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~番外編~
王の休日(中編)
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エドガーが離宮を訪れたのは、それから5日後のことだった。
思いつめた表情でしばらく逢えない、とセシルに告げたエドガー。
最低でも一ヶ月は離宮へは来られないのだろうと思っていただけに、少しばかりセシルは拍子抜けしていた。
たしかに、エドガーと結ばれて以降、どんなに間をあけても3日を数えることがなかったことから、5日も逢わなかったというのはこれが初めてだったかもしれないのだが……。
「逢いたかった! セシルっ、セシルっ、セシルっ!!!」
まるで5年も逢わなかったのではないかと思えるほど、きつくエドガーに抱きしめられたセシルは、エドガーの背をあやすようにゆっくりと撫でた。
「お手紙、たくさんいただきありがとうございました。エドガー様」
エドガーは本当に公務をこなせているのかと心配になるほどの大量の書簡を、5日のうちにセシルに送り続けていた。
「あの偏屈者の宰相から、3日の休暇をもぎ取ってきたぞ! セシル、3日間はじっくり離宮でともに過ごそう!」
「え、あ……、はい!」
明るく返事をしたセシルだったが、これから王とべったりと過ごすという3日間……、果たして精力を持て余しているこの若き王に、自分の身体が耐えきれるのか……、少なからず不安を覚えたのだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
まだ午前中だというのに、すぐにでも寝所に連れ込もうとするエドガーをなんとかかわし、セシルは離宮の中庭へとエドガーを案内した。
そこにはセシルが丹精こめて育てている草木が、色とりどりの花を咲かせていた。
「見事なものだな」
「ちょうどいまが満開なんです。見てください! この紫色の花はとても珍しいもので、ファリン様から苗木を頂いたんです!」
「ほお……、ファリン……」
エドガーの声が、一段低くなる。
「こっちの大輪の赤い花もとてもきれいだと思いませんか?
この花の種は、ロイ・ジファール様からいただいて…‥」
「ロイ、ジファール!!」
怨念のこもったような声に、セシルは振り返る。
「どうかされましたか?」
「いや……、その、ずいぶんと仲がいいのだと思ったのだ! 私の知らぬところで、苗木や種をもらったり……」
「ファリン様は診察でベアトリス様と一緒に定期的にいらっしゃるし、ロイ様はよく離宮を訪ねてきてくださるのですが、なぜか私には会わずに差し入れだけおいて帰られるのです。
たまにはゆっくりとお話をしたいのですが……」
残念そうにするセシル。
そして、エドガーの握り締められた拳はなぜかぶるぶると震えている。
「ほお、ロイは……、まだ性懲りもなく、よく、ここに、……来るのか?」
セシルは何かをこらえるような様子のエドガーに首をかしげる。
「ええ、そうらしいのですが……、でもなぜか一度もタイミングが合わず……」
「あいつはベアトリスの専属の護衛騎士だ。そうそう休みがあるわけでもないだろう」
「そうですよね。でもベアトリス様の専属騎士様だというのに、ベアトリス様がこちらにこられるときは、別の騎士様がついているのです。やっぱり、お忙しいのでしょうね」
セシルが、赤い花びらに触れる。
「まあ、あいつは……、また遠方にいくこともあるだろうしな」
なぜか、エドガーは遠い目をしていた……。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
セシルは、必死で抵抗していた。
だがその拒絶の腕は、いともたやすくエドガーに絡め取られてしまう……。
「セシル、隠さないで、全部、見せて」
「ひどい、エドガー様っ!
こ、こんなのっ……、こんなの全然っ、水遊び、じゃ、ないっ!!!」
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思いつめた表情でしばらく逢えない、とセシルに告げたエドガー。
最低でも一ヶ月は離宮へは来られないのだろうと思っていただけに、少しばかりセシルは拍子抜けしていた。
たしかに、エドガーと結ばれて以降、どんなに間をあけても3日を数えることがなかったことから、5日も逢わなかったというのはこれが初めてだったかもしれないのだが……。
「逢いたかった! セシルっ、セシルっ、セシルっ!!!」
まるで5年も逢わなかったのではないかと思えるほど、きつくエドガーに抱きしめられたセシルは、エドガーの背をあやすようにゆっくりと撫でた。
「お手紙、たくさんいただきありがとうございました。エドガー様」
エドガーは本当に公務をこなせているのかと心配になるほどの大量の書簡を、5日のうちにセシルに送り続けていた。
「あの偏屈者の宰相から、3日の休暇をもぎ取ってきたぞ! セシル、3日間はじっくり離宮でともに過ごそう!」
「え、あ……、はい!」
明るく返事をしたセシルだったが、これから王とべったりと過ごすという3日間……、果たして精力を持て余しているこの若き王に、自分の身体が耐えきれるのか……、少なからず不安を覚えたのだった。
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まだ午前中だというのに、すぐにでも寝所に連れ込もうとするエドガーをなんとかかわし、セシルは離宮の中庭へとエドガーを案内した。
そこにはセシルが丹精こめて育てている草木が、色とりどりの花を咲かせていた。
「見事なものだな」
「ちょうどいまが満開なんです。見てください! この紫色の花はとても珍しいもので、ファリン様から苗木を頂いたんです!」
「ほお……、ファリン……」
エドガーの声が、一段低くなる。
「こっちの大輪の赤い花もとてもきれいだと思いませんか?
この花の種は、ロイ・ジファール様からいただいて…‥」
「ロイ、ジファール!!」
怨念のこもったような声に、セシルは振り返る。
「どうかされましたか?」
「いや……、その、ずいぶんと仲がいいのだと思ったのだ! 私の知らぬところで、苗木や種をもらったり……」
「ファリン様は診察でベアトリス様と一緒に定期的にいらっしゃるし、ロイ様はよく離宮を訪ねてきてくださるのですが、なぜか私には会わずに差し入れだけおいて帰られるのです。
たまにはゆっくりとお話をしたいのですが……」
残念そうにするセシル。
そして、エドガーの握り締められた拳はなぜかぶるぶると震えている。
「ほお、ロイは……、まだ性懲りもなく、よく、ここに、……来るのか?」
セシルは何かをこらえるような様子のエドガーに首をかしげる。
「ええ、そうらしいのですが……、でもなぜか一度もタイミングが合わず……」
「あいつはベアトリスの専属の護衛騎士だ。そうそう休みがあるわけでもないだろう」
「そうですよね。でもベアトリス様の専属騎士様だというのに、ベアトリス様がこちらにこられるときは、別の騎士様がついているのです。やっぱり、お忙しいのでしょうね」
セシルが、赤い花びらに触れる。
「まあ、あいつは……、また遠方にいくこともあるだろうしな」
なぜか、エドガーは遠い目をしていた……。
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セシルは、必死で抵抗していた。
だがその拒絶の腕は、いともたやすくエドガーに絡め取られてしまう……。
「セシル、隠さないで、全部、見せて」
「ひどい、エドガー様っ!
こ、こんなのっ……、こんなの全然っ、水遊び、じゃ、ないっ!!!」
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