殺し屋令嬢の伯爵家乗っ取り計画~殺し屋は令嬢に転生するも言葉遣いがわからない~

雪野湯

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第一幕

第五話 姉を見下す弟と妹へお仕置き

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 シオンの私室は三階にあるらしく、そこまでルーレンに案内される。
 そこに至るまで、屋敷内の様子に目を配る。
 
 整理整頓されており、要所要所に目を休める花の飾り。
 また、絵や彫刻などもちらほら。
 内装は白と黒で統一されていて、装飾品は程よく華美であるが大きな主張はせず、実に上品で落ち着いている。
 所謂いわゆる、シックというやつだ。

 所々には石の入ったランプ。
 これらは魔石という名の鉱石らしく、大地に宿る力が鉱石に移り、魔石となり、様々な力を発揮してくれるとか。
 ランプに入った魔石たちには光の力とやらが宿っているようで、夜になるとこの魔石たちが光を放ち電灯の代わりになるそうだ。
 異世界っぽくて興味深い。


 俺は一定間隔に配置されてある窓へ視線を移す。
 
(今のところ玄関以外の出入り口はわからないが、窓は多いな。防犯的にはお粗末だが、逃げやすくて助かる。下は……土や芝生。高さもさほどではないから、その気になれば窓からの脱出も可能――って、俺は何を……)

 つい、仕事の癖で脱出路を考えてしまった。
 まぁ、考えても悪いことじゃないだろうが……。


 こんなことを考えていると、ふとルーレンが足を止め、前を向いたまま声を立てる。
「あっ」
「どうされましたの、ルーレン? あら?」


 ルーレンの視線の先を追う。
 視線の先には双子の男女。
 今の俺よりも二・三歳ほど年下の双子が通路を通せんぼしていた。

 双子を見て、ルーレンからの情報を思い起こす。
(あれが双子の弟と妹か。年は十一歳。長男を除けば、兄弟の中で一番優秀で父親に目を掛けられているという)

 まず、弟を観察。
 黒髪の短髪。瞳は母親と同じ茶色。
 黒のスラックスに白のブラウス。ブラウスの上には所々に刺繍がほどこしてある深紅のジレを着用している。

 次に妹。
 赤と黒が重なり合う洒落た髪色のショートヘア。瞳は濃茶色で黒に近い。
 白のスカートに鼓笛隊が着てそうな青色と白が交わる派手な服を着用。


 双方ともに口端をくいっと上げて生意気な雰囲気だが容姿は整っており、双子とあって同じ顔。しかし、瞳の形が僅かに違う。
 弟の方は母に似てやや釣り目で、妹は切れ長の瞳。
 シオンもダリアもそうだが、かなり美形な家系とみられる。

 二人はルーレンを見ると、指先で自分の鼻を摘まむ。
「うわ、何か臭いと思ったらドワーフの匂いか~」
「あいつらって獣の臓物を食べるから、匂いが体に染みついちゃっているんだよね~」


 そう言いながら、くすくすと笑い声を上げる。
 ルーレンは体を縮めて通路の壁際に寄る。それはまるで、少しでも自分の匂いが外に出てしまわないように押さえ込むような態度。

 俺は身を竦めるルーレンの前に立ち、双子に話しかける。
「たしか、アズールとライラでしたか? わたくしの弟と妹……」
「え、本当に記憶を失ってんの?」
「なんだかしゃべり方も変だし」

「どうやら事情は伝わっているようですわね。で、何か御用? お見舞いかしら?」
 こう尋ねると二人は腹を抱えて笑い始めた。

「あははは、僕たちがお見舞いだって!」
「プクククク、なんで落ちこぼれのお姉様のために私たちの貴重な時間を割かなきゃならないのよ」

 
 事情を知っているということは、崖から落ちたという話も伝わっているはず。
 それなのにこの反応。

(シオンは母親だけじゃなくて、弟と妹からもこんな態度を……これはきっついな)
 この分だと彼らだけではなく、家族全員から同じような態度を取られていたのではないだろうか。
 相手は家族。毎日顔を合わせるのが当然であり、逃げることは許されない環境。 

(命を懸けてまで行った依頼の要因と復讐相手がほぼ確定したな。ま、そうなっても当然か)
 シオンは貴族であり、衣食住の心配など皆無。
 だが、そうであってもこれは十四歳の少女には耐えがたい環境。
 大人とて、毎日のように誰かに馬鹿にされていれば自ら命を絶ちたくなるもの。
 たとえ、衣食住に不自由なく、身体的な命の保証がされた環境であっても……この環境では心は守れない


 俺は壁端に寄って苦悶の表情を浮かべているルーレンへ瞳を向ける。
(ドワーフ、か。双子の様子からメイドとしてだけではなく、種族としても差別の対象みたいだな。いや~、なかなか面白い場所だ)

 もちろん皮肉だ。
 裏の世界を生き、力による支配という快感を知ってはいるが、別に俺は差別や弱い者いじめが好きなわけではない。
 とはいえ、牙を剥くこともできないルーレンのような弱者はあまり好きではないが……ちらりとルーレンを見る。


(ま、今のところ味方になりそうなのはルーレンだけのようだしな。彼女からの好感度を上げておくため、迷惑にならない程度に双子へお仕置きしておくか)
 あからさまにルーレンを庇えば後日別件で彼女がいじめられる。
 だから双子の矛先を俺だけに向ける。

「わたくしたちは先を急いでますのでそこをどきなさい。おチビちゃん」
「なっ!? 僕たちにそんな口を聞いていいと思ってるのか!」
「そうよそうよ! お母様に言いつけてやるんだから!」

「あら、ママに頼らなければならないお子様なんですの? 優秀だと聞いていましたけど、親離れはできていないのですね」
「こ、このっ」
「な、何よ、お姉様の分際で!」

「あらあら、その分際相手に貴重な時間を割いてもよろしいの? わたくし相手に貴重な時間を割きたくないのでしょ?」
「だ、だまれ! 生意気なこと言って!」
「このことは――」

「お母様に言いつけてやるんだから、ですか?」
「あ……」
「クスッ、ご自由に。あなたに誇りがなければね」
「ぐっ」


「それではルーレン、行きますわよ」
「え、は、はい」

 俺はルーレンを連れて道を塞いでいる双子に近づく。
 最後にもう一度だけ、二人にお願いをする。俺方式で……。

「どけ。その細首をへし折られたくないならな」
「ひっ」
「うっ」

 双子は迫力に押されて道を譲った。
 優秀で生意気であっても所詮はガキ。それに貴族のお子様であるため、誰かに脅されるなんていう耐性もなく、ましてや見下していたはずの存在から不意に詰め寄られれば驚いて当然。

 双子の間を通り、後ろを振り返って笑顔を見せる。
「フフフ、今のは冗談よ。では、ごめんあっさーせ」

 俺はお上品なお嬢様言葉を残し、静々と廊下の先を歩む。
 後ろからトテトテついてきているルーレンが話しかけてくる。

「シ、シオンお嬢様。今のは……本当に冗談、なのですよね?」
「ええ、もちろん。そうわよ」
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