【完結】究極のざまぁのために、俺を捨てた男の息子を育てています!

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【番外編】

ダンデス伯爵の優美なる一日 その4

 大広間は、人いきれとざわめきに満ちていた。

 ここは、色とりどりの衣装に身を包んだ貴族たちの社交の場。

 お互いがお互いを、挨拶する一瞬の間で見定め、見比べ、自分の利益になるかどうかを素早く判断される。

 ……ダンデス家は名家と言われるだけのことはあり、それなりに貴族間の付き合いは広い。


 ――こんな面倒なことをこなしながらも、お父様は領地経営なんかも進めていたんだな……。

 考えはじめると、伯爵としての責務の大きさに、両肩を押しつぶされそうになる気分だった。

 だが……。


「ジュール、疲れてない? 大丈夫?」

 俺の背中に優しく手をあてるテオドール。

「大丈夫だよ。テオこそ、疲れてない? さっきはテオ目当ての人たちにいっぱい囲まれちゃったね」

 俺が見上げると、テオドールは俺にいたわるような優しい笑みを向けた。


「俺は平気だよ。ジュールが一緒にいるからね」


 ――この笑顔があるだけで、俺は一生頑張れそうな気がする!!!!



 しかし先ほどから、あまり知らない人たちとの会話と作り笑いで、少し疲れてきているのも事実だ。


「テオ、ちょっと休もうか、飲み物でも……」

 いったそばから、俺の目の前に泡の立ったシャンパングラスが差し出された。

「あ、どうも……」

 顏を上げると、藍色の瞳と目が合った。


「エリオット先輩っ!」

 傍らのテオドールの舌打ちが聞こえてくる。


「ジュール、相変わらず効率の悪い動きをしているな。そもそも、舞踏会でのふるまいというのは……」

「お久しぶりです。ダンデス伯爵!」

 エリオットの説教を遮る形で俺に挨拶してきたのは、クロエ・ヴァロア。

 エリオットはめでたくクロエと結婚して、今は二人で仲良く暮らしているそうだ。

 紺色の礼服の上下を隙なく着こなすエリオットと、髪をタイトにまとめてシンプルだが洗練された青いドレスに身を包んだクロエは、どこからどう見てもとてもお似合いの夫婦だった。


「クロエ、元気そうだね!」

 はつらつとした表情のクロエに、俺もうれしくなる。


「ダンデス伯爵も! お二人でどこかにバカンスでも? 日焼けされていてとっても素敵ですわ!」

「うん、バカンスってわけじゃないんだけど、この間二人でエディマに……」

「その話は聞いているぞ」

 俺とクロエの会話に、ずいっとエリオットが侵入してきた。

「ジュール、今後エディマで、生地の素材となる植物の栽培に投資するそうだな。
目立った産業や特産物のないエディマの国の発展に寄与する事業となることだろう。
お前にしては、なかなか先見の明があると言ってやってもいい」

 差し出されたシャンパングラスを、俺は受け取った。

「ありがとう、ございます」

 ――一応、褒められているんだよな?

「我が伴侶は、エディマで暮らした2年と少しの間に、貧しいエディマという国のために自分がいったい何ができるか考えていたようです。
あの国に私の最愛は捕らわれていたというのに、この国に戻った後もエディマのために少しでも役立ちたいという私の最愛の気持ちに私も感銘を受け、伴侶としてともに携わっていく所存です」

 伴侶、最愛という言葉をやけにくっきりと発音しながら、テオドールは朗々と話した。

「まあ、なんてすばらしい! やはりお二人は固い絆で結ばれているのですねっ!」

 クロエは目をキラキラと輝かせて胸の前で手を組んだ。

 ――そんな素晴らしいものではないんだけど……。


 俺としては、エディマで着ていたあの涼しいシャツがこの国でも着られたらいいな――という勝手な願望と、実りのない土地で貧しい暮らしをしているエディマの人たちが少しでも豊かになってくれたらうれしい――という自己満足ともいえない気持ちから始めたことだ。


「しかし、ジュール! 爵位を継いだというのに、その髪の乱れはなんだ!」

 エリオットの手が俺に伸びてくる。

 ――バチンッ!


「……」

「貴方、他の方の配偶者の御髪おぐしにむやみやたらと触れるのは、貴族としての良俗に反しましてよ」

 ぴしゃりとエリオットの手を叩き落したのは、なんとクロエであった。


「そ、そう、だな……、失礼した、ジュール」

 エリオットは咳払いする。

「いえ……」

 ちらりと目をやると、エリオットの隣にいるクロエは笑顔だったが、俺と同じ青灰色の目は笑っていなかった。

 なんか、怖い……。


「まあ、……なんだ、ジュール、迂闊なお前のことだ。2年以上暮らしていたといってもエディマを取り巻く現在の国際情勢に関することはまだよくわかっていないのだろうから、俺が一応説明しておいてやろう。そもそも、エディマの国の発祥は……」

 エリオットの長い蘊蓄が始まろうとしているなか、俺の耳にはクロエとテオドールの不穏な囁き声が届いた。


「聖騎士様、どうして今日はお二人そろっていらっしゃったんです? 抱き潰して屋敷に閉じ込める計画はどうなったんです!?」

「その計画にはいろいろと問題点も多く、慙愧の念に堪えませんが方針転換することにしました。が、心配はいりません。今後は誰にも付け入る隙がないよう私がぴったりと張り付きます。
……それはそうと、お宅からまだ四季折々の挨拶のカードと、たびたび花や物品が届くのですが……」

「まあ、なんてことでしょう! きっと学園から贈っているのだわ! わかりました、秘書に命じてこちらも見張らせておきますわ」

「申し訳ありませんが、引き続きよろしくお願いいたします……」

「こちらこそ、宅の者がご迷惑をおかけたしますわ……」



 ――テオドールってば、クロエと面識があったんだな! 
 意外に話が弾んでいるようだけど、二人はいったいどういうつながりなんだろう……?




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