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6.遠くへ
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――このままでは、番にされてしまう!
俺は男で、そしてベータだ。
だから、いくら最高位だからといってアルファにうなじを噛まれたところで、俺がオメガのように「刻印」されるはずはない。
だが……、
この時の俺は本能で分かっていた。
――もし噛まれてしまえば、これからこの男に一生隷属して生きることになる。
「私の番……っ、私の永遠……っ」
すでにヴェリオスの瞳は正気の色を失っている。
「やめろっ、駄目だっ、俺は……っ」
とっさにうなじを右手でかばう。次の瞬間、右手の甲に灼熱の刃を突き立てられたような激しい痛みが俺を襲った。
「ぐっ、あっ……」
鋭くとがったヴェリオスの犬歯が、俺の皮膚を突き破り、そこから鮮血があふれだした。
「っ……‼」
想像以上の痛みに、俺は呻く。
気を失わないように、俺は身体の下に敷かれていた黒い外套を、うずくまるようにして握りしめた。
「――ああっ、血が……っ! 私の番っ! 私は、なんということを……!」
苦しむ俺を見て、急に我に返ったヴェリオスの慌てた声がする。
「……っ、だい、じょうぶ……、だから」
俺の言葉に、ヴェリオスは乱れた衣服の俺を、そのまま力いっぱい抱きしめてくる。
「私は、なんという愚かなことを! 番に逢えた喜びのあまり、こんなところで無理やりあなたを組み敷き、しかも、許可も取らずに刻印を施そうとして……。
すまない、きちんと責任は果たす。だから、とにかくすぐに、私の魔力で……」
包み込むようにして、流血する俺の右手を取るヴェリオスを、俺はとっさにはねのけていた。
「やめろっ!」
「……っ」
「アンタの魔力なんて、いらない! それより早く、手当てする道具を」
俺の激しい言葉に、ヴェリオスはあっけにとられた表情をする。
「それなら、私がすぐにあなたを医務室に……」
なおも俺に伸ばそうとしてくる腕を、俺はぴしゃりとはねつけた。
「触るな! アンタに担がれていくなんて、絶対にごめんだ。アンタは、自分が俺に無理やり何をしようとしたのか、わかっているのか?
早く、誰か人を呼んでくれ! 誰か!」
叫ぶように言う俺に、ヴェリオスの顔に絶望の色が広がっていく。
「わかった。すぐに人を呼んでくるから、それまでこれで押さえていて。出血がひどくなるから、動いては絶対に駄目だ」
胸元から光沢のあるチーフを取り出すと、俺の手に巻き付けた。
「……」
ヴェリオスは自分の乱れた制服を素早く整えると、俺に念を押して、月夜見庭園を後にした。
流れるような白銀の髪が見えなくなったところで、俺は立ち上がる。
――このままではまずい。
――逃げるんだ。
――遠くへ。
――誰にも見つからないほど、遠くへ。
俺は男で、そしてベータだ。
だから、いくら最高位だからといってアルファにうなじを噛まれたところで、俺がオメガのように「刻印」されるはずはない。
だが……、
この時の俺は本能で分かっていた。
――もし噛まれてしまえば、これからこの男に一生隷属して生きることになる。
「私の番……っ、私の永遠……っ」
すでにヴェリオスの瞳は正気の色を失っている。
「やめろっ、駄目だっ、俺は……っ」
とっさにうなじを右手でかばう。次の瞬間、右手の甲に灼熱の刃を突き立てられたような激しい痛みが俺を襲った。
「ぐっ、あっ……」
鋭くとがったヴェリオスの犬歯が、俺の皮膚を突き破り、そこから鮮血があふれだした。
「っ……‼」
想像以上の痛みに、俺は呻く。
気を失わないように、俺は身体の下に敷かれていた黒い外套を、うずくまるようにして握りしめた。
「――ああっ、血が……っ! 私の番っ! 私は、なんということを……!」
苦しむ俺を見て、急に我に返ったヴェリオスの慌てた声がする。
「……っ、だい、じょうぶ……、だから」
俺の言葉に、ヴェリオスは乱れた衣服の俺を、そのまま力いっぱい抱きしめてくる。
「私は、なんという愚かなことを! 番に逢えた喜びのあまり、こんなところで無理やりあなたを組み敷き、しかも、許可も取らずに刻印を施そうとして……。
すまない、きちんと責任は果たす。だから、とにかくすぐに、私の魔力で……」
包み込むようにして、流血する俺の右手を取るヴェリオスを、俺はとっさにはねのけていた。
「やめろっ!」
「……っ」
「アンタの魔力なんて、いらない! それより早く、手当てする道具を」
俺の激しい言葉に、ヴェリオスはあっけにとられた表情をする。
「それなら、私がすぐにあなたを医務室に……」
なおも俺に伸ばそうとしてくる腕を、俺はぴしゃりとはねつけた。
「触るな! アンタに担がれていくなんて、絶対にごめんだ。アンタは、自分が俺に無理やり何をしようとしたのか、わかっているのか?
早く、誰か人を呼んでくれ! 誰か!」
叫ぶように言う俺に、ヴェリオスの顔に絶望の色が広がっていく。
「わかった。すぐに人を呼んでくるから、それまでこれで押さえていて。出血がひどくなるから、動いては絶対に駄目だ」
胸元から光沢のあるチーフを取り出すと、俺の手に巻き付けた。
「……」
ヴェリオスは自分の乱れた制服を素早く整えると、俺に念を押して、月夜見庭園を後にした。
流れるような白銀の髪が見えなくなったところで、俺は立ち上がる。
――このままではまずい。
――逃げるんだ。
――遠くへ。
――誰にも見つからないほど、遠くへ。
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