単なるセフレだったはずの王宮騎士団のイケメンエースが、なぜか身分違いの俺に激しく執着しはじめて、周囲をドン引きさせているって本当ですか!?

.mizutama.

文字の大きさ
7 / 84

7.身に余る光栄

しおりを挟む
「……っ」

 温かい、身体。

 しばらく俺はぎゅっとシヴァを抱きしめていた。


 ――はあああああぁ、幸せ、すぎるぅ!

 思いっきり鼻から息を吸い込み、この匂いを堪能する俺!!


 それからシヴァは、俺からゆっくりと身体を離すと、俺をじっと見つめた。


「お前は、俺を受け入れてくれるのか?」

「も、もちろんです! 身に余る光栄ですっ!」

 もう心臓がわけわからないほどビートを打っていて、頭の中は大太鼓が鳴り響きしっちゃかめっちゃかだが、なんとか俺は答えた。

「ふっ……」

 俺の言葉に気を良くしたのか、シヴァはほんの少し笑った。

「ぐっ!」

 俺の脳では処理で切れないほどの事態に、俺の自我は崩壊寸前だ。

 そして……、

「このひと時、すべてを忘れさせてくれ……」

 俺の頬にその大きな手のひらをあてると、シヴァは俺に顔を寄せてきた。


「!!!!」


 その美しい顔が俺にゆっくりと近づいてくるのを、俺は瞬きもせずじっと見つめていた。

 もしかして、これは‥‥…、

 これは……!!



「ああーっ! ちょ、ちょっと待ったぁあ!!」

 だが、あろうことか、俺はあのシヴァの美しいお顔を手で押しのけてしまっていた。


「この期に及んでなんなんだっ!? やはり、お前は俺のことを……」

 みるみる不機嫌になっていくシヴァ。


「違うんです! お願いです! 後生です! 後生ですから! 俺に準備を、準備をさせてください!!」

 俺は、ベッドの上でひれ伏していた。


 だって、だって、だって!!

 俺が最後に食べたものって、今日の晩餐会で余った芋を丸めて衣をつけて揚げたヤツだよ!
 もちろん、スパイシーな香辛料もたっぷりつけて!

 そんでもって、日中大量の芋をあっちやこっちへ運んだせいで、汗だっていつも以上にいっぱいかいた!

 ただでさえみすぼらしいのに、その上不潔だなんて!!

 しかもそれが、一生に一度きりのシヴァとの夢の夜だっていうんだから!!


「準備……?」

 シヴァが眉根を寄せる。

「そう、そう、そうなんです! ほらっ、男同士って、女性相手と違って準備が必要なんです!
だから、ちょっと、ほんのちょっとだけ、待っててもらえますっ!?」


 友人のラムからもらった男同士のハウツー本で仕入れたにわか知識を、さも何もかも知っているかのように披露した俺は、慌ててベッドから飛び降りると、一目散で入り口側の洗面所に駆け込んだ。


 もちろん湯を沸かしている暇なんてないので、冷水を頭からかぶって身を清め、口をゆすいでからハーブを一枚口に含み、ラム(男)がくれたいい匂いのする練り香水を耳の後ろに擦り付けると、俺は戸棚の奥にある秘密の小箱に手を伸ばした。


 ――まさか、これを使う日がくるとは!!!!

 白い小箱にはこれまたラムからもらった、いわゆる滑りを良くする「潤滑油」が入っていた。そして隣には男性器を模した妙にリアルな張り形!

 ――こんなことになるなら、怖がったりせずにさきに自分でしっかり慣らしておけばよかった!!

 俺は未使用のままの張り形に、そっと指で触れた。


 そう、俺は何を隠そう、まっさらな身体だ。誰とも付き合ったことはないし、性経験など皆無!
 なにしろ、生涯愛を捧げると決めたのは、シヴァ・ミシュラのみ!

 妙に乙女チックなところのある俺は「アンタの初恋なんて、どうせ実るわけないんだから、さっさとその辺の男で初体験すませちゃえば?」なんていう悪友の囁きには決して首を縦に振らず、一途にシヴァに操を立て続けていたのだ!


 しかし、今の俺といえば、シヴァには経験豊富な遊びなれた相手として認識されてしまっている!

 ――どうしよう!? そんなあと腐れのないはずの一夜限りの相手の俺が、まさかの未経験だなんてバレたら、確実にドン引きされてしまう!

 そんなめんどくさい相手はお断りだと、怒って出て行ってしまうかもしれない。それどころか、詐称の罪でその場で叩き切られてしまったり……。


 ガタン、と居間兼寝室から音がして俺は我に返る。

 ――どうしたって、時間がない! もうこうなったら、やるしかない!

 俺は香油の入ったガラス瓶を手に、扉を開けた。



 ――いる!!

 もしかしたら精霊かなにかに騙されていただけて、戻ったらそこには誰もいなかった……、なんてオチになるのではないかと心配したが、シヴァは確かにそこにいた。

 ぼんやりとした表情のシヴァは、所在なげに俺のベッドに腰掛けていた。


 それだけでも手を合わせて拝みたいくらいだというのに、今から俺は恐れ多くもその逞しい腕に抱かれようとしているのだ!

 脳内が沸騰しそうな興奮を抑えて、俺はベッドに近づいた。



「用意は済んだのか?」

「はい」

 俺の言葉に、シヴァは俺に手を伸ばした。

「こちらへ」



 ――ああ、もう、どうしよう……!!

 顏が、顔が良すぎる!!


しおりを挟む
感想 81

あなたにおすすめの小説

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

追放された味見係、【神の舌】で冷徹皇帝と聖獣の胃袋を掴んで溺愛される

水凪しおん
BL
「無能」と罵られ、故郷の王宮を追放された「味見係」のリオ。 行き場を失った彼を拾ったのは、氷のような美貌を持つ隣国の冷徹皇帝アレスだった。 「聖獣に何か食わせろ」という無理難題に対し、リオが作ったのは素朴な野菜スープ。しかしその料理には、食べた者を癒やす伝説のスキル【神の舌】の力が宿っていた! 聖獣を元気にし、皇帝の凍てついた心をも溶かしていくリオ。 「君は俺の宝だ」 冷酷だと思われていた皇帝からの、不器用で真っ直ぐな溺愛。 これは、捨てられた料理人が温かいご飯で居場所を作り、最高にハッピーになる物語。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる

cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。 「付き合おうって言ったのは凪だよね」 あの流れで本気だとは思わないだろおおお。 凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

処理中です...