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第36話 きっと、これが最後の夏だから
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校庭で行われている後夜祭には、ほとんどの生徒が参加していた。閉会式が終わりそのままほぼ全員が後夜祭会場の校庭に移動して、残り僅かの学校祭を楽しもうとしていた。
私も、そのうちの一人。
だって、もしかしたら、こういう機会は二度と訪れないのかもしれないのだから。目一杯満喫させてもらおうと思った。できれば、それはみんなで……茜や、絵見ちゃん、戸塚君や……陽平君と一緒に見られたら、どんなによかったのだろう。
けど、それは実現しなかった。まず、戸塚君と茜は閉会式が終わるとすぐに教室のある方へと向かっていったから。そして、それを見た絵見ちゃんも、時間をおいて後を追っていった。陽平君は同じクラスの男子たちに囲まれて色々ともみくちゃにされていた。中嶋君や相上君、六井君とかに髪をくしゃくしゃに撫でられて「お疲れっ高崎」などと言われている辺り、クラス発表の功績を労っているのだと思う。
私たちの一年七組は、一年生のなかではクラス発表一位だったから。閉会式でポイントの結果発表が行われて、私たちのクラスが読み上げられたときは、クラスメイトほぼ全員から割れんばかりの悲鳴と歓声が上がったけどね。
……それより。
あんな楽しそうな顔もできるようになったんだね。陽平君。
私と一緒にいたころは、今みたいに弾けた笑顔なんて見せてくれなかった。
出会った頃なんて、滅多に笑ってなんかくれなかった。仲良くなった夏以降だって、穏やかにそっと目尻を細めるような、そんな笑顔しか浮かべなかった。
よかったね……陽平君。もう、陽平君は……あのときの陽平君と違う。
そのことが嬉しくて、ちょっぴり、寂しかったりもした。
……三人は、どこに向かったんだろう。教室、かな……。
ちょっと、様子だけ見に行こうかな……。もしかしたら、まだ何か後片付けが残っていたのかもしれないし。
少し名残惜しいけど、私は盛り上がる後夜祭を後にして、校舎へと戻った。
何も音がしない校内は、足音ひとつ、靴と床がキュッとこすれる音でさえ遠くまで響いてしまう。別に出して悪いってわけではないのだけど、なぜかこういう雰囲気だと音を出さずに歩こうとしてしまう。
少しずつ一年七組の教室に近づいていく。それにつれて、叫び声にも近いような女の人の声が聞こえてくる。
「茶化さないで」
この声……絵見ちゃん……? こんな鋭い声出すなんて……何があったの……?
私はつい早足になって、急いで教室のドアの前に身を置く。
「……そう、だけど」
「遥香は陽平のこと、知ってるの?」
「教えてない」
「じゃあ、何を話していたの?」
「そ、それは……」
会話の相手は……戸塚君だ。でも、いつもの明るさはその声からは伺えず、むしろ弱々しささえ感じとれてしまう。
「これはさ……私の勘なんだけど。陽平のその、恋ができないっていうの、もしかして遥香と関係があるんじゃないの? その確認かなんかをするために恵一は遥香と話をしていた。……なら、理由はもうわかっているんじゃないの?」
「っ……」
恋が、できない……? 陽平君、が?
……な、なんで……。そんな、素振りどこにも……。
絵見ちゃんの口から聞こえてきたことに、思わず体が固まってしまう。
「それに。昨日今日と恵一、顔色ひどすぎ。ここ最近も最近だったけど、今はもっとひどい。身内に不幸があったのって思うくらいだよ。クマもちょっとできてるし」
いきなり飛び込んできた事実に、頭の回転が追い付かない。
「ねえ。恵一。一体何を、隠しているの……?」
「べ、別に、何も隠してないし、及川と話したのだって、単に俺が教室に遅くまで残っていたら及川が来たからちょっと世間話してただけで……」
「まだ白を切るの? そこまでして言いたくないことなの? その程度の仲だったの? 私たちって」
もしかして、二人は陽平君のその話をしているの? ……それで、戸塚君が何かわかっているのだけれど……。
──私のことを、秘密にするために、今戸塚君は責められているんだ。
「答えてよ、恵一……!」
今までで一番大きい絵見ちゃんの声だった。
……私のために、戸塚君がこんな思いをする必要は、ない。
きっと、この五人で過ごす夏は、今年が最後だから……それなら……。
もう、皆にも、話していいのかな……。
「戸塚君……ごめんね、戸塚君にだけこんな苦しい役押し付けて……。私が話すから……もう、いいですよ……」
気が付いたら、私は夕陽差し込む教室に踏み込んでいた。そこには、二人の他に、呆然と椅子に座り込んでいる茜もいた。
「お、及川……? 及川まで、どうして……」
「戸塚君。……私のこと、話せば解決しますか……?」
「お、おい……何言っているんだよ及川、それを話したら……」
私の言葉に何かを察したのか戸塚君は慌てて止めようとする。
「遥香は……何か知っているの?」
けど、一度溢れた水は簡単に戻らない。絵見ちゃんが、私の一言に反応したから。
「私も何も知りません。……でも、多分、私の過去とは、きっと関係があるんだと思います。……だから、戸塚君は話そうとしないんだと……」
「そうなの、恵一?」
戸塚君は諦めたように力なく首を縦に振る。
「で、でも。遥香って旭川出身って言ってたよね……? 陽平とも高校からって」
私は、それを遮るように、言ったんだ。
「嘘、なんです。それ……」
「え?」
「私は……札幌出身です。それに……陽平君と、同じ小学校でした」
「……ほ、本当に……?」
絵見ちゃんは口に手を当てて私の告白に驚いているし、茜も声にこそ出していないけど表情は驚愕に満ちている。
「六年生のときだけ、同じクラスになっただけですけど……。でも、その年から、趣味があった私たちは仲良くなったんです」
「……じゃあ、なんで、陽平は遥香のこと……覚えていないの? 仲、よかったんだよね……? それに、陽平と同じ小学校なら、私たちと同じ中学校にいないとおかしいと思うけど、遥香はいなかった……よね?」
あっさりと、絵見ちゃんは私の言っていることのおかしさを指摘してくる。さすがだなあ……。
「それは、私と陽平君が、三年前の三月に、交通事故に遭ったからです」
「じ、事故……?」
ほのかに、事故当日の記憶がよみがえってくる。私の、最後の一日の記憶が。
私も、そのうちの一人。
だって、もしかしたら、こういう機会は二度と訪れないのかもしれないのだから。目一杯満喫させてもらおうと思った。できれば、それはみんなで……茜や、絵見ちゃん、戸塚君や……陽平君と一緒に見られたら、どんなによかったのだろう。
けど、それは実現しなかった。まず、戸塚君と茜は閉会式が終わるとすぐに教室のある方へと向かっていったから。そして、それを見た絵見ちゃんも、時間をおいて後を追っていった。陽平君は同じクラスの男子たちに囲まれて色々ともみくちゃにされていた。中嶋君や相上君、六井君とかに髪をくしゃくしゃに撫でられて「お疲れっ高崎」などと言われている辺り、クラス発表の功績を労っているのだと思う。
私たちの一年七組は、一年生のなかではクラス発表一位だったから。閉会式でポイントの結果発表が行われて、私たちのクラスが読み上げられたときは、クラスメイトほぼ全員から割れんばかりの悲鳴と歓声が上がったけどね。
……それより。
あんな楽しそうな顔もできるようになったんだね。陽平君。
私と一緒にいたころは、今みたいに弾けた笑顔なんて見せてくれなかった。
出会った頃なんて、滅多に笑ってなんかくれなかった。仲良くなった夏以降だって、穏やかにそっと目尻を細めるような、そんな笑顔しか浮かべなかった。
よかったね……陽平君。もう、陽平君は……あのときの陽平君と違う。
そのことが嬉しくて、ちょっぴり、寂しかったりもした。
……三人は、どこに向かったんだろう。教室、かな……。
ちょっと、様子だけ見に行こうかな……。もしかしたら、まだ何か後片付けが残っていたのかもしれないし。
少し名残惜しいけど、私は盛り上がる後夜祭を後にして、校舎へと戻った。
何も音がしない校内は、足音ひとつ、靴と床がキュッとこすれる音でさえ遠くまで響いてしまう。別に出して悪いってわけではないのだけど、なぜかこういう雰囲気だと音を出さずに歩こうとしてしまう。
少しずつ一年七組の教室に近づいていく。それにつれて、叫び声にも近いような女の人の声が聞こえてくる。
「茶化さないで」
この声……絵見ちゃん……? こんな鋭い声出すなんて……何があったの……?
私はつい早足になって、急いで教室のドアの前に身を置く。
「……そう、だけど」
「遥香は陽平のこと、知ってるの?」
「教えてない」
「じゃあ、何を話していたの?」
「そ、それは……」
会話の相手は……戸塚君だ。でも、いつもの明るさはその声からは伺えず、むしろ弱々しささえ感じとれてしまう。
「これはさ……私の勘なんだけど。陽平のその、恋ができないっていうの、もしかして遥香と関係があるんじゃないの? その確認かなんかをするために恵一は遥香と話をしていた。……なら、理由はもうわかっているんじゃないの?」
「っ……」
恋が、できない……? 陽平君、が?
……な、なんで……。そんな、素振りどこにも……。
絵見ちゃんの口から聞こえてきたことに、思わず体が固まってしまう。
「それに。昨日今日と恵一、顔色ひどすぎ。ここ最近も最近だったけど、今はもっとひどい。身内に不幸があったのって思うくらいだよ。クマもちょっとできてるし」
いきなり飛び込んできた事実に、頭の回転が追い付かない。
「ねえ。恵一。一体何を、隠しているの……?」
「べ、別に、何も隠してないし、及川と話したのだって、単に俺が教室に遅くまで残っていたら及川が来たからちょっと世間話してただけで……」
「まだ白を切るの? そこまでして言いたくないことなの? その程度の仲だったの? 私たちって」
もしかして、二人は陽平君のその話をしているの? ……それで、戸塚君が何かわかっているのだけれど……。
──私のことを、秘密にするために、今戸塚君は責められているんだ。
「答えてよ、恵一……!」
今までで一番大きい絵見ちゃんの声だった。
……私のために、戸塚君がこんな思いをする必要は、ない。
きっと、この五人で過ごす夏は、今年が最後だから……それなら……。
もう、皆にも、話していいのかな……。
「戸塚君……ごめんね、戸塚君にだけこんな苦しい役押し付けて……。私が話すから……もう、いいですよ……」
気が付いたら、私は夕陽差し込む教室に踏み込んでいた。そこには、二人の他に、呆然と椅子に座り込んでいる茜もいた。
「お、及川……? 及川まで、どうして……」
「戸塚君。……私のこと、話せば解決しますか……?」
「お、おい……何言っているんだよ及川、それを話したら……」
私の言葉に何かを察したのか戸塚君は慌てて止めようとする。
「遥香は……何か知っているの?」
けど、一度溢れた水は簡単に戻らない。絵見ちゃんが、私の一言に反応したから。
「私も何も知りません。……でも、多分、私の過去とは、きっと関係があるんだと思います。……だから、戸塚君は話そうとしないんだと……」
「そうなの、恵一?」
戸塚君は諦めたように力なく首を縦に振る。
「で、でも。遥香って旭川出身って言ってたよね……? 陽平とも高校からって」
私は、それを遮るように、言ったんだ。
「嘘、なんです。それ……」
「え?」
「私は……札幌出身です。それに……陽平君と、同じ小学校でした」
「……ほ、本当に……?」
絵見ちゃんは口に手を当てて私の告白に驚いているし、茜も声にこそ出していないけど表情は驚愕に満ちている。
「六年生のときだけ、同じクラスになっただけですけど……。でも、その年から、趣味があった私たちは仲良くなったんです」
「……じゃあ、なんで、陽平は遥香のこと……覚えていないの? 仲、よかったんだよね……? それに、陽平と同じ小学校なら、私たちと同じ中学校にいないとおかしいと思うけど、遥香はいなかった……よね?」
あっさりと、絵見ちゃんは私の言っていることのおかしさを指摘してくる。さすがだなあ……。
「それは、私と陽平君が、三年前の三月に、交通事故に遭ったからです」
「じ、事故……?」
ほのかに、事故当日の記憶がよみがえってくる。私の、最後の一日の記憶が。
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