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40.遊び相手
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「素晴らしい! これはまったく、素晴らしいの一言だよ。
僕の想像以上だ! ソル、君は本当にすごい人だ!」
うららかな午後の昼下がり。
ここ『陽光の宮』の中庭のテラスで、白いテーブルを挟んで俺の向かいに座っているのは、今日も一段と華やかな装いのアレクシだった。
どうやら彼は、日頃から王宮の祭典に出席しているような、目を引く派手な身なりが常のようだ。
今日もまた、胸元で誇らしげに光る宝石の装飾がまぶしいほどに輝き、高価な仕立ての深紅のマントや立ち襟の金の縁取りも、どこか洒脱さを漂わせている。
「はあ、それは良かったです」
俺は供された華やかな香りの紅茶を一口飲んだ。
「昨日はあれから、すっかり日が暮れるまでヴェリオスと遊んでくれたんだって?
今はお昼寝中かい?」
アレクシの問いに、俺は頷いた。
「ヴェリオス様は、普段ほとんどお部屋から出ないそうですから……。そういう意味でも、かなり鬱憤が溜まっていたのかもしれません。
昨日は一緒に庭園で虫取りをしたり、泥団子を作ったりして、それはもう、夢中で楽しんでいらっしゃいました。
今朝は池の方にいって、魚を一緒に見ていたんです。絶対に昼寝はしない、と頑張っていらっしゃったのですがついさきほど――」
俺はふっと笑みを浮かべる。
「気がついたら、芝生の上で、こちらに寄りかかるようにして、すやすやと眠ってしまいました。
きっと、ひさしぶりに心から遊んで、疲れてしまったんでしょうね」
「虫取りに、泥団子か……。へえ、あのヴェリオスが、ねえ」
アレクシがくすりと笑い、意味ありげな視線をこちらに向ける。
――俺の想像に反して、ヴェリオスは驚くほど素直で、人懐っこい子供だった。
その笑顔や無邪気なはしゃぎ声は、息子のリクとそっくりで、気づけば俺は本当に、リクと遊んでいるような錯覚にさえ陥っていた。
「本当に、助かったよ。見てごらん、ヴェリオスの癇癪でボロボロになっていたこの中庭も、今ではすっかり元通りだ」
「ええ、ヴェリオス様の魔力は、本当にすごいですね」
俺は周囲を見渡した。
俺はこの宮殿にいる間、ヴェリオスに壊された建物や壁、植木などを少しずつ直していこうと考えていた。
だが、それをヴェリオスに話すしたところ「そんなことでソルと遊ぶ時間が減るのはいやだ!」と言うやいなや、その強力な魔法で破壊されたあちこちを、一瞬で元どおりにしてしまったのだった。
「ヴェリオスときたら、すっかりソルに夢中じゃないか。いままでどんな美しいオメガが来ても、見向きもしなかったのに!
やっぱり、僕の目に狂いはなかった。君こそ、新しいヴェリオスの教育係にふさわしい」
断言するアレクシに、俺は思わずため息をついた。
「アレクシ様。どれほど高位のアルファでも、バースの定まらない五歳前後の子供が、美しいオメガに反応するとは思えませんよ。
それに、アレクシ様もお忘れなく。俺との約束は一月です。たった一月で、ヴェリオス様にどんな教育ができましょう?」
「ふふ、まあ、見ていてごらん。僕の予感では、この一月の間に、もっと面白いことが起こるはずさ」
自信満々に笑うアレクシ。
どうやら彼は、最初から俺をヴェリオスの遊び相手として連れてきたようだ。
この『陽光の宮』には、穏やかでおしとやかなオメガたちしかおらず、わんぱく盛りのヴェリオスには物足りなかったのだろう。
だが、ただの子どもの遊び相手のベータの男なら、王宮や王都にいくらでも候補がいたはずだ。
わざわざ辺境の村まで足を運び、俺を選んだ理由がそれだけのはずがない。
――やはり、アレクシの本心はいまだ読み切れない。警戒を解くわけにはいかない。
「ところでアレクシ様、ここにいるオメガの方々は、どうされているのですか?
民の間では『王宮にさらわれたきり戻らない』と噂されていますよ。
御存知のように『竜に喰われた』などという話すら出ているんです。早く、家に帰してあげた方が……」
俺の言葉に、アレクシは困ったように眉をひそめた。
「それがねえ、僕としてもそうしたいのはやまやまなのだが、なにしろ、帰ってくれないのだよ。肝心のオメガの皆さんが!」
僕の想像以上だ! ソル、君は本当にすごい人だ!」
うららかな午後の昼下がり。
ここ『陽光の宮』の中庭のテラスで、白いテーブルを挟んで俺の向かいに座っているのは、今日も一段と華やかな装いのアレクシだった。
どうやら彼は、日頃から王宮の祭典に出席しているような、目を引く派手な身なりが常のようだ。
今日もまた、胸元で誇らしげに光る宝石の装飾がまぶしいほどに輝き、高価な仕立ての深紅のマントや立ち襟の金の縁取りも、どこか洒脱さを漂わせている。
「はあ、それは良かったです」
俺は供された華やかな香りの紅茶を一口飲んだ。
「昨日はあれから、すっかり日が暮れるまでヴェリオスと遊んでくれたんだって?
今はお昼寝中かい?」
アレクシの問いに、俺は頷いた。
「ヴェリオス様は、普段ほとんどお部屋から出ないそうですから……。そういう意味でも、かなり鬱憤が溜まっていたのかもしれません。
昨日は一緒に庭園で虫取りをしたり、泥団子を作ったりして、それはもう、夢中で楽しんでいらっしゃいました。
今朝は池の方にいって、魚を一緒に見ていたんです。絶対に昼寝はしない、と頑張っていらっしゃったのですがついさきほど――」
俺はふっと笑みを浮かべる。
「気がついたら、芝生の上で、こちらに寄りかかるようにして、すやすやと眠ってしまいました。
きっと、ひさしぶりに心から遊んで、疲れてしまったんでしょうね」
「虫取りに、泥団子か……。へえ、あのヴェリオスが、ねえ」
アレクシがくすりと笑い、意味ありげな視線をこちらに向ける。
――俺の想像に反して、ヴェリオスは驚くほど素直で、人懐っこい子供だった。
その笑顔や無邪気なはしゃぎ声は、息子のリクとそっくりで、気づけば俺は本当に、リクと遊んでいるような錯覚にさえ陥っていた。
「本当に、助かったよ。見てごらん、ヴェリオスの癇癪でボロボロになっていたこの中庭も、今ではすっかり元通りだ」
「ええ、ヴェリオス様の魔力は、本当にすごいですね」
俺は周囲を見渡した。
俺はこの宮殿にいる間、ヴェリオスに壊された建物や壁、植木などを少しずつ直していこうと考えていた。
だが、それをヴェリオスに話すしたところ「そんなことでソルと遊ぶ時間が減るのはいやだ!」と言うやいなや、その強力な魔法で破壊されたあちこちを、一瞬で元どおりにしてしまったのだった。
「ヴェリオスときたら、すっかりソルに夢中じゃないか。いままでどんな美しいオメガが来ても、見向きもしなかったのに!
やっぱり、僕の目に狂いはなかった。君こそ、新しいヴェリオスの教育係にふさわしい」
断言するアレクシに、俺は思わずため息をついた。
「アレクシ様。どれほど高位のアルファでも、バースの定まらない五歳前後の子供が、美しいオメガに反応するとは思えませんよ。
それに、アレクシ様もお忘れなく。俺との約束は一月です。たった一月で、ヴェリオス様にどんな教育ができましょう?」
「ふふ、まあ、見ていてごらん。僕の予感では、この一月の間に、もっと面白いことが起こるはずさ」
自信満々に笑うアレクシ。
どうやら彼は、最初から俺をヴェリオスの遊び相手として連れてきたようだ。
この『陽光の宮』には、穏やかでおしとやかなオメガたちしかおらず、わんぱく盛りのヴェリオスには物足りなかったのだろう。
だが、ただの子どもの遊び相手のベータの男なら、王宮や王都にいくらでも候補がいたはずだ。
わざわざ辺境の村まで足を運び、俺を選んだ理由がそれだけのはずがない。
――やはり、アレクシの本心はいまだ読み切れない。警戒を解くわけにはいかない。
「ところでアレクシ様、ここにいるオメガの方々は、どうされているのですか?
民の間では『王宮にさらわれたきり戻らない』と噂されていますよ。
御存知のように『竜に喰われた』などという話すら出ているんです。早く、家に帰してあげた方が……」
俺の言葉に、アレクシは困ったように眉をひそめた。
「それがねえ、僕としてもそうしたいのはやまやまなのだが、なにしろ、帰ってくれないのだよ。肝心のオメガの皆さんが!」
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