画面の向こう側

虎雄

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太陽

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 声真似というものを始めてから数ヵ月ほどたった頃だった。その日もいつものように配信をしていた。決して多い人数とは言えないが、安定して聞きに来てくれる人が少しずつつだが増えていった。
 声真似そのものにも自信がつき、いつも必ず聞きに来てくれる人とふざけていることが多くなった。ただ単純に楽しかった。ふざけあっていたり、たまには真面目な話をしてみたり…。いろんな事をいろんな面子でやっていた。
 俺はとても充実していると、そんな風に思っていた。今考えると何て無駄な時間を過ごしていたんだと悲しくなることもあるが…。
 そんなときだった。新たに聞きに来てくれた人がいた。
 女の子の配信者だった。同じように声真似をし、同じように配信をしている仲間が増える。そんなことを考えながら話をしていた。
 俺は声で、彼女はコメントで。
 そして彼女は凸をしたいと提案してきた。とても光栄なことだ。
「ぜひ凸に上がってきてください!声を聞かせてください!」
 俺は気が付くとそんなことをいっていた。彼女は凸に来て、礼儀正しい挨拶をしていたのを覚えている。
「~と言います。始めて間もないのですが、よろしくお願いします。私は~さんの~というキャラクターの声真似をしています。少しやらせていただいてもよろしいですか?」
 なんとまぁ礼儀正しいのだろうか。むしろ堅苦しすぎやしないか?そんなことを心のうちで呟いていた。
「どうぞ!ぜひ聞かせてください。あと、堅苦しいのは無しにしましょう!」
「では失礼します。」
 一瞬の間をおいて彼女はとあるキャラクターのセリフを読んだ。
 その瞬間、俺は彼女は絶対売れていく!そう思った。いや、もはや確信していた。声だけでなく、礼儀正しさ。気遣いなどいろんな要素を含めても必ず売れると思った。
(すごい…この人本当に上手い…これで始めたばかりって冗談だろ?)
 そんな風にさえ思った。
「ありがとございました!いやぁ~凄く上手でしたよ!俺ね、あなたは絶対売れると思う!凄く人気が出ると思う!」
「そんなことないですよ!まだまだ始めたばかりですし、声真似も全然下手なんで…」
 謙虚すぎて、若干俺が悪いのかと思ったのが本音だ。
 冗談は一旦置いといて、彼女は照れ臭そうにしていた。恥ずかしいのか誉められなれてないのか…よくわからなかったが、なんとなくかわいい人なんだな。そう感じた。
 これが、彼女との始めての出会いだった。
 その後、彼女のことが妙に気になっていた。そんなときに彼女が配信しているのを見かけ、聞きに行ってみた。その瞬間、
(あれ?始めたばかりじゃないの?何か人が沢山いるしコメントも沢山流れてる…コラボにも制限人数いっぱいまで上がってる…)
そんなことが頭の中でぐるぐる回っていた。この間1秒以内。
「初めまして、以前僕の配信に来てくれたのできてみました。」
と、コメントした。
「あっ!来てくれたんだ!この間はありがとうございました!」
またもや礼儀正しかった。続けざまに彼女は語った。
「この人ね、すごく声真似上手いんだよ~!多分~さんの声真似やってる人でこの人以上の人を見たこと聞いたことがないよ!ぜひみ皆も聞きに行ってみて!」
何か俺がすごく恥ずかしかった…。だが、そんな風に評価してくれたのは嬉しかった。人もなかなか集まらない、コメントもなかなか流れない…悩んでいたときだったからか余計に嬉しかったのだ。
 その日、彼女は2時間半配信していた。俺はずっと聞いていた。とても居心地がよく、何より話を聞いていて面白かった。博識で、ひょうきんで…いいところを上げだしたらキリがないくらい輝いていた。
 彼女は太陽のようだ。光輝き、配信中にいた人間全てに光を分け与える。そんな存在に思えてしかたがなかった。
 それから何度も彼女の配信を聞きに行き、彼女が配信している度にコラボに上がっていった。
 俺の誕生日を枠で配信でってくれたり、いろんな人と交流を持たせてくれた。世界を広げてくれたのだ。まさに太陽のようだった。
 そのとき、俺は気がついた。『彼女の事が好き』だと。好きで好きでたまらないんだと。
俺は、あの太陽のような存在を手にいれたくなった。
 もちろん彼女は物ではないし、もしかしたら彼氏がいるかもしれない。所詮ネットでしかないため顔も知らない。連絡先も知らない。彼女について知っていることは声真似をしていて、同じ配信者であるということだけだ。
( 俺はいったいどうすれば…)
人生で始めて真剣に悩んだであろう深夜3時頃であった。


本当に君に出会えてよかった。俺は最後の瞬間までそう思えるよ。
         世界でたった一人の君の事だけで頭が一杯だ。
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