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3.月夜見庭園
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その日俺は、とある探し物のため、深夜に平民寮をこっそり抜け出し、誰にも見つかることなくノーブル・ウィングに入り込んでいた。
下級課程の灰色の制服を隠すように、黒い外套を頭からすっぽりとかぶった俺は、なるべく音を立てないように細心の注意を払いながら歩みを進めていた。
どこに何があるかは、頭の中にすっかり入っている。
「ここか……」
入学式や学期ごとの式典、「上級課程」の生徒だけが出席を許される舞踏会などが行われる大講堂。その裏手からさらに奥へ進み、白亜の回廊をいくつも抜け、銀の門を越えた先に――「月夜見庭園」はひっそりと存在していた。
学院内の地図にも記されていないその場所は、建物の影に隠れるように、密やかに配置されている。
『月夜見庭園』は、その名の通り、夜咲きの品種が多く植えられており、夜薔薇、星雫草などが、月の光を受け、静かな輝きを放っていた。
庭園の回廊の柱は白い大理石でできており、空中には月光を模した淡い燈が浮かんでいる。
どこか現実から切り離された、幻想的な空間が、そこには広がっていた。
噂では、道ならぬ恋に落ちた貴族の生徒たちの秘密の逢引に使われるということだったが、皆が寝静まったこんな深夜では、さすがに人の姿はない。
俺はまっすぐ、その庭園の一番奥深くに咲いているという、純白の魔花「ノクティルカ」の花畑に向かう。
魔力に包まれた「ノクティルカ」は、月の光を受け、まるで星の海のようにキラキラと光を放っていた。
風はほとんどなく、かわりに「ノクティルカ」から放出される魔力の粒子が空気中を漂っている。
俺はその美しさに息を呑み、しばし時を忘れたように見入っていた。
だが、じっと目を凝らして探したが、その純白の魔花の花畑の中にあるという、俺の探し物はどこにも見つからなかった。
「そこで、何をしている!?」
突然、後ろから厳しい声がして、俺はびくりと身を震わせた。
「さきほど、学院の南門付近で賊が捕まったと聞いた。お前はその仲間か?」
凛とした響きに、観念した俺は恐る恐る後ろを向く。
――そこには、恐ろしいほど美しい男が立っていた。
腰まである白銀の髪は、月の光をうけて冷たく輝いていた。
作り物かと思うほど整った顏は、闇の中でその表情をより分かりにくくさせている。
ワインレッドに金の縁取りのある制服……、上級課程の貴族。襟元にあるのは、見たこともない輝きを放つ大きな宝石。
その圧倒的なオーラから、相当な高位貴族であることは容易に計り知れた。
「違うんです、俺は……」
そこまで言ったとき俺の外套が、突然吹いた風でめくれあがった。
「お前は……、下級課程の生徒なのか?」
俺の制服を確認した貴族の男は、静かに歩み寄ってくる。
「あ、あの、申し訳ありません。規則違反なのはわかっています。本当に、出来心で……、俺はただ、紫のノクティルカを……」
そこまで言って顔を上げた俺は――、
俺の顔を覗き込むようにする紫の瞳と、目が合った。
――ドクンっ!
その時俺はようやく気が付いた。
今俺の目の前にいるのは、この国の王太子・ヴェリオスその人なのだと。
下級課程の灰色の制服を隠すように、黒い外套を頭からすっぽりとかぶった俺は、なるべく音を立てないように細心の注意を払いながら歩みを進めていた。
どこに何があるかは、頭の中にすっかり入っている。
「ここか……」
入学式や学期ごとの式典、「上級課程」の生徒だけが出席を許される舞踏会などが行われる大講堂。その裏手からさらに奥へ進み、白亜の回廊をいくつも抜け、銀の門を越えた先に――「月夜見庭園」はひっそりと存在していた。
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庭園の回廊の柱は白い大理石でできており、空中には月光を模した淡い燈が浮かんでいる。
どこか現実から切り離された、幻想的な空間が、そこには広がっていた。
噂では、道ならぬ恋に落ちた貴族の生徒たちの秘密の逢引に使われるということだったが、皆が寝静まったこんな深夜では、さすがに人の姿はない。
俺はまっすぐ、その庭園の一番奥深くに咲いているという、純白の魔花「ノクティルカ」の花畑に向かう。
魔力に包まれた「ノクティルカ」は、月の光を受け、まるで星の海のようにキラキラと光を放っていた。
風はほとんどなく、かわりに「ノクティルカ」から放出される魔力の粒子が空気中を漂っている。
俺はその美しさに息を呑み、しばし時を忘れたように見入っていた。
だが、じっと目を凝らして探したが、その純白の魔花の花畑の中にあるという、俺の探し物はどこにも見つからなかった。
「そこで、何をしている!?」
突然、後ろから厳しい声がして、俺はびくりと身を震わせた。
「さきほど、学院の南門付近で賊が捕まったと聞いた。お前はその仲間か?」
凛とした響きに、観念した俺は恐る恐る後ろを向く。
――そこには、恐ろしいほど美しい男が立っていた。
腰まである白銀の髪は、月の光をうけて冷たく輝いていた。
作り物かと思うほど整った顏は、闇の中でその表情をより分かりにくくさせている。
ワインレッドに金の縁取りのある制服……、上級課程の貴族。襟元にあるのは、見たこともない輝きを放つ大きな宝石。
その圧倒的なオーラから、相当な高位貴族であることは容易に計り知れた。
「違うんです、俺は……」
そこまで言ったとき俺の外套が、突然吹いた風でめくれあがった。
「お前は……、下級課程の生徒なのか?」
俺の制服を確認した貴族の男は、静かに歩み寄ってくる。
「あ、あの、申し訳ありません。規則違反なのはわかっています。本当に、出来心で……、俺はただ、紫のノクティルカを……」
そこまで言って顔を上げた俺は――、
俺の顔を覗き込むようにする紫の瞳と、目が合った。
――ドクンっ!
その時俺はようやく気が付いた。
今俺の目の前にいるのは、この国の王太子・ヴェリオスその人なのだと。
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