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59.真贋
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シヴァは俺の腕をつかんだまま、壁側で貴婦人たちと談笑しているサンカルに近づき、何かを囁いた。
「まさか、そんなことは!」
サンカルは、眉をひそめた。
「しかし、確かめる必要があるだろう」
シヴァの言葉にサンカルは舌打ちすると、その黒いマントを翻し、ダンスの旋律を奏でる王宮楽団のいる場所へ向かう。
俺はシヴァと腕を組み、サンカルの後に続く。
サンカルは楽団のそばで控えていた、王女の執事・ハリスを見つけると、何かを耳打ちする。
ハリスは表情を変えず、そのまま楽団の指揮者に何かの合図をした。
すると、流れていた華やかな曲調が変調し、静かな調べの曲に変わった。
曲が変わると、フロアの中央にいたマヤ王女とリシュ王子はゆっくりと、踊りの輪から外れていった。
「真珠の間へ」
サンカルが通りすがりに、シヴァに伝える。
「イーサンも一緒に来てくれ」
張り詰めた緊張感を伴いながら、シヴァは俺に言った。
・・・・・・・・・・・・・・・・
「一体どういうことですの? 月光のアミュレットはここにちゃんとありますわよ」
王宮内の「真珠の間」に集まったのは、マヤ王女とリシュ王子、護衛騎士のサンカル、執事のハリス、シヴァと俺、そして、白魔導士長のロハンだった。
「だが、イーサンの話は聞き捨てならない。念のため確かめる必要があるだろう」
シヴァの言葉にロハンはうなずいた。
「調香師の間で、星落の花が夜光花の代替品としてよく使われるのは事実だ。だが、夜光花特有の微かな冷気を伴う香りは再現できない」
ロハンは王女から外したアミュレットを受け取ると、顔を近づけ、僅かに香る甘い匂いを嗅ぎ取った。
「たしかに、夜光花にしては香りが重すぎる……。イーサンの言う通り、これは星落の花の香りだ。夜光花の持つ冷たさがまるで感じられない」
ロハンの言葉に、執事のハリスは小さく息をついた。
「星落の花の香りは、夜光花のように幻想的で神秘的な雰囲気を醸し出すものの、その僅かな違いを嗅ぎ分けられるのは、花々に精通した者か、魔法による感覚を研ぎ澄ました者のみ。この違いにお気づきになるとは、イーサン様の嗅覚は人並外れたものなのですね」
ハリスの指摘に、俺は赤くなった。
「わかったような口をきいて、すみません。ただ、俺は割と小さいころから匂いには敏感で……」
「そういったところが、優れた料理人としての資質でもあるのでしょうね」
ハリスは俺に穏やかな笑みを向けた。
「おい、サンカル、このアミュレットの魔法鉱石には、ほかにも真贋を見分ける特徴があったはずだろう?」
シヴァがサンカルに問う。
「ああ、月光をあてると、石の中心部に古代の紋章が浮き上がる」
「舞踏会の前には確かめたんだろうな?」
シヴァの指摘に、サンカルはむきになって怒りだした。
「まだ月もでていないというのに、どうやって月光にあてるというのだ!?
昨日、王宮の宝物庫で皆と確認したときは、間違いなく本物だった!」
「では、いまから確かめなくてはなるまい。
ほら、ちょうど月も顔をだしている」
冷静なリシュ王子の言葉に、一同はうなずいた。
そして、明かりを落とした部屋の窓から差し込む月の光のもとに『月光のアミュレット』をロハンはさらした。
「だめだ! 紋章が浮き上がらない。
このアミュレットは、偽物だ!!」
「まさか、そんなことは!」
サンカルは、眉をひそめた。
「しかし、確かめる必要があるだろう」
シヴァの言葉にサンカルは舌打ちすると、その黒いマントを翻し、ダンスの旋律を奏でる王宮楽団のいる場所へ向かう。
俺はシヴァと腕を組み、サンカルの後に続く。
サンカルは楽団のそばで控えていた、王女の執事・ハリスを見つけると、何かを耳打ちする。
ハリスは表情を変えず、そのまま楽団の指揮者に何かの合図をした。
すると、流れていた華やかな曲調が変調し、静かな調べの曲に変わった。
曲が変わると、フロアの中央にいたマヤ王女とリシュ王子はゆっくりと、踊りの輪から外れていった。
「真珠の間へ」
サンカルが通りすがりに、シヴァに伝える。
「イーサンも一緒に来てくれ」
張り詰めた緊張感を伴いながら、シヴァは俺に言った。
・・・・・・・・・・・・・・・・
「一体どういうことですの? 月光のアミュレットはここにちゃんとありますわよ」
王宮内の「真珠の間」に集まったのは、マヤ王女とリシュ王子、護衛騎士のサンカル、執事のハリス、シヴァと俺、そして、白魔導士長のロハンだった。
「だが、イーサンの話は聞き捨てならない。念のため確かめる必要があるだろう」
シヴァの言葉にロハンはうなずいた。
「調香師の間で、星落の花が夜光花の代替品としてよく使われるのは事実だ。だが、夜光花特有の微かな冷気を伴う香りは再現できない」
ロハンは王女から外したアミュレットを受け取ると、顔を近づけ、僅かに香る甘い匂いを嗅ぎ取った。
「たしかに、夜光花にしては香りが重すぎる……。イーサンの言う通り、これは星落の花の香りだ。夜光花の持つ冷たさがまるで感じられない」
ロハンの言葉に、執事のハリスは小さく息をついた。
「星落の花の香りは、夜光花のように幻想的で神秘的な雰囲気を醸し出すものの、その僅かな違いを嗅ぎ分けられるのは、花々に精通した者か、魔法による感覚を研ぎ澄ました者のみ。この違いにお気づきになるとは、イーサン様の嗅覚は人並外れたものなのですね」
ハリスの指摘に、俺は赤くなった。
「わかったような口をきいて、すみません。ただ、俺は割と小さいころから匂いには敏感で……」
「そういったところが、優れた料理人としての資質でもあるのでしょうね」
ハリスは俺に穏やかな笑みを向けた。
「おい、サンカル、このアミュレットの魔法鉱石には、ほかにも真贋を見分ける特徴があったはずだろう?」
シヴァがサンカルに問う。
「ああ、月光をあてると、石の中心部に古代の紋章が浮き上がる」
「舞踏会の前には確かめたんだろうな?」
シヴァの指摘に、サンカルはむきになって怒りだした。
「まだ月もでていないというのに、どうやって月光にあてるというのだ!?
昨日、王宮の宝物庫で皆と確認したときは、間違いなく本物だった!」
「では、いまから確かめなくてはなるまい。
ほら、ちょうど月も顔をだしている」
冷静なリシュ王子の言葉に、一同はうなずいた。
そして、明かりを落とした部屋の窓から差し込む月の光のもとに『月光のアミュレット』をロハンはさらした。
「だめだ! 紋章が浮き上がらない。
このアミュレットは、偽物だ!!」
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