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第一章
髭と美少年
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「そうそう、呼び名なんだが…そなたのことは、これまで通り『詩音』で良いか? そして、私のことは『遥』と呼んでくれたらよい。親しい者は皆そう呼ぶのでな」
「遥、さま」
なんとなく呼び捨てできず、さまを付けて呼んでみる。
すると遥星は「別に、さま、は付けなくても良いのだが。まぁ、好きにしたらよい」と、少し笑った。
(顔はほんと綺麗なんだけどなぁ)
彼は、これまで見たところ性格は温厚そうで、自由きままに生きているように見える。
だが、甘ったれに見えるからって、油断してはいけないかもしれない。現に、以前お妃が死んだ時の冷静な対処や、先ほどの人妻誘拐発言など、実は危ない人かもしれない。
(警戒しておくに越したことはないか)
詩音は、居住まいを正した。
。.。.+゜*.。.*
それからしばらくして、部屋に髭の大臣が謎の美少年を連れて戻ってきた。
手には詩音のための衣服を持ってきており、今着ている服からこの国の衣装へと着替えるように言われた。
渡された服は、着物のように一枚の布を身体に巻き付け、帯で留めるような形状だ。ただ、着物は厚手の生地を用いるのに比べ、こちらはどうもヒラヒラしている。着替えの手伝いはいないので、なんとか想像で自分で着付けをしたが、スース―して落ち着かなかった。
遥星は大臣に向かって、改めて詩音を紹介し、これからのことを頼む、と伝えた。
「詩音殿、とお呼びします。まだ儀式を行っていない故、皇后陛下ではありませんので。貴方の部屋を用意いたしましたので、これから後宮へ入っていただきます。後宮へは原則として男性は入れません。こちらの者がご案内しますので、着いて行ってください」
髭の大臣の"皇后ではない"ということを強調した物言いに、まだ不審がられていることを痛感する。
(ま、そりゃそうよね)
大臣の斜め後ろに立っていた美少年は一礼すると、くるりと背を向けて歩き出そうとした。
「ま、待ってください!」
流れるように移動させられそうになり、詩音は慌ててその場の全員を引き留めた。
先ほど、大臣は「後宮へは男性は原則としては入れない」と言った。そして、「そこから出てはいけない」とも。
つまり、ここから離れてしまったら次にいつ遥星と会えるのか、見通しが立たない。少なくとも、お呼びがかかるまで、待たなくてはならないはずだ。
先ほど茶菓子を取りに出て行った彼に不安を憶えたように、いつになるか分からないものを待つというのは性分として耐えられそうになかった。
「あの、遥さま、とは、次にいつお会いできるのですか?」
少しぎこちないながらも、「遥さま」と呼んでみる。
なるべく事務的ではなく、恋する女性が愛しの人に会えなくて寂しい、といった雰囲気を意識して。
「はは、そんなに私と離れるのが辛いか。可愛いやつじゃの」
遥星が詩音のノリに合わせて台詞を返してくれる。どうやらこういう機転はよく利くらしい。
こほん、と咳払いをしてから、大臣が口を開く。
「近いうちに、陛下と近しい方々――親兄弟や、政府要人に対して、簡単なお披露目をしなければなりませんね。決まったら知らせますから、それまで待ってて貰えますかな。必要なものは部屋に届けさせますので、お支度をしておいてくだされ。何かあれば部屋子に聞けば分かります」
答えになっていない、が、つまりそれ自体が答えだということなのだろう。彼らにとってもあまりにも急に決まったことであるし、諸々のことはこれから予定を立てていくのかもしれない。
「では、行きましょう」
大臣が言い終わるとすぐに、美少年がそう言って部屋を出ていこうとした。
詩音は脱いだ服や鞄を抱えて少年の後についていき、なんとか部屋を出る直前に振り返った。
遥星と視線が交わる。
彼は今、何を考えているのだろうか。
――こないだよりもさらに、とんでもないことになってしまった。
――なんだかんだ、彼のペースに飲まれてしまった気がする。
これから、どうなるのか。
不安がないと言えば嘘になるが、なるようにしかならない、とある意味腹を括れてきたのも確かだった。
相変わらず夢の中なのかどうかわからないが、この世界を受け入れ始めている自分がいた。
「遥、さま」
なんとなく呼び捨てできず、さまを付けて呼んでみる。
すると遥星は「別に、さま、は付けなくても良いのだが。まぁ、好きにしたらよい」と、少し笑った。
(顔はほんと綺麗なんだけどなぁ)
彼は、これまで見たところ性格は温厚そうで、自由きままに生きているように見える。
だが、甘ったれに見えるからって、油断してはいけないかもしれない。現に、以前お妃が死んだ時の冷静な対処や、先ほどの人妻誘拐発言など、実は危ない人かもしれない。
(警戒しておくに越したことはないか)
詩音は、居住まいを正した。
。.。.+゜*.。.*
それからしばらくして、部屋に髭の大臣が謎の美少年を連れて戻ってきた。
手には詩音のための衣服を持ってきており、今着ている服からこの国の衣装へと着替えるように言われた。
渡された服は、着物のように一枚の布を身体に巻き付け、帯で留めるような形状だ。ただ、着物は厚手の生地を用いるのに比べ、こちらはどうもヒラヒラしている。着替えの手伝いはいないので、なんとか想像で自分で着付けをしたが、スース―して落ち着かなかった。
遥星は大臣に向かって、改めて詩音を紹介し、これからのことを頼む、と伝えた。
「詩音殿、とお呼びします。まだ儀式を行っていない故、皇后陛下ではありませんので。貴方の部屋を用意いたしましたので、これから後宮へ入っていただきます。後宮へは原則として男性は入れません。こちらの者がご案内しますので、着いて行ってください」
髭の大臣の"皇后ではない"ということを強調した物言いに、まだ不審がられていることを痛感する。
(ま、そりゃそうよね)
大臣の斜め後ろに立っていた美少年は一礼すると、くるりと背を向けて歩き出そうとした。
「ま、待ってください!」
流れるように移動させられそうになり、詩音は慌ててその場の全員を引き留めた。
先ほど、大臣は「後宮へは男性は原則としては入れない」と言った。そして、「そこから出てはいけない」とも。
つまり、ここから離れてしまったら次にいつ遥星と会えるのか、見通しが立たない。少なくとも、お呼びがかかるまで、待たなくてはならないはずだ。
先ほど茶菓子を取りに出て行った彼に不安を憶えたように、いつになるか分からないものを待つというのは性分として耐えられそうになかった。
「あの、遥さま、とは、次にいつお会いできるのですか?」
少しぎこちないながらも、「遥さま」と呼んでみる。
なるべく事務的ではなく、恋する女性が愛しの人に会えなくて寂しい、といった雰囲気を意識して。
「はは、そんなに私と離れるのが辛いか。可愛いやつじゃの」
遥星が詩音のノリに合わせて台詞を返してくれる。どうやらこういう機転はよく利くらしい。
こほん、と咳払いをしてから、大臣が口を開く。
「近いうちに、陛下と近しい方々――親兄弟や、政府要人に対して、簡単なお披露目をしなければなりませんね。決まったら知らせますから、それまで待ってて貰えますかな。必要なものは部屋に届けさせますので、お支度をしておいてくだされ。何かあれば部屋子に聞けば分かります」
答えになっていない、が、つまりそれ自体が答えだということなのだろう。彼らにとってもあまりにも急に決まったことであるし、諸々のことはこれから予定を立てていくのかもしれない。
「では、行きましょう」
大臣が言い終わるとすぐに、美少年がそう言って部屋を出ていこうとした。
詩音は脱いだ服や鞄を抱えて少年の後についていき、なんとか部屋を出る直前に振り返った。
遥星と視線が交わる。
彼は今、何を考えているのだろうか。
――こないだよりもさらに、とんでもないことになってしまった。
――なんだかんだ、彼のペースに飲まれてしまった気がする。
これから、どうなるのか。
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相変わらず夢の中なのかどうかわからないが、この世界を受け入れ始めている自分がいた。
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