41 / 110
40.遊び相手
しおりを挟む
「素晴らしい! これはまったく、素晴らしいの一言だよ。
僕の想像以上だ! ソル、君は本当にすごい人だ!」
うららかな午後の昼下がり。
ここ『陽光の宮』の中庭のテラスで、白いテーブルを挟んで俺の向かいに座っているのは、今日も一段と華やかな装いのアレクシだった。
どうやら彼は、日頃から王宮の祭典に出席しているような、目を引く派手な身なりが常のようだ。
今日もまた、胸元で誇らしげに光る宝石の装飾がまぶしいほどに輝き、高価な仕立ての深紅のマントや立ち襟の金の縁取りも、どこか洒脱さを漂わせている。
「はあ、それは良かったです」
俺は供された華やかな香りの紅茶を一口飲んだ。
「昨日はあれから、すっかり日が暮れるまでヴェリオスと遊んでくれたんだって?
今はお昼寝中かい?」
アレクシの問いに、俺は頷いた。
「ヴェリオス様は、普段ほとんどお部屋から出ないそうですから……。そういう意味でも、かなり鬱憤が溜まっていたのかもしれません。
昨日は一緒に庭園で虫取りをしたり、泥団子を作ったりして、それはもう、夢中で楽しんでいらっしゃいました。
今朝は池の方にいって、魚を一緒に見ていたんです。絶対に昼寝はしない、と頑張っていらっしゃったのですがついさきほど――」
俺はふっと笑みを浮かべる。
「気がついたら、芝生の上で、こちらに寄りかかるようにして、すやすやと眠ってしまいました。
きっと、ひさしぶりに心から遊んで、疲れてしまったんでしょうね」
「虫取りに、泥団子か……。へえ、あのヴェリオスが、ねえ」
アレクシがくすりと笑い、意味ありげな視線をこちらに向ける。
――俺の想像に反して、ヴェリオスは驚くほど素直で、人懐っこい子供だった。
その笑顔や無邪気なはしゃぎ声は、息子のリクとそっくりで、気づけば俺は本当に、リクと遊んでいるような錯覚にさえ陥っていた。
「本当に、助かったよ。見てごらん、ヴェリオスの癇癪でボロボロになっていたこの中庭も、今ではすっかり元通りだ」
「ええ、ヴェリオス様の魔力は、本当にすごいですね」
俺は周囲を見渡した。
俺はこの宮殿にいる間、ヴェリオスに壊された建物や壁、植木などを少しずつ直していこうと考えていた。
だが、それをヴェリオスに話すしたところ「そんなことでソルと遊ぶ時間が減るのはいやだ!」と言うやいなや、その強力な魔法で破壊されたあちこちを、一瞬で元どおりにしてしまったのだった。
「ヴェリオスときたら、すっかりソルに夢中じゃないか。いままでどんな美しいオメガが来ても、見向きもしなかったのに!
やっぱり、僕の目に狂いはなかった。君こそ、新しいヴェリオスの教育係にふさわしい」
断言するアレクシに、俺は思わずため息をついた。
「アレクシ様。どれほど高位のアルファでも、バースの定まらない五歳前後の子供が、美しいオメガに反応するとは思えませんよ。
それに、アレクシ様もお忘れなく。俺との約束は一月です。たった一月で、ヴェリオス様にどんな教育ができましょう?」
「ふふ、まあ、見ていてごらん。僕の予感では、この一月の間に、もっと面白いことが起こるはずさ」
自信満々に笑うアレクシ。
どうやら彼は、最初から俺をヴェリオスの遊び相手として連れてきたようだ。
この『陽光の宮』には、穏やかでおしとやかなオメガたちしかおらず、わんぱく盛りのヴェリオスには物足りなかったのだろう。
だが、ただの子どもの遊び相手のベータの男なら、王宮や王都にいくらでも候補がいたはずだ。
わざわざ辺境の村まで足を運び、俺を選んだ理由がそれだけのはずがない。
――やはり、アレクシの本心はいまだ読み切れない。警戒を解くわけにはいかない。
「ところでアレクシ様、ここにいるオメガの方々は、どうされているのですか?
民の間では『王宮にさらわれたきり戻らない』と噂されていますよ。
御存知のように『竜に喰われた』などという話すら出ているんです。早く、家に帰してあげた方が……」
俺の言葉に、アレクシは困ったように眉をひそめた。
「それがねえ、僕としてもそうしたいのはやまやまなのだが、なにしろ、帰ってくれないのだよ。肝心のオメガの皆さんが!」
僕の想像以上だ! ソル、君は本当にすごい人だ!」
うららかな午後の昼下がり。
ここ『陽光の宮』の中庭のテラスで、白いテーブルを挟んで俺の向かいに座っているのは、今日も一段と華やかな装いのアレクシだった。
どうやら彼は、日頃から王宮の祭典に出席しているような、目を引く派手な身なりが常のようだ。
今日もまた、胸元で誇らしげに光る宝石の装飾がまぶしいほどに輝き、高価な仕立ての深紅のマントや立ち襟の金の縁取りも、どこか洒脱さを漂わせている。
「はあ、それは良かったです」
俺は供された華やかな香りの紅茶を一口飲んだ。
「昨日はあれから、すっかり日が暮れるまでヴェリオスと遊んでくれたんだって?
今はお昼寝中かい?」
アレクシの問いに、俺は頷いた。
「ヴェリオス様は、普段ほとんどお部屋から出ないそうですから……。そういう意味でも、かなり鬱憤が溜まっていたのかもしれません。
昨日は一緒に庭園で虫取りをしたり、泥団子を作ったりして、それはもう、夢中で楽しんでいらっしゃいました。
今朝は池の方にいって、魚を一緒に見ていたんです。絶対に昼寝はしない、と頑張っていらっしゃったのですがついさきほど――」
俺はふっと笑みを浮かべる。
「気がついたら、芝生の上で、こちらに寄りかかるようにして、すやすやと眠ってしまいました。
きっと、ひさしぶりに心から遊んで、疲れてしまったんでしょうね」
「虫取りに、泥団子か……。へえ、あのヴェリオスが、ねえ」
アレクシがくすりと笑い、意味ありげな視線をこちらに向ける。
――俺の想像に反して、ヴェリオスは驚くほど素直で、人懐っこい子供だった。
その笑顔や無邪気なはしゃぎ声は、息子のリクとそっくりで、気づけば俺は本当に、リクと遊んでいるような錯覚にさえ陥っていた。
「本当に、助かったよ。見てごらん、ヴェリオスの癇癪でボロボロになっていたこの中庭も、今ではすっかり元通りだ」
「ええ、ヴェリオス様の魔力は、本当にすごいですね」
俺は周囲を見渡した。
俺はこの宮殿にいる間、ヴェリオスに壊された建物や壁、植木などを少しずつ直していこうと考えていた。
だが、それをヴェリオスに話すしたところ「そんなことでソルと遊ぶ時間が減るのはいやだ!」と言うやいなや、その強力な魔法で破壊されたあちこちを、一瞬で元どおりにしてしまったのだった。
「ヴェリオスときたら、すっかりソルに夢中じゃないか。いままでどんな美しいオメガが来ても、見向きもしなかったのに!
やっぱり、僕の目に狂いはなかった。君こそ、新しいヴェリオスの教育係にふさわしい」
断言するアレクシに、俺は思わずため息をついた。
「アレクシ様。どれほど高位のアルファでも、バースの定まらない五歳前後の子供が、美しいオメガに反応するとは思えませんよ。
それに、アレクシ様もお忘れなく。俺との約束は一月です。たった一月で、ヴェリオス様にどんな教育ができましょう?」
「ふふ、まあ、見ていてごらん。僕の予感では、この一月の間に、もっと面白いことが起こるはずさ」
自信満々に笑うアレクシ。
どうやら彼は、最初から俺をヴェリオスの遊び相手として連れてきたようだ。
この『陽光の宮』には、穏やかでおしとやかなオメガたちしかおらず、わんぱく盛りのヴェリオスには物足りなかったのだろう。
だが、ただの子どもの遊び相手のベータの男なら、王宮や王都にいくらでも候補がいたはずだ。
わざわざ辺境の村まで足を運び、俺を選んだ理由がそれだけのはずがない。
――やはり、アレクシの本心はいまだ読み切れない。警戒を解くわけにはいかない。
「ところでアレクシ様、ここにいるオメガの方々は、どうされているのですか?
民の間では『王宮にさらわれたきり戻らない』と噂されていますよ。
御存知のように『竜に喰われた』などという話すら出ているんです。早く、家に帰してあげた方が……」
俺の言葉に、アレクシは困ったように眉をひそめた。
「それがねえ、僕としてもそうしたいのはやまやまなのだが、なにしろ、帰ってくれないのだよ。肝心のオメガの皆さんが!」
1,737
あなたにおすすめの小説
殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?
krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」
突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。
なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!?
全力すれ違いラブコメファンタジーBL!
支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。
新年に余り物でおせちを作ったら、冷酷と噂の騎士団長様に「運命の番」だと求婚されました
水凪しおん
BL
料理人だった俺が転生したのは、男性オメガというだけで家族に虐げられる不遇の青年カイ。
新年くらいはと前世の記憶を頼りに作ったのは、この世界にはない『おせち料理』だった。
それを偶然口にしたのは、氷のように冷酷と噂される最強の騎士団長リアム。
「お前は俺の運命の番だ」
彼の屋敷に保護され、俺の作る料理が彼の心を溶かしていく。
不器用で、だけどまっすぐな愛情を注いでくれる彼と、美味しい料理で紡ぐ、甘くて温かい異世界スローライフ。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー
AI比較企画作品
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる