【完結】究極のざまぁのために、俺を捨てた男の息子を育てています!

.mizutama.

文字の大きさ
63 / 165

第63話 静かなる戦い

しおりを挟む
 エリオットからもらった芝居のチケットは、三階の中央ボックス席。いわゆる貴賓席で、王立学園の理事長ともなるとこんないい席にご招待されるのかとちょっとうらやましくなった。

 エリオットは芝居には特に興味がないといっていたから、まさに宝の持ち腐れだ。


「叔父様、ここからだと舞台の奥まですごく良く見えますね!」

 連れてきたテオドールも、手すりから身を乗り出してはしゃいでいる。

 手すりの前に二つ並べられた椅子に、仲良く腰掛けた俺たちは、さきほど購入した芝居のパンフレットを手に、上演時間を今か今かと待ち構えていた。

 と、その時……、


「こちらでございます」

 案内係とともに、一人の長身の人物が俺たちのボックス席の中に入ってきた。

「エリオット先輩!」

「お席はこちらでよろしいでしょうか?」


 案内係の後ろから、ボーイが赤いビロード張りの重そうな椅子を運んでくる。

「ここに並べてくれ」

 エリオットは、俺が座っている隣のスペースを指し示した。


「承知いたしました」

 あっという間に、二人席が三人席に早変わり!



「たまには話題の芝居を観るのもいいかと思ってな」

「そう、なんですね……」

 俺は慌てて立ち上がると、エリオットにテオドールを紹介した。


「エリオット先輩、私の甥のテオドールです。王立学園ではいつもお世話になりありがとうございます。テオドール、こちらは……」

「……初めまして、ヴァロア理事長。テオドール・ダンデスでございます」

 テオドールが堅い表情で、ヴァロア理事長に挨拶をする。


「ああ、君のことはよく知っているが、互いに顔を合わすのは初めてだな。
テオドール、大変優秀な生徒だと聞いている。これからも学業に励むように」

「はい」

 礼儀正しくお辞儀をするテオドール。


 でも、なんでだろう……。この場に、急に何とも言えない不穏な空気が広がっているのは……。


「もうすぐ始まるな。席につこうか」

 エリオットが俺の背に手をかけたところに、テオドールがぐっと俺の手を引いた。


「叔父様っ! 俺と席を替わっていただけませんか?」

「え、もちろんいいけど?」

 俺の席のほうが、舞台が見やすいのだろうか? そんなに変わりない気もするけど。


「テオドール、なら、私の席に座ればいい、より舞台に近いぞ」

 エリオットからの申し出に、テオドールはぶんぶんと首を振った。


「いえ、結構です! 私は、真ん中の席が、いいんですっ!」

「……さっそくけん制か。威勢がいいことだ」

 エリオットは小さくつぶやく。


「じゃ、じゃあ、テオが真ん中の席ね」

 ――へんなテオドール。はっ、いやしかし、テオドールはこの機会に王立学園の理事長と親交を深め、今後の学園生活、ひいては将来、王宮の騎士になるための足掛かりをつかもうとしているのかもしれない!

 俺はそんな健気なテオドールを、保護者として全力で応援しなければっ!!



 というわけで、テオドールを真ん中に3人が座ったところで、舞台は始まった。

 話題の舞台というだけあって、内容はとても面白かった。だがいつも俺とテオドールが鑑賞している騎士とお姫様のロマンチックな恋愛物とは少し違い、美しい王妃に恋した一人の騎士が、思い悩みつつも王妃への愛を止めることはできず、ついには想いを遂げてしまうという、青少年に見せるにしては少し問題のありそうな内容であった。

 ちらりとテオドールの真剣な横顔を見ると、テオドールは舞台を見たままで俺の手を握ってきた。

 ――テオドールが変に感化されないといいんだけど……。


 芝居が終わったところで、エリオットから食事に誘われた。
 
 俺とテオドールも、観劇後にはどこかで食事をしようと約束していたから、ちょうどいいタイミングだ。しかも、テオドールにとって学園の理事長にお近づきになれるいいチャンスでもある。

 さっそく了承の返事をしようとした俺だったが、

「叔父様……、俺……、今日は早く屋敷に戻りたいです」

 暗い表情のテオドール。


「もしかして、具合が悪いのかっ!?」

「すみません、叔父様……」


「なら、テオドールだけ先に戻っていろ。私はジュールに話がある。テオドール、ジュールはあとで我が家の馬車で屋敷まで送らせるので問題はないな」

 エリオットが冷たい視線をテオドールに向ける。


「エリオット先輩、でも……」

 具合の悪いテオドールを置いて、食事になんていけない。


 顔を曇らせる俺に、エリオットはため息をついた。

「ジュール、テオドールは送り迎えのつきそいが必要なほどの子供ではないだろう? それに、見たところ看護が必要なほど体調が悪い様子もない。大丈夫だ。では、行くぞ」

 エリオットが俺の肩を抱いた。

「待ってください! 私も行きます!!」

 急に大声を出すテオドール。

 テオドールは俺とエリオットの間に割って入ってきた。


「体調はもう大丈夫です。ですから、私もご一緒させてください!」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 結局王都の有名レストレランで、3人で食事することになった俺たち。

 しかしその場は、明日にでもこの世の終わりが訪れるのではないかというほど暗く、まったく盛り上がりをみせなかった。

 俺はなんとか場を和ませようと二人に話しかけるが、二人の反応はめちゃくちゃ悪い。
 
 ――テオドールってば、緊張しちゃってるのかな?


 もともと俺とエリオットだって、そんなに親しいわけではない。だが、さすがにちょっとした会話くらいはできる。

 しかし、この二人ときたら、さきほどからお互いに冷たい視線を送り合うだけで、打ち解けようという意思が感じられない。

 途中から二人の仲を取り持つことを完全に放棄した俺は、王都きっての有名シェフがつくったという創作料理に集中することにした。


 しばらく沈黙が続いた後、エリオットが咳ばらいをした。


「テオドール、いつまでも叔父に甘える姿というのは見ていて感心できないな。もう15歳なのだから、ジュールの手を握ったりするのは控えるべきだ」

 ――あっ、ついにエリオット先輩の説教タイムが始まってしまった。これ始まると長いんだよねー!


「お言葉ですが、理事長。理事長こそ、隙をみては気安く叔父様に触れようとするのはおやめください」

 ――テオドール、ちゃんと言い返せるんだ! すごい! 俺もエリオット先輩にこんな風に言い返せばよかったのかな……。


「ジュールは私の可愛い後輩だ。そして今はともに呪いの研究に邁進する仲間でもある。お互い気安くなるのは当然のことだろう。もちろんジュールも嫌がっていないと思うが?」

 ――ええっ!? エリオット先輩って俺のことそんな風に思ってたのか? なんだか意外なんですけど。


「私は叔父様の甥です。お互い触れ合って、愛情を確かめ合ったとしていったい何が悪いのでしょうか?」

 ――ん? テオドール?


「甥という立場を存分に利用して、最後にはジュールを手に入れようという算段らしいが、そうはいかない」

「それはこちらのセリフです。呪いの研究を言い訳に、叔父様を自分に縛り付けようとしても、無駄なことです」

 ――ん? ん? んん??



 ますます舌鋒鋭く口撃し合う二人に、俺はあんぐりと口を開ける。

 だが……、


「お待たせいたしました。本日のデザート。『森の狩人たちのフェスティバル~ブラックベリーの危険な誘惑~』でございます」

 ウエイターが運んできたデザートに、俺の心は完全に奪われてしまった。



 その後のことは、デザートの美味しさ以外、あまり記憶に残っていない……。


しおりを挟む
感想 63

あなたにおすすめの小説

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

何も知らない人間兄は、竜弟の執愛に気付かない

てんつぶ
BL
 連峰の最も高い山の上、竜人ばかりの住む村。  その村の長である家で長男として育てられたノアだったが、肌の色や顔立ちも、体つきまで周囲とはまるで違い、華奢で儚げだ。自分はひょっとして拾われた子なのではないかと悩んでいたが、それを口に出すことすら躊躇っていた。  弟のコネハはノアを村の長にするべく奮闘しているが、ノアは竜体にもなれないし、人を癒す力しかもっていない。ひ弱な自分はその器ではないというのに、日々プレッシャーだけが重くのしかかる。  むしろ身体も大きく力も強く、雄々しく美しい弟ならば何の問題もなく長になれる。長男である自分さえいなければ……そんな感情が膨らみながらも、村から出たことのないノアは今日も一人山の麓を眺めていた。  だがある日、両親の会話を聞き、ノアは竜人ですらなく人間だった事を知ってしまう。人間の自分が長になれる訳もなく、またなって良いはずもない。周囲の竜人に人間だとバレてしまっては、家族の立場が悪くなる――そう自分に言い訳をして、ノアは村をこっそり飛び出して、人間の国へと旅立った。探さないでください、そう書置きをした、はずなのに。  人間嫌いの弟が、まさか自分を追って人間の国へ来てしまい――

付き合っているのに喧嘩ばかり。俺から別れを言わなければならないとさよならを告げたが実は想い合ってた話。

雨宮里玖
BL
サラリーマン×サラリーマン 《あらすじ》 恋人になってもうすぐ三年。でも二人の関係は既に破綻している。最近は喧嘩ばかりで恋人らしいこともしていない。お互いのためにもこの関係を終わらせなければならないと陸斗は大河に別れを告げる——。 如月大河(26)営業部。陸斗の恋人。 小林陸斗(26)総務部。大河の恋人。 春希(26)大河の大学友人。 新井(27)大河と陸斗の同僚。イケメン。

「出来損ない」オメガと幼馴染の王弟アルファの、発情初夜

鳥羽ミワ
BL
ウィリアムは王族の傍系に当たる貴族の長男で、オメガ。発情期が二十歳を過ぎても来ないことから、家族からは「欠陥品」の烙印を押されている。 そんなウィリアムは、政略結婚の駒として国内の有力貴族へ嫁ぐことが決まっていた。しかしその予定が一転し、幼馴染で王弟であるセドリックとの結婚が決まる。 あれよあれよと結婚式当日になり、戸惑いながらも結婚を誓うウィリアムに、セドリックは優しいキスをして……。 そして迎えた初夜。わけもわからず悲しくなって泣くウィリアムを、セドリックはたくましい力で抱きしめる。 「お前がずっと、好きだ」 甘い言葉に、これまで熱を知らなかったウィリアムの身体が潤み、火照りはじめる。 ※ムーンライトノベルズ、アルファポリス、pixivへ掲載しています

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

平凡な僕が優しい彼氏と別れる方法

あと
BL
「よし!別れよう!」 元遊び人の現爽やか風受けには激重執着男×ちょっとネガティブな鈍感天然アホの子 昔チャラかった癖に手を出してくれない攻めに憤った受けが、もしかしたら他に好きな人がいる!?と思い込み、別れようとする……?みたいな話です。 攻めの女性関係匂わせや攻めフェラがあり、苦手な人はブラウザバックで。    ……これはメンヘラなのではないか?という説もあります。 pixivでも投稿しています。 攻め:九條隼人 受け:田辺光希 友人:石川優希 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 また、内容もサイレント修正する時もあります。 定期的にタグ整理します。ご了承ください。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

【BL】正統派イケメンな幼馴染が僕だけに見せる顔が可愛いすぎる!

ひつじのめい
BL
αとΩの同性の両親を持つ相模 楓(さがみ かえで)は母似の容姿の為にΩと思われる事が多々あるが、説明するのが面倒くさいと放置した事でクラスメイトにはΩと認識されていたが楓のバース性はαである。  そんな楓が初恋を拗らせている相手はαの両親を持つ2つ年上の小野寺 翠(おのでら すい)だった。  翠に恋人が出来た時に気持ちも告げずに、接触を一切絶ちながらも、好みのタイプを観察しながら自分磨きに勤しんでいたが、実際は好みのタイプとは正反対の風貌へと自ら進んでいた。  実は翠も幼い頃の女の子の様な可愛い楓に心を惹かれていたのだった。  楓がΩだと信じていた翠は、自分の本当のバース性がβだと気づかれるのを恐れ、楓とは正反対の相手と付き合っていたのだった。  楓がその事を知った時に、翠に対して粘着系の溺愛が始まるとは、この頃の翠は微塵も考えてはいなかった。 ※作者の個人的な解釈が含まれています。 ※Rシーンがある回はタイトルに☆が付きます。

処理中です...