マヨマヨ~迷々の旅人~

雪野湯

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第三十章 ある一つの結末

懐かしき姿

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 身の内から噴き出す、魔力の奔流……。
 それはかつて、ヤツハが身に纏っていた、あの黄金の魔力。

 
 その姿にエクレルは驚き、フォレは親しみを感じる。
(あの魔力の濃度に波長は、以前のヤツハちゃんに似ている。どうして?)
(あれはヤツハさんの……? あの少年は一体?)

 
 ウードには、黄金の魔力は使えない。
 だから、あのシオンシャ大平原で絶大な魔力を宿して以降、仲間たちにはこう説明していた。
 黄金の魔力と引き換えに、新たな力を得た、と。
 それは曖昧な説明であったが、仲間たちはヤツハを信じ、多くを言及しなかった。

 しかし、今ここに、ヤツハの力を持つ者がいる。
 その姿は彼女とは全くの別人。
 それなのに、何故か懐かしさを感じさせる。
 
 この想いはエクレルやフォレのみならず、彼女と共に戦いの場を駆け抜けた全て者たちが感じていた。
 

 アプフェルを残して……。
 アプフェルだけは黄金の力を目にして、懐かしさではなく、心に渦巻く不安を抑えるので精一杯だった。

(あの力はやっぱり。でも、まだ駄目)
 ちらりとフォレを見る。
(フォレ様はまだ動かない。だから、耐えて。私!)


 ヤツハと同じ道を歩んできた者たちは、笠鷺を不思議そうに見つめている。
 その姿にウードは焦りを覚えた。

(これはまずいわね。下手をすれば勘づかれる……仕方がない。本当はもっと楽しみたかったんだけど)

 ウードはフォレたちを目にして残念そうに溜め息を漏らした。
 彼女は彼らに笠鷺を殺させるつもりだった。
 仲間だった者たち、友だった者たちに命を奪われる笠鷺の姿を、心ゆくまで玩味するはずだった。
 
 だが、彼らは黄金の風を纏う笠鷺の姿に、ヤツハを重ねようとしている。
 それはまだまだ小さな違和感に過ぎない。
 しかし、刃を交えれば、その違和感はより一層大きくなり、真実に届くかもしれない。

 だから、ウードは……。


「みんな、下がってろ。ここは俺だけで十分だ」
「ヤツハ様?」
「フォレ、俺はこの男とはちょいとした因縁があってね。そんな男が王都の厳重な警備網を掻い潜って、わざわざ求婚してきたんだぜ。だったら、本懐を遂げさせてやらないとな」

「何を言っているんですかっ!? そんなことさせるわけにはいきません!」
「何だよ、フォレ? 俺のことが信用できないのか?」
「そ、そのようなことは……」
「大丈夫だよ、フォレ。俺は負けたりしないから。だけど……ふふ、心配してくれてありがとうな」


 ウードは微笑む。ヤツハの仮面を被って……。
 それは久しぶりに見た、昔のヤツハの暖かな笑顔。
 粛清の荒らしが吹きすさぶジョウハクでは、ずっと彼女は宰相としての顔を見せていた。
 そのヤツハが、みんなに、フォレに、懐かしい笑顔を見せてくれたのだ。
 忘れかけていた想い人の笑顔は、フォレの心の奥で反響し木霊する。


「ヤツハさん……わかりました。ここは下がります」
「くす、ヤツハさんか。やっぱり、ヤツハ様よりもさん付けの方がしっくりくるかもな」
「あ、失礼しました」
「ううん、いいんだ。最近の俺はちょっと意固地になっていたのかもしれないな。お前の優しさに触れて、昔の自分を思い出したよ」

 ウードは皆の知るヤツハの雰囲気を纏う。
 もちろん、それは偽り。
 だが、ずっと冷淡なヤツハを見続けてきた彼らには、それは偽りではなく本物に見えた。
 皆はこう思う。
 
 あの頃のヤツハが戻ってきたのではないかと。

 彼らの瞳には楽しかった王都の思い出が浮かぶ。
 ウードも瞳に優しさを籠めて、みんなへ微笑んだ。
 しかし、その瞳の奥にはどす黒く腐れ果てた闇が渦巻いていた。

(馬鹿な連中。ほんの少し、郷愁を纏わせただけでこうまで変わるなんて……だけどこれで、この暗愚どもに浮かんだ疑念は無くなった。私をヤツハだと心に刻んだ)


<あなたはヤツハじゃない!>


 ウードの心に幼いヤツハの声が響いた。
 それはとてもとても小さな声。力なき声。
 そんな憐れな声に一切の慈悲を見せず、ウードは心に刃を広げた。

<ダマレ>

 たちまちのうちに幼いヤツハの気配は消え去る。
(まったく、こんな時に鬱陶しい。そろそろ、コレをからかうのも飽きたし、消す頃合いかもね)

 ウードは笠鷺の命を奪ったのちに、小さく残っていたヤツハの魂を消し去ると決めた。
 そこから意識を一度フォレたちへ向けて、次に笠鷺へと移す。

 ヤツハの皮を被ったウードは、フォレたちが真実へ届かぬように自らの手で笠鷺を葬る。


「そんなわけで、笠鷺。俺と一対一で勝負ってのはどうだ?」
「この糞虫がっ。その喋り方やめろっ!」
「俺がどう喋ろうと俺の勝手だろう。で、どうするんだ? もし、受けるなら、そこのおっさんとキタフだけは見逃がしてやるぞ。と言っても、牢にぶち込むけどな」
「そのあとは処刑すんだろ? この二人をお前なんかに渡したりしない!」
「フン、どういう関係かは知らないけど……わかった、二人の命は保証する。これでどうだ?」

 ウードはキタフに視線は向けず、バーグにだけ向けた。
 つまり、バーグは放免とするという印。
 キタフはマヨマヨの技術を持つ脅威の存在。
 生かしてはおくが、自由はない。


 そのメッセージを受けて、笠鷺は小声でバーグとキタフに話しかけた。

「俺は一対一の提案を受ける。だけど、二人はなんとか逃げ出す算段をつけてくれ。あいつは信用できない」
「ってことはぁ、申し出を受けたように見せかけて、その隙を突けってことか」
「そういうことであるならば、派手に立ち回ってくれ。妨害フィールドが緩めば、貴様も一緒に転送可能かもしれん」
「まだ、逃げ出せる希望があるってことだな。わかった、俺の全てをぶつける……それに、まだ負けが確定したわけじゃない」

 
 笠鷺はウードへの返答に、魔力を高め応え、それに伴いバーグとキタフから離れていく。
 その魔力は黒騎士を遥かに超える力。
 彼は思う。

(なんであれ、一対一とは好都合の展開。これなら、殺せるチャンスがあるはずだ)
 左拳を握り締める。
 そこに宿っているのはトーラスイディオムの力。

 その力を秘匿しつつ、彼は魔力を解放した。
 衝撃波は草原を駆け抜け、多くの目を驚愕へといざなうう。


 しかし――!!

「それがお前の力ってわけだ。いや、驚いた。だけど、俺はもっとすごいぞ」
 ウードの内から逆巻さかまく魔力の奔流が立ち昇る。
 それは紅蓮と闇のすすが混じり合う、穢れた赤の色。

 その穢れを前に、大地は恐怖に震え、草花は嘆きに手折たおれる。


 ウードはフォレたちへ声を掛ける。

「みんな、結界を張ってくれ。おそらく、激しい戦いになる」
 フォレは無言で頷き、六龍バスク、エクレル、クレマが中心となり、強固な広域結界を産み、皆を包んだ。
 空に浮かぶマヨマヨたちもまた、強力なシールドを纏って、戦場となる場から遠ざかる。
 それらの様子を見たキタフは左右に浮かべていた機械仕掛けの球体からシールドを造り、バーグと己を包み込んだ。
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