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 「ん…っ、ぅ」


 すばるくんがいつもしてくれるみたいにしたくて、舌をすばるくんの口の中にお邪魔させてもらう。
必死になって舌を動かすけど、全然上手くいかなくて歯がゆい。すばるくんの舌を刺激するように舐めると、こんな下手な俺を優しくフォローするように絡めてくれた。


 気持ちいい…でも、ちょっともどかしい。


 すばるくんがしてくれるような、甘く溶けてしまいそうな、痺れて腰を抜かすような、そんなキスとは程遠い。
すばるくんのキスが大人のキスなら、俺のキスはまるで子供が背伸びしようとしてるだけのキス。
…実際悔しいことにちょっと背伸びしてるし。


 悲しいくらいに上手くいかないまま唇を離すと、すばるくんと目が合う。


 「すばるくん…」


 俺がすがるように言うと、すばるくんは天井をしばらく見てから俺の方を向いた。


 「困るよ、ナナ」


 「え…」


 俺はサーッと血の気が引いていく気がした。
やらかした。やらかしてしまった。
いや、そうか。いくら恋人の勉強をさせてもらっているとはいえ、玄関開けていきなり下手くそなキスされてもそりゃあ困るよな。
毎日毎日最低一回はキスしてたからって調子のってた。それもほとんどは重ねるだけのキスだし、濃厚なキスなんてしてない。


 あくまで勉強なんだから、欲張ったりしちゃだめだったんだ。


 「ご、ごめん…すばるくん…俺…」


 震えそうになりながら、すばるくんを見る。
いつものキラキラとした王子様みたいな笑顔じゃなくて、眉を下げて、口元を抑えて、背中をドアにつけて、顔を赤くして……顔が赤い?


 「ナナ」


 「は、はい…」


 「あんまり可愛いことしちゃだめ」


 「……はい?」



 すばるくんは大きくため息をつくと、俺の靴を脱がせて自分の靴も脱いだ。
そして、お邪魔しますと言ってから俺を軽々と担ぐように持ち上げた。


 「えっ!?な…す、すばるくん?」


 慌てる俺の言葉に返事することなく、リビングにスタスタと入っていくとソファに寝かすように置かれた。でも、見える景色は天井じゃなくて、すばるくんの綺麗な顔。


 「すばるくん…さっきはごめん、怒ってる…?」


 「怒ってない」


 「でも、えっと…」


 笑ってない。いや、いつも笑う必要なんてないけど、すばるくんはいつも王子様みたいに笑ってて、キラキラしてて、バックに花背負っているような感じなのに…


 「本当。怒ってない…けど、困ってる」


 「あ……ごめ」


 「手、借りるよ」


 謝りかけた俺の言葉にかぶせるようにすばるくんはそう言うと、手を掴んで股間に導いた。


 ん?股間?


 「えっ、あ…す、すばるくん…」


 「勃ってるでしょ」


 「は、はい…」


 「ナナに連れ込まれて、キスされるなんて思ってもみなかったし、一生懸命で可愛くて、死ぬほど興奮して、勃った」


 「えっと…」


 「可愛すぎて困る。嬉しすぎて困る。興奮しすぎて困る」


 「キス、だめ…?」


 「………だめじゃないけど、ナナは今の状況わかってる?」


 「…怒られてる?」


 「違うよ。恋人の勉強している間は僕たちはでしょ?」


 「うん」


 「恋人が…が可愛すぎて、勃ってるって忠告してるのに、組敷かれてる状態から逃げないの?その意味わかってる?」


 「意味…?」


 「わからないの?教えてあげた方がいい?」


 すばるくんの瞳が俺を射抜くように見る。


 あ、まただ。動けない。


 捕食される者と捕食するもの。
息をしたら、その瞬間にパクリと食べられてしまいそうな緊張感。


 声が出ない。


 喉が乾く。


 俺はどうしようもなくて、すばるくんをじっと見つめるしかできない。


 「ナナ、じっとしてると食べちゃうよ?」


 わざとじっとしてるわけじゃなくって、目が離せなくて、ついでに言うと動けなくて、体がいうことをきかないんだけど、それを伝える為の声も出ない。
俺のことが可愛いだとかは、よくわからないけどキスをすると勃つからどうにかしないと困るってことだよね??
確かにすばるくんは王子様だし、自分の右手で慰めるって行為も似合わないし、俺がいるから目の前でするのもイメージ壊すから責任とってどうにかしなさいってこと??
でも、俺がすばるくんを満足させれるほどテクがあるとは到底思えないけど…


 俺は体が動けない代わりに、ない頭でなんとか色々考えてみる。
しかし、そうこうしてるうちにすばるくんはご機嫌を損ねたのか、シンキングタイムが強制的に打ち切られたのか、すばるくんの舌が首筋に這った。


 「ひゃぁっ」


 「忠告したのに…逃げないの?」


 「…っぁ」


 首筋から鎖骨にしっとりとした生温かい感触がゆっくりと降りてくる。
ゾクゾクとする感覚が腰から登ってきて、冷たい唇と熱い呼吸が肌に触れるたびに熱を帯びる。


 なんかわかんないけど、気持ちいい…っ



 でも、俺を気持ち良くしてすばるくんはどうするんだろう。すばるくんのモノを処理するならすばるくんが気持ち良くならないといけないのに。


 「すばるくん…っ、はぁ、気持ちい…ぃ」


 そう、俺は気持ちいい。
でも、俺が気持ち良くなったら今度の息子が元気になっちゃうわけで、すばるくんの息子さんには関係ないわけで…一体どうしたらいいの、と聞きたいけど、やっと絞り出せた言葉は自分のことを伝えるのが精一杯で何一つたぶん伝わってない。とても残念である。


 「…っ、ナナ…」


 「俺が…っ、すばるくんをきもちよく、させた…い」


 そう、責任!責任取らないと!!
俺ばっかり気持ち良くてもだめ!気持ち良いけど、ムラムラしちゃってるけど、だめ!



 動かなかった手がぎこちなく動く。
さっき導かれたところに、自ら手をのばしていく。
………パンパンだ。直接目にしなくてもわかるくらい成長されてらっしゃる。


 「ちょ…っ、ナナ待って…んんっ」


 すばるくんは俺の突発的な行動に驚いたのか、あたふたして顔を赤らめている。
耳まで真っ赤だ。
………なんだろう、すごくドキドキして、楽しくて、興奮する。


 「すばるくん、脱いで。直接触りたい」


 「えっ、本気!?」


 「…本気。だめ?」


 だって、責任とらないと。


 「…っ、だめ、じゃないです」


 「良かった」


 良かった!責任とれる!
俺はふっ、と力が抜けて笑うとすばるくんは何故だか両手で顔を覆って天井を仰いでから深く深呼吸した。


 「すばるくん?」


 「待って。本当にちょっと待って。もう、なんか色々ありすぎて、服脱ぐだけでイっちゃいそう」


 「…イったらいいのに」


 「かっこ悪いでしょ。そんなの嫌」


 イけるならイけばいいのにって思ったけど、すばるくんは何故かそれを良しとしなかった。そんなこと気にしなくてもすばるくんはいつだって、どんな時だってかっこいいのに。
すばるくんもかっこ悪いとかそういうこと気にするんだ…なんか、意外で可愛い…かも。


 「なんか、すばるくん…可愛い」


 足の間のテントが張っているところを手でそっと撫でると、すばるくんがピクッと反応するように体を震わせた。
顔赤い…なんか、照れてるみたいな顔が新鮮で可愛い。もっと見たい。


 「脱いで。触りたい」


 「…っ、触りたいって…」


 「すばるくんのそういう表情…いっぱい見たい」


 「う…、ナナ、どこでそんなおねだり覚えたの…」 


 「?だめ?」


 「だめじゃない、です」


 何故か敬語で言うすばるくんがおかしくて、可愛くて、なんだか嬉しい気持ちになってくる。
すばるくんは本日何度目かの大きなため息をついてから、意を決したようにソファから立ち上がってカチャカチャとベルトを外す。


 「…僕だけじゃなくて、ナナも脱いで」


 「えっ」


 「ナナがキスしたいって言ってくれるみたいに、僕だってナナに触りたいって思ってる。だめ?」


 「あ、えっと…だめじゃないです」


 今度は俺が敬語で返す番になってしまった。
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