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第二章 ベタないじめを拳でぶっ飛ばす
ミコンの師匠
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――学生寮・三階・ミコンとレンの部屋。
私はベッドの上で足を組み、手の指先を組んで腹部に置き座禅を行っています。
その様子を不思議に思ってか、椅子に座るレンちゃんが尋ねてきます。
「何をしてるの?」
「瞑想です」
「瞑想?」
「ラナちゃんの件では感情を制御できず暴走してしまいましたから、心を鍛えるために瞑想しています」
「そうなんだ。でも……」
レンちゃんは、私のプルプル震える足を見ています。
「足、苦しそうだけど、大丈夫?」
「い、いえ、大丈夫じゃないです。あ、もう、限界!」
私は足を崩し、ベッドにぱたりと横になりました。
「あ~、柚迩ちゃん師匠直伝の瞑想法は駄目ですね! 足が痛くて心落ち着けるところじゃありません!」
そう愚痴を飛ばしながら仰向けになり、痺れた足をひょいっと掲げ、バタバタと振ります。
レンちゃんはそんな私を細めた目で見つめ、明らかな呆れを声で表します。
「瞑想を始めて一分しか経ってないんだけど……」
「一分ですか? ならば、新記録です!」
「え、ええ?」
「フフフ、これで柚迩ちゃん師匠をびっくりさせることができますね」
「そうだね、別の意味でびっくりすると思うよ」
「にゃ? 別の意味という意味はわかりませんが、柚迩ちゃん師匠は十秒もできないって言ってました。私はその六倍もの時間の座禅を組めたんですよ。これはびっくりすること請け合い!」
「え、師匠さんもほとんどできないの?」
「ええ、瞑想法を知ってるだけで、自分は苦手だと言ってました」
「そうか、変わってるね……変わっていると言えば、さっきの瞑想法も変わってるね。少なくとも私は知らない」
「柚迩ちゃん師匠の故郷に伝わる瞑想法らしいですよ」
「へ~、そうなんだ。先程から出てくる、その柚迩ちゃん師匠というのは、もしかして、ミコンの武術の師匠なのかな?」
「はい。今はお兄ちゃんと一緒に旅をしています」
「そういえば、ミコンにはお兄さんがいるんだったね。あれ?」
レンちゃんは私の机に載る写真へエメラルド色の瞳を振ります。
「家族写真にはお兄さんが写ってないけど?」
「にゃふふ、写ってないやつを持ってきたんで。謝るまで、絶対に兄であることを認めません」
私はとてもにこやかな表情で不穏さの宿る言葉をレンちゃんへお渡ししました。
レンちゃんは若干顔を引くつかせて声を返してきます。
「仲、悪いの?」
「悪いわけじゃないですけど、私のとっておきの珍味を勝手に盗み食いして謝りもせず旅に出たんです。だから――ユルセナイ」
「そ、そうか。まぁ、食べ物の恨みは怖いというしね……柚迩ちゃん師匠に話を戻そうか?」
「そうですね。お兄ちゃんの話だと、あの時の怒りが蘇って、穏やかじゃいられなくなりますから」
「この様子だと、瞑想の効果はゼロだね」
「にゃ?」
「なんでもない。その柚迩ちゃん師匠だけど、どんな人なの?」
「私よりも年上なんですけど、とってもちっちゃくて可愛いです。だから、柚迩ちゃん師匠と呼んでいます。当の本人はその呼び方が気に食わない様子でしたけど、呼び続けて、私が勝ちました」
「そ、そうなんだ。でも、ミコンの師匠というからには相当な腕前なんだろうね」
「ええ、めっちゃ強いです。私が本気の本気の本気で挑んでもかすり傷一つ負わせることができませんでした」
「それは凄いな! ミコンの武術の腕前は私の剣技に匹敵するのに」
「ないですよ~、買い被り過ぎですって。レンちゃんには負けちゃってますし」
「それは練習試合でだろ。実戦だと、また違うさ」
「実戦を想定してもレンちゃんに勝てる気はしませんが……でも、剣聖と誉れ高い父を持ち、王国の英雄・剣帝の姉を持つ、学園の剣姫に認められるのは悪い気はしませんね」
「剣姫は止めてくれ。まったく誰が言い出したんだか」
レンちゃんは剣の名門・バスカ家の人間。
父・レグナー=ラス=バスカは剣聖として勇名を博し、姉のクレア=カナ=バスカは剣帝として勇名を博しています。
ついでになりますが、貴族様のミドルネームは生まれた年月や場所に因んでつけられるとか。
レンちゃんは憧れの父と姉と同じく、剣にまつわる渾名を頂き、照れ臭くも少しうれしそうでしたが、ちょっと寂しげでもあります。
「ふふふ、異名に負けないように精進しないと。とても、遠いが……」
「頑張ってください、応援してますよ……私は武道家としてじゃなくて、魔法使いとして頑張らないといけないんですが」
「そういえば、そうだったね」
「そうだったねって、そうなんです! もう!」
「あははは、ごめんごめん」
「今のわざとでしょう?」
「さぁ、どうだろうねぇ? ははは」
「もう、ひどいです。ふふふ」
村にいた頃は、年の近いお友達はいませんでした。
でも、今は私の隣には、近くには、心を通わすことのできるお友達がいます。
魔法使いを目指してアトリア学園に訪れましたが、幸運にもレンちゃんやラナちゃんという友達と出会えたことをうれしく思います。
私たちはお互いの笑い声を部屋の隅々まで溶け込ませていきます。
レンちゃんは笑いを静め、もう少しだけ柚迩ちゃん師匠について尋ねてきました。
「旅をしていると言ったけど、お二人はどんな旅を?」
「それがよくわからないんですよ。お兄ちゃんの旅の目的に柚迩ちゃん師匠は付き合っているみたいなんですけど、そのお兄ちゃんの旅の目的がさっぱりでして」
「それは妙な話だね」
「はい。まぁ、お兄ちゃんのことです。どうでもいい旅の目的でしょう。それに付き合わされている柚迩ちゃん師匠が可哀想です」
私は天井を見上げて、世界のどこかを旅している柚迩ちゃん師匠のことを思う。
――その世界のどこか
草原がどこまでも広がり、深緑が景色を覆う場所。
その中で、人と馬が行き交い踏み固められた街道を歩く一人の少女。
背格好は十二歳前後と幼いもの。
長く黒い髪を持ち、先端はウェーブを描く巻き髪。
髪と同じく黒の瞳を持つ。
多用なフリルのついた薄紫のローブの上に、同じくフリルのついた濃い紫の服を重ね、首元には純白のリボン。
頭には、キク科である淡い桃色のガーベラの花がついたカチューシャ型のヘッドドレス。
まるでドレスを纏う人形のような少女は街道をてくてくと歩いていた。
そこへ老人が操る、簡素な荷台のついた馬車が近づく。
「おや、こんなところに女の子が? まさか、親御さんから離れちまったのかい?」
老人から優しさの籠る声を掛けられた少女は、黒髪を風に流し、振り返る。
「違うよ、旅をしてるの」
「旅? お嬢ちゃんみたいなちっちゃい子が一人で?」
「見た目がこんなんだからそう思われても仕方ないよねぇ。私も年を取りたいんだけど、諸事情あって、この年齢と姿を維持しないといけないし」
「はぁ? よくわからんが、どこを目指しておるんじゃ?」
「魔導学園都市アダラまで」
「それは大変じゃな。そこまで少女の一人旅とは危険じゃし。よし、荷台に乗りなさい。この先を進めば、魔導学園都市アダラ手前の小さな町まで着く。そこまで送ってやろう」
「え、ホントに? 正直、歩くのかったるかったからなぁ。でも、『図書館の司書』の話もあるから、ミコンの件も含めて行かないわけにはいかないし。ありがとう、おじいちゃん」
少女は荷台へ近づき、飛び乗ろうとした。
そこに、人相風体の悪い数人の中年の男たちが現れる。
彼らは手に剣を持ち、厭らしく笑う。
「へへへ、ジジイとガキだけか」
「こいつは楽勝だな」
「おい、有り金を全部置いて行け」
老人は男たちへ言葉を飛ばす。
「わ、わかった。じゃが、この子に手を出すのは止めてくれ。まだ、年端もいかぬ女の子なんじゃ」
「うっせいよ。俺に命令すんじゃねぇよ、ジジイ!」
「おい、このガキ。なかなかの見た目だぜ」
「高く売れるんじゃねぇか?」
不穏なやり取り行う男たち。
これに少女は大きなため息をつく。
「は~~~~~、めんどい。ここはアダラから離れてるから治安がいまいちみたいね。だけど――」
少女は小さく笑う。
「クスッ、そのせいで私に絡むことになるなんて、馬鹿な連中」
「んだと、てめぇ!」
「ガキが、舐めやがって!」
「殺すぞ!」
男たちの猛り。老人は少女へ声を掛けて、男たちをなだめようとするが……。
「こらこら、お嬢ちゃん、余計なことを言うんじゃない。あなた方も落ち着いて。幼子の言葉ですから」
「うるせい! だから俺に命令――ウグッ!?」
突然、男の体がくの字に折れる。
男は気を失う直前に、腹部にいる存在を見た。
「が、ガキ……?」
少女の右拳が深々と男のみぞおちを捉えていた。
男が地面へ崩れ落ちる。
残りの男たちは予想だにしなかった出来事を前に、剣を持つ手を震えさせる。
その男たちを、少女は黒の瞳に収め、とてもゆったりと言葉を発する。
しかし、その言葉には、確かな棘と圧が籠っていた。
「女の子を売ろうなんて連中は、絶対に許されない。だから、二度と剣が持てないようにしてあげる」
「な、何を言ってんだ? このガキ」
「おい、なんかやべぇ感じがするぜ。なんなんだよ、お前は!?」
「私は柚迩。何の変哲もない女の子。でも、あんたたちにとっては、忘れられない悪夢になるだろうけどね……」
私はベッドの上で足を組み、手の指先を組んで腹部に置き座禅を行っています。
その様子を不思議に思ってか、椅子に座るレンちゃんが尋ねてきます。
「何をしてるの?」
「瞑想です」
「瞑想?」
「ラナちゃんの件では感情を制御できず暴走してしまいましたから、心を鍛えるために瞑想しています」
「そうなんだ。でも……」
レンちゃんは、私のプルプル震える足を見ています。
「足、苦しそうだけど、大丈夫?」
「い、いえ、大丈夫じゃないです。あ、もう、限界!」
私は足を崩し、ベッドにぱたりと横になりました。
「あ~、柚迩ちゃん師匠直伝の瞑想法は駄目ですね! 足が痛くて心落ち着けるところじゃありません!」
そう愚痴を飛ばしながら仰向けになり、痺れた足をひょいっと掲げ、バタバタと振ります。
レンちゃんはそんな私を細めた目で見つめ、明らかな呆れを声で表します。
「瞑想を始めて一分しか経ってないんだけど……」
「一分ですか? ならば、新記録です!」
「え、ええ?」
「フフフ、これで柚迩ちゃん師匠をびっくりさせることができますね」
「そうだね、別の意味でびっくりすると思うよ」
「にゃ? 別の意味という意味はわかりませんが、柚迩ちゃん師匠は十秒もできないって言ってました。私はその六倍もの時間の座禅を組めたんですよ。これはびっくりすること請け合い!」
「え、師匠さんもほとんどできないの?」
「ええ、瞑想法を知ってるだけで、自分は苦手だと言ってました」
「そうか、変わってるね……変わっていると言えば、さっきの瞑想法も変わってるね。少なくとも私は知らない」
「柚迩ちゃん師匠の故郷に伝わる瞑想法らしいですよ」
「へ~、そうなんだ。先程から出てくる、その柚迩ちゃん師匠というのは、もしかして、ミコンの武術の師匠なのかな?」
「はい。今はお兄ちゃんと一緒に旅をしています」
「そういえば、ミコンにはお兄さんがいるんだったね。あれ?」
レンちゃんは私の机に載る写真へエメラルド色の瞳を振ります。
「家族写真にはお兄さんが写ってないけど?」
「にゃふふ、写ってないやつを持ってきたんで。謝るまで、絶対に兄であることを認めません」
私はとてもにこやかな表情で不穏さの宿る言葉をレンちゃんへお渡ししました。
レンちゃんは若干顔を引くつかせて声を返してきます。
「仲、悪いの?」
「悪いわけじゃないですけど、私のとっておきの珍味を勝手に盗み食いして謝りもせず旅に出たんです。だから――ユルセナイ」
「そ、そうか。まぁ、食べ物の恨みは怖いというしね……柚迩ちゃん師匠に話を戻そうか?」
「そうですね。お兄ちゃんの話だと、あの時の怒りが蘇って、穏やかじゃいられなくなりますから」
「この様子だと、瞑想の効果はゼロだね」
「にゃ?」
「なんでもない。その柚迩ちゃん師匠だけど、どんな人なの?」
「私よりも年上なんですけど、とってもちっちゃくて可愛いです。だから、柚迩ちゃん師匠と呼んでいます。当の本人はその呼び方が気に食わない様子でしたけど、呼び続けて、私が勝ちました」
「そ、そうなんだ。でも、ミコンの師匠というからには相当な腕前なんだろうね」
「ええ、めっちゃ強いです。私が本気の本気の本気で挑んでもかすり傷一つ負わせることができませんでした」
「それは凄いな! ミコンの武術の腕前は私の剣技に匹敵するのに」
「ないですよ~、買い被り過ぎですって。レンちゃんには負けちゃってますし」
「それは練習試合でだろ。実戦だと、また違うさ」
「実戦を想定してもレンちゃんに勝てる気はしませんが……でも、剣聖と誉れ高い父を持ち、王国の英雄・剣帝の姉を持つ、学園の剣姫に認められるのは悪い気はしませんね」
「剣姫は止めてくれ。まったく誰が言い出したんだか」
レンちゃんは剣の名門・バスカ家の人間。
父・レグナー=ラス=バスカは剣聖として勇名を博し、姉のクレア=カナ=バスカは剣帝として勇名を博しています。
ついでになりますが、貴族様のミドルネームは生まれた年月や場所に因んでつけられるとか。
レンちゃんは憧れの父と姉と同じく、剣にまつわる渾名を頂き、照れ臭くも少しうれしそうでしたが、ちょっと寂しげでもあります。
「ふふふ、異名に負けないように精進しないと。とても、遠いが……」
「頑張ってください、応援してますよ……私は武道家としてじゃなくて、魔法使いとして頑張らないといけないんですが」
「そういえば、そうだったね」
「そうだったねって、そうなんです! もう!」
「あははは、ごめんごめん」
「今のわざとでしょう?」
「さぁ、どうだろうねぇ? ははは」
「もう、ひどいです。ふふふ」
村にいた頃は、年の近いお友達はいませんでした。
でも、今は私の隣には、近くには、心を通わすことのできるお友達がいます。
魔法使いを目指してアトリア学園に訪れましたが、幸運にもレンちゃんやラナちゃんという友達と出会えたことをうれしく思います。
私たちはお互いの笑い声を部屋の隅々まで溶け込ませていきます。
レンちゃんは笑いを静め、もう少しだけ柚迩ちゃん師匠について尋ねてきました。
「旅をしていると言ったけど、お二人はどんな旅を?」
「それがよくわからないんですよ。お兄ちゃんの旅の目的に柚迩ちゃん師匠は付き合っているみたいなんですけど、そのお兄ちゃんの旅の目的がさっぱりでして」
「それは妙な話だね」
「はい。まぁ、お兄ちゃんのことです。どうでもいい旅の目的でしょう。それに付き合わされている柚迩ちゃん師匠が可哀想です」
私は天井を見上げて、世界のどこかを旅している柚迩ちゃん師匠のことを思う。
――その世界のどこか
草原がどこまでも広がり、深緑が景色を覆う場所。
その中で、人と馬が行き交い踏み固められた街道を歩く一人の少女。
背格好は十二歳前後と幼いもの。
長く黒い髪を持ち、先端はウェーブを描く巻き髪。
髪と同じく黒の瞳を持つ。
多用なフリルのついた薄紫のローブの上に、同じくフリルのついた濃い紫の服を重ね、首元には純白のリボン。
頭には、キク科である淡い桃色のガーベラの花がついたカチューシャ型のヘッドドレス。
まるでドレスを纏う人形のような少女は街道をてくてくと歩いていた。
そこへ老人が操る、簡素な荷台のついた馬車が近づく。
「おや、こんなところに女の子が? まさか、親御さんから離れちまったのかい?」
老人から優しさの籠る声を掛けられた少女は、黒髪を風に流し、振り返る。
「違うよ、旅をしてるの」
「旅? お嬢ちゃんみたいなちっちゃい子が一人で?」
「見た目がこんなんだからそう思われても仕方ないよねぇ。私も年を取りたいんだけど、諸事情あって、この年齢と姿を維持しないといけないし」
「はぁ? よくわからんが、どこを目指しておるんじゃ?」
「魔導学園都市アダラまで」
「それは大変じゃな。そこまで少女の一人旅とは危険じゃし。よし、荷台に乗りなさい。この先を進めば、魔導学園都市アダラ手前の小さな町まで着く。そこまで送ってやろう」
「え、ホントに? 正直、歩くのかったるかったからなぁ。でも、『図書館の司書』の話もあるから、ミコンの件も含めて行かないわけにはいかないし。ありがとう、おじいちゃん」
少女は荷台へ近づき、飛び乗ろうとした。
そこに、人相風体の悪い数人の中年の男たちが現れる。
彼らは手に剣を持ち、厭らしく笑う。
「へへへ、ジジイとガキだけか」
「こいつは楽勝だな」
「おい、有り金を全部置いて行け」
老人は男たちへ言葉を飛ばす。
「わ、わかった。じゃが、この子に手を出すのは止めてくれ。まだ、年端もいかぬ女の子なんじゃ」
「うっせいよ。俺に命令すんじゃねぇよ、ジジイ!」
「おい、このガキ。なかなかの見た目だぜ」
「高く売れるんじゃねぇか?」
不穏なやり取り行う男たち。
これに少女は大きなため息をつく。
「は~~~~~、めんどい。ここはアダラから離れてるから治安がいまいちみたいね。だけど――」
少女は小さく笑う。
「クスッ、そのせいで私に絡むことになるなんて、馬鹿な連中」
「んだと、てめぇ!」
「ガキが、舐めやがって!」
「殺すぞ!」
男たちの猛り。老人は少女へ声を掛けて、男たちをなだめようとするが……。
「こらこら、お嬢ちゃん、余計なことを言うんじゃない。あなた方も落ち着いて。幼子の言葉ですから」
「うるせい! だから俺に命令――ウグッ!?」
突然、男の体がくの字に折れる。
男は気を失う直前に、腹部にいる存在を見た。
「が、ガキ……?」
少女の右拳が深々と男のみぞおちを捉えていた。
男が地面へ崩れ落ちる。
残りの男たちは予想だにしなかった出来事を前に、剣を持つ手を震えさせる。
その男たちを、少女は黒の瞳に収め、とてもゆったりと言葉を発する。
しかし、その言葉には、確かな棘と圧が籠っていた。
「女の子を売ろうなんて連中は、絶対に許されない。だから、二度と剣が持てないようにしてあげる」
「な、何を言ってんだ? このガキ」
「おい、なんかやべぇ感じがするぜ。なんなんだよ、お前は!?」
「私は柚迩。何の変哲もない女の子。でも、あんたたちにとっては、忘れられない悪夢になるだろうけどね……」
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