18 / 57
第一章
宦官・喬 と 部屋子・鈴と蘭
しおりを挟む
美少年は、詩音を振り返りもせずにスタスタと歩いて行ってしまう。
詩音も若干早足で彼の後についていく。
「あの! は、話しかけても大丈夫ですか?」
詩音が呼び止めると、少年は足を止めて振り返った。
「何か?」
「えっと、これから行く場所は、男子禁制と言ってましたが、貴方は女性.....なのですか?」
我ながら、失礼な質問をしてしまったと思った。
目の前の少年は、無駄な装飾のない男性用と思われる衣服を着ているし、綺麗ではあるものの骨が太そうで女性っぽくは見えない。先ほど大臣に訊こうと思ったのだが、有無を言わさず追い出されてしまったため、確認できなかった。
遥星よりもさらにあどけない顔立ちをしており、詩音から見て歳は15前後かと思われた。
何故、女しか入れない後宮への案内役がこの人なのかと、疑問が拭えなかった。
彼はなんてことのない顔で、さらりと答える。
「あぁ、貴方は、ご存知ないのですね。私は宦官なので、男でも女でもありません。もう少しわかるように話すと、元々は男として生まれましたが――ここへ仕える際に、男性としての機能を取っております」
「えっ」
また、自分の中の常識にない話が出てきて、戸惑う。
服装や態度からしても、「女になりたくて」取ったわけでもなさそうなところを見ると、そういう風習があるのかもしれない。
「そうなんですか。不躾なことを訊いてしまい、失礼しました」
「いえ別に。ですから、私は本殿と後宮の伝令役のようなものとお考えいただければ結構です。陛下にお伝えしたいことがある場合には、私にお声がけください。それから、私のことは喬とお呼びください」
「わかりました、喬さん。これからよろしくお願いします」
それから喬は踵を返し、先へ進んだ。
後宮はそれほど遠くなく、思いのほかすぐに到着した。
二階建ての建物がコの字型になっており、中央に庭園のような、広場のようなものがある。
今はおそらく昼下がりと思われるが、人の姿は見えなかった。
全体を見渡せる場所で、喬が説明をする。
「現時点では、中央が皇太后陛下のお部屋、中央に向かって左が陛下の兄君の奥方のお部屋、そして向かって右が陛下の奥方のお部屋です。二階が第一夫人で、一階が側室の方々のお部屋となっています」
外から見たところ、二階の部屋は大きく作られており、一階の部屋は細かく分かれているようだ。庭に向かって扉があるため、その扉の数での判断だから、違う可能性もあるが。
「そうですか。ところで、今はどの部屋にどなたがお住まいになっているか、教えていただくことはできますか?」
「はい。中央二階に、怜皇太后がいらっしゃいます。その下――先帝陛下の側室の方々は、皆故郷へ帰られましたので空いております。左側の二階に、皇帝陛下の兄君の正妻である蜃夫人、一階に側室の吏貴人、廓美人となっております」
(4人、か。……貴人とか美人とか、それは称号?なのかしら。覚えるの大変……)
「あまり多くはないのですね。ちなみに、挨拶に伺っても問題ありませんか?」
「構いません。お部屋に入った後は、ご自由にお過ごしください」
ふたたび歩き出した喬に早足で付いてゆき2階へ上がる。
――あれ?お兄さん、いるの?
そういえば遥星も、兄の妻が~と言っていた。
その時は別の発言に気を取られて、すっかりスルーしてしまっていたけれど。
少しの違和感を覚えた時、喬が足を止めた。
詩音の部屋となる所に到着したようだ。
喬が声をかけてから引戸を開くと、中から女の子が2人、勢いよく現れた。
「「お待ちしておりました、橘夫人!」」
!?
突然、苗字に夫人を付けて呼ばれ、完全に怯む。
(さすがに、これは.....)
考えてみれば、さっきの喬の話からすると、皆何かしらの呼称を付けて呼ばれている。大臣も「まだ貴方は皇后ではない」と言っていたし、それらしき呼び名で呼ばれるのもそうなのかもしれない。
喬は端正な顔を眉一つ動かさず、続ける。
「彼女たちは、ここの部屋子です。貴方の身の回りのお世話を務めます。右が鈴で、左が蘭。生活に必要なことは全てこの二人にお任せ下さい。では、私はこれで失礼します」
「「ばいばーい、喬!またねー!」」
可愛らしい高い声が響く。小学校中学年~高学年くらいだろうか?どうみても、子供だ。
まじまじと見つめていると、鈴と蘭は詩音が持っていた手荷物を取って、「橘夫人、さ、どうぞ!」と中へ誘導した。
(やっぱり、その、「夫人」ってのは、なぁ.....)
またしてもその呼び名にむず痒くなる詩音であった。
詩音も若干早足で彼の後についていく。
「あの! は、話しかけても大丈夫ですか?」
詩音が呼び止めると、少年は足を止めて振り返った。
「何か?」
「えっと、これから行く場所は、男子禁制と言ってましたが、貴方は女性.....なのですか?」
我ながら、失礼な質問をしてしまったと思った。
目の前の少年は、無駄な装飾のない男性用と思われる衣服を着ているし、綺麗ではあるものの骨が太そうで女性っぽくは見えない。先ほど大臣に訊こうと思ったのだが、有無を言わさず追い出されてしまったため、確認できなかった。
遥星よりもさらにあどけない顔立ちをしており、詩音から見て歳は15前後かと思われた。
何故、女しか入れない後宮への案内役がこの人なのかと、疑問が拭えなかった。
彼はなんてことのない顔で、さらりと答える。
「あぁ、貴方は、ご存知ないのですね。私は宦官なので、男でも女でもありません。もう少しわかるように話すと、元々は男として生まれましたが――ここへ仕える際に、男性としての機能を取っております」
「えっ」
また、自分の中の常識にない話が出てきて、戸惑う。
服装や態度からしても、「女になりたくて」取ったわけでもなさそうなところを見ると、そういう風習があるのかもしれない。
「そうなんですか。不躾なことを訊いてしまい、失礼しました」
「いえ別に。ですから、私は本殿と後宮の伝令役のようなものとお考えいただければ結構です。陛下にお伝えしたいことがある場合には、私にお声がけください。それから、私のことは喬とお呼びください」
「わかりました、喬さん。これからよろしくお願いします」
それから喬は踵を返し、先へ進んだ。
後宮はそれほど遠くなく、思いのほかすぐに到着した。
二階建ての建物がコの字型になっており、中央に庭園のような、広場のようなものがある。
今はおそらく昼下がりと思われるが、人の姿は見えなかった。
全体を見渡せる場所で、喬が説明をする。
「現時点では、中央が皇太后陛下のお部屋、中央に向かって左が陛下の兄君の奥方のお部屋、そして向かって右が陛下の奥方のお部屋です。二階が第一夫人で、一階が側室の方々のお部屋となっています」
外から見たところ、二階の部屋は大きく作られており、一階の部屋は細かく分かれているようだ。庭に向かって扉があるため、その扉の数での判断だから、違う可能性もあるが。
「そうですか。ところで、今はどの部屋にどなたがお住まいになっているか、教えていただくことはできますか?」
「はい。中央二階に、怜皇太后がいらっしゃいます。その下――先帝陛下の側室の方々は、皆故郷へ帰られましたので空いております。左側の二階に、皇帝陛下の兄君の正妻である蜃夫人、一階に側室の吏貴人、廓美人となっております」
(4人、か。……貴人とか美人とか、それは称号?なのかしら。覚えるの大変……)
「あまり多くはないのですね。ちなみに、挨拶に伺っても問題ありませんか?」
「構いません。お部屋に入った後は、ご自由にお過ごしください」
ふたたび歩き出した喬に早足で付いてゆき2階へ上がる。
――あれ?お兄さん、いるの?
そういえば遥星も、兄の妻が~と言っていた。
その時は別の発言に気を取られて、すっかりスルーしてしまっていたけれど。
少しの違和感を覚えた時、喬が足を止めた。
詩音の部屋となる所に到着したようだ。
喬が声をかけてから引戸を開くと、中から女の子が2人、勢いよく現れた。
「「お待ちしておりました、橘夫人!」」
!?
突然、苗字に夫人を付けて呼ばれ、完全に怯む。
(さすがに、これは.....)
考えてみれば、さっきの喬の話からすると、皆何かしらの呼称を付けて呼ばれている。大臣も「まだ貴方は皇后ではない」と言っていたし、それらしき呼び名で呼ばれるのもそうなのかもしれない。
喬は端正な顔を眉一つ動かさず、続ける。
「彼女たちは、ここの部屋子です。貴方の身の回りのお世話を務めます。右が鈴で、左が蘭。生活に必要なことは全てこの二人にお任せ下さい。では、私はこれで失礼します」
「「ばいばーい、喬!またねー!」」
可愛らしい高い声が響く。小学校中学年~高学年くらいだろうか?どうみても、子供だ。
まじまじと見つめていると、鈴と蘭は詩音が持っていた手荷物を取って、「橘夫人、さ、どうぞ!」と中へ誘導した。
(やっぱり、その、「夫人」ってのは、なぁ.....)
またしてもその呼び名にむず痒くなる詩音であった。
0
あなたにおすすめの小説
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
ガネット・フォルンは愛されたい
アズやっこ
恋愛
私はガネット・フォルンと申します。
子供も産めない役立たずの私は愛しておりました元旦那様の嫁を他の方へお譲りし、友との約束の為、辺境へ侍女としてやって参りました。
元旦那様と離縁し、傷物になった私が一人で生きていく為には侍女になるしかありませんでした。
それでも時々思うのです。私も愛されたかったと。私だけを愛してくれる男性が現れる事を夢に見るのです。
私も誰かに一途に愛されたかった。
❈ 旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。の作品のガネットの話です。
❈ ガネットにも幸せを…と、作者の自己満足作品です。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました
鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」
そう言ったのは、王太子アレス。
そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。
外交も財政も軍備も――
すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。
けれど功績はすべて王太子のもの。
感謝も敬意も、ただの一度もない。
そして迎えた舞踏会の夜。
「便利だったが、飾りには向かん」
公開婚約破棄。
それならば、とレイナは微笑む。
「では業務も終了でよろしいですね?」
王太子が望んだ通り、
彼女は“確認”をやめた。
保証を外し、責任を返し、
そして最後に――
「ご確認を」と差し出した書類に、
彼は何も読まずに署名した。
国は契約で成り立っている。
確認しない者に、王の資格はない。
働きたくない公爵令嬢と、
責任を理解しなかった王太子。
静かな契約ざまぁ劇、開幕。
---
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる