11 / 32
第二章 ベタないじめを拳でぶっ飛ばす
罪の受け方、罰の受け方
しおりを挟む
ネティアは三人娘を連れて、ここから離れていく。
彼女の背中をミコンは歯を食い縛り見つめる。
その視線に気づいたのか、ネティアは振り返り、口端を緩める。
「ミコン、以前も言いましたが、我を忘れていたとはいえあなたは魔導生なんだから、魔法を使いなさい、魔法を」
「にゃっ……うるさいですよ」
微笑みを残して立ち去るネティア。
食い縛りを歯ぎしりに変えて、彼女を見送るミコン。
彼女たちの影が無くなったところで、レンが話しかけてきた。
「ミコン……」
「すみません。感情に呑まれて我を失ってしまいました」
「いや、友のために怒れることは良いことだよ」
「いえ、そうとは限りません」
「え?」
「ミコン! はぁはぁはぁはぁ」
ラナが肩を上下に揺らし息を切らして現れた。
ミコンは彼女へ近づき、謝罪を述べる。
「ごめんなさい、ラナちゃん。仇は取れませんでした」
「そいな」
「そしてそれ以上に、心配をかけてしまい本当にごめんなさい」
ミコンは深々と頭を下げる。それにラナは両手を前に出して振りながら慌てた様子を見せた。
「なんもなんも! やめって」
ラナの声を受け取って、ミコンは頭を戻す。
そして、すでにネティアの居なくなった廊下に彼女の姿を思い浮かべて、ラナへ言葉を渡した。
「ですが、あの三人娘は罰を受けます」
「え?」
「そして何より、ネティアも……」
――後日
ネティアと取り巻き三人娘が学園の廊下を歩いている。
すると、通りすがりの生徒たちがこそこそと言葉を立てる。
「あの人たちでしょ。庶民いじめをしてた人たちって」
「ああ、その庶民のリボンをドブにつけたとか? しかもそれ、母親からの贈り物らしいぜ」
「四大名門の恥さらしよね~。いえ、私たち貴族の恥よ」
「俺も庶民が同じ学園に通っているのは気に食わないけど、あんなくだらないことはできねぇよ」
「クスクス、四大名門のくせに貴族の立ち振る舞いを知らないなんて笑える~」
浴びせられる誹謗。
ネティアはそれを何するものぞと、涼しげな顔で歩く。
だが、彼女の取り巻きである三人の女生徒はとても苦しげな表情で歩き、時折ネティアへ申し訳なさそうな視線を向けていた。
その様子をミコン・レン・ラナは見ていた。
ミコンは語る。
「ネティアは無関係。あれは三人娘が勝手にやったこと。だけど、ネティアは自分の罪として受け入れた」
レンは問う。
「どうして?」
「けじめでしょう。ネティアとあの三人娘の関係はわかりませんが、ネティアにとって大切な友達であり、自分はリーダーでもある。だから、三人娘の不始末を庇い、責任を取った。同時に、三人へ反省を促すもの」
ラナが疑問に言葉を揺らす。
「どして、三人が? どな、反省を?」
「三人にとってネティアは尊敬すべき存在。だけど、自分たちの行いが尊敬すべき相手を傷つけることになった。今後、あの三人はあんなことを絶対にしないでしょう。行えば、ネティアが率先して罪を背負うから」
レンが得心が行ったと声を上げる。
「なるほど、ネティアの行動は三人への抑止力というわけか」
「ええ、そして自身が罰を受けることで、ラナちゃんへの罪滅ぼしを行った」
「そいな。それで、みんなから悪口を……そまでは、求めてないんや……」
「求めなくても、そうじゃないと自分を許せない。彼女は、誇り高き貴族だから――でも、私はその行為を腹立たしく感じます」
「ミコン?」
「どして?」
ミコンは目元に皺を寄せて、怒りと悲しみが混ざり合う表情を見せて、こう言葉を漏らす。
「私から、いえ、庶民から絶対に罰など受けないという意思を感じました。自分勝手に罰を選び、罪を背負うネティアが腹立たしく感じます……だけど、私を――」
ミコンはネティアの姿をレモンイエローの瞳に納める。
(身を挺して、私を止めてくれた。三人娘を守ると同時に私までも。もし、あの時、ネティアの殺気を受けなければ、我を失った私は三人娘を殴りつけて、何らかの処分を受けていた。それを止めてくれた)
ミコンはラナへ瞳を向ける。
(処分を受ける事態になったら、ラナちゃんを悲しませることになっていた。あの時の私はそんなことにも頭が回らずに……だけど、ネティアは……私のことが気に食わない存在だと思っているのに、ネティアは……)
レンへ顔を向けて、ネティアという存在を見つめ直す。
「レンちゃん。私はネティアを過小評価していたようです。四大名門という威を借りる取るに足らない女狐だと思っていました。だけど――なかなかやるっ」
「……そうか」
「だからといって、好きにはなれませんけどね。ネティアから感じる庶民への差別感情。私への嫌悪は本物。それはとても強いもの。理由はわかりませんが……」
ミコンの視線がネティアへ突き刺さる。
そのネティアは粒の囁きである霧雨のような誹謗を受けながらも、貴族として臆することなく廊下を歩く。
そして、背後に立つミコンの視線を感じ取る。
(ミコン=ペルシャ。あの程度で感情に呑まれるなど、実に愚か……ですが、冷静さを取り戻した彼女は恐ろしいほどまでに切れますわね。まだまだ怒りの炎くすぶる感情を心に宿しながら、冷静に私と三人の関係を正しく見抜いた)
ネティアはミコンを強く意識する。苦悩と憎しみを籠めて――。
(そして、私の言わんとすること、責任の取り方を即座に察した……貴族の方でもあのような者は少ない。ですが、認めるわけにはいかない。そう、だからこそ、庶民が学問を学ぶなど反対なのです…………あのような庶民がいるからこそ! 絶対に認めるわけにはいかないんですのよ!!)
彼女の背中をミコンは歯を食い縛り見つめる。
その視線に気づいたのか、ネティアは振り返り、口端を緩める。
「ミコン、以前も言いましたが、我を忘れていたとはいえあなたは魔導生なんだから、魔法を使いなさい、魔法を」
「にゃっ……うるさいですよ」
微笑みを残して立ち去るネティア。
食い縛りを歯ぎしりに変えて、彼女を見送るミコン。
彼女たちの影が無くなったところで、レンが話しかけてきた。
「ミコン……」
「すみません。感情に呑まれて我を失ってしまいました」
「いや、友のために怒れることは良いことだよ」
「いえ、そうとは限りません」
「え?」
「ミコン! はぁはぁはぁはぁ」
ラナが肩を上下に揺らし息を切らして現れた。
ミコンは彼女へ近づき、謝罪を述べる。
「ごめんなさい、ラナちゃん。仇は取れませんでした」
「そいな」
「そしてそれ以上に、心配をかけてしまい本当にごめんなさい」
ミコンは深々と頭を下げる。それにラナは両手を前に出して振りながら慌てた様子を見せた。
「なんもなんも! やめって」
ラナの声を受け取って、ミコンは頭を戻す。
そして、すでにネティアの居なくなった廊下に彼女の姿を思い浮かべて、ラナへ言葉を渡した。
「ですが、あの三人娘は罰を受けます」
「え?」
「そして何より、ネティアも……」
――後日
ネティアと取り巻き三人娘が学園の廊下を歩いている。
すると、通りすがりの生徒たちがこそこそと言葉を立てる。
「あの人たちでしょ。庶民いじめをしてた人たちって」
「ああ、その庶民のリボンをドブにつけたとか? しかもそれ、母親からの贈り物らしいぜ」
「四大名門の恥さらしよね~。いえ、私たち貴族の恥よ」
「俺も庶民が同じ学園に通っているのは気に食わないけど、あんなくだらないことはできねぇよ」
「クスクス、四大名門のくせに貴族の立ち振る舞いを知らないなんて笑える~」
浴びせられる誹謗。
ネティアはそれを何するものぞと、涼しげな顔で歩く。
だが、彼女の取り巻きである三人の女生徒はとても苦しげな表情で歩き、時折ネティアへ申し訳なさそうな視線を向けていた。
その様子をミコン・レン・ラナは見ていた。
ミコンは語る。
「ネティアは無関係。あれは三人娘が勝手にやったこと。だけど、ネティアは自分の罪として受け入れた」
レンは問う。
「どうして?」
「けじめでしょう。ネティアとあの三人娘の関係はわかりませんが、ネティアにとって大切な友達であり、自分はリーダーでもある。だから、三人娘の不始末を庇い、責任を取った。同時に、三人へ反省を促すもの」
ラナが疑問に言葉を揺らす。
「どして、三人が? どな、反省を?」
「三人にとってネティアは尊敬すべき存在。だけど、自分たちの行いが尊敬すべき相手を傷つけることになった。今後、あの三人はあんなことを絶対にしないでしょう。行えば、ネティアが率先して罪を背負うから」
レンが得心が行ったと声を上げる。
「なるほど、ネティアの行動は三人への抑止力というわけか」
「ええ、そして自身が罰を受けることで、ラナちゃんへの罪滅ぼしを行った」
「そいな。それで、みんなから悪口を……そまでは、求めてないんや……」
「求めなくても、そうじゃないと自分を許せない。彼女は、誇り高き貴族だから――でも、私はその行為を腹立たしく感じます」
「ミコン?」
「どして?」
ミコンは目元に皺を寄せて、怒りと悲しみが混ざり合う表情を見せて、こう言葉を漏らす。
「私から、いえ、庶民から絶対に罰など受けないという意思を感じました。自分勝手に罰を選び、罪を背負うネティアが腹立たしく感じます……だけど、私を――」
ミコンはネティアの姿をレモンイエローの瞳に納める。
(身を挺して、私を止めてくれた。三人娘を守ると同時に私までも。もし、あの時、ネティアの殺気を受けなければ、我を失った私は三人娘を殴りつけて、何らかの処分を受けていた。それを止めてくれた)
ミコンはラナへ瞳を向ける。
(処分を受ける事態になったら、ラナちゃんを悲しませることになっていた。あの時の私はそんなことにも頭が回らずに……だけど、ネティアは……私のことが気に食わない存在だと思っているのに、ネティアは……)
レンへ顔を向けて、ネティアという存在を見つめ直す。
「レンちゃん。私はネティアを過小評価していたようです。四大名門という威を借りる取るに足らない女狐だと思っていました。だけど――なかなかやるっ」
「……そうか」
「だからといって、好きにはなれませんけどね。ネティアから感じる庶民への差別感情。私への嫌悪は本物。それはとても強いもの。理由はわかりませんが……」
ミコンの視線がネティアへ突き刺さる。
そのネティアは粒の囁きである霧雨のような誹謗を受けながらも、貴族として臆することなく廊下を歩く。
そして、背後に立つミコンの視線を感じ取る。
(ミコン=ペルシャ。あの程度で感情に呑まれるなど、実に愚か……ですが、冷静さを取り戻した彼女は恐ろしいほどまでに切れますわね。まだまだ怒りの炎くすぶる感情を心に宿しながら、冷静に私と三人の関係を正しく見抜いた)
ネティアはミコンを強く意識する。苦悩と憎しみを籠めて――。
(そして、私の言わんとすること、責任の取り方を即座に察した……貴族の方でもあのような者は少ない。ですが、認めるわけにはいかない。そう、だからこそ、庶民が学問を学ぶなど反対なのです…………あのような庶民がいるからこそ! 絶対に認めるわけにはいかないんですのよ!!)
0
あなたにおすすめの小説
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
神は激怒した
まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。
めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。
ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m
世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。
アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。
ふとした事でスキルが発動。
使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。
⭐︎注意⭐︎
女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
【完結】悪役に転生したのにメインヒロインにガチ恋されている件
エース皇命
ファンタジー
前世で大好きだったファンタジー大作『ロード・オブ・ザ・ヒーロー』の悪役、レッド・モルドロスに転生してしまった桐生英介。もっと努力して意義のある人生を送っておけばよかった、という後悔から、学院で他を圧倒する努力を積み重ねる。
しかし、その一生懸命な姿に、メインヒロインであるシャロットは惚れ、卒業式の日に告白してきて……。
悪役というより、むしろ真っ当に生きようと、ファンタジーの世界で生き抜いていく。
ヒロインとの恋、仲間との友情──あれ? 全然悪役じゃないんだけど! 気づけば主人公になっていた、悪役レッドの物語!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる