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56.月光のアミュレット
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やがて舞踏会の大広間に、軽やかな音楽が流れ始めた。
会場は静まり返り、招待客たちは皆、赤い絨毯が敷かれた大階段の上に一斉に目をやった。
すると、大きな扉が開き、そこからマヤ王女とその兄・リシュ王子が登場した。
第一王子のリシュは、この国の王位継承者であり、このアミュレットのお披露目舞踏会でのマヤ王女のエスコート役として選ばれたようだ。
マヤ王女と同じすみれ色の瞳を持つリシュ王子は、背筋を伸ばし、マヤ王女の手を取ってゆっくりと階段を下りてきた。
リシュ王子と腕を組んだマヤ王女は、シルバーを基調とした神秘的なドレスを纏っていた。細かい銀糸が刺繍されたブルーのそのドレスの裾には、星屑のように輝くクリスタルがちりばめられていて、歩くたびにキラキラと光った。
そしてその首元を飾るのは『月光のアミュレット』。
かすかに青白く光ったその宝石は、まるで夜空に浮かぶ月をそのまま閉じ込めたかのようだ。
そしてその宝石は、角度によって淡いブルーや紫色に輝いていた。周囲を飾る夜空の星座のような銀の宝飾は、歴史と格式を感じさせる気品に溢れていた。
マヤ王女は、リシュ王子のエスコートのもと、大広間の中心に立った。この国の王族二人が並び立つと、招待客たち全員が、その美しい姿に魅了され、息を呑んだ。
「殿下はこの舞踏会の招待客をかなり厳選したんだ。いつもなら必ず出席する国の要職の年寄りたちは、一切排除した」
シヴァの言葉に会場を見渡すと、確かにこの舞踏会の招待客は年若いものたちばかりだった。
「これも殿下のお考えなのだ。見知った顔ばかりにすれば、怪盗が紛れ込んだ時にわかりやすくなる」
「確かにそうですね」
「さすがは殿下だ。本当に、思慮深くていらっしゃる」
そう言って会場の中央で笑みをたえているマヤ王女を見守るシヴァの視線に、俺は胸がちくりと痛んだ。
――今も、そしてこれからもずっと、シヴァはマヤ王女を崇拝し続けるのだ……。
舞踏会の始まりの一曲目は、招待客たちが見守る中、王女と王子だけが踊った。
二人のダンスが終わると、大きな拍手とともに、音楽がよりいっそう華やかに鳴り響き始めた。
「さあ、イーサン、踊ろう」
シヴァが俺に手を差し伸べてくる。
「でも、俺ダンスは……」
「俺に合わせて足を動かすだけでいい。フロアのはしの方で踊れば、誰も見ていないから失敗しても大丈夫だ」
俺を安心させるためか、穏やかな笑みを浮かべるシヴァ。
「……」
それにしてはさっきから、シヴァに対する熱い視線をあちこちから痛いほど感じるのだが!?
「さあ、俺の手を取って」
シヴァは片手を差し出す。俺を見つめる瞳は真剣だ。
「わかりました」
俺は戸惑いながらも、シヴァの手を取った。
「足を踏んづけちゃったら、ごめんなさい」
「全く問題ない」
シヴァはくすっと笑うと、俺をダンスの輪の中へと導いていった。
きっとダンスがすごく上手なのだろう。
シヴァの軽やかなダンスのリードに、最初はおっかなびっくりだった俺も、だんだんその動きに合わせて身体を動かせるようになってきた。
「イーサン、ありがとう」
ステップに必死になって、足元ばかり見ていた俺が顔を上げると、翡翠の瞳がこちらを見ていた。
「シヴァ……」
シヴァは少し頭を下げ、俺の耳元で囁いた。
「今まで、護衛も兼ねて舞踏会で殿下と踊ったこともあったが……、
こんな風に、正式なパートナーと舞踏会で踊るのはこれが初めてだ。
こうして君と踊ることができて、まるで夢のようだ……」
会場は静まり返り、招待客たちは皆、赤い絨毯が敷かれた大階段の上に一斉に目をやった。
すると、大きな扉が開き、そこからマヤ王女とその兄・リシュ王子が登場した。
第一王子のリシュは、この国の王位継承者であり、このアミュレットのお披露目舞踏会でのマヤ王女のエスコート役として選ばれたようだ。
マヤ王女と同じすみれ色の瞳を持つリシュ王子は、背筋を伸ばし、マヤ王女の手を取ってゆっくりと階段を下りてきた。
リシュ王子と腕を組んだマヤ王女は、シルバーを基調とした神秘的なドレスを纏っていた。細かい銀糸が刺繍されたブルーのそのドレスの裾には、星屑のように輝くクリスタルがちりばめられていて、歩くたびにキラキラと光った。
そしてその首元を飾るのは『月光のアミュレット』。
かすかに青白く光ったその宝石は、まるで夜空に浮かぶ月をそのまま閉じ込めたかのようだ。
そしてその宝石は、角度によって淡いブルーや紫色に輝いていた。周囲を飾る夜空の星座のような銀の宝飾は、歴史と格式を感じさせる気品に溢れていた。
マヤ王女は、リシュ王子のエスコートのもと、大広間の中心に立った。この国の王族二人が並び立つと、招待客たち全員が、その美しい姿に魅了され、息を呑んだ。
「殿下はこの舞踏会の招待客をかなり厳選したんだ。いつもなら必ず出席する国の要職の年寄りたちは、一切排除した」
シヴァの言葉に会場を見渡すと、確かにこの舞踏会の招待客は年若いものたちばかりだった。
「これも殿下のお考えなのだ。見知った顔ばかりにすれば、怪盗が紛れ込んだ時にわかりやすくなる」
「確かにそうですね」
「さすがは殿下だ。本当に、思慮深くていらっしゃる」
そう言って会場の中央で笑みをたえているマヤ王女を見守るシヴァの視線に、俺は胸がちくりと痛んだ。
――今も、そしてこれからもずっと、シヴァはマヤ王女を崇拝し続けるのだ……。
舞踏会の始まりの一曲目は、招待客たちが見守る中、王女と王子だけが踊った。
二人のダンスが終わると、大きな拍手とともに、音楽がよりいっそう華やかに鳴り響き始めた。
「さあ、イーサン、踊ろう」
シヴァが俺に手を差し伸べてくる。
「でも、俺ダンスは……」
「俺に合わせて足を動かすだけでいい。フロアのはしの方で踊れば、誰も見ていないから失敗しても大丈夫だ」
俺を安心させるためか、穏やかな笑みを浮かべるシヴァ。
「……」
それにしてはさっきから、シヴァに対する熱い視線をあちこちから痛いほど感じるのだが!?
「さあ、俺の手を取って」
シヴァは片手を差し出す。俺を見つめる瞳は真剣だ。
「わかりました」
俺は戸惑いながらも、シヴァの手を取った。
「足を踏んづけちゃったら、ごめんなさい」
「全く問題ない」
シヴァはくすっと笑うと、俺をダンスの輪の中へと導いていった。
きっとダンスがすごく上手なのだろう。
シヴァの軽やかなダンスのリードに、最初はおっかなびっくりだった俺も、だんだんその動きに合わせて身体を動かせるようになってきた。
「イーサン、ありがとう」
ステップに必死になって、足元ばかり見ていた俺が顔を上げると、翡翠の瞳がこちらを見ていた。
「シヴァ……」
シヴァは少し頭を下げ、俺の耳元で囁いた。
「今まで、護衛も兼ねて舞踏会で殿下と踊ったこともあったが……、
こんな風に、正式なパートナーと舞踏会で踊るのはこれが初めてだ。
こうして君と踊ることができて、まるで夢のようだ……」
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