【完結】究極のざまぁのために、俺を捨てた男の息子を育てています!

.mizutama.

文字の大きさ
90 / 165

第90話 現実

しおりを挟む

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 夢を、見ていた。


 俺から少し離れた先にある黒い人影は、きっとテオドールのものだ。

 テオドールの後ろ姿は、俺が記憶しているよりも背が高く、もうすでに立派な男の大人のそれだった。

 ――テオ!

 叫びたいが、喉がつまったようになって声が出ない。

 俺がいることに気づいていないのか、テオドールの影はどんどん俺から離れていってしまう。


 ――駄目だ! その先は!!

 テオドールは、真っ暗な洞窟の中に向かっているようだった。

 俺はそれをどうしても止めなければいけないのに、俺の声は届かず、俺の足は沼にはまってしまったかのように一歩も動かなかった。

 ――駄目だ! そこに行ったら危ない!

 ――駄目だ、テオドール、行くな!

 歯がゆかった。何もできない自分。テオドールを止められない自分。
 何とかしなくては、早く! 早く! 早く!!




「行くなっ!」

 自分の叫び声で、目が覚めた。

 目に入ってきたのは、見慣れない天井。


「ジュール、大丈夫か? うなされてたぞ」

 隣にいたファウロスが、俺の裸の背中を撫でた。

「あ……、ゴメン。起こして……」

「いや、俺も寝ちゃってたから。……もういいか、今日は泊まって朝帰りにしよ」

 言うと、ファウロスは俺にさらさらした生地の桃色のシーツをかけてくれた。

 ――ここは、いつもの娼館の一室。


 初めてファウロスとここに来てから、すでに3か月が経過していた。

 一週間に一度はここに来て俺を抱く、と明言していたファウロスだったが、本業の工作員の仕事は思いのほか忙しいらしく、任務のために2、3週間国を離れることもよくあるようだった。

 今日は3週間ぶりにファウロスが隣国から戻ってきたので、ファウロスは帰ってきた足でそのまま俺を娼館まで連れ去った。
 久しぶりのセックスは互いに盛り上がり、夜までに教会に戻るつもりが、疲れ切っていつの間にか二人とも眠ってしまったらしい。


「夢、見てたのか?」

「うん……」

 すっかり目が冴えてしまった俺は、水を飲もうと身体を起こした。

「あの指輪を贈ったヤツの夢?」

 ファウロスは、部屋のランプを灯した。

 暗かった部屋にぽぉっと温かい明かりがともる。
 紐でしばっていたファウロスの長い髪はほどかれており、光を受けてキラキラと輝いていた。

「そう……、たぶん……、顔は、見えなかったけど」

「ジュールの国のこと、ちょくちょく調べは入れているんだ。今のところ、目立った動きはないみたいだ」

「そっか……」

 俺がいなくなってから、テオドールはどうなったのだろう。すでに養子縁組は済んでいるし、まさかダンデス家から追い出されるようなことはないはずだ。
 近くにはシャンタルもいるし、なによりテオドールは今のダンデス家に必要とされている。

 ファウロスの言うように、俺がどこかで生きていると知ったら、テオドールは俺のことを探してくれているだろうか、それとも……。

 何もできない自分にやるせなくなる。先ほどの夢の中の自分と、今の自分が重なる。

 俺は両手で顔を覆った。


「あんまり気に病むなよ。大丈夫、きっと、戻れる……」

 ファウロスは慰めるように言うと、俺の肩口にキスをした。

「ファウロス……」

「そうだ、これ、忘れないうちに渡しておく」

 ファウロスは、隣国から持ち帰った荷物のなかから、小さな包みを取り出した。

 その中には、ファウロスの瞳と同じ色のピアスが一対はいっていた。

「これは……?」

「俺の守護石。またこうしてしばらく家を空けることも多くなるから、ジュールを守るためにも必要だろ?
一つを俺がつけて、もう一つをジュールがつける。恋人の俺からのプレゼントだよ」

 冗談めかしてファウロスは言うと、ピアスを手に取った。

「恋人って……」

「悪い虫もつかないし、魔除けにもなるし、いいことだらけだろ?
つけるとき痛くないように魔力流すから、ちょっと我慢して」

 ファウロスは俺の右の耳たぶを引っ張ると、温かい魔力を流し始める。


「はい、できた。外すなよ、ジュール」

「わかった」

 手早くファウロスも自分の左耳にピアスをつけた。


 ――お揃いのピアスなんて、まるで本当の恋人同士みたいだ。


「これ見りゃ、変態爺もビビッて寄ってこなくなるよ」

 ファウロスは満足げに、ピアスのついた俺の耳たぶに口づける。

「ありがと。前から思ってたけど、ファウロスって魔力も使えるんだね」

 俺もファウロスの耳たぶに、お返しにキスをする。

「俺の母親ってさ、あんたの国の高位貴族のご令嬢らしいよ」

 ファウロスはそっと俺を抱きしめて、言った。

「俺の国の……?」

「そう。ある時、そのご令嬢は砂漠を超えた国へ家族とともに旅行に行った。そこで、褐色の肌の青年と出会った。
ご令嬢からすれば、ほんの一時の火遊びのつもりだったんだろう。だが、国に戻ったご令嬢は自分が妊娠していることに気づいた……」

 ファウロスは、俺の背中に手を回し、肩甲骨を撫でた。
 温かい、感触。

「ご令嬢は誰にも本当のことを言えず、ひっそりと赤ん坊を生んだ。産み落としたその赤ん坊の肌は褐色で、それを知って事の発覚を恐れたそのご令嬢の家族はその赤ん坊を「なかったこと」にすることにした……。
っていうのが、俺の出自を知るシスターから聞いた話。だから、俺の髪と目は黒くなくて、高位貴族だった母親の遺伝で魔法もそれなりに使えるってわけ」

 俺は思わずファウロスから身体を離した。

「えっ!? なかったこと、ってどういうことだよ。だって、今ファウロスはここにいるだろ? ってことは、シスターがファウロスを育てたの?」

「そうだよ。その時シスターは、ご令嬢の父親から俺を始末するように命じられていたんだ。でも、まだ若かったシスターは赤ん坊を殺すことはどうしてもできなくて、俺を連れてこの国まで逃げた」

「それって……、ちょっと待って! シスターって、どういう……」

「シスターは俺の師匠だよ。今は引退してるけど、現役のころは名うての工作員だった。俺はシスターから工作員のイロハを仕込まれたんだ」

「……すごい!」

「え?」

 俺の言葉に、ファウロスは目を丸くした。

「シスターって仮の姿なんだね! ファウロスも、俺といるときは畑仕事したり、教会の仕事を手伝ったりするだけだからあんまり実感なかったけど、やっぱりスパイなんだ!
俺、スパイって小説の中だけの話だと思ってた!」

「いや、シスターはシスターだよ。もともとシスターやってる傍ら、工作員だったっていうか……。だから神の教えの影響で、俺も『盗みと殺しはしない』っていうポリシーがあるわけ。っと、この話、チビたちには内緒だぞ。シモンだけは知ってるけど、俺が何の仕事やってるかっていうのも、みんなには秘密だから」

「わかってるって。でも、隣国でいったい何の仕事してきたんだ? ちょっと教えてよ……っ、んっ」

 話を聞き出そうとする俺の唇を、ファウロスが塞いだ。

「俺の仕事の依頼内容は、たとえ恋人でも秘密!」


「ずるいっ、ちょっとくらい……っ、は、あっ……」

 熱い舌で咥内を舐めとられて、優しく背中を撫でられると、あっという間に息が上がっていく。


「ジュール。ジュールは俺のこと、どう思ってる? 俺の肌も、髪も、瞳も、この世界では異端だ……」

 ハシバミ色の瞳が、探るように俺を見た。


「俺、ファウロスの髪と目の色、好きだよ。その褐色の肌も引き締まっててカッコいいって思ってる!」

「ジュールっ!!」

「わあっ!」

 気づくと視界が変わって、俺はベッドの上に押し倒されていた。



 たくさんのキスとともに、長いファウロスの髪が、俺の身体の上をなぞっていく。

「ファウ、ロスっ…‥、あ、はあっ……」

「いいよな? ジュール。俺、まだ全然ジュールが足りない……」

 臍に舌を這わされると、俺の身体はあさましくもまた兆しを見せ始めた。


「ん……、いいよ。来て、ファウロス」

 俺はファウロスの髪をかき回した。


 ――セックスに溺れれば、大切なことも、抱える不安も、何もかも考えなくてすんだ。

 テオドールのことも、テオドールのことも、テオドールのことも……!




「はっ、あっ、あっ、はあっ……」

「……ジュール、もし……帰れなくても、俺がずっと……、そばにいるから……」



 熱い楔を胎内にうずめられ、ゆっくりと揺さぶられながら、俺はどこか遠くでファウロスの囁きを聞いた気がした。



しおりを挟む
感想 63

あなたにおすすめの小説

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?

krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」 突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。 なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!? 全力すれ違いラブコメファンタジーBL! 支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

転生したら同性の婚約者に毛嫌いされていた俺の話

鳴海
BL
前世を思い出した俺には、驚くことに同性の婚約者がいた。 この世界では同性同士での恋愛や結婚は普通に認められていて、なんと出産だってできるという。 俺は婚約者に毛嫌いされているけれど、それは前世を思い出す前の俺の性格が最悪だったからだ。 我儘で傲慢な俺は、学園でも嫌われ者。 そんな主人公が前世を思い出したことで自分の行動を反省し、行動を改め、友達を作り、婚約者とも仲直りして愛されて幸せになるまでの話。

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

家を追い出されたのでツバメをやろうとしたら強面の乳兄弟に反対されて困っている

香歌奈
BL
ある日、突然、セレンは生まれ育った伯爵家を追い出された。 異母兄の婚約者に乱暴を働こうとした罪らしいが、全く身に覚えがない。なのに伯爵家当主となっている異母兄は家から締め出したばかりか、ヴァーレン伯爵家の籍まで抹消したと言う。 途方に暮れたセレンは、年の離れた乳兄弟ギーズを頼ることにした。ギーズは顔に大きな傷跡が残る強面の騎士。悪人からは恐れられ、女子供からは怯えられているという。でもセレンにとっては子守をしてくれた優しいお兄さん。ギーズの家に置いてもらう日々は昔のようで居心地がいい。とはいえ、いつまでも養ってもらうわけにはいかない。しかしお坊ちゃん育ちで手に職があるわけでもなく……。 「僕は女性ウケがいい。この顔を生かしてツバメをしようかな」「おい、待て。ツバメの意味がわかっているのか!」美貌の天然青年に振り回される強面騎士は、ついに実力行使に出る?!

処理中です...