツハ団の長の敬称はヘッドと記載されていたが?」
「サシオ~ン。はぁ~、それは何かの手違いなんで、普通にヤツハとお呼びください」
「そうか、珍しい敬称で面白いと思ったのだが。残念だ」

 ビッシュは髭を摘まみ、きゅいっと引っ張る。
 引っ張られた髭はピンと張るが、彼が指を離すとくるりと元通り。
 その動作に威厳などなく、子どものような無邪気さを感じる。

 雰囲気も同じ団長であるサシオンとは違い、威圧感など皆無。
 とっつきやすいおっちゃん、といった感じ。

 しかし、油断をするわけにはいかない。
 彼は、ブラウニー派。
 そうである以上、何かしら仕掛けてくる可能性がある。
 俺は警戒心を奥深く隠しつつ、ビッシュに話しかける。


「ビッシュ様。我々はそろそろ出立しますが、何か御用でしょうか?」
「うん。出立前に、一応、こちらでも検査をしておかないとね」
「そうですか。では、お願いします」

 やっぱり、そう来ると思った。
 チェックを行い、テキトーに不備があるとか言って、いちゃもんをつける気だろう。
 ビッシュは自身の部下たちに、馬車や荷台に載る物資の点検を命じる。
 
 点検は長くなるだろうなぁっと思いきや、数分程度で済んだ。

「うん、特に問題ないね。じゃあ、頼んだよ。ヤツハ」
「え? もう、行っていいんですか?」
「もちろんだよ。何も問題ないからね。早く、エヌエン関所に物資を届けてあげるといいよ」
「はい、それじゃあ。行きますけど~」

 あっさり出立の許可を出してくれたことに拍子抜けもいいところ。
 あまりにも簡単に事が運ぶので、逆に不安になってくる。
 それを隠しきれず、挙動不審な態度を取ってしまった。
 
 俺の態度に気づいたビッシュはお髭を摘まみ伸ばして、くるりと戻す。


「なるほど、君は嫌がらせでもされるのかと思っていたんだね」
「え、いや、そんなわけは」
「いいよ、いいよ。怒ったりはしないから」
「は、はぁ……」

「君がそのような態度を取るということは、ある程度事情を知っているということだね」
「何のことでしょうか?」
「うん……先ほど、『サシオン』と呼び捨てにしてたね。随分と親しい仲のようだ。知っていても不思議ではないか」


 ビッシュは俺のとぼけなど全く意に介さず、城の内情を知っていると確定して話を進めていく。
 俺はサシオンを呼び捨てにしてしまった浅はかさを呪う。

(くそ、いつもの癖で。しかし、このおっさん。間の抜けた雰囲気だけど、近衛このえ騎士団の団長やるだけあって、ただもんじゃないなっ)

 奥深くに隠していた警戒心がするりと表に抜け出てくる。
 ビッシュはそれを敏感に感じ取り……笑い声を上げた。

「はっはっは、そんなに警戒しなくても私は何もしないよ。それはクラプフェン殿のあからさまな離間策には少しばかり思うところもあるけど、私情を挟む愚かな真似をするつもりないからね」
「ビッシュ様……」
「キシトル帝国の動静が危うい。だったら、南の守りは確かなものにしないとね」

 ビッシュは少しだけ声を固く上げて、すぐに力を抜いた。
 俺は人間至上主義を掲げるブラウニー派を支持する彼もまた、尊大な人物と思い込んでいた。
 だけど、全く正反対の人のようだ。

「すみません、失礼な真似を」
「いやいや、問題ないよ。それじゃ、お役目頑張ってね」
「あ、あの」
「なんだい?」
「どうし……いえ、なんでもありません。失礼します」
 素早く会釈をして、後ろを振り返る。
 
 
 俺はこのような人が、なぜブラウニーを支持するのか気になった。
 しかし、それを問うことは、やってはいけないこと。
 ビッシュはブラウニーを支持した。
 つまり、あるじと掲げたということ。
 それに何故と問うことは、ブラウニーを貶めてることと同義なる。

 足早にみんなが待つ、最前列へと向かう。
 しかし、ビッシュは大きく咳き込み、俺の足を止めた。

「ゴホンゴホンッ! 私はね、誰か守るためには、強いジョウハクであるべきだと考えているんだよ。そして、守るべき者たちの中には、多くの種族がいる。私個人の考えだけどね」

 俺は後ろを振り返り、ビッシュの顔を見つめる。
 ビッシュは相変わらず、柔和な表情のまま何も変わりはしない。

(この人は人間至上主義というわけじゃないんだ。多くを守るために力が必要と考えた。だから、ブラウニーを支持した。そっか、支持をしたからと言って、全てを受け入れたわけじゃなんだ)

 俺は無言でビッシュ団長へ頭を下げて、踵を返し、エヌエン関所に向かうため、車列の最前列に走っていった。  
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