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水の魔法少女はぼっちじゃない?
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ぼんやりと、頬杖をつきながら時計を眺めている。
騒がしくなり始めた教室で一人、誰かと話すわけでもなくただぼんやりと、朝礼が始まる前の時間を怠惰に浪費していた。別に、友達が欲しいくせに失敗したコミュ障でもないし、同じ境遇の奴等ほど暗くもない。
単純に他人と会話することの、何が面白いのかわからないのだ。別に話を合わせたりする程度はできるし、必要最低限の関わりも周りと持っているが、自分から積極的に関わるほどの価値を見出すことができないでいるだけ。
それが俺、清水 流の価値観だ。
俺、清水流はちょっと、いやかなり頭のいい学校である私立ステラ高等学校に通う、極々一般的な女装が趣味の魔災孤児系男子高校生だ。…いや、だったが正しいか。
少し前に、怪我をしたオッドアイの白猫を見かけ、手当てをして助けてやった。すると、なんか喋り出したり、ちょうど女装してたからか魔法少女に勧誘されたり、魔王軍とかいうなんかよくわかんねぇ気色悪い魔物に襲われたり、その場のノリで魔法少女になったら戦闘に向いてなくて死にかけたり…白くて綺麗な、可愛い女の子に助けてもらったり、して、とか色々あって結果的には魔法少女として、命をかけて人々と世界を魔王軍の魔の手から守りましょう、的なことになってしまったのだ。
…正直、俺は他人の生き死にについて全くと言っていいほどには興味がない。このご時世というのもあるが、母さんと父さんが死んで、妹一人が叔父に引き取られても、悲しいと思えなかったし、その程度の俺が他人を思うとかギャグだし。他人を助けたところで俺には得がないし。
なので、魔法少女になったけど戦えないからと、今までとあまり変わらない毎日を過ごしていた。時折(毎日)あの時助けてくれた氷結の魔法少女を見に行ったり、彼女の手伝いをしたり、その程度だった。
それが変わったのは、だいたい一ヶ月前。…氷結の魔法少女が一般人を襲ったとクロに聞いた時は本気で耳とクロを疑ったし、何か事情があったんだと考えた。だけどクロは「疑わしきは罰せよ、だよ。」と言ってあの子を処分しようとしていた。
あの時、助けてくれた恩を返さなくては、と思った。…でも、「一番を捕まえるのを手伝ってくれたら、一番はキミにあげるね」と言われて仕舞えば思春期としてクロにつくしかないよな。
そう、俺はあの子に下心しかない。いや、この言い方は流石に語弊がある。恋だ、恋をしている、俺は氷結の魔法少女、酒呑鬼氷さんに恋心を抱いている。
あの子が好きだ。氷さんが好きだ。だからこそ昨日は行ってよかった、何せ昨日一日で名前と連絡先を交換したり、劇的に関係が進んだ筈だ。それでなくとも、泣き喚いてる姿とか、沢山新たな一面を見れた。写真と録音もとった。氷さんをもらう…とかは有耶無耶になったが、なんとか氷さんに俺を好きになってもらって、告って、健全にお付き合いを…!
「席に付けー、転校生だぞー」
一瞬静かになったかと思えば沸き立つ教室。転校生も何も一ヶ月したらお別れだから何とも言えない感じ。
ああでも、氷さんは確か俺と同い年だっけ?種族的に成人やら飲酒解禁やらが早いだけで実際はそこまで年齢が離れていないらしい。流石に運命だわ、神もそう仰ってる。
「はじめまして!霧隠檸檬です!気軽に檸檬と呼んでくださいね!」
銀髪にタレ目の男子生徒…転校生の檸檬が元気よく挨拶をする。あいつは人気者になるだろ、陽キャっぽい。
その点氷さんは陰の者な雰囲気だよな、いやそこが可愛いってかそこもかわいいんだけど。
「じゃあ、席は…清水の隣が空いてるな。あそこのぼんやりしてるやつの隣に座ってくれ。」
「は~い!」
転校生がこちらへ歩みよってくる。目を合わせると客観的に見ても愛らしい顏で微笑んでくる。あれは自分の顔の良さを客観的に見て最上級だとわかっている奴にしかできない表情だ。というかこのシチュエーション、氷さんとやりたかった。ある日突然転校してきた氷さんが俺の隣の席に来て「これからよろしくね?」と天使も霞むように可愛らしく微笑みながらそっと俺に耳打ちしてきたり…
「はじめまして、君のことはせん…楽さんから聞いています。五番目の魔法少女候補です、よろしくね」
声を潜めて檸檬が話しかけてきた。おまえかよ…。
てかまじ楽さんって何者?意味わからん箱とか端々からリアル強者感ちらつくし、昨日の今日で魔法少女候補捕まえてるし…あと何で一ヶ月で魔界行くって言ってたのにうちに転校してきたんだ?これも楽さんが何かしたのか?意味わかんねえんだけど。
「ああ、よろしく。できれば仲良くしてほしいな。」
檸檬が隣に座り、ようやく朝学活が始まる。どうせ同じ魔法少女が転校してくるなら氷さんが良かったなー…あれ、魔法少女?こいつは男子、俺も男子、そして俺はクロから「魔法少女にはキミ以外にも男の子がいるよ。」と教わっている。…おいあの獣畜生、厳密には檸檬は候補といえど五人の魔法“少女”に最低三人は男がいるとか頭湧いてんのか?半分以上男じゃねえか。あと俺は氷さんがたとえ男だろうが実は着痩せするタイプで体つきがゴツくても何とは言わんが俺より大きくても変わらず好きだよ。覚悟はもうしてる。あの獣畜生は魔法少女に女の子を入れていない可能性もあるし。いや、それは流石に楽さんとか無理がある人いるけど、でもあれ「男の子の方が基礎体力が多くていいよね。」とか言ってたしなぁ…!
「はあ…」
あの獣畜生、精神性が人みたいだけど人じゃないんだよな。なんていうかりんごとなしみたいな感じ。共通点が多くて同じように扱えるけど食べてみればだいぶ別物というか。
◇◇◇
「教科書ないから見せてください」
「いーよ」
氷さんとやりたかった。肩が触れ合うくらいの距離で見せ合ってドキドキしたい。「ふふ、照れていらっしゃるんですか?可愛らしいです。」とか言われてぇー。小悪魔めいた表情でからかってほしい、でも氷さんが照れるところも見たい、俺の心今いくつあるの?
◇◇◇
「ペア作れー」
「組みましょー?」
「いいよ」
体育の柔軟体操でペア組みをすることになり、隣の席である俺としかまともに話していない檸檬が当たり前のように俺の元へ来た。
氷さんに触れるとか白雪を汚すような愚かな真似…したい。やっぱ柔らかいのか?(いろんな意味で)いい匂いもしそうだし。あ、でも体柔らかくなくても「あ、これ以上は、、きつ、い、ですからぁっ」とかエッチな声とか…いや、俺きもいな、流石に俺の思考キモすぎる。分別を弁えろ俺。
◇◇◇
「えっと、檸檬的には言いにくいけど、大事な話があります。」
放課後の教室に俺と檸檬の二人だけがたっている。窓に手を当てて目線をそらし気味な檸檬が、それでも声色と表情に真剣さを表して本題を告げた。
ここで二人きりになっているのも偶然ではない。檸檬が授業中に見せていた教科書にメモが挟まれてあって、この空き教室にこいと記されていたからだ。正直、今日は帰ったら氷さんの写真を整理しようと思っていたこともあり今すぐ帰りたい。むしろここまできた俺すごく偉い。
「手早く済ませてくれよな。ちゃんと聞いてやるから。」
「うん。三つあるんだけど、一つ目は準備が整ったので二週間ほど予定が繰り上がるらしいです。」
「へえ。二週間も早くなんのか。」
「次に軽くチームワーク…主に氷さんと君の相性を確認したいらしいから来週の土曜日が空いていたらダンジョンにきてほしいです。」
ダンジョン と聞いて少し目を見張る。ダンジョンは遊びで行くものではないし。
ダンジョンとは、10年くらい前に突然この世に姿を現したファンタジーのような厄災。その箱庭には人を嫌悪する極めて凶暴性の強い化け物が住んでいる。無尽蔵に増え続ける化け物は、殺しても殺しても絶滅せず、封鎖しようとしても数日間引かずにいるだけで溢れかえり箱庭からこの世界へ出てきてしまう。代わりに化け物、いわゆる魔物を殺せば殺した分だけ体が丈夫になり強くなれる。ただダンジョンで得られる素材の有効活用方も未だ少なくあまり稼ぐことはできない。辛いね。あと死んだ魔物はなんか素材を少し残してなんか消える。
「俺と氷さんの相性なんて調べるまでもなく最強だが行くのは問題ないぜ。」
「妄想?…最後の一つは確認です。」
「確認?」
ひじょうに失礼なことを言われた気がするな。それは置いといて、檸檬は少し緩んでいた表情を引き締めて真剣さを現している。何を言われるんだろう。身分証明書とか必要だったのかな。
「君は学生で、本来命をかける立場じゃないんです、檸檬とは違って。だから逃げていい。今なら辞められます。…つまり、君の覚悟が聞きたい、です。君は他人に興味がないはずですよね」
…そっか、檸檬は優しいんだな。おそらくこれは楽さんからの伝言ではなくこいつ自身の言葉だと思う。関係ないが。てか楽さんどこまで調べてんの?ちょい怖い。
俺自身も本当はよくわかっていない覚悟。それについてまとめるのは難しくて伝え切れるかはわかんないけどとにかく自分の考えを言ってみようと思う。
「……俺、お母さんとお父さんが目の前で魔物に食い殺された時も、妹を引き取りに来た叔父が下卑た目で妹を見てることに気づいた時もなんも思わなかったんだ。他人の生死どころか家族とか自分のことも興味がなかったんだ。多分特別に思えないからだと思うけど。
それであの日、初めて誰かに本気で助けてもらったの。先に俺が諦めたんだ、自分のこと。それで、初めて、叱ってもらったんだ。「諦めないでくださいよ!」って「ご自分のことを大切にしてください!」って。嬉しくなったんだ。初めて会ったこの人は俺のことをまっすぐ見てくれている、俺の死を俺よりも強く否定してくれる。
初めて好きを知った。初めて恋を知った。初めて特別ができた。…俺はそれを自分で守りたいだけだよ。」
…なんか、小っ恥ずかしいな、これ。
檸檬は、少し目を見開いたあと視線を下に向け、口をもごもご動かすと一言、
「君って実はぼっちなの?」
失礼なことを抜かしてきやがった。だが俺は切れない、まああれだ意味がわからないが一種の照れ隠しだろう。何せ話していた俺も恥ずかしいんだ、聞いていたこいつまで照れてもおかしくない。
「ぼっちではないが…覚悟は伝わったか?」
「うん、それはもうこれ以上ないほど、です。」
「あー…敬語、なしでいいぜ。俺ら仲間だし。」
「それ氷さんに言ったらどうです?…どうだ?」
「だまれころすぞ」
「やってみなよ」
おれたちもうなかよしだね!せっかくだしこのままとうきょうわんにでもおでかけしない?(殺意)
「溺死は勘弁」
「なんで俺の思考わかんだよ気色わりい」
「目を見ればわかるよ、君と檸檬の仲じゃん?」
今日会ったばかりのくせになんだこいつ面白いな。
◇◇◇
あのあと三十分ほど和やかに団欒してから解散した。
「うわ、結構腫れてる。消毒液どこだったかな。」
和やかな団欒で、俺もなんか懐かしい気持ちになったわ。母さん、よく好きな番組見るために父さんと取っ組み合いの喧嘩してたなあ。
どかりとフカフカのソファに疲れた体を投げ出して何の気なしにテレビをつけてみる。
『速報です。冒険者ギルド直下部隊【ぺセブンズ】がダンジョンから一時撤退するようです。』
…楽さん…そっちの方に伝があったのかあ。
ーー
楽「一石二鳥だしね」
騒がしくなり始めた教室で一人、誰かと話すわけでもなくただぼんやりと、朝礼が始まる前の時間を怠惰に浪費していた。別に、友達が欲しいくせに失敗したコミュ障でもないし、同じ境遇の奴等ほど暗くもない。
単純に他人と会話することの、何が面白いのかわからないのだ。別に話を合わせたりする程度はできるし、必要最低限の関わりも周りと持っているが、自分から積極的に関わるほどの価値を見出すことができないでいるだけ。
それが俺、清水 流の価値観だ。
俺、清水流はちょっと、いやかなり頭のいい学校である私立ステラ高等学校に通う、極々一般的な女装が趣味の魔災孤児系男子高校生だ。…いや、だったが正しいか。
少し前に、怪我をしたオッドアイの白猫を見かけ、手当てをして助けてやった。すると、なんか喋り出したり、ちょうど女装してたからか魔法少女に勧誘されたり、魔王軍とかいうなんかよくわかんねぇ気色悪い魔物に襲われたり、その場のノリで魔法少女になったら戦闘に向いてなくて死にかけたり…白くて綺麗な、可愛い女の子に助けてもらったり、して、とか色々あって結果的には魔法少女として、命をかけて人々と世界を魔王軍の魔の手から守りましょう、的なことになってしまったのだ。
…正直、俺は他人の生き死にについて全くと言っていいほどには興味がない。このご時世というのもあるが、母さんと父さんが死んで、妹一人が叔父に引き取られても、悲しいと思えなかったし、その程度の俺が他人を思うとかギャグだし。他人を助けたところで俺には得がないし。
なので、魔法少女になったけど戦えないからと、今までとあまり変わらない毎日を過ごしていた。時折(毎日)あの時助けてくれた氷結の魔法少女を見に行ったり、彼女の手伝いをしたり、その程度だった。
それが変わったのは、だいたい一ヶ月前。…氷結の魔法少女が一般人を襲ったとクロに聞いた時は本気で耳とクロを疑ったし、何か事情があったんだと考えた。だけどクロは「疑わしきは罰せよ、だよ。」と言ってあの子を処分しようとしていた。
あの時、助けてくれた恩を返さなくては、と思った。…でも、「一番を捕まえるのを手伝ってくれたら、一番はキミにあげるね」と言われて仕舞えば思春期としてクロにつくしかないよな。
そう、俺はあの子に下心しかない。いや、この言い方は流石に語弊がある。恋だ、恋をしている、俺は氷結の魔法少女、酒呑鬼氷さんに恋心を抱いている。
あの子が好きだ。氷さんが好きだ。だからこそ昨日は行ってよかった、何せ昨日一日で名前と連絡先を交換したり、劇的に関係が進んだ筈だ。それでなくとも、泣き喚いてる姿とか、沢山新たな一面を見れた。写真と録音もとった。氷さんをもらう…とかは有耶無耶になったが、なんとか氷さんに俺を好きになってもらって、告って、健全にお付き合いを…!
「席に付けー、転校生だぞー」
一瞬静かになったかと思えば沸き立つ教室。転校生も何も一ヶ月したらお別れだから何とも言えない感じ。
ああでも、氷さんは確か俺と同い年だっけ?種族的に成人やら飲酒解禁やらが早いだけで実際はそこまで年齢が離れていないらしい。流石に運命だわ、神もそう仰ってる。
「はじめまして!霧隠檸檬です!気軽に檸檬と呼んでくださいね!」
銀髪にタレ目の男子生徒…転校生の檸檬が元気よく挨拶をする。あいつは人気者になるだろ、陽キャっぽい。
その点氷さんは陰の者な雰囲気だよな、いやそこが可愛いってかそこもかわいいんだけど。
「じゃあ、席は…清水の隣が空いてるな。あそこのぼんやりしてるやつの隣に座ってくれ。」
「は~い!」
転校生がこちらへ歩みよってくる。目を合わせると客観的に見ても愛らしい顏で微笑んでくる。あれは自分の顔の良さを客観的に見て最上級だとわかっている奴にしかできない表情だ。というかこのシチュエーション、氷さんとやりたかった。ある日突然転校してきた氷さんが俺の隣の席に来て「これからよろしくね?」と天使も霞むように可愛らしく微笑みながらそっと俺に耳打ちしてきたり…
「はじめまして、君のことはせん…楽さんから聞いています。五番目の魔法少女候補です、よろしくね」
声を潜めて檸檬が話しかけてきた。おまえかよ…。
てかまじ楽さんって何者?意味わからん箱とか端々からリアル強者感ちらつくし、昨日の今日で魔法少女候補捕まえてるし…あと何で一ヶ月で魔界行くって言ってたのにうちに転校してきたんだ?これも楽さんが何かしたのか?意味わかんねえんだけど。
「ああ、よろしく。できれば仲良くしてほしいな。」
檸檬が隣に座り、ようやく朝学活が始まる。どうせ同じ魔法少女が転校してくるなら氷さんが良かったなー…あれ、魔法少女?こいつは男子、俺も男子、そして俺はクロから「魔法少女にはキミ以外にも男の子がいるよ。」と教わっている。…おいあの獣畜生、厳密には檸檬は候補といえど五人の魔法“少女”に最低三人は男がいるとか頭湧いてんのか?半分以上男じゃねえか。あと俺は氷さんがたとえ男だろうが実は着痩せするタイプで体つきがゴツくても何とは言わんが俺より大きくても変わらず好きだよ。覚悟はもうしてる。あの獣畜生は魔法少女に女の子を入れていない可能性もあるし。いや、それは流石に楽さんとか無理がある人いるけど、でもあれ「男の子の方が基礎体力が多くていいよね。」とか言ってたしなぁ…!
「はあ…」
あの獣畜生、精神性が人みたいだけど人じゃないんだよな。なんていうかりんごとなしみたいな感じ。共通点が多くて同じように扱えるけど食べてみればだいぶ別物というか。
◇◇◇
「教科書ないから見せてください」
「いーよ」
氷さんとやりたかった。肩が触れ合うくらいの距離で見せ合ってドキドキしたい。「ふふ、照れていらっしゃるんですか?可愛らしいです。」とか言われてぇー。小悪魔めいた表情でからかってほしい、でも氷さんが照れるところも見たい、俺の心今いくつあるの?
◇◇◇
「ペア作れー」
「組みましょー?」
「いいよ」
体育の柔軟体操でペア組みをすることになり、隣の席である俺としかまともに話していない檸檬が当たり前のように俺の元へ来た。
氷さんに触れるとか白雪を汚すような愚かな真似…したい。やっぱ柔らかいのか?(いろんな意味で)いい匂いもしそうだし。あ、でも体柔らかくなくても「あ、これ以上は、、きつ、い、ですからぁっ」とかエッチな声とか…いや、俺きもいな、流石に俺の思考キモすぎる。分別を弁えろ俺。
◇◇◇
「えっと、檸檬的には言いにくいけど、大事な話があります。」
放課後の教室に俺と檸檬の二人だけがたっている。窓に手を当てて目線をそらし気味な檸檬が、それでも声色と表情に真剣さを表して本題を告げた。
ここで二人きりになっているのも偶然ではない。檸檬が授業中に見せていた教科書にメモが挟まれてあって、この空き教室にこいと記されていたからだ。正直、今日は帰ったら氷さんの写真を整理しようと思っていたこともあり今すぐ帰りたい。むしろここまできた俺すごく偉い。
「手早く済ませてくれよな。ちゃんと聞いてやるから。」
「うん。三つあるんだけど、一つ目は準備が整ったので二週間ほど予定が繰り上がるらしいです。」
「へえ。二週間も早くなんのか。」
「次に軽くチームワーク…主に氷さんと君の相性を確認したいらしいから来週の土曜日が空いていたらダンジョンにきてほしいです。」
ダンジョン と聞いて少し目を見張る。ダンジョンは遊びで行くものではないし。
ダンジョンとは、10年くらい前に突然この世に姿を現したファンタジーのような厄災。その箱庭には人を嫌悪する極めて凶暴性の強い化け物が住んでいる。無尽蔵に増え続ける化け物は、殺しても殺しても絶滅せず、封鎖しようとしても数日間引かずにいるだけで溢れかえり箱庭からこの世界へ出てきてしまう。代わりに化け物、いわゆる魔物を殺せば殺した分だけ体が丈夫になり強くなれる。ただダンジョンで得られる素材の有効活用方も未だ少なくあまり稼ぐことはできない。辛いね。あと死んだ魔物はなんか素材を少し残してなんか消える。
「俺と氷さんの相性なんて調べるまでもなく最強だが行くのは問題ないぜ。」
「妄想?…最後の一つは確認です。」
「確認?」
ひじょうに失礼なことを言われた気がするな。それは置いといて、檸檬は少し緩んでいた表情を引き締めて真剣さを現している。何を言われるんだろう。身分証明書とか必要だったのかな。
「君は学生で、本来命をかける立場じゃないんです、檸檬とは違って。だから逃げていい。今なら辞められます。…つまり、君の覚悟が聞きたい、です。君は他人に興味がないはずですよね」
…そっか、檸檬は優しいんだな。おそらくこれは楽さんからの伝言ではなくこいつ自身の言葉だと思う。関係ないが。てか楽さんどこまで調べてんの?ちょい怖い。
俺自身も本当はよくわかっていない覚悟。それについてまとめるのは難しくて伝え切れるかはわかんないけどとにかく自分の考えを言ってみようと思う。
「……俺、お母さんとお父さんが目の前で魔物に食い殺された時も、妹を引き取りに来た叔父が下卑た目で妹を見てることに気づいた時もなんも思わなかったんだ。他人の生死どころか家族とか自分のことも興味がなかったんだ。多分特別に思えないからだと思うけど。
それであの日、初めて誰かに本気で助けてもらったの。先に俺が諦めたんだ、自分のこと。それで、初めて、叱ってもらったんだ。「諦めないでくださいよ!」って「ご自分のことを大切にしてください!」って。嬉しくなったんだ。初めて会ったこの人は俺のことをまっすぐ見てくれている、俺の死を俺よりも強く否定してくれる。
初めて好きを知った。初めて恋を知った。初めて特別ができた。…俺はそれを自分で守りたいだけだよ。」
…なんか、小っ恥ずかしいな、これ。
檸檬は、少し目を見開いたあと視線を下に向け、口をもごもご動かすと一言、
「君って実はぼっちなの?」
失礼なことを抜かしてきやがった。だが俺は切れない、まああれだ意味がわからないが一種の照れ隠しだろう。何せ話していた俺も恥ずかしいんだ、聞いていたこいつまで照れてもおかしくない。
「ぼっちではないが…覚悟は伝わったか?」
「うん、それはもうこれ以上ないほど、です。」
「あー…敬語、なしでいいぜ。俺ら仲間だし。」
「それ氷さんに言ったらどうです?…どうだ?」
「だまれころすぞ」
「やってみなよ」
おれたちもうなかよしだね!せっかくだしこのままとうきょうわんにでもおでかけしない?(殺意)
「溺死は勘弁」
「なんで俺の思考わかんだよ気色わりい」
「目を見ればわかるよ、君と檸檬の仲じゃん?」
今日会ったばかりのくせになんだこいつ面白いな。
◇◇◇
あのあと三十分ほど和やかに団欒してから解散した。
「うわ、結構腫れてる。消毒液どこだったかな。」
和やかな団欒で、俺もなんか懐かしい気持ちになったわ。母さん、よく好きな番組見るために父さんと取っ組み合いの喧嘩してたなあ。
どかりとフカフカのソファに疲れた体を投げ出して何の気なしにテレビをつけてみる。
『速報です。冒険者ギルド直下部隊【ぺセブンズ】がダンジョンから一時撤退するようです。』
…楽さん…そっちの方に伝があったのかあ。
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楽「一石二鳥だしね」
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