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氷結の魔法少女は救いたい!
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「ここは僕が出すから遠慮せずに頼みな」
所変わって僕らは今、おしゃれなカフェに来ています。先ほどの大人の魅力を感じる発言は、カフェでゆっくり話そうと提案してくださったこの世のものと思えないほどに美しく可愛らしい幼気な少女の言葉で、見た目との差が激しくてドキドキします。
「じゃあ、おれはショートケーキとカフェラテで!」
「自分は甘酒が飲みたいなぁ」
セミロングの黒髪を高い位置でツインテールにまとめた彼女は女子高生らしいものを選んだようです。反してふわふわした白髪を肩につく程で切りそろえ、白い髪の内側から茶色、黒と、軽くグラデーションになるように腰まで伸ばしている、白い角を生やした彼女は見た目の割に渋いものをチョイスされたようです。甘酒なんてこんなおしゃれなカフェにはないと思いますけどね。
「…さて、きみは?」
「え、僕ですか」
まっすぐと射抜くように見つめられて思うように呼吸ができない。というよりも彼女に許されていないと本能が勘違いしてしまう。彼女は優しいからそんなはずがないのに、でもなんでそう思ったかは説明できない、わからない。 いや、ちがう。そんなこと考えている暇なんてない。今はこの人の問いに答えなければ。
思考がグズグズにとろけていく。この人の瞳に映っていることを意識して仕舞えば、もうこの人のことしか考えられなくなっていく。もっと見て欲しい、もっと見ていたい、目は、意識は釘付けになっていく。体が強張り、思考が制限されていく。
「あ…」
「すとぉっぷ!あぶなぁい」
「あは、ちょっと見つめ合ってただけなのに。もしかして嫉妬?」
急激に思考が冷めていく。固まっていく。危なかった、と息を着けばいいのかもう少しあのまま見つめあっていたかった、と残念に思えばいいのかはわからないが鬼の彼女が助けてくれたらしい。
あまりにも魔性すぎますよこの女の子!魅力に上限を設けてくださいませんか!?
「それで、君は何を頼むのかな?」
「えっと、じゃあココアを」
「遠慮しないでいいんだよぉ、このこ稼いでるからぁ」
「ココア飲むんだな、見た目通りって感じで安心だぜ!」
「何が言いたいんですか」
「あれぇ、自分は無視ぃ?」
今度は目を合わせても思考を制限されるような感覚はせず、安心しながらメニューを見る。最近は寒い季節になってきたのであったかいものを、と目に付いたココアを選んだ。すると、鬼の彼女とツインテールの女の子の二人がそれぞれ話しかけてくれて、優しい人達だなあと再確認した。
「店員さん、ショートケーキのホールを一つと紅茶、カフェラテ、ココアのあたたかいのを一つずつ。あとあれば甘酒も一つお願いします。」
「承りました。」
かわいいあの人…名前はわからないけど、星の魔法少女だって聞いたことがあるあのひとが、注文をまとめて頼んでくれました。ホールと甘酒のところで驚いた気配を出した店員さんに何故だかいたたまれない気持ちになりながらも注文が終わりました。その後、星の彼女が提案してひとまず頼んだものがくるまでに自己紹介をしようということで、まずは星の彼女から時計回りに鬼の彼女、ツインテールの女の子、そして最後に僕の順番と、軽く確認してから彼女が話し始めました。
「僕は降星 楽。星の魔法少女って呼ばれてるぞ。得意魔法は《星空魔法》とかだな」
降星さんというんだ、なぜだか胸が高鳴るいい名前。ところで、お名前に星が入ってるのと、使われる魔法が星系統魔法だから星の魔法少女なのですね。僕も氷結系統魔法を使ってるから氷結の魔法少女ですし、鬼の彼女以外は同じような二つ名のつけ方なのでしょうか。
「次は自分だねぇ、名前は酒呑鬼 三毛文字通り酒吞鬼のものだよ。魔法は苦手だけど戦いは得意だよぉ。」
次に三毛さん。予想通り僕と同じ酒呑鬼でしたけど、魔力が高い酒呑鬼としては珍しく魔法が苦手とのこと。ただ、恐らく無意識に身体強化の魔法は常時発動しているようですので、全く使えない、ということではなさそうです。もしかしたら、魔法が使えないから種族の鬼を二つ名に、ということでしょうか。
「俺の番だな!俺は清水 流だ。あっちの私立ステラ高等学校に通ってる普通の男子高校生だぜ。女装は趣味だな。」
爆弾を投下したのは清水さん。男性の魔法少女が生まれたことはクロに説明されてはいましたけれど、実際にそうだと知りますと驚きが勝ってしまいますね。
最後は僕、一度深呼吸をして落ち着いてから話し始めます。
「改めまして氷結の魔法少女こと酒呑鬼 氷です。一番最初に魔法少女になりました。」
「うん。一番も協力的だし、そろそろ本題に入ろうか。」
「クロ、頼んでたものが届きそうだから隠れろ。」
「タイミング悪いなあ、もう。」
降星さんのバックからクロが出てきて話し始めたかと思うと、店員さんがケーキと甘酒などをお持ちになってこちらの席へ来ていらっしゃるのに気づかれた降星さんが、クロを抱え上げて戻してしまわれました。いえ、悪いわけではありませんし、この状況では仕方がないのですが、チャックを閉められる直前にクロが発した言葉通りタイミングが合いませんでしたね。その、残念なことに。
「こちら甘酒とホットの紅茶、カフェラテ、ココア。それからケーキになります。ご注文は以上でお間違えありませんか?」
「ああ」
「ありがとうございます。ごゆっくりどうぞ」
店員さんが離れたところで、降星さんが何かの魔道具をお使いになられました。効果はわかりませんが、少なくとも発動はされたところで降星さんが口を開かれました。
「この魔道具に刻まれた術式は『遮音』と『認識阻害』だな。これなら人目を気にせずに本題に入れるだろ」
言われてみますと、このテーブルを包み込むようにして魔力の膜が形成されています。オルゴール型の魔道具でしたのと、現在の状況を鑑みれば効果のほども、少なくとも遮音の方は予想がついたというのに、考えが及ばず少し残念な気持ちになりました。
「じゃあ今度こそ本題に入ろうか、一番。」
「あ、俺多分よくわかんねえから黙っとくわ」
「奇遇だねぇ自分もそうしようと思ってたんだぁ」
「君たちは本当に緊張感がないね」
「効果時間は30分くらいだぞ。手早く済ませろよな」
「魔石ケチっているだけだよね」
「魔力を、だな」
「最大だと何時間かな」
「一日」
クロが厳かな雰囲気で始めようとしますが、三毛さんと清水さんという(三毛さんは恐らく)高校生のお二人が厳かな雰囲気と緊張感を拭っていかれました。
呆れたようにため息をついて抗議するようなクロに、窓の外を眺めながら降星さんが一言呟くと、クロが楽しげな表情を浮かべて降星さんと話し始めます。クロが脱線してしまうと僕は何もできないのですが。コミュ障なので。
「…もう、単刀直入に聞いちゃうけど、なんで一番は裏切ったんだい?待遇は悪くなかったはずだし、君は正義感が強いと思っていたんだけどね」
「確かにな、氷はまさに正義の味方という風だったもんな」
「あー、その、僕は特段裏切ったという認識はありません。独断専行というか、報連相が足りなかった自覚はありますが、魔王軍についたわけではないです」
「人を、襲ったんだよね?それについては?」
「世界を滅ぼす災厄は、一つではないと言えばわかりますか?」
柔らかい雰囲気になった空気がもう一度強い緊張感に凍りついてしまいました。言葉選びについては自信がありませんけど、簡潔でわかりやすくまとめられたとは思います。
二人から自分への良い印象を聞けたのは嬉しいです。恐らく、裏切ってしまったみたいですけど。こうなる前に何か伝えておいたなら、何か変わったのでしょうか。たらればに意味なんてありませんが、少し考えてみます。
「詳しく、聞かせてくれないかな。二つ目の滅びについて。」
「ええ、勿論です。…本来なら、判明した時点で伝えておくべきでした。」
「まあ結果論だな。聞いて判断する。」
「それでは、…星の寿命について、考えたことはありますか?僕の両親は、星の寿命を伸ばす方法について研究していたので、僕は何度もあります。…えっと、あー、簡潔に言えば星のエネルギーを人間が使い果たしたので近いうちに星の寿命に近い何かが尽きてこの星は死にます。」
「とりあえずキミにトモダチがいない事はわかったよ」
「火力たかいな。」
「俺は友達だと思ってるから気にすんな」
清水さんの優しさがしみます。嬉しいです、何気に初めての友人なので。ですがクロは許さない。あとで必ず氷付けにして味を染み込ませやすくしたあとお酒に付け、マムシ酒のようなお酒にしてお前の煮込みとともに一杯やってやる。酒呑鬼を舐めるなよ。ムカつく奴は酒にして飲んでしまえというのが教訓だからな。
「漬けるお酒を用意しないとですね。」
「…そういえば、酒呑鬼の風習って面白いよな。」
「へえ…たとえばなんだい?」
「ムカつく奴は酒につけて酔わせてから煮込んで晩酌にする、とか」
「えっ」
降星さんは酒呑鬼の風習に詳しいようで、僕が漏らした一言から色々と察されたようですね。クロをからかって遊んでいらっしゃいます。同郷の三毛さんはニコニコされていますが、清水さんは驚かれていますね。「え、たべんの?」と青ざめていらっしゃいます。猫は流石に食べません、ただの冗句です。
「ゆるしてください…」
「そこの獣風情、質問はもう良いのですか?」
「けもっ…うん、もうひとついいかな。…どうして、人を襲ったのかい。滅びを回避するためにしても、他に方法はあったよね」
「…僕の両親は滅びを食い止めるためにその身を捧げましたし、人のエネルギーを捧げるのが一番効率が良かったので。」
「…そっか。うん、そうだね、よくわかったよ。…でも、人の負の感情はいずれ復活する魔王の力になる。だから、他の方法を考えなくちゃいけない。」
「…それってさ、捧げるのに条件とかあんの?」
青ざめ震えたクロは、少しからかうと調子を戻して、まっすぐと僕を見ながら問いかけました。ココアを一口飲んでから、できる限り誠実に、本当のことを話しました。
先ほどから難しい顔をされて悩まれていた降星さんが、不意に僕を見て呟かれました。何を聞かれたいのか、質問の意図を考えつつ、口を開きます。
「そうですね、あまり大きくない方が楽、などでしょうか。…あ、あの、殺してはいませんよ?その、余分なエネルギーをいただいただけですので。」
「ああ。そこは疑ってないよ。僕が言いたいのは捧げるのは魔王軍でもいいのかっていうことだからな」
今、この人はなんと仰ったのでしょうか。視線を下げればクロも目を丸くしている。よくわかっていないように頷いたり窓の外をご覧になる二人はともかくとして、当たり前のように素晴らしい…いえ、凄まじい提案をされた降星さんに、クロと同じく「非人道的すぎます」「魔王軍も生きているんですよ」などの感想を飲み込んでただ驚愕する他ありません。
「色々言いたいことは置いておこうか。…一番、魔王軍で足りるかい?」
「あ、えっと…はい、全然足りませんね」
覚悟を決めた目をして、クロが声を上げる。心の準備が終わっていなかった僕は、慌てて返事をしました。
仮に、この星の不足エネルギーが50000程として、現在一日で消費されるエネルギーが大凡1程です。魔王軍の一人を完全に捧げても0、5あるかないかですから、最低でも十万は捧げなくてはいけません。ですが、魔王軍はおおよそ一万ほどですので、まったく足りません。
「魔王はかなりリソースがありそうだけどな」
「たしかにね。そこらへんはどうかな」
「そうですね…魔王の初期値は今のところ2万なので、計画が順調に進めば二万五千程足りませんね」
「最後まで育ててから殺せば行けそうだな。何せエネルギーがおおよそ5倍だからな」
「半年はかかるよ?それまで星界にできる限り被害を出さないで人の恐怖心を煽っていくのは難しいと思うんだけど。」
「被害を出さない方は逆侵攻してけばなんとかなる。もう片方もあてがあるしな。」
逆侵攻、と降星さんが口に出されたことに、忌避なき感想を述べるとかなり驚きました。何せそれは、それは彼にとって…。
暇そうにケーキを召し上がる清水さんに視線を向けて、不安をあらわにしつつ口を開く。
「魔界へ逆侵攻、ですか?元々魔王の復活と同時に行う予定ではありましたが…」
「半年ほど留まるカタチになるね」
「えー学校あんのに…」
この場において、恐らく一人だけ成人してない(クロは謎生命体、よって除外とします。降星さんは外見は幼女なので如何とも…)清水さんは、半年も魔界のような説明できない場所に行けないはずなので、この作戦では清水さんをおいていくことになってしまいます。
個人的に僕は彼のことが好き、というか気に入っていますので、それはできれば避けたいというのが本音です。あの日に出会ってからほとんど毎日のように会いにきてくれて、名前と性別は聞きませんでしたが、ずっと、はじめてのお友達だと思っていましたので、半年も会えなくなるというのは、少し、寂しい、ですから。
「あ、俺もしかして置いてかれる感じ?」
「ひぅっ」
「根回しはしておくから来てくれ。回復役がいないのはきついしな。」
清水さんがすこし眉を寄せて疑問を口に出されました。同じことを考えていましたのと、いきなり一番の不安を口にされた影響で少しおかしな声が出てしまいましたが、僕は元気です。何故なら降星さんが非常に合理的な理由ですが清水さんも一緒に、と仰ったからです。これはお友達と旅行に行くと言っても過言ではありませんね!修学旅行はいろいろあって最終的に僕以外の生徒が全員出発前に入院されましたので一人旅ではない旅行なんて初めてです。嬉しい、です。
「あとは…回復役は二番だけじゃ足りないからね、なんかいい子探しといて。」
「はぁい。今日はこれで終わりでいい?自分はもう疲れちゃったぁ」
「何もしてないだろ、三毛は。」
「いろいろしてるからぁ」
クロが実質的に清水さんに戦力外通告を…!?いえ、清水さんはタンクもされますから。回復はいわばおまけですから問題ありません。いくらクロでも降星さんの決定に口を出すほど愚かではありませんから。
所変わって僕らは今、おしゃれなカフェに来ています。先ほどの大人の魅力を感じる発言は、カフェでゆっくり話そうと提案してくださったこの世のものと思えないほどに美しく可愛らしい幼気な少女の言葉で、見た目との差が激しくてドキドキします。
「じゃあ、おれはショートケーキとカフェラテで!」
「自分は甘酒が飲みたいなぁ」
セミロングの黒髪を高い位置でツインテールにまとめた彼女は女子高生らしいものを選んだようです。反してふわふわした白髪を肩につく程で切りそろえ、白い髪の内側から茶色、黒と、軽くグラデーションになるように腰まで伸ばしている、白い角を生やした彼女は見た目の割に渋いものをチョイスされたようです。甘酒なんてこんなおしゃれなカフェにはないと思いますけどね。
「…さて、きみは?」
「え、僕ですか」
まっすぐと射抜くように見つめられて思うように呼吸ができない。というよりも彼女に許されていないと本能が勘違いしてしまう。彼女は優しいからそんなはずがないのに、でもなんでそう思ったかは説明できない、わからない。 いや、ちがう。そんなこと考えている暇なんてない。今はこの人の問いに答えなければ。
思考がグズグズにとろけていく。この人の瞳に映っていることを意識して仕舞えば、もうこの人のことしか考えられなくなっていく。もっと見て欲しい、もっと見ていたい、目は、意識は釘付けになっていく。体が強張り、思考が制限されていく。
「あ…」
「すとぉっぷ!あぶなぁい」
「あは、ちょっと見つめ合ってただけなのに。もしかして嫉妬?」
急激に思考が冷めていく。固まっていく。危なかった、と息を着けばいいのかもう少しあのまま見つめあっていたかった、と残念に思えばいいのかはわからないが鬼の彼女が助けてくれたらしい。
あまりにも魔性すぎますよこの女の子!魅力に上限を設けてくださいませんか!?
「それで、君は何を頼むのかな?」
「えっと、じゃあココアを」
「遠慮しないでいいんだよぉ、このこ稼いでるからぁ」
「ココア飲むんだな、見た目通りって感じで安心だぜ!」
「何が言いたいんですか」
「あれぇ、自分は無視ぃ?」
今度は目を合わせても思考を制限されるような感覚はせず、安心しながらメニューを見る。最近は寒い季節になってきたのであったかいものを、と目に付いたココアを選んだ。すると、鬼の彼女とツインテールの女の子の二人がそれぞれ話しかけてくれて、優しい人達だなあと再確認した。
「店員さん、ショートケーキのホールを一つと紅茶、カフェラテ、ココアのあたたかいのを一つずつ。あとあれば甘酒も一つお願いします。」
「承りました。」
かわいいあの人…名前はわからないけど、星の魔法少女だって聞いたことがあるあのひとが、注文をまとめて頼んでくれました。ホールと甘酒のところで驚いた気配を出した店員さんに何故だかいたたまれない気持ちになりながらも注文が終わりました。その後、星の彼女が提案してひとまず頼んだものがくるまでに自己紹介をしようということで、まずは星の彼女から時計回りに鬼の彼女、ツインテールの女の子、そして最後に僕の順番と、軽く確認してから彼女が話し始めました。
「僕は降星 楽。星の魔法少女って呼ばれてるぞ。得意魔法は《星空魔法》とかだな」
降星さんというんだ、なぜだか胸が高鳴るいい名前。ところで、お名前に星が入ってるのと、使われる魔法が星系統魔法だから星の魔法少女なのですね。僕も氷結系統魔法を使ってるから氷結の魔法少女ですし、鬼の彼女以外は同じような二つ名のつけ方なのでしょうか。
「次は自分だねぇ、名前は酒呑鬼 三毛文字通り酒吞鬼のものだよ。魔法は苦手だけど戦いは得意だよぉ。」
次に三毛さん。予想通り僕と同じ酒呑鬼でしたけど、魔力が高い酒呑鬼としては珍しく魔法が苦手とのこと。ただ、恐らく無意識に身体強化の魔法は常時発動しているようですので、全く使えない、ということではなさそうです。もしかしたら、魔法が使えないから種族の鬼を二つ名に、ということでしょうか。
「俺の番だな!俺は清水 流だ。あっちの私立ステラ高等学校に通ってる普通の男子高校生だぜ。女装は趣味だな。」
爆弾を投下したのは清水さん。男性の魔法少女が生まれたことはクロに説明されてはいましたけれど、実際にそうだと知りますと驚きが勝ってしまいますね。
最後は僕、一度深呼吸をして落ち着いてから話し始めます。
「改めまして氷結の魔法少女こと酒呑鬼 氷です。一番最初に魔法少女になりました。」
「うん。一番も協力的だし、そろそろ本題に入ろうか。」
「クロ、頼んでたものが届きそうだから隠れろ。」
「タイミング悪いなあ、もう。」
降星さんのバックからクロが出てきて話し始めたかと思うと、店員さんがケーキと甘酒などをお持ちになってこちらの席へ来ていらっしゃるのに気づかれた降星さんが、クロを抱え上げて戻してしまわれました。いえ、悪いわけではありませんし、この状況では仕方がないのですが、チャックを閉められる直前にクロが発した言葉通りタイミングが合いませんでしたね。その、残念なことに。
「こちら甘酒とホットの紅茶、カフェラテ、ココア。それからケーキになります。ご注文は以上でお間違えありませんか?」
「ああ」
「ありがとうございます。ごゆっくりどうぞ」
店員さんが離れたところで、降星さんが何かの魔道具をお使いになられました。効果はわかりませんが、少なくとも発動はされたところで降星さんが口を開かれました。
「この魔道具に刻まれた術式は『遮音』と『認識阻害』だな。これなら人目を気にせずに本題に入れるだろ」
言われてみますと、このテーブルを包み込むようにして魔力の膜が形成されています。オルゴール型の魔道具でしたのと、現在の状況を鑑みれば効果のほども、少なくとも遮音の方は予想がついたというのに、考えが及ばず少し残念な気持ちになりました。
「じゃあ今度こそ本題に入ろうか、一番。」
「あ、俺多分よくわかんねえから黙っとくわ」
「奇遇だねぇ自分もそうしようと思ってたんだぁ」
「君たちは本当に緊張感がないね」
「効果時間は30分くらいだぞ。手早く済ませろよな」
「魔石ケチっているだけだよね」
「魔力を、だな」
「最大だと何時間かな」
「一日」
クロが厳かな雰囲気で始めようとしますが、三毛さんと清水さんという(三毛さんは恐らく)高校生のお二人が厳かな雰囲気と緊張感を拭っていかれました。
呆れたようにため息をついて抗議するようなクロに、窓の外を眺めながら降星さんが一言呟くと、クロが楽しげな表情を浮かべて降星さんと話し始めます。クロが脱線してしまうと僕は何もできないのですが。コミュ障なので。
「…もう、単刀直入に聞いちゃうけど、なんで一番は裏切ったんだい?待遇は悪くなかったはずだし、君は正義感が強いと思っていたんだけどね」
「確かにな、氷はまさに正義の味方という風だったもんな」
「あー、その、僕は特段裏切ったという認識はありません。独断専行というか、報連相が足りなかった自覚はありますが、魔王軍についたわけではないです」
「人を、襲ったんだよね?それについては?」
「世界を滅ぼす災厄は、一つではないと言えばわかりますか?」
柔らかい雰囲気になった空気がもう一度強い緊張感に凍りついてしまいました。言葉選びについては自信がありませんけど、簡潔でわかりやすくまとめられたとは思います。
二人から自分への良い印象を聞けたのは嬉しいです。恐らく、裏切ってしまったみたいですけど。こうなる前に何か伝えておいたなら、何か変わったのでしょうか。たらればに意味なんてありませんが、少し考えてみます。
「詳しく、聞かせてくれないかな。二つ目の滅びについて。」
「ええ、勿論です。…本来なら、判明した時点で伝えておくべきでした。」
「まあ結果論だな。聞いて判断する。」
「それでは、…星の寿命について、考えたことはありますか?僕の両親は、星の寿命を伸ばす方法について研究していたので、僕は何度もあります。…えっと、あー、簡潔に言えば星のエネルギーを人間が使い果たしたので近いうちに星の寿命に近い何かが尽きてこの星は死にます。」
「とりあえずキミにトモダチがいない事はわかったよ」
「火力たかいな。」
「俺は友達だと思ってるから気にすんな」
清水さんの優しさがしみます。嬉しいです、何気に初めての友人なので。ですがクロは許さない。あとで必ず氷付けにして味を染み込ませやすくしたあとお酒に付け、マムシ酒のようなお酒にしてお前の煮込みとともに一杯やってやる。酒呑鬼を舐めるなよ。ムカつく奴は酒にして飲んでしまえというのが教訓だからな。
「漬けるお酒を用意しないとですね。」
「…そういえば、酒呑鬼の風習って面白いよな。」
「へえ…たとえばなんだい?」
「ムカつく奴は酒につけて酔わせてから煮込んで晩酌にする、とか」
「えっ」
降星さんは酒呑鬼の風習に詳しいようで、僕が漏らした一言から色々と察されたようですね。クロをからかって遊んでいらっしゃいます。同郷の三毛さんはニコニコされていますが、清水さんは驚かれていますね。「え、たべんの?」と青ざめていらっしゃいます。猫は流石に食べません、ただの冗句です。
「ゆるしてください…」
「そこの獣風情、質問はもう良いのですか?」
「けもっ…うん、もうひとついいかな。…どうして、人を襲ったのかい。滅びを回避するためにしても、他に方法はあったよね」
「…僕の両親は滅びを食い止めるためにその身を捧げましたし、人のエネルギーを捧げるのが一番効率が良かったので。」
「…そっか。うん、そうだね、よくわかったよ。…でも、人の負の感情はいずれ復活する魔王の力になる。だから、他の方法を考えなくちゃいけない。」
「…それってさ、捧げるのに条件とかあんの?」
青ざめ震えたクロは、少しからかうと調子を戻して、まっすぐと僕を見ながら問いかけました。ココアを一口飲んでから、できる限り誠実に、本当のことを話しました。
先ほどから難しい顔をされて悩まれていた降星さんが、不意に僕を見て呟かれました。何を聞かれたいのか、質問の意図を考えつつ、口を開きます。
「そうですね、あまり大きくない方が楽、などでしょうか。…あ、あの、殺してはいませんよ?その、余分なエネルギーをいただいただけですので。」
「ああ。そこは疑ってないよ。僕が言いたいのは捧げるのは魔王軍でもいいのかっていうことだからな」
今、この人はなんと仰ったのでしょうか。視線を下げればクロも目を丸くしている。よくわかっていないように頷いたり窓の外をご覧になる二人はともかくとして、当たり前のように素晴らしい…いえ、凄まじい提案をされた降星さんに、クロと同じく「非人道的すぎます」「魔王軍も生きているんですよ」などの感想を飲み込んでただ驚愕する他ありません。
「色々言いたいことは置いておこうか。…一番、魔王軍で足りるかい?」
「あ、えっと…はい、全然足りませんね」
覚悟を決めた目をして、クロが声を上げる。心の準備が終わっていなかった僕は、慌てて返事をしました。
仮に、この星の不足エネルギーが50000程として、現在一日で消費されるエネルギーが大凡1程です。魔王軍の一人を完全に捧げても0、5あるかないかですから、最低でも十万は捧げなくてはいけません。ですが、魔王軍はおおよそ一万ほどですので、まったく足りません。
「魔王はかなりリソースがありそうだけどな」
「たしかにね。そこらへんはどうかな」
「そうですね…魔王の初期値は今のところ2万なので、計画が順調に進めば二万五千程足りませんね」
「最後まで育ててから殺せば行けそうだな。何せエネルギーがおおよそ5倍だからな」
「半年はかかるよ?それまで星界にできる限り被害を出さないで人の恐怖心を煽っていくのは難しいと思うんだけど。」
「被害を出さない方は逆侵攻してけばなんとかなる。もう片方もあてがあるしな。」
逆侵攻、と降星さんが口に出されたことに、忌避なき感想を述べるとかなり驚きました。何せそれは、それは彼にとって…。
暇そうにケーキを召し上がる清水さんに視線を向けて、不安をあらわにしつつ口を開く。
「魔界へ逆侵攻、ですか?元々魔王の復活と同時に行う予定ではありましたが…」
「半年ほど留まるカタチになるね」
「えー学校あんのに…」
この場において、恐らく一人だけ成人してない(クロは謎生命体、よって除外とします。降星さんは外見は幼女なので如何とも…)清水さんは、半年も魔界のような説明できない場所に行けないはずなので、この作戦では清水さんをおいていくことになってしまいます。
個人的に僕は彼のことが好き、というか気に入っていますので、それはできれば避けたいというのが本音です。あの日に出会ってからほとんど毎日のように会いにきてくれて、名前と性別は聞きませんでしたが、ずっと、はじめてのお友達だと思っていましたので、半年も会えなくなるというのは、少し、寂しい、ですから。
「あ、俺もしかして置いてかれる感じ?」
「ひぅっ」
「根回しはしておくから来てくれ。回復役がいないのはきついしな。」
清水さんがすこし眉を寄せて疑問を口に出されました。同じことを考えていましたのと、いきなり一番の不安を口にされた影響で少しおかしな声が出てしまいましたが、僕は元気です。何故なら降星さんが非常に合理的な理由ですが清水さんも一緒に、と仰ったからです。これはお友達と旅行に行くと言っても過言ではありませんね!修学旅行はいろいろあって最終的に僕以外の生徒が全員出発前に入院されましたので一人旅ではない旅行なんて初めてです。嬉しい、です。
「あとは…回復役は二番だけじゃ足りないからね、なんかいい子探しといて。」
「はぁい。今日はこれで終わりでいい?自分はもう疲れちゃったぁ」
「何もしてないだろ、三毛は。」
「いろいろしてるからぁ」
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