マヨマヨ~迷々の旅人~

雪野湯

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第二十三章 決戦前夜

先生

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 現在、先生やトルテさんやピケは王都に戻れず、クレマのところに厄介になっている。
 そんなエクレル先生たちの厳しい現状を知って、俺は深く頭を下げて謝罪をした。


「先生やトルテさんたちは王都に戻っていないんですよね? 俺のせいですみません」
「謝る必要はないわよ。私もトルテさんもピケちゃんも気にしていないから」
「でも、俺の財産が没収されたなら、先生の屋敷もっ。それにトルテさんの宿だって!」

「何を言ってるの? 今からそれを取り戻しに行くんでしょ」


 エクレル先生は春のように暖かなポカポカの笑顔を見せる。
 その暖かさを受け取って、俺は言葉の中身を、前を見るものへと変えた。
「はい、そうでした。しっかり、先生たちにお返しします。俺はみんなから色んなものを貰って、何一つ返していない。だから、まずはみんなのものを取り戻して、それからたくさんのものをお返ししたい!」


 俺は胸の前で、グッと拳を握り締める。
 そんな覚悟を宿す俺の姿に、先生はいつもの口調で語りかけてきた。
 だから、俺も調子を合わせる。

「うふふ、それなら一緒に温泉旅行を」
「それ以外で!」
「もう、ヤツハちゃんの意地悪……ふふ、それじゃ、そろそろ私は戻るわね」

「はい……あの、さっきの支援のことは、みんなに話しておいた方がいいでしょうか?」
「う~ん、できるかどうかわからないから内緒の方がいいかも。戦場で不確定要素の期待は邪魔なだけよ。それに念のため、秘匿にしといた方がいいかもしれないわね」
「え、なんで?」

「ここで問い返す純粋なヤツハちゃんには内緒よ。それだけ、結束が固いんでしょうけど……余計な一言だったかしら?」 

 
 先生は俺を見つめて悩ましい表情を見せたが、すぐに優し気な笑い声を漏らす。
「ふふ、今の話は忘れてちょうだい。とにかく、ヤツハちゃんたちは支援がないことを前提に動いているから、私たちの存在がなくとも戦況に影響はないから大丈夫よ」
「はぁ、ですかね?」

 先生が何を考えてるのかわからず、俺は首を捻る。
 すると先生は、軽く瞳を左右に振り、次に声を弾ませた。
「それにねっ、実をいうと、個人的な趣味で秘匿にしておきたいな! というのもあるし」
「それは?」

「それはね~……」

 先生は言葉を溜める。俺は興味深げに身体を前のめりにする。
 十分に俺を惹きつけたところで、先生ははしゃぎ声をあげた。

「それはっ、みんなをビックリさせたいから!」

 先生は目をくの字に閉じて、両手を振るう……子どもだ、この人は。
 だけど、それはわからないでもない。
 先生の支援はかなり美味しい立ち位置。
 叶うならば、俺もそっちに回りたい。


「まったく、そんなこと考えてたんですか? 戦争だってのに楽しそうですね!」
「もう、ヤツハちゃんはすぐに嫌味を言う」
「すぐに笑って誤魔化す人に言われたくないっす」
「ふふ、似た者同士の師と弟子ね、私たちは」

「いえ、王都の魔物と同じ扱いはちょっと……」
「王都の魔物!? 何なのそれっ? 初耳なんですけど!?」
「ティラの、ブランの先生評だよ。抱きしめて頬をすりすりするから」

「あうっ。そんなことになっていたなんて……」
「あははは、後々ティラと会うのが楽しみっすね」
「ああ~、どうしよう~」

 先生は両手で顔を覆い、その場にしゃがみ込む。
 つい今しがた、俺も同じことをしていたような……いや、気のせいだ。

 俺はブルブルと顔を横に振り、先生の手を取って立ち上がらせる。
 そして、言付けをお願いした。


「ほら、先生。立ってください。あと、よければ、トルテさんとピケとクレマに伝言を頼めますか?」
「ええ、もちろんよ」
「それじゃ……クレマ、大変な面倒をかける。これは言うまでもないだろうけど、トルテさんとピケを頼む。俺が守ってやれないぶん、それをお前に託したい」
 

 次にトルテさんへ言葉を送る。
「トルテさん、ご迷惑をおかけしてすみません。今は謝罪ですが、次に会う時はあなたに直接お礼を言いたいです。トルテさんと出会えたことは俺にとって幸運でした」


 最後に、ピケへ送る言葉を伝える。
「ピケ。俺は元気でやってる。ティラも元気だし、アプフェルやパティも元気だ。もう少ししたらみんなと会える。そしたら、サンシュメでまたプリンでも食べような」


 言葉を受け取った先生は無言でコクリと頷き、空間の力を宿しつつ魔導杖まどうじょうを振るう。
「じゃあね、ヤツハちゃん」
「はい、また……あ」
「ん、どうしたの?」
「いや、一応、サダさんにも何か。森に戻ることがあったらだけど」
「サダさん……」

 サダさんの名前を耳にした途端、先生の表情が曇る。
 どうしたんだろうか?

「先生?」
「いえ、別に。それでサダさんにはなんと?」
「え、あの、ええっと、あんまりふらふらうろつくなよ! いつ何が起こるかわからない状況なんだから少しは大人しくしとけ! ま、こんな感じで」

「はは、ひどいわね」
「ひどくないでしょう。心配してやってんだから」
「心配、ね……あの人に限ってその必要は……それにあの情報……それを私に渡したということは……」

 
 何故か先生は瞳に憂いを乗せ、声は沈んでいき、そしてぼそぼそと呟き始める。

「先生、本当にどうしたんですか? さっきから変ですよ?」
「そうね……コナサの森からリーベンまで、結界や監視の目を逃れつつ転送魔法を行使したから、疲れてるのかも」

「大丈夫ですか? いまでそんなに疲れるなら、あの支援だって」
「それは問題ありません。私、エクレル=スキーヴァーはアクタ最強の空間の使い手を自負しています。まだまだ、ヤツハちゃんにだって負けないんだからっ」
「ふふ、そうですか……そうですね」

 俺は真っ直ぐと先生を見つめ、彼女を瞳に宿す。
 エクレル先生……普段は子どもっぽいのに、いざという時はとても頼りになる先生。
 趣味に問題があるのが玉に瑕だけど、そういうところも含めて、俺の心を癒してくれる不思議な先生。
 だから……。
 

「先生は、俺が初めて尊敬できると思った方です。だから、信頼しています」
「ヤツハちゃん……」

 先生は両手を広げようとする。だけど、すぐに降ろした。
 
「これは次に会う機会に取っておきましょう。あなたの先生として、その尊敬に見合う行動をとって見せます! またね、ヤツハちゃん」

 トンッ、と魔導杖で地面を叩き、音もなく先生は姿を消した。
 
 地面には先生の足跡だけが残っている。
 それを目にして、ちょっとだけ寂しい思いが心に広がる。

(いつものおふざけはなしか……次に会った時は少しくらい揉みくちゃにされても我慢しようかな)

 冬の分厚い雲の下で、寒風が舞う。
 俺は冷たい風に押され、踵を返した。
 そして、リーベンへ戻る。
 全てを取り戻すために。
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