画面の向こう側

虎雄

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 それからと言うもの、俺自身は彼女の事で頭が一杯になっていた。彼女の事しか考えられなくなっていた。
 それはいままでに体験したことがないだった。たった1人の事だけで頭が一杯になったり、思わず叫びたくなったり…今思い出すとなんとなく気恥ずかしい。
 ただ1つ不安があった。それはネットで知り合った関係であるということだけだった。
 正直俺はネットから始まる恋愛と言うものに対して抵抗はない。が、相手が必ずしもそうではない。あり得ない、と思う人もいるのも事実だ。それがとても不安でしかたがなかった。
 配信者同士の恋愛関係と言うものは多く存在する。かなりの人がそうやって恋愛をしている。中には何も考えないアホもいるが、それでも真面目に付き合いをし、結婚までする人もいるのだ。
 今までの俺ならそんなうまくいくもんではないだろうと考えていたと思う。出会ったときは顔出し配信をしていない限り相手の顔さえ知らないのだから。顔だけではない。年齢や職業、どのような性格なのか…様々なものを声だけで見抜くことはほぼ不可能なのは言わなくてもわかるはずだ。かくいう俺も配信中と普段の生活では真逆な性格をしていた。というか、もはや偽っていた。理想を演じ、多くのリスナー達にすべてを見抜かれないよう慎重に配信していた。そんななかでちゃんとした相手を見つけることはまず無理だろう。付き合ってからしか顔を見せない人もいる。付き合っているという肩書きだけで実際会ったことも無く、ネット上だけの関係の人間もいる。
 しかし、俺はそんなことどうでもいいと思っていた。どんな顔で、どんな職業で、どんな性格で、どんな生活をしているのか。そんなことは些細なことだと思っていた。単純に声に惹かれた。配信で多くの人を魅了する声と話し方、明るい笑い声。そんなものに惹かれた。だからどんな人であってもちゃんと付き合いたい。相手さえよければ。そんなことしか頭にはなかった。
 配信に行けば行くほど惹かれてゆく。どんどん自分が変になっていくのがわかった。まぁ、変になってというのは語弊があるとは思うが、許してほしい。
 しばらくして、相手から連絡先を教えてほしいと言われた。配信で仲良くしてる人たちのグループに来てみないか?という誘いだった。もちろん快く引き受けた。すぐに連絡先を教え、グループに入った。
 グループの人達はとてもいい人達だった。いろんな声や性格。話し方や年齢まで実に様々であった。
 ある日、グループでいつものように話をしていたとき、彼女はご飯を食べてくるから一旦落ちますといって通話を終了した。残された俺たち数人で話をしていた。女の子のメンバーはその場にはおらず、男だけのむさ苦しい時間がやって来た。
 彼女が落ちていったあと、一番最初に声を発したのは、俺より5個上の人だった。
 「君、彼女の事どう思う?」
突然すぎて対応しきれなかった。
「どう思う?とは…え、どういうことですか?」
「そんなの決まってるよ!女の子としてみてるのか?ってことだよ!」
「えっ、あー、まぁ。」
「なんだか煮えきらないねぇ~、まぁいいや。俺さ、彼女に告白しようと思う。今日この後時間つくってもらって。」
(…は?え、ちょっとまってよ。なに、てことは俺のライバルってこと?嘘でしょ?)
「あー、そうなんですか。」
「おうっ!うまくいったらちゃんと報告するから」
 その瞬間、グループ内がぎこちない空気に見舞われたことがすぐにでわかった。そして同時にグループのメンバー全員が彼女に対して特別な感情をいたいていることもわかった。
 彼女は、配信で多くの人に好かれる太陽のような存在である。それと同時に、燻っていた心を巻き上げ火を灯す風でもあった。
  そんな呑気なことを頭の中で考えて、必死に現実逃避をしようとしていた俺がいた。
 

 あの時は本当に心臓に悪かった。現にそれが今俺の体に起こっている要因の1つなのだとしたらいい笑い話になるよ。
 あぁ、本当に君はスゴい人だ。
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