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38.酷似
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「ほらね、ソル。そろそろ来る頃だと思っていたよ。僕の読み通りだ。
さあ、どうぞ。入ってもらおう」
アレクシは椅子から立ち上がり、訪問者を小部屋へと迎え入れた。
現れたのは、先ほどの水色の髪の女性。そして、その彼女の後ろに隠れるようにして、銀色の髪の子どもがこちらをうかがっていた。
「……っ」
幼児化したというヴェリオスを前に、俺は思わず息を呑んだ。
さきほどちらりと姿を見たときにも思ったが……、
――似ている。
息子のリクに、瓜二つと言っていいほどに。
リクは俺と同じ鳶色の髪と瞳をしているが、それ以外は、今目の前にいる幼児化したヴェリオスとそっくり同じだった。
あの村で、リクと俺が「遠縁の親戚」だと説明したときに、誰一人疑わなかったのも無理はない。
リクは俺とは顔立ちがまるで似ておらず、父親であるヴェリオスに生き写しだったのだから。
「アレクシ様……その、お連れの方は、いったいどのようなお方なのかと、殿下が気にしておられます」
水色の髪の女性が、おずおずと口を開いた。
その言葉に、アレクシは満面の笑みを浮かべた。
「そうか、そうか。やはり気になるんだな、ソルのことが。
ヴェリオス、この方の名はソル。辺境の村からわざわざ来てもらったんだよ。
君の新しいお友達になってくれればと思ってね」
そう言うとアレクシは俺の背中を軽く押し、前へと進ませた。
「……ソル」
高く、あどけない声が俺の名を呼んだ。
記憶の中のヴェリオスとは、やはり違っていた。
あの時の声は、もっと低く、深く、甘く響いていた。
「はい、ヴェリオス殿下」
俺は片膝をつき、恭しく頭を垂れた。
「ソル……、家名は?」
顔を上げると、あの紫色の瞳が真っ直ぐに俺を見つめていた。
その中心にきらめくのは、金色の光彩。
――本当に、ヴェリオスなのか?
「俺は山奥の辺鄙な村の出身です。平民ですので、家名などはありません」
そう答えると、ヴェリオスはしばらくじっと俺を見つめていた。
――だが、やはり違う。
あの夜、俺たちの目が合った瞬間に起こった感覚。
胸の奥を爆ぜるような衝撃。
眩暈がするほどの陶酔感と、すべてを捧げたくなるような熱。
あれは紛れもなく、アルファとオメガの「番」の反応だった。
だが今、俺の身体には何の変化も起こっていない。
たしかに目の前のヴェリオスは美しい子どもだと思う。
肩までの銀髪はさらさらと風に揺れ、何よりリクにそっくりな姿は、胸を締めつけられるほど愛おしい。
だが、それ以上のなにかは感じない。
おそらく、それはヴェリオスも同じだ。
彼はただ、「初めて出会う見知らぬ人間」として俺に興味を抱いているに過ぎない。
ヴェリオスの肉体が未成熟なことを差し引いても、やはり俺たちは「番」ではない。
――あの夜の現象は『月夜見庭園』と、そこに咲き誇っていた魔花の影響だったのだ。
しばらく俺と見つめ合っていたヴェリオスは、急にぷいと横を向いた。
そして後ろで見守っていた水色の髪の女性に駆け寄り、その袖をくいと引く。
小さな口元を彼女の耳に寄せて何かを囁くと、今度はどこか誇らしげな顔で、こちらを振り返った。
困ったように微笑む水色の髪の女性が、そっと口を開いた。
「ソル様。王太子殿下は、このように仰せです。
『面白そうだから、遊んでやってもいい』と」
さあ、どうぞ。入ってもらおう」
アレクシは椅子から立ち上がり、訪問者を小部屋へと迎え入れた。
現れたのは、先ほどの水色の髪の女性。そして、その彼女の後ろに隠れるようにして、銀色の髪の子どもがこちらをうかがっていた。
「……っ」
幼児化したというヴェリオスを前に、俺は思わず息を呑んだ。
さきほどちらりと姿を見たときにも思ったが……、
――似ている。
息子のリクに、瓜二つと言っていいほどに。
リクは俺と同じ鳶色の髪と瞳をしているが、それ以外は、今目の前にいる幼児化したヴェリオスとそっくり同じだった。
あの村で、リクと俺が「遠縁の親戚」だと説明したときに、誰一人疑わなかったのも無理はない。
リクは俺とは顔立ちがまるで似ておらず、父親であるヴェリオスに生き写しだったのだから。
「アレクシ様……その、お連れの方は、いったいどのようなお方なのかと、殿下が気にしておられます」
水色の髪の女性が、おずおずと口を開いた。
その言葉に、アレクシは満面の笑みを浮かべた。
「そうか、そうか。やはり気になるんだな、ソルのことが。
ヴェリオス、この方の名はソル。辺境の村からわざわざ来てもらったんだよ。
君の新しいお友達になってくれればと思ってね」
そう言うとアレクシは俺の背中を軽く押し、前へと進ませた。
「……ソル」
高く、あどけない声が俺の名を呼んだ。
記憶の中のヴェリオスとは、やはり違っていた。
あの時の声は、もっと低く、深く、甘く響いていた。
「はい、ヴェリオス殿下」
俺は片膝をつき、恭しく頭を垂れた。
「ソル……、家名は?」
顔を上げると、あの紫色の瞳が真っ直ぐに俺を見つめていた。
その中心にきらめくのは、金色の光彩。
――本当に、ヴェリオスなのか?
「俺は山奥の辺鄙な村の出身です。平民ですので、家名などはありません」
そう答えると、ヴェリオスはしばらくじっと俺を見つめていた。
――だが、やはり違う。
あの夜、俺たちの目が合った瞬間に起こった感覚。
胸の奥を爆ぜるような衝撃。
眩暈がするほどの陶酔感と、すべてを捧げたくなるような熱。
あれは紛れもなく、アルファとオメガの「番」の反応だった。
だが今、俺の身体には何の変化も起こっていない。
たしかに目の前のヴェリオスは美しい子どもだと思う。
肩までの銀髪はさらさらと風に揺れ、何よりリクにそっくりな姿は、胸を締めつけられるほど愛おしい。
だが、それ以上のなにかは感じない。
おそらく、それはヴェリオスも同じだ。
彼はただ、「初めて出会う見知らぬ人間」として俺に興味を抱いているに過ぎない。
ヴェリオスの肉体が未成熟なことを差し引いても、やはり俺たちは「番」ではない。
――あの夜の現象は『月夜見庭園』と、そこに咲き誇っていた魔花の影響だったのだ。
しばらく俺と見つめ合っていたヴェリオスは、急にぷいと横を向いた。
そして後ろで見守っていた水色の髪の女性に駆け寄り、その袖をくいと引く。
小さな口元を彼女の耳に寄せて何かを囁くと、今度はどこか誇らしげな顔で、こちらを振り返った。
困ったように微笑む水色の髪の女性が、そっと口を開いた。
「ソル様。王太子殿下は、このように仰せです。
『面白そうだから、遊んでやってもいい』と」
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