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第54話
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「ちょ……っ、怪我してるとこ、動かしちゃ、ダメでしょ!」
ソファに座る僕の膝の上に乗り、当然のように服をはぎ取ろうとするローランドを、僕は必死でたしなめていた。
「だって……。僕の服、ダブダブで着てるジェイミーを見たら可愛くて……、いても立ってもいられなくなって……」
ローランドに借りた洋服。確かにサイズが全く合わず、僕は両袖、両裾を大幅に折り返して着なければいけなかった……が……。
「なっ……、それって、嫌みにしか聞こえないしっちょっと、ホントに怒りますよ!」
僕は腕を突っ張り、ローランドの身体を何とか押しのけた。
ローランドは不満げに髪をかきあげる。
「ケチ! あっ、ジェイミーっ、まさか一週間こういうことはナシとか言うわけじゃないよね? せっかく行きたくもない病院まで行ったんだ。なにかご褒美があってもいいだろう?」
左手を包帯でぐるぐる巻きにされたローランドがむくれる。
怪我は全治十日ほど。思っていたほど深い傷ではなかったが、もちろんかすり傷などではなく……。
僕とのゲームに参戦したローランドは、とりあえず正気と、生来の計算高さを取り戻したようだった。
僕の手枷と鎖を外し、僕に衣服を与えて、僕に丁重に謝罪した。
だが、用意周到なローランドのこと、もちろん僕の身の回りに、外部と連絡を取れるような手段は何一つ残されていなかった。あくまでこの軟禁のスタイルは、貫くつもりらしい。……まあそこは想定内だ。ゲームの最中とはいえ、いくら何でもあのローランドが、そこまで僕を信用するとも思えない。
ローランドが一人で外へ出て、病院に行っている間、僕はざっとこの別荘の中を見て回った。
ローランドの言うとおり、二階建ての広い屋敷の中は、鍵のかかった部屋以外はどこにでもいけるようだった。一階には談話室や図書室もあるし、食糧庫には十分な食料もあった。
だが、どの窓も開かず、もちろん玄関からも、出ることは出来なかった。
――こんなところに、幼い姉弟が閉じ込められていたのか……。
ローランドの幼少期を思うと、何とも言えない苦い思いが心に広がった……。
病院から戻ってきたローランドは、一階のリビングルームのソファでくつろいでいた僕をさっそく発見すると、露骨にほっとした表情になった。
僕がここから逃げられないことを誰よりも知っているくせに、僕がちゃんとここにいるか、ずっと不安でたまらなかったという顔……。
そんな顔を見て、僕はまた、ローランドの抱える深い闇の淵をのぞいた気がした。
「ジェイミー、好きだよ」
服を脱がすことはあきらめたのか、ローランドはソファに座る僕に並んで座り、今度は唇を寄せてきた。
「ちょっと待って。こういうのは夜だけにしましょう。ところ構わずやってたら、僕の体力が持たないんで。
あ、そうそう、お腹すいたんで何か食べません? ローランドさん、料理はできるんですか?」
そう言って立ち上がると、僕はキッチンへ向かう。
「ジェイミー……」
ローランドは子犬のように、僕の後をついてくる。
「結構食材がそろってますね。サンドイッチくらいの簡単なものなら、僕も作れますけど……。あ、あと、食事が終わったら僕に勉強を教えてください。ローランドさんって、常に首席なんですよね? 一週間も休んだら、絶対授業についていけなくなるんで! よろしくお願いしますよ」
「ジェイミーっ……!」
「ほら突っ立ってないで、手を動かしてくださいっ。あっ、ジャガイモがある。スープにしてもいいですね。どうします?」
僕が見つめるとローランドは、肩をすくめて、お手上げのポーズをした。
「……もう、わかった! わかったよ。食事を一緒に作ろう。僕はいま片手しか使えないから、ジェイミーに手伝ってもらう。
ちなみに、僕はそこそこ料理はできる。サンドイッチよりは、ちゃんとした食事が出来ると思うよ」
「それはよかった。じゃ、僕に指示をしてください。シェフ?」
微笑みかけると、ローランドはうんざりしたように唇を尖らせた。
「本当に料理上手だったんですね。すごく美味しいです。このドライトマトとアンチョビのパスタ」
結局、僕は足手まといなのではないのかと思うほど、ローランドは器用に右手だけで、手際よく料理を完成させた。
「口に合ったんならよかった。これからずっと一緒に暮らすんだもんね。やっぱりどちらかが料理くらい出来ないと……」
「……」
また勝手に妄想の世界に入ろうとするローランドを無視し、僕はフォークにパスタを巻き付けた。病院に行ったときに、野菜なども買ってきてくれたようで、ローランドは手際よく、付け合わせのサラダまで作ってくれた。
料理もできるローランドを見直したことは否定しない。だが、これ以上ローランドの魅力を知ったところで、僕にとってはゲームの不利益にしかならない。
「ここに閉じ込められていたとき……」
ローランドがぼそりと言った。
「本を読むのも、ボードゲームも飽きて、料理にはまったことがあったんだ。フローレンスと二人で、よくお菓子も作ったな……。まだ小さかったから、計量の仕方もわからなくて、二人で粉だらけになったりして……」
思い返すその表情に、暗いところはなかった。きっと、いい思い出としてローランドに記憶されているのだろう。
「いいですね。僕、甘い物大好きなんです。今度、作ってくださいよ」
「いいよ。明日にでも材料を買ってこよう。ケーキでも、クッキーでも、パイでも、ジェイミーの好きなものをつくるよ。腕によりをかけて、ね?」
ローランドは微笑んだ。まるで、天使みたいだと、僕は思った。
――きっと、
もっと違う出会い方をして……。
僕がセオドアに出会わなければ……、
――僕は、
ローランドに恋をしていたのかもしれない……。
ソファに座る僕の膝の上に乗り、当然のように服をはぎ取ろうとするローランドを、僕は必死でたしなめていた。
「だって……。僕の服、ダブダブで着てるジェイミーを見たら可愛くて……、いても立ってもいられなくなって……」
ローランドに借りた洋服。確かにサイズが全く合わず、僕は両袖、両裾を大幅に折り返して着なければいけなかった……が……。
「なっ……、それって、嫌みにしか聞こえないしっちょっと、ホントに怒りますよ!」
僕は腕を突っ張り、ローランドの身体を何とか押しのけた。
ローランドは不満げに髪をかきあげる。
「ケチ! あっ、ジェイミーっ、まさか一週間こういうことはナシとか言うわけじゃないよね? せっかく行きたくもない病院まで行ったんだ。なにかご褒美があってもいいだろう?」
左手を包帯でぐるぐる巻きにされたローランドがむくれる。
怪我は全治十日ほど。思っていたほど深い傷ではなかったが、もちろんかすり傷などではなく……。
僕とのゲームに参戦したローランドは、とりあえず正気と、生来の計算高さを取り戻したようだった。
僕の手枷と鎖を外し、僕に衣服を与えて、僕に丁重に謝罪した。
だが、用意周到なローランドのこと、もちろん僕の身の回りに、外部と連絡を取れるような手段は何一つ残されていなかった。あくまでこの軟禁のスタイルは、貫くつもりらしい。……まあそこは想定内だ。ゲームの最中とはいえ、いくら何でもあのローランドが、そこまで僕を信用するとも思えない。
ローランドが一人で外へ出て、病院に行っている間、僕はざっとこの別荘の中を見て回った。
ローランドの言うとおり、二階建ての広い屋敷の中は、鍵のかかった部屋以外はどこにでもいけるようだった。一階には談話室や図書室もあるし、食糧庫には十分な食料もあった。
だが、どの窓も開かず、もちろん玄関からも、出ることは出来なかった。
――こんなところに、幼い姉弟が閉じ込められていたのか……。
ローランドの幼少期を思うと、何とも言えない苦い思いが心に広がった……。
病院から戻ってきたローランドは、一階のリビングルームのソファでくつろいでいた僕をさっそく発見すると、露骨にほっとした表情になった。
僕がここから逃げられないことを誰よりも知っているくせに、僕がちゃんとここにいるか、ずっと不安でたまらなかったという顔……。
そんな顔を見て、僕はまた、ローランドの抱える深い闇の淵をのぞいた気がした。
「ジェイミー、好きだよ」
服を脱がすことはあきらめたのか、ローランドはソファに座る僕に並んで座り、今度は唇を寄せてきた。
「ちょっと待って。こういうのは夜だけにしましょう。ところ構わずやってたら、僕の体力が持たないんで。
あ、そうそう、お腹すいたんで何か食べません? ローランドさん、料理はできるんですか?」
そう言って立ち上がると、僕はキッチンへ向かう。
「ジェイミー……」
ローランドは子犬のように、僕の後をついてくる。
「結構食材がそろってますね。サンドイッチくらいの簡単なものなら、僕も作れますけど……。あ、あと、食事が終わったら僕に勉強を教えてください。ローランドさんって、常に首席なんですよね? 一週間も休んだら、絶対授業についていけなくなるんで! よろしくお願いしますよ」
「ジェイミーっ……!」
「ほら突っ立ってないで、手を動かしてくださいっ。あっ、ジャガイモがある。スープにしてもいいですね。どうします?」
僕が見つめるとローランドは、肩をすくめて、お手上げのポーズをした。
「……もう、わかった! わかったよ。食事を一緒に作ろう。僕はいま片手しか使えないから、ジェイミーに手伝ってもらう。
ちなみに、僕はそこそこ料理はできる。サンドイッチよりは、ちゃんとした食事が出来ると思うよ」
「それはよかった。じゃ、僕に指示をしてください。シェフ?」
微笑みかけると、ローランドはうんざりしたように唇を尖らせた。
「本当に料理上手だったんですね。すごく美味しいです。このドライトマトとアンチョビのパスタ」
結局、僕は足手まといなのではないのかと思うほど、ローランドは器用に右手だけで、手際よく料理を完成させた。
「口に合ったんならよかった。これからずっと一緒に暮らすんだもんね。やっぱりどちらかが料理くらい出来ないと……」
「……」
また勝手に妄想の世界に入ろうとするローランドを無視し、僕はフォークにパスタを巻き付けた。病院に行ったときに、野菜なども買ってきてくれたようで、ローランドは手際よく、付け合わせのサラダまで作ってくれた。
料理もできるローランドを見直したことは否定しない。だが、これ以上ローランドの魅力を知ったところで、僕にとってはゲームの不利益にしかならない。
「ここに閉じ込められていたとき……」
ローランドがぼそりと言った。
「本を読むのも、ボードゲームも飽きて、料理にはまったことがあったんだ。フローレンスと二人で、よくお菓子も作ったな……。まだ小さかったから、計量の仕方もわからなくて、二人で粉だらけになったりして……」
思い返すその表情に、暗いところはなかった。きっと、いい思い出としてローランドに記憶されているのだろう。
「いいですね。僕、甘い物大好きなんです。今度、作ってくださいよ」
「いいよ。明日にでも材料を買ってこよう。ケーキでも、クッキーでも、パイでも、ジェイミーの好きなものをつくるよ。腕によりをかけて、ね?」
ローランドは微笑んだ。まるで、天使みたいだと、僕は思った。
――きっと、
もっと違う出会い方をして……。
僕がセオドアに出会わなければ……、
――僕は、
ローランドに恋をしていたのかもしれない……。
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